下北沢らくご二夜



今日はアナザーワールドに行くはずでしたが、風邪で咳がでるのでやむなく欠席。時間ができたので一昨日&昨日に本多劇場で開催された下北沢らくご二夜のことを書いてみました。


2/15(月)3人SWA
19:00〜21:05
第一部
三遊亭白鳥『頑張れ!JAL(仮)』(『奥山病院綺譚』リニューアル)
柳家喬太郎『同棲したい』(自作リメイク)
春風亭昇太『加藤支店長奮戦記』(彦いち作『保母さんの逆襲』リメイク)
仲入り
第二部
三題噺(客席からお題を募り“オリンピック”“朝青龍”“腰パン”に決定)を舞台上で創作、できあがった噺を3人でリレー


●今回のSWAは二部構成。第一部は今までにやったことのある新作を作り直したり、シャッフルしたりという、いつものSWA通りの展開。


白鳥師は『奥山病院綺譚』を寄席のおじいちゃん・おばあちゃんにウケるように、寄席風アレンジを施してリニューアル。「99%ネタ下ろしです!」ということで、かなり厳しい出来でした(笑)。
大学生が卒業旅行に2,980円のJAL沖縄ツアーに出かけた、搭乗した機内にはもんぺ&割烹着のおばちゃんキャビンアテンダントがいて…というお話。このおばちゃんが、オリジナル『奥山病院綺譚』で軽自動車に取り付く給食のおばちゃんの幽霊です。舞台はもはや病院ですらないw


喬太郎師は、息子の就職祝いの日に「父さんは母さんと離婚します!」「父さんはこれから母さんと同棲する!」と宣言してアパートで同棲生活を始める夫婦の話『同棲したい』。桜木健一主演『刑事くん』『柔道一直線』の主題歌を歌うわ、「父さんは今日からATGだ!」「でも実は『同棲時代』は松竹なんだ!」「今日の空は、限りなく透明に近いブルーだな」「(母さんに)赤頭巾ちゃん!気をつけて」と、極めて限られた年齢層にしか分からないネタをふりまくるわ、好き放題やっていた喬太郎師。若い頃から同棲に憧れていたお父さんに付き合って同棲生活を始めちゃう母さんの“同棲”のイメージが「パンツ一枚でインスタントラーメン作ってる感じ?」だっていうんですが、分かるような分からないようなw 喬太郎さん、かなり噛んでたが「最近は古典でも噛む!」と開き直っていました。


昇太師は、男にお金を騙し取られて捨てられた保母さんが銀行強盗に入るという、彦いちさんの『保母さんの逆襲』を、保母さんを“子供ショーのお姉さん”にして上演。「グーチョキパーで、グーチョキパーで、なに作ろー♪」って唄って、チョキで二挺拳銃つくって銀行強盗に入るお姉さんが可笑しい。


●仲入り後はSWAの創作過程のエッセンスをお見せします!という“公開!SWAネタ作り”。三題噺を作って上演。
客席からあがったお題は「オリンピック」「桜」朝青龍」「腰パン」「ツイッター」「彦いち」「吾妻橋」。拍手の大きさで「オリンピック」「朝青龍」「腰パン」の三題に決定。
最終的には、相撲の道を諦めてパン屋になった元力士が、相撲がオリンピックの正式種目になったことがきっかけで、再びオリンピック選手として相撲の世界に返り咲く…というストーリーに落ち着いた。


ネタを書いたホワイトボードの前に三人が座って、あーだこーだ喋りながらだんだんストーリーが出来上がっていく過程がとても面白かった。
みんなそれぞれ自分の得意な世界にもってこうとするんだねw 白鳥師は「舞台はさ、冬季オリンピックだから、“瀬戸物(陶器)の店オリンピック”ってのはどう?」とか「(お題“腰パン”から)おじいさんとおばあさんがやってるさびれたパン屋の噺にしよう」といかにも白鳥さんが考えそうなストーリーを提案、喬太郎師は喬太郎師で「引退してパン屋を開く力士なんだけど、まだ相撲に未練があるんだよ」っていい噺にしようとし、昇太さん「それじゃ、オレにもチャッピー入れさせろよ!」(笑)
“元力士のパン屋”の話に落ち着く前には、喬太郎師の「ちょっと待って!それ気をつけないと『千早振る』になるよね?」の一言で、「いっかい朝青龍をバラそうよ」ということになってデブなイケメン3人グループ“朝・青・龍”が主人公の物語になりそうになったりもした(笑)。


一人が言ったひとことでイメージがどんどん膨らんでいく時もあれば、煮詰まって沈黙する瞬間もある。でも、短い時間でゴールをめざして、メンバーが次々にアイディアを口に出していく。こんな風に皆でものを創る、アイディアを生み出していくって楽しいことだ。


上演は、白鳥→喬太郎→昇太の順でリレー。
白鳥師、「〜でごんす!」ってワケわかんない力士言葉を喋るパン屋さんを演じ、パン生地に見立てた座布団を高座で思いっきりこねる!やっぱりそれか!(笑)
手拭いとセンスでチョココロネを作る仕草はナイス!奥さんが「父ちゃん、喫茶店ブルードラゴン”からモーニングの注文だよ!」って、そこに“朝青龍”を持ってきたかー!w


喬太郎師は、泣きながらパン生地をこねて、涙でしょっぱいチョココロネを作ってしまう夫を奥さんが「オリンピックの種目に相撲が入ることになったんだよ。お父ちゃん、もう一度やってみたら?」と励ます…という喬太郎節で噺を運び、昇太師にバトンタッチ。


昇太師。国際種目となった相撲では、パンツの上にふんどしをつけるという姿で競技をする。オリンピック選手となった男は腰パンにふんどしをつけた姿で空港からオリンピック開催国へ旅立とうとする。「そんな格好で恥ずかしくないんですか?」と周囲の人になじられ、「反省してマース」(笑)
打ち合わせたネタはほとんど白鳥&喬太郎がやってしまって、どうする?!と心配したけど、さすが昇太さん!


そこでサゲのはずでしたが、白鳥師が強引に再び高座にあがった。オリンピックで金メダルを獲得して戻って来たパン屋には取材の新聞社が殺到。「新聞とパン、どちらも記事(生地)が大切です」という地口落ちで下げました。


いや〜、第二部、面白かった!!




2/16(火) 昇太の日
19:00〜21:10
オープニングトーク
『リストラの宴』
ナマ着替え
『錦の袈裟』
仲入り
愛宕山』〜『本当に怖い愛宕山


●今回はゲストなし、着物姿で登場した昇太師。オープニングトークは昨日の三人SWA、旬のオリンピックのことなど。「反省してマース」のカレは東海大だそうですが、同校OBの昇太さん「(公式ユニフォームは)行き帰りにちょっと着るだけでしょ?シャツの裾なんか、その時だけピュッと中に入れればいーじゃないですか?頭の悪い中高生じゃないんだから」(笑)、ホント、ホント!
でも彼のおかげで当分ネタには事欠かない、昨日も今日も“反省してマース”をフル活用してたw


●昇太さんの新作には、年々やりやすくなる噺とやりにくくなる噺があるそうです。前者の典型は『ストレスの海』。世の中が年々ストレスフルになってるのでやりやすくなる一方なのだとか。対して『渚の二人』などは近頃まったくやっていない(“日本海”の海辺を散歩していたカップルが行方不明になって大騒ぎになる、その真相は…という噺だそうですが、なるほどコレはできませんね、イマw)。
「これも最近やりにくいんですねぇ」と二席目の『リストラの宴』。前に浅草でやったら、すごく辛そうなカオで聞いてて全然笑わないおじさんがいたそうで、気になっちゃってそれ以来やってなかったそうですw


●『リストラの宴』の後ナマ着替え(BGMオザケン)。着替えながら、9月の赤坂レッドシアターでの公演(SWA&独演会)の告知。そこでは小朝師に勧められた新しいネタをやるそう。“小朝師の勧め”といえば、わたしは大銀座落語祭での昇太『牡丹灯篭』が忘れられませんw あれをまたやってくれるんでもいいなぁ。


●弟弟子の柳好師と兄弟子の小柳枝師匠の話。昇太さん、相変わらず柳好さんに遊んでもらってるそうで、最近は柳好さんに「ヘンなカオして」「蛇!」「イカ!」って命じて遊んでるんだそうです。昇太師「与太郎をやる時は柳好さんを思い浮かべてる」「与太郎のむこうに柳好さんがいるんですねぇ」。そうか、昇太落語の与太郎のバックボーンは柳好さんだったのか!w
そんな与太郎が登場する『錦の袈裟』へ。
自宅に帰って「ごめんください!ごめんください!」と玄関口で叫び、おかみさんに「女郎買いにいくんで、錦のふんどしを用意しなきゃいけない」ってまったく悪びれずに言っちゃう与太郎。そして、そんな与太郎が可愛くてたまらないおかみさん。なにかと「バッカだねぇ〜〜」って言うんですが、言いながらすごく嬉しそうなのね。「ばーか!」って言いながら、与太郎の口元を両手でつまんで横にう〜んと伸ばしたりしますw。
このおかみさんは昇太落語によく出てくるキャラで、わたしは大好きです。昇太さんの『抜け雀』『火炎太鼓』にも出てくるよ。あと『崇徳院』にも出てくるかな?とにかく、昇太さんのおかみさんは、旦那をバカ呼ばわりしながら実は大好きで、そこが落語ワールドのおかみさんらしくていいです。
与太郎も可愛い。おかみさんに「うまく持ち上げるんだよ」と教えられた口上をちゃんと言えないわけですが、たどたどしい言い方が実に愛らしい。和尚さんに「うちの親戚のキツネに娘がつきまして…?」「うちのキツネ?キツネ?むすめ?」「うちの・・・親戚の・・・・娘!に・・・ここからが肝心ですよ、持ち上がってください!」(笑)


●最後は『愛宕山』と、愛宕山その後を描いた『本当に怖い愛宕山』。『本当に〜』は昨年3月のSWAで上演したもの。昇太さんの『愛宕山』は大好き。かわらけを投げるところ、着物と長襦袢をチーッ・チーッと裂いて、縒って、石を結びつけてひゅーんと投げるところなんか、動きがイキイキしててダイナミックでカッコいい。そして面白い。
『本当に〜』のストーリーは以前も書いたので興味のある方は読んでみてください。今回も狼と商売の神様が可笑しかったです。


●昇太さん、柳好さんに「今日はなにやるんですか?」って訊かれて「愛宕山の上下」と答えた。「あの噺って下があるんですか?」「そうだよ、知らないの?」(笑)。「だから、柳好さん、今まだ『愛宕山』に下があるって信じてますよ」と言ったとたん、舞台袖から憤慨した柳好さんが登場。しかし昇太さんに「蛇!」って言われると、素直に蛇マネでペロペロ舌を出す、心優しい柳好さんであった。