2月前半の落語



2/2(火) 新にっかん飛切落語会 第12夜
18:30〜20:41@紀伊國屋サザンシアター
開口一番 柳家花いち『たらちね』
柳家三三『おしくら』
林家たい平粗忽長屋
仲入り
柳家花緑『おせつ・徳三郎(下)』
柳家喬太郎『おせつ・徳三郎(上)』(花見小僧)
この番組、もともとは花緑師がトリの予定だったそうだ(花緑師は高座で主催者からそう頼まれたと言っていた)。が、当日配られたプログラムは喬太郎師がトリになっていて、急遽プログラム通りにやることにしたみたい。で、そのせいかどうなのか、『おせつ・徳三郎』の“下→上”という珍しい逆リレーを聞けた。
本来は喬太郎花緑で上下をやる予定だったんじゃないかしら?間違ったプログラムを配っちゃったから、花緑師が喬太郎師に花をもたせたのでは?で、喬太郎師は気転をきかせて洒落で下をやったんでは?…とかとか、どうでもいいことを推測して楽しませていただきましたw ともかく楽しい趣向でした。
喬太郎師の『花見小僧』は面白かった。
番頭が“お嬢様に虫がついた”“その虫は徳三郎”と注進する。花見の御供をした定吉がなにか知っているはず、定吉から聞きだしては?と勧めるが、旦那は定吉が素直に答えるだろうか?といぶかる。番頭は“年二回の宿りを三回にしてやる”“小遣いをやる”とエサをちらつかせる一方で、言わないと灸をすえると脅せばよい、と。「そこはアメとムチですな」「え?花と蛇か?」「違います!それではムチとムチです」w
「そういう腹芸は苦手だな」という旦那に、番頭、旦那(喬太郎師)の腹を見やり「…得意そうですがな」「その腹芸じゃない!」。“その腹芸”の見事さは後日(12日)確認出来ました(笑)。


2/3(水)吉川潮『戦後落語史』刊行記念落語会
19:00〜20:28@紀伊國屋サザンシアター
第一部 
対談「昭和の四天王 柳朝、談志、円楽、志ん朝」:吉川潮立川志らく
司会:春風亭勢朝
第二部 落語 立川志らく文七元結
第一部はほぼ本の内容と重なり、吉川氏が初めてナマで高座を観たのが小えん時代の談志『源平盛衰記』だった…という話から、家元のこと、二朝会(柳朝・志ん朝二人会)のこと、S53年の落語協会分裂騒動のこと等。
著書『戦後落語史』については「この本は作家として書いている」「わたしは作家。作家は人間を描く職業だと思っている。人間を見て“その人がどう動いたか”という視点で書いている」・・・


第二部は志らく師の高座。「四天王がやった落語をやります」と『文七元結』を。この前聴いたのは昨年8月のピン。その時と大きく変わってないと思うけど、人情噺的なウェットな感じはますます薄くなっている印象。トントントン…と、ずいぶんテンポがよかった。東橋のシーンなどずいぶん短くなった気がする。およそ40分弱。


2/8(月)鈴本演芸場 夜の部
17:20〜20:52
開口一番 古今亭きょう介『子ほめ』
初音家左吉『初天神
鏡味仙三郎社中 太神楽曲芸
隅田川馬石金明竹
入船亭扇遊『家見舞い』
林家正楽紙切り
春風亭百栄『愛を喩えて』
五街道雲助時そば
仲入り
大空遊平・かほり 漫才
宝井琴調『浜野矩随』
花島世津子 マジック
桃月庵白酒『文違い』
昨年「日本橋夜のひとり噺 桃月庵白酒の会」で、白酒師は「廓噺をなんとかしたい」と言っていたが、この日の『文違い』はとても良かった。前に聴いた時よりも面白かった。
田舎モノの角造が可笑しかったこと!
半ちゃん「なにかってぇと“ひーふ・ひーふ(夫婦)”って、ラマーズ法か!」(笑)
面白くて面白くて、ほんのちょっぴり哀しさもあって、とってもいい『文違い』でした。


2/9(火)志らくのピン
19:00〜21:04@内幸町ホール
志ら乃『星野屋』
※以下志らく
『お七』
『笠碁』
仲入り
『妾馬』


志らく師のマクラは、入院中の家元の話と朝青龍の一件について。家元は最近だいぶ調子がよろしいとのことなんですが、輸血したらすっかりいい人間になっちゃったっそうですw


『お七』は初めて聞いた。圓生がやった噺だそうですがヤな噺だしあんまり面白くない。
子供が生まれて祝っている夫婦のところに、ひねくれ者の熊がやってきて、やたら縁起の悪い言葉を並べて嫌がらせをする。その挙句、子供の名が“お初”と聞いて、大きくなったら『お初・徳兵衛』のように心中すると言って夫婦をヤ〜な気分にさせる。
で、その後熊に子供が生まれ、意趣返しのために男が熊のうちに乗り込む。でも、この男はちょっと弱いヒトなのでw、悪口が上手く言えない。
「ボク、土左衛門〜」(お初・徳兵衛は入水して死ぬ)って言うところも、「ボク、野晒し〜」って言っちゃうw
熊の子供は“お七”なので、『八百屋お七』の覗きからくりの口上で嫌がらせをしようと試みるのですが、これも上手くいかなくて、熊のほうが上手。それを聴いてるうちに男はお七が可哀そうになって泣き出してしまう。お七が死なないように「毎晩火の用心をします」というサゲ。
覗きからくりの口上は、志らくさんが昔、大道芸の芸人から教わったもので、しらくさんのオリジナルだそう。


志らくさんの『笠碁』はとても好きな噺。男の友情を描いた映画はたくさんあるが、落語ではこの噺…と。志らく師「友情とは不様なもの」。碁でケンカするじいさま二人はみっともなくてブザマだけど、そこが人間らしくて可愛い。


今回は、“待った”をかけているといつまでも上手くならない、今日は待ったなしでやろうと言われたほうが「今、わたし、小ちゃな感動をしました!」「面白いですなぁ、待ったなしというのは」と大いに賛同の態度を示しました。だから、後で「待った」をかけられてムッとする…というのがよく分かります。
あと「でしょ!でしょ!」と子供のようにはしゃいだり、二人がそれぞれ「俺の相手ができるのは、アイツだけ」「あいつの相手は私だけ」とニンマリ笑う顔が、ますます可笑しかった。
お金の工面に来た男が「西洋のヤサイみたいな顔でそこに立ってた」、笠をかぶって肩をすくめチラチラ横を見ながら通り過ぎる「柳家小さん戦法」、最後にハグするところ(今回はとん・とんと片手ずつ相手の肩に手をおいて、そのあとぐっと抱きしめるのが可笑しかったw)、好きなところいっぱいあるなぁ、この噺。


『妾馬』 今回は八五郎士分になって馬にのって長屋に帰るというところまでやってくれました。
侍だから馬に乗らなくちゃいけないんだけど、行きは八五郎は馬をひいて長屋まで行く。母親をお屋敷に連れて帰ろうとするのだが、御供に「馬にお乗り下さい」と頼まれ、母親と共に馬に乗る。でも、御し方を知らないから、思い切りムチをいれちゃって馬が暴走。八五郎様、どこへいらっしゃるんですか?!との声に「前へまわって馬に訊いてくれ!」というサゲ。
え、それだけ?っていうサゲで、志らく師「前回のピンの『鰍沢』はびっくりオチでしたが、これもある意味びっくりオチです」。


八五郎の母親(おトラ婆さん)が、ちゃっかりしてて柄が悪くて、元気な長屋の婆さんという感じなのがよかった。お鶴の件で大家に呼ばれると、店賃の催促だと勘違いしてなんとかいい逃れようとする。八五郎と親子だなぁw
八五郎が大家に軽口を叩いて遊ぶところも好き。大家に“二本差し”になれると言われて、八五郎「え?日本橋?」、大家「なってみろ!日本橋(怒)」とか。
志らくさんは、この噺を「人情噺ではなく、長めの滑稽噺」という意識でやっているとのこと。たしかに、八五郎がお鶴と殿様に「ババァが初孫を抱けないねってメソメソメソメソ泣きやがんだ」「殿様、うちのババァに赤ん坊を抱っこさせてやってください」と頼むところなど、志の輔師や談春師の『妾馬』のその部分に比べたら、だいぶ短いし、セリフに間をとったりしない、サラッとした演出。でも、ドライっていうんじゃなく、ほのぼのした感じがちゃんとあって、好ましい『妾馬』だった。


2/10(水)第15回角庵寄席 春風亭一之輔
19:08〜21:16@カフェ角庵
『唖の釣り』
『徳ちゃん』
仲入り
『らくだ』
マクラが面白かった(落語が面白い人ってマクラも面白いですね、大抵)。
つい一昨日、家族サービスで久々にディズニーランドを訪れた一之輔さん、「ディズニーランドで芸人らしさを学びました」。
ファストパスのシステムを理解してなくて、人気のアトラクションにはほとんど入れなかった。で、イッツ・ア・スモールワールドとかあの手の比較的空いてるアトラクションを回った。
「なかなか楽しいところですよ、チキルーム。第6志望・第7志望のところでしたけどね」。そして、ふと思ったのだそうです。「オレはチキルームのような落語家になろう」w
あの落語家もこの落語家も、人気のあるヒト達のチケットはすぐ完売してしまって手にはいらない。そんな時「あ、一之輔の会があるじゃないか!」と次善の策wで来てもらえる、そんな落語家を目指そう!と。頑張れ、チキルーム芸人!


一席目は春風亭のお家芸『唖の釣り』。昨年五月の真一文字の会以来。釣りをやる奴はバカだと言われた与太郎が、同じく釣り好きの七兵衛さんちにやってきて「…“バカ”って言うんだよ、でもあたい“バカ”じゃないってったら、いいいやオマエは“バカ”だって…」とバカ・バカ・バカと連発、七兵衛さん「ブっ飛ばすぞ、この野郎!」ここんとこ可笑しい。
いちばん笑えるのは「口をきけなくなった七兵衛さんが「オエ、オア、オエ、アエ…」ってデカイ声でワケわかんないこと言いながら身振り・手振りしてるところ。


一之輔さんの『徳ちゃん』は初めて聴きました。敵娼が物凄く恐ろしい。「よく来たねぇ!花魁だよー!」、花魁じゃないよ、イモを齧る様子が巨大なゴリラにしか見えないよ!逃げる噺家を追って床を踏み抜き「助けてくんろー、足抜いてくんろー」、つい手をさしのべた噺家を「隙ありっ!」と捕まえて唇を奪おうとするゴリラ花魁。


『らくだ』 一之輔さんは登場人物の微妙な心理を表情の演技だけでちゃんと観客に分からせて、しかもそこがとても面白い。噺の間、表情が死んでるときがない。『らくだ』も、一之輔さんの表情が面白くて観てて飽きなかった。一之輔さんは眉毛がよく動きますね。屑屋が困ってるときの眉毛は八の字に垂れるし、半次がすごんだり重たいらくだを抱きかかえる時なんかは、眉がキッと上がる。
頬の筋肉もよく動く。半次に「自分で自分のハラワタ見たことある?意外とキレイだよ」と囁かれた屑屋の頬がぴくぴくと震えるw


チキルーム芸人・一之輔さんの魅惑のライブ。これで2,000円(予約)、しかもふんわり&しっとりの手作りシフォンケーキのお土産つき。おトクだ!


2/12(金)如月の三枚看板 喬太郎・文左衛門・扇辰
19:00〜21:20@銀座ブロッサム
開口一番 入船亭辰じん『たらちめ』
柳家喬太郎『たいこ腹』
入船亭扇辰『徂徠豆腐』
仲入り
橘家文左衛門『らくだ』


喬太郎師はトリの重圧から解放されてよほど嬉しかったのでしょうか、楽しげに馬風師匠の『峠の唄』の踊りを舞ったりなんかして。「10年ぶりに踊りましたっ!」w 
若旦那に命じられてイヤイヤつき出した一八のお腹がうねるうねる!若旦那「何故おまえがこの噺を覚えたかわかったよ。あるものは利用しようって魂胆だね」(笑)


扇辰師の『徂徠豆腐』は初めて。「商売ものはいつか金を払えばよい。しかし飯をめぐんでもらうと乞食になるから断る」「えらいっ!あっしゃ、旦那は世に出ると思いますよ!」〜「旦那!そのご様子じゃ世に出ましたね!」・・・豆腐屋七兵衛は絵に描いたような単純明快な江戸っ子で、あくまで爽やかな『徂徠豆腐』という印象。それにしても扇辰師匠のモノを食べる仕草は、なんでもうまそうに見える。豆腐もしかり。


この日の『らくだ』は、自分が今まで聴いた文左衛門『らくだ』の中で最も良かったです。そう感じたのには、一昨日一之輔さんの『らくだ』を聴いたせいもあるかもしれないです。一之輔さんはおそらくこの噺を文左衛門師に習ったのではないかと思う。セリフや運びはほぼ同じなのですが、例えば一言のセリフのインパクトが全然違う、「オレの名前なんてんだ?」「七輪が一輪になっちゃう」「なにコレ?今朝はこうじゃなかった」…これらのセリフは一之輔さんもつかってて、もちろんちゃんと可笑し味があるのですが、文左衛門師は、その一言でワッと会場が笑うのだった。文左衛門師がどれだけこの噺を磨いて磨いて磨き続けているか、分かったような気がしました。


2/13(土) 立川志らく独演会
18:30〜20:47@アルカディア市ヶ谷(私学会館) 3F富士
らく八『強情灸』
らく次『片棒』
志ら乃『壷算』
仲入り
志らく『短命』
 〃 『文七元結
この日、開演から1時間過ぎても志らく師は現われなかった。らく八さん→らく次さんとつないで、ついにめくりに名前のない志ら乃さんが、らく八さんの着物を着こんで高座に登場。「師匠来た!」の合図を求めてチラチラと横をみながら必死につなぐというスリリングな展開に!(志ら乃さん、面白かった!)
一緒に観ていた友達と「志らくさん、きっと忘れちゃってるんだよね」と噂していました。そして、もし志らくさんが来なかったら、らく兵さんがトリをやってくれるといいなと密かに願っていた(焦ったらく兵さんが観たかったんだもん)。


志らく師は公演日を14日と間違えてて、自宅で奥さんとオリンピックの開会式中継(再放送と思われる)を観ていたそうです。
一生懸命つないだ弟子たちには、あくまで低姿勢に「ありがとね」と声をかけたそうですが、高座では「弟子達は3人でつないだが、わたしは(ブロッサムに来ない談志を待って)ひとりでつないだ」とちょびっといばるw そういうところが志らくさんらしい。


仲入り後、50分弱で『短命』と『文七元結』の二席を。『短命』は、会場に駆けつけたばかりで落ち着かなかったのかもしれないが、そのせいか、察しの悪い八五郎に苛立つご隠居が妙に面白かった。「あたしは何も言わない!言葉のウラを読みなさい!」とお嬢様のフリで悶えるご隠居。バカに可笑しかった。そして、女房の「オカエンナハイ」のダミ声が素敵でしたでした。
志らく師、昨日のmixi日記で、この日のお詫びと共に、来る3/21独演会では「凄まじい落語をお聞かせします」と宣言されてました。行かれる方、楽しみですねw