3月後半の落語



明日(31日)は末廣亭余一会と小三治独演会の予定ですが(余一会は“行けたら”って感じだけど…)、諸事情によりブログ更新する時間がなさそうなので、とりあえず今日までの落語活動をアップ。今回はそれぞれの会の感想をちょっとずつ。




3/17(水)
立川志らく独演会
19:00〜21:14@銀座ブロッサム
開口一番 志らべ『持参金』
志らく『火焔太鼓』
志らく『疝気の虫』
仲入り
志らく『百年目』
志らくさんの春のブロッサム独演会は絶対外せないライブ。毎年楽しみにしています。今年は志らく十八番の『火焔太鼓』、新しいサゲが愉快な『疝気の虫』(虫たちがパン・パン・パン!って爆ぜて終わります。「明日に向かって撃て」を意識した?w)、そしてネタおろしの『百年目』という充実した内容でした。


『百年目』
花見の翌日、旦那が部屋に番頭を呼んで話をするくだりで、志らくさんは、番頭に茶道の心得があって旦那のためにお茶をたてるという場面を入れていた。番頭が茶道のお稽古もしていたというのは、彼の遊びが“商売上の交際”を意識したものだということが感じられて、良い工夫だなと思いました。仕事で存じ上げている方でとてもゴルフが上手な社長さんがいるのですが、接待ゴルフで上手に負ける(相手に“わざと負けている”と気づかせずに負ける)ために、レッスンに通って上達したと仰っていた。年配の男性の中には、そんなふうに、遊びが全て“仕事”に繋がっている方がいますね。やり手の番頭の道楽は、社長さんのゴルフみたいなものなのでしょう。


志らくさんの『百年目』は、基本的には圓生をベースにしていて大きくは変えていない印象でしたが、後日圓生のCD『百年目』を聴いてみると、他にも所々に志らくさんらしいところがあったのだなぁと気づきました。志らくさんの旦那は番頭に「おまえは怖すぎる」「小言を言いすぎですよ、小言を言う機械のようになっている」と諭す。旦那は“愛情のない小言は効かない”と言ってて、こういうところは志らくさんらしいと思いました。


圓生師匠の他に米朝師匠の『百年目』も聴いてみました。いろいろ聴いて思ったのですが、この落語で描かれている旦那は、あくまで“番頭さんから見た旦那”なのですね。この落語の旦那って、度量が大きいのかいじわるなのか、なかなかわからない。矛盾する言動があったりする。でも、それは“相手の真意が分からない”番頭さんから見るとそう見えるってことなんだなと思った。
それと、この落語では、描かれている“旦那の器の大きさ”や“上司と部下の関係”をとりあげがちだけど、でも、たぶんそこに注目しすぎるとこの落語の面白さを見失ってしまうのかもしれないと思いました。
この落語の可笑しさは“番頭さんの心理と行動”だと思う。
旦那と鉢合わせになった時、番頭さんには「ここであったが百年目!」という旦那の声が聞こえたのでしょう。後ろめたいことをしている現場を、一番見られちゃマズイ人に見られてしまった、そのときの「あぁ、もう一巻の終わりだ〜」という気持ち。でも、そんな心境でありながら、番頭さんは“百年目”にかけた洒落で「お久しぶりでございます」って挨拶をする・・・
この落語の可笑しさって、そういうところなんでしょうね。




3/19(金)
白酒ひとり
19:00〜21:15@内幸町ホール
『親子酒』
『転宅』
仲入り
居残り佐平次
初めて聴いた白酒師の『居残り佐平次』、とても良かった。『居残り〜』といったら談志家元なんだけど、ああいう陰のある佐平次ができる人は他にいない気がする。ああいう風にできないんだったら、ヘンに陰のないカラッと明るい佐平次がいい。白酒師の佐平次はあくまで調子がよくて楽しくて、とても好ましい『居残り〜』でした。
最後のところ。佐平次は、旦那を騙してもらった30両を懐に店を出て行く。後をつけてきた男に、覚えておけ、俺は居残りを稼業にしてる佐平次だ、この30両で一膳飯屋でもやらせてもらうぜ!と言い捨てて、颯爽と去っていく。それを聞いた旦那「どうりで一杯喰わされた」
このサゲ、かつて右朝師匠から「アンちゃん、こんなサゲ考えたんだけど、どう?」って聞かされたものだそうです。




3/21(日)
巣鴨四丁目落語会 昼の部
13:36〜16:03@studio FOUR
立川志の彦『金明竹
三遊亭好の助幇間腹
立川志の輔『花見小僧』
仲入り
ダメジャン小出 ジャグリング他
立川志の輔『江戸の夢』
志の輔師の『花見小僧』は初めてだったのですが、志の輔師自身も久々にやったそうです。つい一昨日くらいに覚えなおしたと仰っていた。小僧(志の輔師は“長松”)がいいです。志の輔版『雛鍔』の金坊に通じる可愛らしさがありました。
志の輔師は「花見小僧から刀屋まで通しでやりたい」と仰っていたので、いずれどこかで通しを聴けるかもしれませんね。
『江戸の夢』は昨年5月の21世紀以来。これもよござんした。




3/22(月)
第133回立川志らく一門会
18:30〜20:35@上野広小路亭
らく兵『宮戸川
らく里『花見の仇討ち』
志ら乃『家見舞い』
仲入り
平成立川ボーイズ(こしら・志らら)漫才
志らく『浜野矩随』
志らく一門会は、こしらさんが出演する時にはなるべく行くことにしてます。今回は平成立川ボーイズとしての出演。こしら・志ららの漫才は、2007年の一門会100回記念スペシャル以来でした。正直、今回はいまいちだったな(ごめんよ、こしらさん)。
後にあがった元祖・立川ボーイズの志らく師匠は「自分達はコントも漫才も真剣にやっていました、それが彼らとの違い」とチクリ、『浜野矩随』でピリッとシメてくれた。


志らく師の『浜野矩随』は昨年3月のピン以来で、約一年ぶりでした。わたしが前回聴いた時から変わっていたところは、次のようなところ。
○先代(父親)は、息子(矩随)に才能があると思っていた。そして生前、若狭屋に「俺には分からないけど、あいつには俺にはない才能がある」「そいつを引っ張り出してやってくれねぇか」と頼んでいて、そのために若狭屋は矩随の才能を疑いながらも、彼の面倒を見ていた
○矩随が若狭屋に「死んでしまえ!」と言われたと知った母親、息子に「あのひとは本当の江戸っ子だからね、(死んでしまえと言うならば)それは間違いないね」「おまえ死んでしまったほうがいいよ。だけど私も寂しい」、だから形見に“自分のために”仏像を彫ってくれと頼む。
○矩随の才能を両親以上に理解していたのは小僧・定吉。母親が自害した後、矩随の作品がガラっと変わったことを「つまり、おっかさんがあのまま生きていたら、矩随さんは満足してあれ以上のものはできない。本当は終着点だった観音像が出発点になったんです」と見事な分析w 若狭屋「おまえは評論家か!」


サゲは「頑張れ、三平、こぶ平!」。前は“こぶ平”だけでしたが、三平も加わったんだねw


志らくさんの『浜野矩随』は聴くたびに良くなってて、評論家・定吉wの言うことがますます鋭くなっている。それは、志らくさんの中でこの噺が着々と固まっているからかな?と思いました。




3/25(木)
浜松町かもめ亭
19:00〜20:57@文化放送ディアプラスホール
立川こはる権助魚』
立川生志『短命』
入船亭扇辰『心眼』
仲入り
桃月庵白酒『松曳き』
皆良かったけど、特に扇辰師『心眼』と白酒師『松曳き』は良かったです。


扇辰師『心眼』
喬太郎師の『心眼』は扇辰師に教えてもらったものだそうですが、それと比べていろんなことを思いました。二人ともそれぞれいい。
喬太郎師の梅喜は、目が明いたことをきっかけに、それまで抑えていた欲望をむき出しにしていく、どんどんつけあがって増長していく。その過程の描き方が素晴らしい。長年コンプレックスを抱えていた梅喜は自分の解放のしかたがひねくれてて、醜い。でも、迫力があって目が放せなかった。
一方、扇辰師の梅喜は単純で喜怒哀楽が子供のようだった。でも、だから深みがないということではなく、そんな子供みたいな梅喜が、最後に夢から醒めて苦い思いをかみしめる場面は、しみじみと哀れだった。
それと、扇辰師は女の人(女房・おたけ、芸者・小春)が上品で上手いなぁと思いました。


白酒師『松曳き』
落語は、いつもいつも大笑いさせて欲しいとは思いませんが、やっぱり時々は思い切り笑いたい。白酒師の『松曳き』は、もう、何度聴いても大笑いしちゃう。
好きなところをひとつあげると…
・お殿様はいろんなコトバがすぐ出てこない、覚えられないのですが、“八五郎”という名前も言えない。植木屋の八っつぁんに呼びかけるたびに“八衛門”“八郎兵衛”と名前がどんどん変わっていく、ついには“富十郎”になっちゃいますw
せめて“八”はおさえとこーよww


マクラも毒炸裂で面白かった。録音なので適宜“編集点”を入れていましたw
今日の出演者は、仲入り前は柳家一派、白酒師は古今亭。でも、みな本家・本流じゃない、“支流”“枝”。「今日は本流からはずれた一門たちの会」だってw




3/26(金)
J亭談笑落語会
19:00〜20:52@JTアートホール アフィニス
※全て談笑師
『看板のピン』
初天神
仲入り
居残り佐平次
わたしは談笑師はたまに聴くくらいなので、聴いたことがない談笑落語がたくさんあります。今回は『初天神』『居残り佐平次』を初めて聴きました。
居残り佐平次がなかなか面白かった。佐平次の“得体の知れなさ”の描き方に、談笑師らしさを感じました。談笑師が「佐平次という男がもし現代にいたら、こんな男じゃないですか?」と言っているような気がした。


佐平次は、若い衆・女郎・女将さんまで、いつの間にか店の者たちの心をすっかり掴んでしまい、店をのっとってしまう。
気が利いて頭がよくて器用な佐平次は、若い衆に経費削減策を指示し複式簿記のつけ方を教え、女郎たちには品川甚句をお稽古してやり、魅力的に見えるシナの作り方・メイクの仕方をアドバイスし、ある時は心理カウンセラーのように女の子を励まし、ある時は自己啓発セミナーの講師のように店の者たちに生きる目標を示して鼓舞し、更には女将さんを慰めちゃうw こうして旦那が留守にしている間に人心をすっかり掌握してしまう。実は佐平次は、この店のことは、旦那が入り婿で経営が杜撰ということまでしっかり調べて、狙いを定めてこの店にあがったのだった。計画的なのっとりなのです。芯からワルなのだ。
旦那が帰って来た時には、誰一人旦那についていこうとする者はいない。店の者&女将さん全員一致で追い出されることになる。旦那は店の者たちに「おまえたち、みんな一人残らず後悔するからな。俺は絶対この店に帰ってくる」と言い捨てて、なぜか布団部屋へ。「ここから、一から始めるんだ!」というサゲでした。


ただ、初めてだったので面白く聴けましたが、おそらく談笑師が描こうとしているであろう“佐平次のワルさ・不気味さ”が、もう一つ迫ってこなかった。 また、笑えるかどうかということでは、白酒師のオーソドックスな居残りのほうが面白かった。
初天神』もそうでしたが、談笑師ならではの工夫やくすぐりに対して「ふーん、そういう風にやるのか」と感心はするのですが、それでおしまい。“驚かされる”というところまでいかなかった。前はそういうことがあったのですが。何故でしょうね?わたしが変わったのか、それとも談笑師が変わったのか。




3/27(土)
柳家小三治独演会
14:00〜16:44@三鷹市公会堂
柳亭燕治『粗忽の釘
柳家小三治 マクラ約30分強 『茶の湯』約40分
仲入り
柳家小三治 マクラ約20分 『猫の皿』約20分
マクラも落語もたっぷりで、小三治ワールドをのんびり楽しめた、なかなか贅沢な会でした。
この日は晴れた、でも寒い日で、一席目のマクラは「こんな季候を“花冷え”という」という話から始まった。そこから“俳句”の話になり、ご自身の句「やわらかき闇を切り行く蛍かな」のエピソードへ。
このエピソード、小三治師のマクラをまとめた本(※)に載ってるので、ご存知の方も多いと思います。小三治師はご自身が詠んだこの句をなかなか思い出せなくて「なんだったっけなぁ、元の句を忘れちゃって…」と困っていらした。
わたしは「やわらかく!」って声をかけたくてたまらなかったけど、席が高座からかなり離
れていたので、できませんでした。きっと、わたしと同じ思いでジリジリしていた小三治ファンがいっぱいいたはずだw
小三治師が自力で思い出してくれて良かったですw
※『もひとつ ま・く・ら』に「蛍」というタイトルで載っています。




3/29(月)
日本橋夜のひとり噺 第十二夜 江戸前落語・特別編
18:50〜21:43@日本橋社会教育会館
入船亭辰じん『真田小僧
春風亭一之輔『あくび指南』
瀧川鯉昇『宿屋の富』
仲入り
桃月庵白酒『替り目』(通し)
柳家さん喬『百川』
四人がそれぞれの十八番をマクラも含めたっぷりと。皆、良かったです。特に一之輔さんの『あくび指南』はとても良かった。


ただ、たしかに顔付けはいい・一人一人のネタはいい、贅沢な会ではあるのですが、これだけ豪華だと正直少々くどい。番組の構成は席亭が決めたのだろうと思うのですが(寄席だったら、こんな十八番オンパレードはありえませんよねw)、“江戸前落語”の会ならば、もう少しアッサリといって欲しかったです。
時間も長い。夜7時前から始まって終演が10時近く、しかも週の始まりの月曜日。「あ〜疲れた…」と帰途についたのはわたしだけじゃないと思うw


噺と一緒で、番組全体に緩急やリズムがないと、「ああ、面白かった!」って感じにならないんだなぁ…なんて思いました。