2010年 今年の落語総括



今年もこういうコトをする季節がやってきて、気がついたら大晦日ですよ。一年、まったく早いです。
さて。自分的恒例行事「今年の落語活動を振り返る」。
今年は落語会(寄席含む)に156回出かけ、567席の落語を聴いた。数的には昨年とあまり代わっていない。少しは減ってるかと思ったんだけどな。


落語を聴きはじめて6年になる。相変わらず落語は好きだけど、若手や聴いたことのない人を積極的に聴きに行くということがだいぶ減っている。時間が惜しいからだ。確実に楽しめるところにしか行きたくない。だから、わたしが聴いている落語家の顔ぶれはここ1〜2年ほぼ固定していて、しかもそんなに多くはない。
そんなわたしを「このヒトを減らしても聴きに行こう!」と思わせてくれる落語家、現れないかな・・・なんてことを思う。


というわけで、今年も毎度おなじみの落語家達の話しか出てきませんが、今年良かった落語家・落語は以下の通り。


今年、躍進著しい若手といったら、やはり桃月庵白酒春風亭一之輔立川こしらの三人です。
まず白酒師。わたしが聴いたなかで印象に残っているのは…
居残り佐平次(3/19 白酒ひとり)
船徳(5/19 白酒ひとり)
寝床(6/3 白酒独演会@道楽亭)
火焔太鼓(6/5 特選落語会 市馬・白酒二人会)
メルヘンもう半分(8/23 Wホワイト落語会)
落語らしい薫りがありながら毒がたっぷりの爆笑古典落語。白酒師、今年は安定していた気がする。いつ、どんな会でもほとんどハズレがなかった。


それから春風亭一之輔
今年の春頃、彼はこんなことを言ってた。人気のある落語家のチケットがとれなかった時に次善の策で行ってみたらけっこう楽しい、そんなディズニーランドの魅惑のチキルームのような“チキルーム芸人”になりたい、と(笑)。しかし、次善の策だなんてとんでもない!最近の一之輔さんの会はうかうかしているとすぐに満席になってしまうのだ。チキルームどころじゃない、開園したらダッシュで並ばなきゃいけない人気アトラクションだよ、既に。とにかく今年の一之輔さんの勢いには目を見張るものがあった。特に10月の真一文字三夜今月19日のいちのすけえん@国立演芸場の盛況ぶり。二つ目で国立演芸場をいっぱいにするって凄いよ。『鈴が森』『初天神』『あくび指南』『不動坊』『錦の袈裟』『明烏』・・・一之輔さんで聴きたい好きな噺がどんどん増えています。


そして立川こしら
今年最も爆笑したのはこしらさんの落語だ。相変わらず上手くはない、でも彼は「センスがいい」のだ、間違いなく。落語が上手くてもセンスの悪い落語家は多い。こしらさんは上手くはないけどセンス抜群なのよ。そのセンスはわかりやすい江戸の薫りはしないけど、個性的でチャーミングだ。だからヘタでも好きなんだ、こしらさんの落語(・・・なんか貶してるのか誉めてるのか分かりにくいけど、間違いなく誉めてます、こしらさん)。で、そんなこしらさんの、今年おもしろかった落語はコレ。どれもお江戸日本橋亭の座布団の上で体を折って大笑いした落語です。
文違い(3/2 こしらの集い)
だくだく(5/4 こしらの集い)
三軒長屋(8/7 こしらの集い)
らくだ(丁の目の半次一代記・序)/(文七・ちはやの)鰍沢 (12/3 こしらの集い)


以上の三人以外で、今年よかったのは柳家三三。もともと上手さに定評のあるところに、自然な滑稽味が出てきて、とても好ましかった。面白さで印象に残っているのはこの二席。
妾馬(5/28 J亭 立川談笑の会)
お化け長屋(6/11 喬太郎・三三二人会)
それからもちろん11月の談洲楼三夜。ずっと記憶に残る会になると思う。


それから立川志らく
今年は滑稽噺の傑作がたくさんありました。
松山鏡(4/5 志らくのピン)
反対俥(8/3 志らくのピン)
金明竹(11/10 志らくのピン)
ほかに明烏(1/14 志らくのピン)百年目(4/17三鷹志らく独演会)も良かった。
こうしてみると「志らくはピンを押さえておけ!」と言えそうですね。来年もピンはできる限り欠かさずに行こうと思います。


その他の落語家で印象に残っているのは・・・
柳家喬太郎 文七元結(2/28 特選落語会 柳家喬太郎の会) 
〃    東京無宿・棄て犬(5/30 柳家喬太郎みたか勉強会 夜の部)
立川談春  庖丁(4/18 談春アナザーワールド
自分の好みの変化だろうか、この二人については実は時々「?」と感じるようになった。喬太郎師にの芝居のような“演技”、談春師の“人情噺のなかの饒舌”。どちらもスッと醒めてしまうことがあるのだ。
もちろん「素晴らしい!」と感じることもたくさんあるふたりなのだけど。
それから志の輔師と昇太師は、共に大好きな方たちだけど、お二人とも大きな会場でやることがますます増えているせいだろうか、「粗さ」を感じることがあった。働きすぎで疲れていらっしゃるのか。少しゆったりなさって欲しい。


そして最後に今年いちばん印象に残ったこと。
立川談志の落語を再び聴けたこと。
へっつい幽霊(11/24 立川談志一門会)
芝浜(12/23 リビング名人会)
今年の4月に復活した頃は、ご自身を“しかばね”と自嘲していた談志が、シャンとして高座にあがりきっちり落語をやった。そのことが尊い
今月26日に市馬師匠の会(年忘れ市馬落語集)にゲスト出演した際、談志家元は23日の『芝浜』を、あの喉の状態でよくもやり通したと思うと仰っていたが、それは心から出た言葉のように思った。思い通りの落語ができないことに焦れて鬱々としていた人が、こんなことを言うようになった・・・と感無量だった。
へっついも芝浜も、以前の(50〜60代の頃の)談志のそれらとはもちろん違う。声が十分に出ないから抑揚がつけられない。でも、それが不思議な効果をうんでいたように思う。淡々とした、哀しみと温かみのある実に味わいのある落語だと思った。舞台袖で芝浜を聴いた志らく師は、その夜Twitterに「声がでなくても落語はできる」と書いていらしたが、本当にその通りだと思った。


来年も落語は聴きます。でも、来年は本当に落語を減らそうと思っている。落語家が落語に向き合うように、自分も自分がすべきことにちゃんと向き合わないといけないなと思うようになりました。けっこういい齢ですからw 焦るほどではないけれど、時間はもうそんなにない。限られた時間を大事に、好きな人たちの落語を大事に聴きたいと思います。