6月前半の落語



今月前半を振り返ってみますと、この落語家・落語会が印象的でした。


桃月庵白酒
五街道雲助
柳家三三
立川談志(談志一門会)
立川談春


ではまず、こんなところに行きましたとゆーのをズラズラと。


6/1(火)
1日NO百栄落語会
19:00〜21:04@スタジオFOUR
百栄『花色木綿』
百栄『粗忽長屋
一之輔『錦の袈裟』
仲入り
百栄『天使と悪魔』


6/3(木)
桃月庵白酒独演会
19:30〜21:30@道楽亭
※すべて白酒師
『馬の田楽』
『舟徳』
仲入り
『寝床』


6/5(土)
特選落語会 市馬・白酒二人会
18:50〜21:15@日本橋社会教育会館
柳家小んぶ『子ほめ』
柳亭市馬かぼちゃ屋
桃月庵白酒『火焔太鼓』
仲入り
桃月庵白酒真田小僧
柳亭市馬『宿屋の仇討ち』


6/6(日)
志の輔noにぎわい 昼の部
13:00〜15:20@横浜にぎわい座 芸能ホール
開口一番 志の春『元犬』
志の輔『バスストップ』
仲入り
神田茜『初恋閻魔』
志の輔『抜け雀』


6/7(月)
立川談志一門会
18:30〜21:00@よみうりホール
談修『夢の酒』
談笑『薄型テレビ算』
生志『お見立て』
仲入り
松本ヒロ スタンダップコメディ
談志・山中秀樹志らく トーク
談志 ジョーク


6/8(火)
志らくのピン
19:00〜21:16@内幸町ホール
志らべ『巌流島』
※以下、志らく
宮戸川
愛宕山
仲入り
『紺屋高尾』


6/11(金)
柳家喬太郎 柳家三三 二人会
19:00〜21:26@北沢タウンホール
柳家さん市『子ほめ』
ロケット団 漫才
柳家三三『お化け長屋』
仲入り
林家しん平 映画の宣伝
柳家喬太郎『心眼』


6/13(日)
立川談春独演会 アナザーワールド?
19:30〜21:32@成城ホール
船徳※途中入場
仲入り
『子別れ(下)』


6/15(火)
オリンパスモビー寄席 雲助・白酒親子会
18:45〜21:06@内幸町ホール
春風亭ぽっぽ『動物園』
桃月庵白酒『壺算』
五街道 雲助『つづら』
仲入り
五街道 雲助『幇間腹
桃月庵 白酒『抜け雀』




桃月庵白酒『寝床』『火焔太鼓』
今月前半だけで、3日・5日・15日と3回も白酒師目当てのライブに出かけております。多すぎ?ま、面白いんだから仕方ありません。勢いのある人を観るのは気持ちいいし楽しい。
特に面白かったのが6/3道楽亭で聴いた『寝床』、6/5市馬師との二人会で聴いた『火炎太鼓』。


『寝床』
旦那が「ええそうです!アタシの義太夫は酷いです!」と開き直るのって初めて。
一番番頭の徳兵衛さん、逃げ込んだ蔵に義太夫を語りこまれ、一夜明けて蔵から出てくると…「白いワニが来る!」と一声叫んで姿を消した!(江口寿史の白いワニを知らないお客さんも笑ってたよw)
“流れギダ”に当たるところも笑ったなぁ。「伏せなさい!危ないから伏せなさいって!」「だいじょうぶ、だいじょうぶ…ウッ!」。ギダに当たって倒れる、その間の良さったら。面白かったなぁ。
この日は道楽亭始まって以来の大入りだったそうです。そうそう、高田センセイも来てたよ。白酒さんのこと、好きなのかな?


『火焔太鼓』
「太鼓をいくらで売る?」と訊かれた甚兵衛さん、売れたと分かって気が動転、「売る?売る!うる、うる、うーるるるるーるー」「北の国からではないぞ!」www
他にもふいに口をついて出たかのようなギャグがたくさん。白酒師の『火焔太鼓』は何度も聴いていますが、この日は今まででいちばん面白かった。


市馬師との二人会での『真田小僧』、雲助師との親子会での『壷算』『抜け雀』も面白かった。
『抜け雀』には今回はこんな空耳ギャグが入っていたよ。
「わしは絵師じゃ」「責め上手?」「それはSじゃ!狩野派の絵師じゃ!」「官能派のS?」
誰か白酒師の空耳ギャグ集を作ってくれないかな、マジで。


五街道雲助『つづら』
わたしは雲助師をほとんど寄席でしか聴いたことがなくて、そのくせ師匠が主任の番組はそんなに行っていない。師匠に対しては、古典落語がふつうに上手い人(こんな言い方、雲助ファンの方には誠にすいません)というイメージしかもっていなかった。が、最近ツイッターを始めた雲助師をフォローしてみたら、なんだか呟きが面白いのであった。加えて15日の白酒師との親子会では、一席目のマクラでいきなり「あの〜iPadが欲しいン」「iPhone4も欲しいなぁなんて…」ときたもんだから、自分が勝手に抱いていたイメージとのギャップにおおいにウケてしまった。
お気に入りのアプリの話が面白かったわ。時計のアプリを集めるのが好きで、人生時計と寿命テストで人生を儚んで、般若心経と写経アプリでひっそり解脱を目指してるらしいw。そんなお茶目なヒトとは思いませんでしたよ。


落語も良かったのです。
『つづら』は初めてライブで聴いたということもありますが、とても面白く聴いた。
「間男は七両二分」(昔は、夫は間男を殺害しても構わないということになっていたが、七両二分の慰謝料で示談にされることが多かった…って話)のマクラから始まる間男噺で、金原亭のお家芸だそうですね。
博打に狂った亭主と子供を抱え、生活に困ったおかみさん。やむなく金づくで質屋の旦那と情を通じるようになる。しかし、長屋の住人の告げ口で亭主に知れてしまい、ある晩旦那が訪れているところを狙って亭主が家に戻ってくる。旦那が隠れたつづらを開けようとする亭主に、女房は「博打の借金とりが来なくなったのは、子供に新しい着物をこさえてやれるようになったのは、誰のおかげと思っているのかい?開けてはいけないよ」と懇願する。
亭主はせめてもの意趣返しに…とつづらを背負って質屋の店に行き、番頭にこのつづらを質にとって金をくれと迫る。番頭はこんな汚いつづらは質草にならないと断るが、中に主人が入っていると分かると、七両二分を払って引き取る…という話。


間男が隠れたつづらを前にした夫婦のやりとりを、雲助師匠は淡々とやって、間男された男も生活のために不義をはたらく女も、どちらも情けなく哀しく、それでいて湿っぽくなくてまことに良かった。また、質屋での亭主と番頭のやりとりも可笑し味があった。つづらの中身が主人と気づいた番頭が、引き取ってくれないなら大川に棄てるという男に頭を下げる。「手前どもではもうしばらく要りようのものでございます」。女遊びの過ぎる主人へ向けられた番頭の視線の苦々しさが感じられ、セリフも雲助師匠のいい言い方もいいなぁと思った。


幇間腹も面白かった。一貫してクラシックでありましたが、意外で笑っちゃったのは、若旦那がぱぁぱぁ喋る一八に「うるせぇな。ブブゼラみてえだ」w 雲助師「今日はこれだけ言おうと思って来たン」。


雲助師匠のイメージがちょっとだけ変わった会でした。


柳家三三『お化け長屋』
三三さんはこの日の前日も『お化け長屋』をやってて、両日とも観た落友諸兄によれば、前日のほうがもっと面白かったという。この日は喬太郎師との二人会だから、三三さんはちょっと萎縮したのかな?なにしろ去年「三三 背伸びの十番」にゲスト出演した喬太郎師に『小政の生い立ち』で思いっきり客をさらわれた過去がありますからね、三三師は。また、この日はお客さんもあんまり良くなかった。というか、息があっていなかった。三三さんが「どうせ喬太郎目当てなんでしょ?」って冗談を言ったんだけど(半分はホンキだよね)、それに対して大喜びで笑って拍手する人たちがいて、三三さんは「意外とこたえるのよ」と笑って返していた
けど、実際、ちょびっとこたえたと思うな。アウェイ感がますます募ったのかもしれません。
前日よりは面白さがもう一つだったというのは、そういうことが原因かな?と思いました。
でも、初めて聴いたわたしにとっては十分に面白く、先月聴いた『妾馬』の時以上に嬉しい驚きであった。


肝の据わった男の「頭と足の先もって床柱に固結びにしてこちょこちょこちょ」とか、「近い!」「重い!」とか、繰り返しがいい感じに効を奏していた。
また、「陰にこもって、ゴォ〜ン」と脅かすところで、「陰にこもっ…」のあたりで、男がセリフを遮って「ゴーーン!」と陽気に声をあげるところがありますね。杢兵衛は二回目は男に遮られるのを嫌ってちょっと急ぎ気味に「陰にこもってゴーン」って言うんですが、すると男は「今、おまえちょっと間つめたろ?」「自分の間でやってみろよ。ホラ!やってみ!」w こんなセリフやいい方が可笑しかった。
また、男にやりこめられる杢兵衛の間の抜けた情けない感じは、ちょっと他にない新鮮な印象で、三三さんならではの味が出ているように感じた。


こんな三三さんの最近の変化を、自分はとても好ましく思っています。


立川談志一門会
この会では、談志襲名問題をめぐる家元の発言に客席に衝撃(笑撃?)が走りましたw。


この日も家元は昔のスーツ(ジャケットはダブル、パンツは裾広がりで細く、70年代だ〜w)で登場。お腹の辺りだけパンパンで、鳥獣戯画のカエルのようであったw 元気そうだったけど声が出ていない。
そんなわけで落語はやめて、前夜出演を依頼した山中秀樹アナウンサーを迎えて対談コーナーにすることにしたそう。途中で、家元が舞台袖にいた私服の志らく師を呼んで、3人でトークとなった。


最初のうちは、家元は睡眠薬の話ばっかりしてるし、山中アナが他の話にふろうとしてうまくいかず、全然噛みあってなくておかしかった。
やがて山中アナが圓生圓朝の襲名問題について家元の見解を尋ね(圓生は、現・円楽が継げばいい、で、円楽争奪杯やったらいいってw)、その後「ところで、談志は誰が継ぐんですか?」と質問し、家元に呼ばれた志らく師が加わったあたりから、家元がのってきて面白くなった。


家元は、誰でもいいが、客を呼べる志の輔志らく談春、この3人のうちの誰かが適当であろうと言い、「まぁ志の輔あたりがいちばんいいでしょう」「場合によっては志らくでもいい」 と。
志らく師「談志は談春アニさんが狙ってますから」
家元「談春より志の輔だな」「もっとも今はそう思うけど、明日は変わってるかもしれない」
談志は親方株みたいにしたら?とか、藤子不二夫みたいに、談志A、談志Bにしたら?とか、いろいろな意見が出た後w、山中アナが「(談志を志の輔師に譲ったら)じゃぁ、家元は何になるんですか?」と尋ねると、家元「立川クリスマスとか。お正月とか」wwww
談志改め立川クリスマス!素敵!
志らく師、「家元が立川クリスマスになるって聞いたら、志の輔アニさんも他の弟子も、誰も談志を継ぎませんよ!」w


最後にジョークをいくつか。
始める前にポツリと「志らくもそうだけど、いつも来てる人が多いからね。同じ話で照れるんだ」。可愛いなぁ。こういうところが素敵だ、家元は。


他にも、落語界・芸能界・政界の大物達の裏話などオフレコ話満載のトークであった。結局50分近く喋ってたんですかね、家元は。志らく師「(落語を)やればできたんじゃないですか!」ww


立川談春『子別れ(下)』
この日は仕事があって開演に間にあわず、20時過ぎに会場に着いたら、若旦那のあやつる舟が石垣にひっつこうとしていた。
途中から聴いたということと、暑かったということもあって、噺には最後までのれなかった。
でも、談春師の『船徳』もそんなに良くはなかったように思う (すいません、個人的な感想です。でも、あの『船徳』が良かったと思う方はどうかスルーしてください)。
なんでしょうね?噺自体は、志ん朝師匠のようなオーソドックスな運びでしたが、時々入るギャグ、談春師ならではの理屈っぽい&説明的ツッコミが余計に感じた。そういう“説明”ではなくて、なんかもっと感覚で「つい笑っちゃう」というのがいいんだがなぁ…と思いながら聞いていた。
そう、談春師に対して思ったことは、「コトバで納得させるんじゃなくて、感じさせてくれ!」ということでした。


“説得ではなくて、感じさせて欲しい”ということは、『子別れ(下)』の、冒頭の熊と番頭さんのやりとりのところでも強く感じたことであった。
熊は、おみつと子供を追い出した自分はバカだった、「でも、後悔はしていない」「ああいうことがあったから、今の自分がある」というようなことを滔々と語るのだが、そういう態度は“職人”らしくなくて、言葉を重ねるほどに、自分にはただのきれいごとのようにしか聞こえなかったのであった。
伴侶と別れる、子供と別れるというのは、どれだけ時間が経っても、そんなにきれいに割り切れたり、人に上手に説明できるものではないでしょう。自分のほんとうの気持ちは語らない、語れない、という大工の熊であって欲しくて、そんなに喋りたいなら、せめて番頭が代弁する形にして欲しかった(…と、後に落友と話したりした)。
ともかく、わたしは熊の心情を、あんなに長くて理屈っぽい二人の会話からではなく、もっと練った短いセリフや無言や表情で感じさせて欲しかったと思いました。


あらためて、談春師の落語は良くも悪くも“理屈と饒舌”なのだと思った。その個性が合う噺と合わない噺があるのかもしれないな。
で、それが合うのは、わたしは、『庖丁』のトラさんとか『棒鱈』の酔っ払いとか、談春師の“愛嬌”と達者な理屈と饒舌がうまくあわさったキャラクターが登場する落語なのかな?と思った。


で、『子別れ』の話に戻りますが、『子別れ』は、カメちゃんが登場してから、俄然、良くなった。談春『子別れ』のカメちゃんの生意気さ・可愛さは、談春師の個性にマッチして実に魅力的なのだった。


カメちゃんは、自分がこの前聴いた時(2008年)よりもずっと子供っぽく可愛くなっていた。賢しげな、生意気なことを言うんだけれども、「うわぁ!嬉しいな!食いてぇな、鰻」とかいうセリフが実に天真爛漫な感じ。まだまだ子供っぽい男の子が一生懸命明るく振舞っている…というのがひしひしと伝わってきて、実に健気であった。


談春師はこの日以前の直近では、所沢の会で『子別れ』を通しでやっていて、どうやらその時とも少し違うようなのですが、わたしが以前に聴いたのと変わったかな?と思ったのは次のようなところです。

(父親からもらった50銭で買った青鉛筆で、カメちゃんは画用紙に空(≒父親)を描く。カメはその絵を翌日父親に渡すつもりなのだ。しかし、カメはその絵を忘れて鰻屋に行ってしまい、母親はそれを届けることを口実に鰻屋に出かける。というのがあって…)
おみつが来たとうろたえる熊。座敷におみつが通される。カメは「お茶もらってくる」とすまして席を外す。おみつはカメの絵を熊に見せ、この空は、カメがかつて建前の日に熊に肩車されながら見上げた空で、お前さんなのだと言う。
熊は「いろいろすまなかった」とおみつに頭をさげる。「おまえさんにごめんなさいを言わせて、こちらこそ…」と謝るおみつ。親子三人はまた一緒に暮らせることになった。
カメはいつの間にか物陰で二人の話を聞いていて泣いている。そんなカメちゃんの姿を、談春師は熊の「ピーピー泣くんじゃねぇ!またいつもどおりに憎らしいこと言ってろ」というセリフで浮かびあがらせた。


わたしは、第一回三人集でやった時の、こらえにこらえ続けていたカメちゃんが最後に「おとっつぁん!男だろ!」と父親を叱って、その後わんわん泣いているというのがとても好きなのだけど、子供に叱られる前に男気をみせた熊も、ただ両親がもとの鞘に収まることを願いながら明るく振舞うことしかできなかった、無力で健気なカメちゃん(子供ってそういうもんだと思う)も、とてもいいと思った。


ところで。
わたしは最近の面白い三三さんが好きだけど、三三さんの端正な古典落語が好きな三三ファンの中には「?」と思ってる方もいるのでしょうね。また、わたしが「?」と思った談春師の熊の独白に心打たれた方もいるのでしょう。
でも、こういうのは、どっちが正しいとかじゃなくて、もう個人の好みなんだと思います。というか、多くの人が言うように、落語は“いい・悪い” じゃなくて“好き・嫌い”ってだけなんでしょう。


だから、ここに書いてあることは、落語のレビューなんかではなくて、わたし自身のことなのです。わたしが何が好きで何が嫌いで、どんな価値観で暮らしてるかとか、ただそういうことを落語を語るのを装って繰り返し書いているというだけのものであります。始めちゃった以上、あんまり簡単に辞めたくないんで続けてるけど、恥ずかしく思うときもあるのだ。


何が言いたいかというと、だからこれを読んで、もしも自分と感じかたが違っても、決してムッとしたりしないで、こういう人間もいるのだねと思っておおらかに受け止めて欲しいということですw