9月の落語



10月ももうじき終わるという今頃になって9月の落語活動の報告です。遅くてホントにすいません。えーと、先月はわりとヒマだったので12回出かけておりますね。昇太さんの独演会だけかなり長いです。書くだけ書いてブログにアップするのを忘れていたからです(てへ)。


9/2(木)
こしらの集い
19:00〜21:01@お江戸日本橋亭
『手紙無筆』
仲入り
『千両みかん』
『手紙無筆』も『千両みかん』もなんとも不思議な落語(本人曰く“落語のようなモノ”w)であった。
どんな?と訊ねられると、とても説明に困る。「え?そんなのアリ?」っていうくらいのヘンな展開、ヘンなギャグが入ってるのだが、それを“工夫”と呼ぶのはためらわれるし、ここにかいても面白くないと思う。あの空気の中で観てるから伝わる面白さなのかなぁ。大笑いしてたら、こしらさんに「皆さん、おかしいですよ。(真っ当な落語ファンに)変わってるってバカにされますよ」と心配されてしまった。確かにちょっとヘンかもしれない(でも既に手遅れです)。
こしら『千両みかん』には、ちょっと『擬宝珠』が混じってます。番頭から若旦那の病の原因が“みかん”だと告げられた大旦那、「あいつもか…(遠い目)」。ここんち、大旦那も、その父親(祖父)も、みかん好きだったの(こういうところ、彼はホントに『千両みかん』と『擬宝珠』をごっちゃにしてるんじゃないか?と疑っています、わたしは。だから“工夫”というのはためらわれるのw)。相変わらずカミシモ逆だし、まともなみかんをよる手つきはフリック入力してるみたいだったし(笑)、ホントにヘタ。でも、面白いんだなぁ。


9/6(月)
桂吉坊独演会
19:00〜20:30@道楽亭
『辻八卦
仲入り
崇徳院
吉坊『崇徳院』。若旦那、お嬢さまを「うつやかな人もいるもんやな」とみそめる。“うつやかな人”というのが、江戸落語では聞かない、きれいな言葉だと思った。それにしても、こしらさんでも吉坊さんでも楽しめるわたしって、許容範囲が広くてお得ってことじゃない?(…と思うことにしました)。


9/10(金)
いちのすけえん秋の段
19:00〜21:20
柳亭市也『高砂や』
春風亭一之輔『不動坊』
仲入り
橘紅楽 寄席文字実演
一之輔『居残り佐平次
一之輔さんの『不動坊』は好きだ。彼に合ってる。徳さんとケンカしてベソかいてるマンさんを、お化け役の噺家が「あなた笑顔が似合うんですから」となだめるのが可笑しかった。
居残り佐平次』は、ネタおろしだったのでまだ一之輔さんの匂いがしなかったけど、悪い男が似合いそうな一之輔さんだから、いつかしびれるような居残りが聴けるんじゃないか?と期待しています。


9/13(月)
らくご×情熱大陸 第四夜
19:00〜21:25@シアターBRAVA!
春風亭昇太『人生が二度あれば』
西村由紀江 ピアノ演奏
立川志の輔『徂徠豆腐』
昇太&志の輔の共演とあって、わざわざ大坂まで聴きに行ってしまった。テレビ番組「情熱大陸」の企画で落語と音楽(ピアノ)のコラボ云々と銘打った公演だったが、率直に言って落語の途中にピアノが挟まりましたという印象しかない。どういう意図(あるいは、しがらみ?)でこの顔ぶれ、組み合わせになったのかな。少しでも昇太&志の輔トークが弾んだらいいなと期待していたが、お二人が落語をあまりご存じない様子の西村嬢を気遣い、そのせいか、あんまり弾まなかったな。またどこかで二人会やってくれるといいな。


9/14(火)
志らくのピン
19:00〜21:05
志らべ『看板のピン』
※以下、志らく
『たらちね』
厩火事
仲入り
『お化け長屋』
『お化け長屋』は上下。この公演の前の晩に思いついたという下は“誰も知らないお化け長屋後日談”。長屋を借りにきた乱暴な熊は、亡くなった愛妻を忍んで千羽鶴を作る心優しい男だった…というエピソード。おもしろくない下を新しくしたいと付け足してみたそうだが、志らく師ご自身まだ満足していないようだった。


9/15(水)
立川志らく独演会
19:00〜21:00@博品館劇場
志らら『うなぎ屋』
※以下、全て志らく
『代り目』
『疝気の虫』
仲入り
茶の湯
『反対俥』


四席ともぜーんぶ面白かった!
「ちゅーさせてくだしゃーい」が愛らしい『代り目』。一席目からかなり笑ったけど、志らく師に言わせると“クレイジー度初級”なのだそーです。


『疝気の虫』。6月のお芝居を経て、虫のキャラクターがより立ってきてますます面白くなった。ラーメン嫌いのくせにラーメンに妙に詳しく、自称「詩人」、チェーホフの芝居を語る…そんな虫。


茶の湯』は『反対俥』が控えていたせいか、若干短め&抑えめでしたが、上手く編集されてるから短かさを感じなかった。ご隠居、ピーター(茶筅)でお茶っ葉と青海苔と石鹸を執拗にかき混ぜて「えへへ、えへへ、えへへへ…」って不気味笑う。定吉「焼そば屋のオヤジが湯に入ったようなニオイがしますぅ」。ちなみに志らく茶の湯』のご隠居はフリーメイソンのメンバー。だから若旦那とはお茶の流儀が違うw


ビンの初演以来、また観たい!と切望していた『反対俥』。今日も凄かった!猛スピードで俥をひきながらハンガリー舞曲を唄う俥屋、「…ちゃんちゃんちゃ〜んちゃ…ちゃーんちゃかちゃかちかちゃっ!」“…”のところは、ちゃんと信号で左右を確認してるところなのだw
『反対俥』で“飛ぶ”は他にもいる。たとえば彦いち師の跳躍は見事だ。でも、志らく師匠はジャンプだけじゃなく、歌も入れば、うんちくも語る、大忙しなのだ。こんな落語ばっかやってたら、命縮めるよ。それだけが心配。


9/16(木)
月例三三独演
19:00〜21:05@国立演芸場
柳家わさび『道具屋』
柳家三三『弥次郎』〜『茄子娘』
仲入り
三三『三軒長屋』
この日の三三師匠、『三軒長屋』>『茄子娘』>『弥次郎』の順によかった、わたしは。『茄子娘』の和尚さんは全然ヤラシイ感じがしなかったのが残念。『弥次郎』はちょっと寝ちゃった。でも『三軒長屋』は可笑しかった。お隣のお妾さん宅を訪ねた与太郎、二枚目に豹変!思わず噴いた。


そう、この日は久しぶりにわさびさんを観た。相変わらず肩にハンガー入れてるみたいだなぁw わざとわざとヘタにやってるようなニオイがする『道具屋』。この日はそれが功を奏していなかった(わざとやってることを、多くの客が真にうけて笑ってた。そのせいもあると思う)。でも、あの感じ、上手くいけば面白いと思うな、ワリと好きだ。


9/17(金)
春風亭昇太28周年落語会
19:00〜21:21@赤坂レッドシアター
オープニングトーク
『不動坊』ナマ着替え
『替り目』
仲入り
『抜け雀』
早めに着いたので18時半の開場と同時に中に入った。最前列の下手・端のほうの席に腰掛けた途端、昇太さんがすたすたと舞台に出てきて「あ、いらっしゃい!」。高座のはしっこに腰掛けてお客さんをお出迎えし始めたではないか!
小さい会場だから、こんなことをしてみたそう。
開演までの30分、昇太さんは秘蔵のレコード(「思い出の渚」「22歳の別れ」「奥様は18歳」)をかけたり、お客さんとお喋りしたりしていました。早く行くと、たまにはいいことがあるなぁ。


一席目のまくらで、周りの「いいなぁ」と思う諸先輩―NHKの「生活笑百科」の収録で会った仁鶴師匠、小遊三師匠、鯉昇師匠等々―の話をしたのだが、鯉昇師匠の落語の話がちょっと面白かった。
例えば、普通の落語家は「○○いたしまして、それから〜」っていう時、“○○いたしまして”と“それから”の間で息を継ぐ。でも鯉昇師匠は「○○いたしましてそれから」ってそこで切る、ブレスが独特なのだ、と。あの独特のリズムでいつの間にか鯉昇ワールドに誘われてしまうんだと。言われて、あ、そうかもしれないなぁと思った。 柳昇師匠の落語のことも言ってたな。円丈師匠の『ろんだいえん』にふれて、あの本の中で円丈師匠は色々な落語家の落語を論じているけど、柳昇師匠については何も書いていない。それは「柳昇の面白さは“書けない”からだ」と。柳昇師匠の落語は、ある意味“評論家泣かせ”なのだと。それも一理あるかもしれないな。自分もそうだけど、人は、論じやすい・言葉にしやすいことだけを書きがちだから。(落語の可笑しさってほとんどそうかもしれませんが、言葉にしにくいことというのは確かにありますね。でも、なかなかできないけど、それを言葉にしようとすることは大切だと思う。苦闘してるうちに、ひょいっとなにかが分かることもあるから…とコレは余談でしたw)


落語のほうは、この日はちょっと疲れていたのかな?いつもに増して舌がまわっていなかったw 『替り目』では「俥屋(くるまや)さん」って言うところを「くるやまさん」って言って、客席から「“くるやまさん”て!」ってツッコミが入ったくらい。
でも、相変わらず、サービス精神に溢れた楽しい高座だった。いちばん良かったのは『替り目』。


この噺、わたしは初めて聴いた。ネタおろし?と思ったけど、かなり昔(10年くらい前)にやってそれ以来ということだった。
今までやらなかったのは、酔っ払いの旦那がどうしても「子供っぽく」なってしまうから。でも、ふと「“奥さんが旦那さんより年上”っていう夫婦だっていいんじゃないか?だったら旦那が子供っぽくてもいいんじゃないか?」と思って、今日は“奥さんが年上”という設定でやってみたのだそう。その設定は、あくまでも自分の心づもりだけで、はっきりと“奥さんが年上”と分かるようなセリフは入れなかったそうだが、この噺は、夫婦の実年齢がどうあろうと、そもそも奥さんが旦那より一枚上っていう夫婦関係、そういう関係の良さを描いた落語よね。昇太さんの『替り目』も、ちゃんとそういう感じがして、実に可愛らしく微笑ましかった。
てっきりおかみさんがおでんを買いにいっていないと思った旦那が、さんざん独り言でおかみさんに感謝して泣いて、それをおかみさんに聞かれていたと気づく場面。旦那「なにニヤニヤ笑ってんだよ!小さく手なんかふるんじゃねぇよ!」ww ニヤニヤしながら旦那さんに小さく手をふってるおかみさんの姿が見えるようで、胸がきゅんとしちゃったよ。あと可笑しかったのは、旦那がおでんの“焼豆腐”を略して「やき」って言う、すると奥さん「え?山羊(やぎ)?」。旦那「山羊がおでんの鍋にいたら面白いだろ?!評判になっちゃうだろ?!」。


『不動坊』は、熊がおキクさん(昇太さんは“おタキ”じゃなくて“おキク”って言ってた)との生活を妄想する場面で、熊が仕事から帰ってくると、おキクさんが駆け寄ってきて、「おまえさん!どこ行ってたんだい!さみしかったよ」って、両のこぶしで“ポコポコポコッ”って熊の胸を叩く…っていうところが可愛かったわ。“ポコポコポコッ”っていうのがね。


『抜け雀』も、わたしのだーーい好きな場面・セリフがあったからよかった。宿の主人がおかみさんに、雀がついたてから抜け出て戻ってきた様子を「ちゅん!ちゅん!ちゅん・ちゅん!!」って激しい身振りで報告するところ。おかみさん「お前さん、あたしに怒られると思ってそんなことやってるんだろ。かわいいねぇ〜、布団しきな」。散々バカにするくせに、「かわいいねぇ〜」って言う、で、その言い方がまたいいんですよ、昇太さんは。


帰りは、会場の出入り口のところで昇太さんが見送ってくれた。 「らくご×情熱大陸」は(予想はしてたけど)豪華だけれど“営業”のニオイがする会であった。この日はのんびり・ほっこりした、いい会だった。わたしはできるだけこういう会で好きなひとの落語を聴きたい。


9/20(月)
春風亭一之輔独演会
19:30〜21:14
雑把亭@さばの湯
『鈴ヶ森』
仲入り
天狗裁き
一之輔さんの『鈴ヶ森』は既に定評があってそもそも面白いのだけど、この日は今まで聴いた中でもベスト1!くらいの面白さだった。ドジな泥棒は読書好きで『断る力』(最近はコレ。夏目漱石の『こころ』だった時もありますw)を読んでるんだけど、著者を評して「人殺しの目をしている」ってのに、個人的におおいにウケてしまった。


9/21(火)
巣鴨四丁目落語会 夜の部
18:35〜20:50@スタジオFOUR
志の春『天災』
志の輔『忠臣ぐらっ』
三遊亭鬼丸 漫談『円歌劇団
仲入り
志の輔『小間物屋政談』
『忠臣ぐらっ』も『小間物屋政談』も久しぶりだった。
志の輔『小間物屋政談』。ひと違いで“死人”にされてしまったばかりに、女房は他の男のもとに行き、人別帳から名前は抜かれ(つまり戸籍がなくなる)、若狭屋の後家とていよく夫婦にされてしまう小間物屋。かわいそ。でも、彼はその運命に甘んじる。志の輔師はこの落語を“つじつまが合わないなんて言っていたら生きていけなかった時代の噺”と言ったけれど、奉行の考え方や小間物屋の態度って、現代でもいろんな局面でたいせつかもしれないなと思ったりする。すべて自分の意志で選ぶ、そうできるという考え方って、時にヒトを生きづらくしてるような気がする。そんなことを思う落語、これは。


9/22(水)
SWAクリエイティブツアー
19:00〜?(21時過ぎてたかしら?)@赤坂レッドシアター 
春風亭昇太『温かな食卓』(初登山で遭難してしまった老夫婦の話)
柳家喬太郎『故郷(ふるさと)のフィルム』(行政から立ち退きを迫られた御爺さん、立ち退く代わりに「この街でロケをした、昔の映画を探して欲しい」という条件を出す…)
仲入り
林家彦いち『知ったか重さん』(すぐに見破られる“イメージの乏しいウソ”ばっかりついてる重さん、八幡様のお祭に“スーザン・ボイルのそっくりさん”を連れてくると約束してしまい…)
三遊亭白鳥『新婚妄想曲』 (憧れのミナミちゃんと結婚が決まったタモツくん・42歳。学生時代のマドンナだったミナミちゃんが何故こんなにモテない自分と結婚してくれるのか?疑心暗鬼になったタモツは…)


今回は「温故知新」をテーマに全篇ネタおろし。
各噺のタイトルは、この四字熟語の一字をとってつけられている。この日は初日だったから、四人とも寝不足で気が立ってて妙なテンション、客席はハラハラ、スリリングであった。喬太郎師は既にこの後何度かこのネタを高座にかけてるみたいで、いまは噺の内容も少し変わってると思います。


9/28(火)
鈴本演芸場昼席
※仲入り後入場 
ロケット団 漫才 
柳家喜多八『鈴が森』 
古今亭菊志ん『悋気の独楽
三増紋之助 曲独楽 
桃月庵白酒『お見立て』 
ちょっとだけ時間があったので白酒師目当てで出かけた。「円蔵と正蔵しか知ってるヤツが出てこない。白酒って誰だ?」「(喜多八師に)なんだ、あのやる気のない態度は」と文句ばかり言っていた後ろの老夫婦のじいさんが、白酒『お見立て』に爆笑していた。許してやることにしたw