10月の落語



10月。印象に残るのは一之輔さんの独演会「真一文字三夜」です。コンプリートできて良かった。


10/4(月)
立川談春独演会
19:00〜21:13@にぎわい座
『九州吹き戻し』
仲入り 
『宿屋の仇討ち』
ネタ出しされていた『九州吹き戻し』が聴きたくて行った会。久しぶりに聴いた。
談春師の“上手さ”を堪能。宿屋もそうだったが、バランスがとれていて抑制がきいていて、スマート。この日は、個人的には “高揚感”まではなく“感心”に留まったけど、これほどの『九州吹き戻し』を聴かせてくれるひとは、いま他にいない。


10/5(火)
こしらの集い
19:00〜20:52@お江戸日本橋亭
『看板のピン』
仲入り
『宿屋の仇討ち』
前夜の談春『宿屋の仇討ち』の余韻を拭い去る、世にも奇妙な『宿屋の仇討ち』であったw 
河岸の始終三人連れだけじゃなくて、なぜか九十九里のピーナツ農家の三人衆が登場して「おまえんとこ泊まっぺ」「なんだっぺ?」と、ぺっぺ・ぺっぺうるさくて万事世話九郎をイライラさせるのだが、この三人衆はストーリーに一切関係ない(笑)。「相撲取りがちゃんこを喰うやら、心中者がためらうやら…」ってなんなのそのセリフ?(笑)。「源ちゃんは色事師♪」って囃したてるところも、「ゲ・ゲ・ゲゲゲ、げーんべい♪」ってワケわかんないよ、その歌!
あーあ、またヘンな落語、いや“落語のようなもの”を聴いてしまった。でも、面白いんだよなぁ。


10/8(金)
鈴本演芸場夜の部
17:30〜21:10?
柳家こみち『元犬』 
鏡味仙三郎社中 太神楽曲芸 
柳家三ノ助『金明竹
入船亭扇辰『お血脈
大空遊平・かおり 漫才
柳家太夫『谷風情相撲 佐野山』
橘家文左衛門『のめる』
仲入り
伊藤夢葉 奇術 
柳家三三『妾馬(前半)』 
柳家小菊 粋曲 
柳家小三治『一眼国』
開演前から長蛇の列。お客を入れるのに時間がかかり、この日は前座の開口一番はナシ。
全体に、出演者全員がネタ・時間に気を配り、トリの小三治師まできれいにつないで出番を盛り上げた。寄席のチームプレイの模範のような芝居であった。個人的には、仲入り前の文左衛門師の『のめる』、三三師『妾馬(前半の赤井御門之守の家来がお鶴を探して長屋に訪ねてくるところだけ)』が非常に良かった。
で、会場いっぱいの期待と拍手に迎えられた主役の小三治師匠。高座にあがると…「あたしが毎日ここに出ますとね。“たっぷり!”っていう人がいるんですよ。・・・(湯飲みをひとくちすすり)・・・大きなお世話です」(笑)。
40代にテレビの仕事で訪れたエチオピアの首都・アディスアベバ。砂漠の中のオアシスのような美しい街には、紫に光る褐色の肌と整った顔立ちの人々が行き交い、その美しさに見とれた。飛行機の中でそんな人たちを撮ろうとこっそりカメラを構えたが、気がつくと黄色人種は自分ひとりだけ。コソコソとカメラをしまった…というマクラから『一眼国』へ。ちょっと素敵な流れ。
この日は9時を少々まわった。かつての秋の恒例、鈴本小三治独演会を思い出す、いい空気でした。


10/13(水)
六代目三遊亭圓生トリビュートの会 昼の部 
15:00〜17:10@紀伊國屋ホール
三遊亭兼好『八九升』
三遊亭圓生(DVD)×柳亭市馬 リレー『掛取漫才』
仲入り 
三遊亭圓生『淀五郎』(DVD)×三遊亭白鳥『聖橋』
兼好師がやった『八九升』は三遊亭の前座噺だそう。わたしはあまり三遊派の寄席に行かないし、落語協会の三遊亭の前座がこれをやるのも聴いたことがなくて、ここで初めて聴いた。“耳のとおい人の噺”です。
兼好師は久しぶりだったが、朗らかな高い声が気持ちよく相変わらず上手いと思った。ただ“陽性の三三”って印象がある。ええと、上手いんだけどちょっと面白みに欠ける…って感じなのです、わたしには。
圓生師のDVDを鑑賞し、途中から出演者がリレーで演じるという企画が面白かった。DVDでも、圓生師匠には思わず見入っちゃいますねぇ。圓生×市馬の掛取漫才は良かった!圓生義太夫節、見事だなぁ。で、市馬師匠も負けじと三橋美智也をw。とても楽しかった。
一方、『淀五郎』は、厳密にはリレーではない。白鳥師がやった『聖橋』は『淀五郎』と『中村仲蔵』をミックスしたような噺で、売れない噺家・金銀亭久蔵が池袋演芸場で談志師匠と二人会をやり、『文七元結』をリレーする・・・という改作。
ちなみに兼好師に圓生師匠の『淀五郎』について尋ねられた白鳥師、「昨夜YouTubeで初めて聴きました」。白鳥師らしいなぁ(笑)。


桃月庵白酒独演会「喝采
19:30〜21:21@道楽亭 
『夕立勘五郎』
『お見立て』
仲入り 
『火焔太鼓』
この日は三席とも古今亭の噺。白酒師の『夕立勘五郎』、久しぶりに聴いた。やっぱサイコーだな。「いどっこだってねぃー?」「えんすーもりのうすまづ!」(笑)。白酒師の“訛ってるヒト”ってどうしてこんなに可笑しいんでしょう?


10/18(月)
昇太十八番
19:00〜21:07@本多劇場 
オープニングトーク 
開口一番 昇々『初天神 
※以下昇太師
時そば
ナマ着替え
『花粉寿司』 
仲入り 
茶の湯
この会は昇太師の十八番を録る会で、“動き”が印象的なネタを選んだということなのですが、昇太さんはどのネタも動きますよねw ま、そんなことはどうでもよろしい。何度聴いたか分からない『時そば』がこの日は(も)素晴らしかった。さげを間違えたのは惜しいけど、笑いっぱなしだったものなぁ。
昇太さん「どんなにイヤなことがあってもこのネタをやると忘れられるんですねぇ」。わたしだって、いや、わたしこそそうです!昇太さんの『時そば』を聴くと、どんな悲しいことがあっても笑えそうだな。わたしは初めて落語をナマで聴いたのが昇太さんで、その時「この人、なんて楽しそうなんだろう!」と思った。楽しそうな人を見てると自分も楽しくなる、わたしは楽しそうな人が好きだ、そういう人を観たいんだ!ということに気づかせてくれたのが春風亭昇太であった。昇太さんの『時そば』は、いつもその時の気持ちを思い出させてくれます。


10/28(木)
春風亭一之輔独演会 真一文字三夜 第一夜
19:00〜20:54@お江戸日本橋亭  
ぽっぽ 作文『わたしと一之輔アニさん』
※以下、一之輔
『鈴ヶ森』
『不動坊』
仲入り
『青菜』 


10/29(金)
春風亭一之輔独演会 真一文字三夜 第二夜
19:00〜20:47@お江戸日本橋亭  
朝呂久 作文『一之輔とわたし』
※以下、一之輔 
『あくび指南』
『提灯屋』
仲入り
『五人廻し』


10/30(土)
春風亭一之輔独演会 真一文字三夜 最終夜
19:00〜20:50@お江戸日本橋亭 
一力 作文『わたしと一之輔』
※以下、一之輔
初天神
仲入り
『らくだ』


NHK新人演芸大賞を受賞した直後の三夜連続独演会とあって、悪天候にも関わらず(一之輔さんは雨おとこなのであったw)三夜とも盛況であった。一之輔さん、日を重ねるごとに寛いで、本来の持ち味が出てきたように感じた。
第一夜。
『鈴が森』。“くちうつし”で教えてやるといわれてまんざらでもなさそうに唇を突き出す子分、親分が何度も振り払った子分の手をついにとって、暗闇を行くふたり・・・一之輔さんに言わせると、この噺は“BL系”なんだって(笑)。
一之輔・部室落語の代表作『不動坊』。鉄瓶もってお湯屋に行っちゃった吉っつぁんが、うきうきと「そこつ(粗忽)、そこつ…」って独り言いうところがかわいくて好きだw
『青菜』。八五郎、“来客”と言えずに「らいららい!」w
第二夜。
『あくび指南』。「自分…不器用なもんで…」「でぇくです。・・・うち、建ててます」。いつものセリフ、タメがきいてたなぁw 可笑しかった。
『提灯屋』。滑稽な落語らしい噺。こういうのをさらっとやって笑わせるあたりがさすが。
『五人廻し』は華やかで元気で色っぽさもあった。
第三夜。
新人演芸大賞を受賞した『初天神』。この日はフルバージョン。「団子屋さんが出てるね?」「出てねぇよっ!」「だ…」「ダメっ!」w 金坊がなにか言いかけるたびに父親が間髪入れずに全否定するのですが、その“間”がたまらない!
金坊、ついに父親にタメ口「八五郎さんねぇ…」「友だちじゃねぇっ!」「うちぃ帰ったら、籍抜くぞ!」。このやりとり、ほんっとに可笑しい。つい先日、NHKで行われた本選の放送を観たが、この日のほうが面白かったんじゃないかな?もっとも落語の面白さはテレビじゃ伝わらないから、なんとも言えないけど。
『らくだ』も通し。前に聴いた時は文左衛門師匠に教わったのがまんま分かったが、今回は一之輔カラーを感じた。
三夜をコンプリートして、わたしは『初天神』が最も良かった。いま、『初天神』が最も面白いのは一之輔さんじゃないか?と思う。さん喬・喬太郎親子の『初天神』も素晴らしいが、一之輔さんの『初天神』を観ると、二人の『初天神』があざとく感じられてしまう、そのくらい一之輔さんのはいい。


10/31(日)
立川流鎖国論』刊行記念 立川志らく独演会
14:00〜15:50(その後サイン会)@紀伊國屋サザンシアター 
志らく『たちきり』
『長短』 
仲入り 
立川流目安箱(会場から募った質問に志らく師が答える。司会は志らら&志ら乃
志らく師の新著『立川流鎖国論』の出版記念の落語会。
今月はピンに行かなかったので、聴き逃していた『長短』が目当てだった。期待通り、ほんっとくだらなかったw(誉めてます)。長吉、つまんない冗談を言って短七に向かって吹き矢を放つのだが(おなじみのあの“吹き矢”ですよ)、吹き矢までゆーっくり飛んでくのw。短七は余裕をもってよけ、自分をかすめて飛んでいく吹き矢の軌道をゆっくりと目で追う。マトリックスか(笑)。
志らくさんは、最近は人情噺よりクレージー落語が断然いいな。
『たちきり』を観ていて、冒頭の小久と若旦那のやりとりのところ、小久の口のききようや佇まいが、ちょっと小津映画みたいと思った。「はい」「…ええ」なんていう返事の仕方や上目遣いが。そういえば志らくさんの落語に出てくる想いあっている男女の会話は、大抵ああいう感じだな…と思ったりした。
立川流目安箱に集まった質問は、さほど面白いものはなかった(談志が死んだら立川流はどうなるか?とか。自分は立川流に限らずどの一門でも、基本的には噺家個人にしか興味がないので、こういうことにはあんまり興味がないです。その他は、ピンに通っていたり師の本を数冊読んでいれば、あえて尋ねずとも志らく師の答えがわかるような質問ばかりだった)が、志らく師の回答にちらっと覗く落語観や噺家評は面白かった。
白鳥師について。落語をまったく知らない白鳥師は「中村仲蔵」というタイトル(なかむらなか“ぞう”)から、単純に象(ぞう)が登場する「サーカス小象」を思いつく、そんな白鳥師の発想・センスを、志らく師は“子どものような純粋さ”だと評した。ただ「日本人なら、落語を聴いたことがない人でも、あれ(=白鳥師の落語)は落語じゃない、伝統を含んだものではないと分かる」と。たぶん、こしらさんの落語も志らく師に言わせるとそうなんだろうなぁ。伝統、テクニック、面白さ。このバランスがとれてる落語が評価されるみたいなんだな。どういうバランスであれば「落語」なのか?このあたり、正直、自分には分からないなぁ。