5月後半の落語



今回は、この半月の印象に残るベスト5を発表!…なーんて、5月後半はあまり落語に行ってなくて良かった落語がちょうど5席あったってだけですw
その前に、まずは、行った会と演目をざっと書きまする。
なお、最近、終演時間をメモるのを忘れがちなもので、時間はいい加減です。ご了承下さいませ。


5/19(水)
白酒ひとり
19:00〜20:50くらい?@内幸町ホール
『豆屋』
質問にお答えします
『化け物つかい』
中入り
船徳


5/25(火)
桃月庵白酒独演会 白酒むふふ
18:30〜20:39@国立演芸場
開口一番 春風亭朝呂久 『手紙無筆』
桃月庵白酒 『舟徳』
ナオユキ 漫談
中入り
白酒 『らくだ』


5/28(金)
J亭 談笑落語会
19:00〜21:09@JTアートホール アフィニス
立川談笑 『原発息子』
柳家三三 『妾馬』
中入り
立川談笑 『おせつ徳三郎』


5/30(日)
柳家喬太郎みたか勉強会
三鷹市芸術文化センター 星のホール
昼の部 14:00〜16:30?
柳亭市也 『子ほめ』
柳家喬太郎 『そば清』
中入り
三遊亭時松 『松曳き』
柳家喬太郎 『双蝶々 定吉殺し』


夜の部 18:00〜20:30?
柳亭市也 『真田小僧
柳家喬太郎 『花筏
中入り
鈴々舎わか馬 『野ざらし
柳家喬太郎 三題噺(滑舌の悪い噺家・衣替え・一升瓶)〜『東京無宿 棄て犬』


5/31(月)
真一文字の会
19:30〜21:29@日暮里サニーホール
『錦の袈裟』
『麻のれん』
中入り
大山詣り




印象の強い順にこの5席です。
1 柳家喬太郎 『東京無宿 棄て犬』
2 桃月庵白酒 『船徳
3 柳家喬太郎 『そば清』
4 春風亭一之輔 『錦の袈裟』
5 柳家三三 『妾馬』


それでは5位からいってみよー


柳家三三 『妾馬』
三三さんの『妾馬』は昨年6/28鈴本四騎の会以来で、ほぼ1年ぶりに聴いたのです。そしたらなんだか以前より面白いではないか!思わず中入りで知り合いをつかまえて「三三さんの妾馬、面白くなってません?」って訊いたら、知り合い達も今そう話していたところだというので、「あ、やっぱり気のせいじゃないんだ!」と嬉しくなった。


噺の流れや構成自体は以前とさほど変わっていない。伝え聞くところによると、三三さんの『妾馬』は三代目・四代目小さんのものを参考に工夫してこしらえたものだそう。前半の長屋の場面を膨らませ、後半は泣かせずにスパッと終わる。八五郎が長屋の井戸をさらっているところに、お鶴を探して赤井御門守の家来がやって来てドタバタが始まるのだが、以前聴いた時はそれほど面白いとは感じなかった。それで今回も、「なんだ〜、妾馬かぁ」って最初は醒めた感じで聴いていた。八五郎の「お侍さん、バテレン?」なんていうちょっとしたくすぐりが繰り返されるのだが、くすぐりを入れるタイミングがさりげなく絶妙で、また繰り返しがだんだん効いてきて、いつの間にか笑っている自分に気づいて「あれ?面白いじゃん!」と吃驚した。あくまで軽やかで楽しい『妾馬』で、三三さんに合っていた。変わったなぁ三三さん。
三三さんの講釈ネタや怪談の上手さ、アッサリしたところ、女の色っぽさ・きれいさがとても好きで、以前はよく聴いていた。でも、ちょっと物足りなさを感じるようになり、この1年半くらいは聴く頻度が落ちた。それでもやっぱり気になる存在で、だからこんな風にまた「三三さん、いいな!」と思えることがとても嬉しい。
この夏には志らくさんとの二人会もあるみたいだし、もう楽しみでたまらない。


春風亭一之輔 『錦の袈裟』
一之輔さんの与太郎は最強だ。『錦の袈裟』の与太郎は、自分の女房を“おかみタン”と呼びますw
仲間で吉原に行くけど、お前はどうする?と訊かれた与太郎、「アタイはおかみタンに惚れてるから相談してきます!」「だってうちのおかみタン、こわいんだもーん!」。
一度、手をあげようとした途端、女房の拳がみぞおちに入り、気がついたら後ろ手に縛られて梁から吊るされていたw 


与太郎と、仲間の男やおかみさんとの会話がスピーディで間がいい。
「こわいんだもーん!」「バカッ!」
「女郎買いにいってきま〜す!」「死んじまいなっ!」
マヌケな与太郎のセリフに、ツッコミ的ひとことが間髪を入れず入る。小気味いい。
そして、おもしろいくすぐりがちょこちょこと挟まれてて楽しい。
与太郎が“錦のふんどし”とハッキリ言わないので、おかみタン「え?ミシシッピの分度器?」と空耳。
●おかみタンに、どうしても女郎買いに行きたいと訴える太郎、「男だもの!行きたいもの!にんげんだもの〜!」
●おかみタンに錦のふんどしをしめてもらった与太郎股間の違和感に「異文化と異文化のぶつかりあい!」 ・・・


それから、女郎買いの一行には、姿もセリフもないけれど『明烏』の若旦那もいるんだよw 
1人だけモテて、明くる朝仲間にたたき起こされた与太郎は開口一番「…たいへんけっこうなおこもりでございました」。「若旦那っ!コイツにヘンなコト教えちゃダメだ!」


31日の真一文字で聴き、翌日(6/1)の百栄師匠の会(一之輔さんはゲスト出演)でも聴き、二日続けて聴きました。打ち上げで一之輔さんに「同じ噺を聴かせちゃいましたね」と言われて恐縮しました。連日聴きにいってホント迷惑な客ですね、自覚してます、スミマセン。落語家の方々は、落語に通い詰める客は、病んだ可哀そうなヒトだと思って、どうかかまわずに放っておいてください。それに、面白い噺は続けて聞いてもやっぱり面白いので、わたしは連続でも全然ウエルカムなのです。


柳家喬太郎 『そば清』
『そば清』の前の蕎麦のマクラも楽しかった。
柳家、古今亭のそばの食べ方の話が面白かったな。
古今亭の噺家はそば屋でヌキで酒を飲む。「そういうのが“粋”っていうんでしょう」。でも、大ノセの柳家ではそば屋に行ったら蕎麦と丼モノのセットが出てくるのが基本。喬太郎師は、以前さん喬師匠と中華料理店に入り、ラーメン&半炒飯ではなく、ラーメンと炒飯をそれぞれ一人前ずつ頼んだら、さん喬師匠に「本寸法だねぇ」と誉められたw
落語ファンは覚えておこう、中華料理屋における柳家の本寸法は“ひとり、ラーメンと炒飯1人前ずつ”だよ!


喬太郎師の『そば清』は初めて聴いたが、そば清のキャラクターがちょっと新鮮。
蕎麦の食べ方は落ち着いてるんだけど、食べながら、まぁよく喋ること。
「あたし、結構噛みます、蕎麦。粋じゃないんですね」
「あたし、つゆもつけます、ハイ」
「ここでネギを入れます。味が変わりますからね」
「あたし、今日は失敗しました。最初にワサビ溶きました。最初からずーっと辛い!」
「ちょっと変わったことします」(とお茶にそばをつけて…)「やらないほうがよかった!茶そばにはなりませーん」 ・・・
益体もないこと喋りながら、実にリズミカルにそばを食べていく。一枚食べて次の一枚へ移るとき、あれは空になったザルをよけているってことだったのだろうか、箸の先を“ちょっと失礼”って感じにちょい・ちょいと動かす。あの仕草、良かったな。
きれいに食べ終えて、さも“気がついたら全部食べちゃって、自分でもびっくり!”みたいな顔して、「自分で自分に罰を。そば湯いれずにつゆを飲みましょう」とつゆを飲み干すw
そしてお決まりの「ど〜も〜!」を軽やかに言い放って去っていく。
このそば清、ちょっと品のいい植木等みたいと思いましたw


そんなそば清も、50枚のそば賭けでは、いつもの余裕のポーズをかなぐり捨ててホンキでそばに挑む。だから食べ方が今までと違うのw 喬太郎師は座布団の上に膝で立って全身で勢い良くそばをすすっていきました。
で、お腹がいっぱいになっちゃうと、箸をもった手を頭上にさしあげたまま体が折れない!「桂枝雀だね」w


喬太郎師の『そば清』は、ヘビの消化剤を“薬味”と称してつゆにちぎって入れて、そのつゆにそばをつけてすする。で、皆の前でふにゃふにゃ〜と崩れ落ちていく(喬太郎師は座布団に座ったまま後ろに倒れました)。「清さん、解けちゃった!」でサゲ。


桃月庵白酒 『船徳
19日の白酒ひとりで初めて聴いて、それから1週間経たないうちにまた聴いた。それでも面白くて笑えた。この噺は白酒さんの十八番になるんじゃないかしら?


わらっちゃったところを抜き出してみますと…
●船頭になりたい若旦那「春には春、夏には夏、秋には秋、冬には冬、季節・季節の風を感じて働く、そういうところに身を投じていきたいんです、あたしは!」と真摯に訴える。
「そうだったんですか…」と親方がほだされた途端、若旦那「それを見て女の子がどう思う?!」 やっぱ女目当てかw
●若旦那「頼みます、腕がびゅんびゅんうなってるんですから、ホラ…」(と二の腕をまくって女将に見せながら)「旅〜ゆけ〜ば〜♪」 うなるって浪花節か!
●“この間、あんなことがあったばかり”という言葉を聞きとがめ、「なにかあったんだよ!」と怖がる客。舟に誘ったほうの客が安心させようと「女将、なにもなかったんだろ?」 と訊ねると、女将「・・・・・」。客「否定しないよ!」 ますます不安を煽られるw
●舟をこぎだそうと力いっぱい棹を突いて踏ん張る若旦那。この時の白酒さんの腰つきが傑作!可笑しくてたまらない。
●棹から艪に変えた若旦那、艪の扱いが分からず、懐からメモを取り出して読む。
●竹屋のおじさん、若旦那が1人でお客を乗せていくと知り、思わず合掌。
●舟が濠の石垣にぴったりくっついてしまい、客二人に広いほうに舟を出せと責められた若旦那、「やだ!」と逆ギレw 
「そんなことまで言われて船頭やりたくありません!」「謝ってください!」 
二人の客は「どうもすいません」と謝るのであった。
●気を取り直して漕ぎ出す若旦那であったが…「船頭、向いてないのかな」とポツリ。いま悩むな!w
●若旦那は女将から「いよいよダメになったら大声で助けを呼ぶんですよ。助けがいくようにしてありますから」と言い含められて送り出されたのだが、ついに疲れ果ててやんなっちゃった若旦那「助けてー!」と叫ぶ。すると、どこからか女の子達が現れて…「若旦那〜、頑張ってえ〜」と黄色い声援をおくる。俄然生き返る若旦那、再び猛然と漕ぎ出す。女将が言ってた“助け”ってこれだったのかw 客「いろいろ仕掛けがあるんだねぇ」・・・・
というように若旦那が大川に漕ぎ出すあたりからは、もうもう笑いっぱなし。小三治師匠の人間への愛おしさと可笑しさがこみあげてくるような『船徳』も好きですが、白酒師の破壊力のある『船徳』も好き。若さとパワーを感じます。


柳家喬太郎 『東京無宿 棄て犬』
この新作、久しぶりにやったのだそうですが、わたしは初めて聴いた。
二つの意味で喬太郎師らしいと思いました。一つは徹底した女性不信。もう一つは喬太郎師が好む映画や演劇(わたしは詳しくないので具体的にはよく分からないんだけど、映画だったらおそらくATGとかそのあたり?)の影響。特にラストは映画的、あの終わり方は決して落語ではないよね…と、会の帰り道、落友と話したりした。


あらすじはこんな感じ。
同窓会で再会した由美子と里美(喬太郎師の新作に出てくる女のヒト、たいてい由美子か里美ですが、喬太郎師いわく「うち、スターシステムだから」w)。
思い出話がつきない二人は自宅で飲み明かそうということになり、一緒に里美の部屋に帰宅する。そこには里美の飼い犬・ペスが待っていた。ペスは捨てられて雨の中で鳴いていたところを里美に拾われた。「はじめまして、ペス」と犬を抱きあげた里美は妙に懐かしさを覚える。犬の頭にはラーメンの丼の模様みたいな四角いつむじがあって(日本人の100万人に1人しかないっていう“中華つむじ”w)、里美にはそれに見覚えがあった。「…ヒロユキ」。
実はペスは里美のかつての彼氏・ヒロユキの生まれ変わり。トレンディドラマみたいな別れをしてみたいっていう下らない理由で、里美はある雨の晩にヒロユキをこっぴどく振って、ふられたヒロユキはその後交通事故で死んでしまう。
今まで付き合った男の中でヒロユキがいちばん良かった、それなのにあんな振り方をしたことを後悔している、今度こそヒロユキを大切にしたい…と由美子は里美にペスを譲ってくれと頼む。里美は「あんたって昔からそうだった、人のものすぐに欲しがって!」と怒りをあらわに断るが、グラマーな由美子の胸に顔をおしつけられてうっとり状態wのペス(ヒロユキ)を見て、里美は諦めてペスを譲ってしまう。「あんたには二度と会わないから!」「うん、あたしもう同窓会には行かないから」


由美子の部屋でヒロユキとの二人暮らしが始まる。
仕事を終えた由美子は人間だったときの彼が好きだったウニやイクラを買っていそいそと帰宅し、ヒロユキはしっぽを振って出迎える。だが、そんな蜜月は束の間、ウニ・イクラはじきにペディグリーチャムになり、それさえ買い忘れられるようになり、ヒロユキは食事ヌキを余儀なくされる。やがて由美子はヒロユキを置いたまま家を空けるようになる。
3日ぶりに帰宅した由美子をヒロユキが出迎える。
「わんわんわんわん!(どこへ行ってたんだよ!)」
「わん!わわわわん!(ちょっと来い。ここに座れ!)」
ヒロユキのセリフはずーっと犬語(ワン)なんですけど、不思議となに言ってるか分かります。それがなんだか可笑しい。
由美子「仕事だったのよ」
ヒロユキ「ワワワ〜ン!(あのなぁ〜!)」
煩わしそうにヒロユキを追い払う由美子。彼女の心はすっかりヒロユキから離れている。


ある晩。由美子は新しい恋人を連れて帰宅する。
ヒロユキは由美子に“ペス”と呼ばれ、恋人を紹介される。男にむかってうなり・吠えるしかないヒロユキ。
逆ギレした由美子、ヒロユキに「しょうがないじゃない。あなた犬なんだから。じゃぁあたしが抱けるの?」「あたしだって結婚したい、子供生みたい、普通のしあわせ欲しい!あなた働いてくれる?あたしを養ってくれる?」


「どうしたの?」と男が顔を出す。「オレ、すっかり嫌われちゃったな」。再び男に吠えつくヒロユキ。由美子は「出て行って!出て行ってよ!」とついにヒロユキを追い出してしまう。
外は雨。
ヒロユキは雨の晩に再び由美子に捨てられた。


わたしは、この後ヒロユキはもう一度里美に拾われるんじゃないか?と予想していた。でも、喬太郎師はそうしなかった。
結末を書くと、ヒロユキは死んでしまいます。
どうやって死んでいくかは書かないけど、その死に方、噺の結びは、一瞬息を飲むほど残酷だった。


女性への憎悪というのは、いろいろな落語の中に、多くの落語家の中にあって、ときどきそれを感じる。別に落語に限ったことではなく、男のヒトの憎悪はいろんな形に屈折して表現されて、いろんなクリエイティブからそういうものが覗いている。
で、わたしがそういう憎悪や屈折を最も強く感じるのは喬太郎師です。この人の女性観は怖いくらいシビアで冷たい。どこまで女を信じていないのか。人間は齢とれば良くも悪くも丸くなるものだから、若い頃の異性へのコンプレックスだってそうだろうと思うんだけど、男の人はこれほどの屈折と暗さを抱え続けるものなのか?と思う。自分は女だから男の気持ちは推し量りきれないところがあるけど、男の人の中には共感する人もいるんだろうね、きっと。
ともかく、喬太郎師は時々こうやって心の闇をふいにつきつけてくる。全然容赦しない。その容赦のなさが凄い。ここまで容赦ないのは見事という他ない。


だけど、こんなにも、1ミリたりとも女に心を許しそうもないこのヒトを、「キョンさまー!」って追っかけてる女子ファンの心理はさらに謎だ、わたしには。
わたしは喬太郎師が怖いよ。