11月後半の落語



今年もあっという間に12月ですよ(ため息)。
とり急ぎ、11月後半の落語活動をメモ。この半月はホントにあんまり落語に行きませんでした。


11/16(月)立川志らくのシネマ落語 特別篇 vol.3
19:00〜20:56@紀伊國屋ホール
らく次 『湯屋番』
志らく 『抜け雀』
仲入り
志らく シネマ落語『タイタニック


11/17(火)瀧川鯉昇柳家喬太郎二人会 古典こもり 銀座篇
19:00〜21:37@博品館劇場
鯉ちゃ 『新聞記事』
喬太郎 『初音の鼓』
鯉昇 『味噌蔵』
仲入り
鯉昇 『年そば』
喬太郎 『死神』


11/21(土)志の輔らくご21世紀は21日 最終回
19:00〜21:12@新宿明治安田生命ホール
志の輔『ディアファミリー』
松元ヒロ 今日のニュース
志の輔『帯久』
アフタートーク 松元ヒロさんを高座に招いて二人でトーク。その後、鉄九郎さんと談春師も加わる。最後はヒロさんの音頭で3本締め


11/28(土)柳家一琴 蔵出しの会
19:30〜21:03@らくごカフェ
『団子坂奇談』
仲入り
『魂の入替』
『片棒』


とりあえず、各会についてひとことずつ。


11/16 立川志らくのシネマ落語 特別篇 vol.3
シネマ落語『タイタニック』は、『抜け雀』『粗忽の使者』『岸柳島』のエピソードをミックスした、おもしろくってハートウォーミングな落語でありました。


相州・小田原の宿「相模屋」で、衝立から抜け出る雀を描いた青年絵師・東州楼豆之助は、相模屋を出て再び旅に出る。京都から大坂へ向かう三十国舟に乗った豆之助は、船の中で菊乃という美しい娘に出会う。菊乃は、好きでもない殿様(なんでもすぐに忘れちゃう粗忽な殿様・地武太治部右衛門w)に嫁がされようとしていて、世を儚んで死ぬつもりだった。船から身を投げようとした菊乃を豆之助が引き止め、それをきっかけに二人は惹かれあう。
『抜け雀』の絵師はディカプリオで、菊乃はケイト・ウィンスレッドなんですw
そんな中、船の甲板で騒ぎが起きる。煙管の銀の雁首を川に落とした浪人が、「吸い口を買い取りたい」と申し出た屑屋に腹を立て、斬ろうとしたのだ。豆之助が一計を案じ、この浪人は中州に置き去りにされ一件落着!・・・に思えたが、この浪人のために、豆之助&菊乃が乗った三十石船は沈んでしまうのです。この浪人、その名を氷山一角と申します(笑)


地武太治部右衛門との結婚は決まっていて、豆之助・菊乃の二人にはどうすることもできない。豆之助は、夫婦になった二人が寄り添う絵を描いて菊乃に贈り、「菊乃、元気をだしねェな!」と励ます・・・
このセリフが、今回の『タイタニック』のキモであります。名作『たまや』の「そいつはオレ!」に匹敵する名セリフになりそうな予感。


生き残った菊乃は、数十年後、豆之助が衝立に描いた雀を見るために孫娘に連れられて相模屋を訪れる。その翌朝、何十年ぶりかで衝立から雀が飛び立った。それを見た菊乃は、豆之助の形見の絵―三十石船の中で豆之助が描いた二人の絵―を広げて、豆之助に語りかける。すると・・・
ラストがすごく素敵!素直に「あぁよかった…」と温かい気持ちになります。


11/17 瀧川鯉昇柳家喬太郎二人会 古典こもり 銀座篇
これは前回書いたので省略


11/21  志の輔らくご 21世紀は21日 最終回
この会の会場をここ(明治安田生命ホール)に移したのは2000年。志の輔師いわく、当時は「東京の落語の客は5000人」と言われていた、5000人の客の顔ぶれは変わらず、決まった客がいろんな会に代わる代わる現われる…そういう状況だったといいます。それから10年経った現在、志の輔師は落語の状況は明らかに変わったと感じているようでした。
例えば、(志の輔師の会が明らかにそうですが)今は常連客と初めて落語に来る客がほどよく混じっている会が少なくない。また、最近は700〜800席の会場でやる落語会が増えている。そういうことは10年前は考えられなかったそうです。志の輔師自身がそういうふうに「変えたい!」と念じてやってきたから、そうなったのだとも言えますが。
志の輔師、「その変化をかみしめたい」と。ちょうど10年。これを潮に一区切りをつけたいのだそうです。「次にどうするか、具体的には決まっていない」と言っていたが、志の輔師のベクトルが向かう先は、なんとなく分かるような気がする。
先へ先へと行く人だなぁ、どんだけ満足しないんだ、凄いなぁ…と思うばかりです。


『帯久』は、この会の第一回にネタおろしした噺だったそうです。志の輔師の『帯久』はとても清々しい終わり方が好きですが、この日は最後に大岡さまが和泉屋にかけた一言が胸に沁みました。
「そのほう運が悪いのう。必ずいつか運が来る。諦めずに生きろ」


多くの、ごく普通の冴えない人々の、祈りのような、救いのような言葉だなぁと思った。この分かりやすいカタルシスを好む人間を、嗤うなら嗤え、落語通ぶるヒトよ。


11/28 柳家一琴 蔵出しの会
この日、たまたま夕方時間が空いて「落語に行かねば!」と各定席のHPをチェックしたんだが、どこも番組がしょぼかった。「どっかいいとこないかなぁ〜」とかわら版をぱらぱらめくって見つけたこの会。一琴師の会には行ったことがなかったので、一回行ってみるか…くらいの気持ちで出かけたんですが(一琴師匠、申し訳ありません)、これがヒット!でした。面白かったです。


『団子坂奇談』と『魂の入替』はネタ下ろし。
一琴さんは、二席とも珍しい噺なので聞いたことのあるお客様は少ないでしょう、『団子坂奇談』を聞いたら「その話でそんなサゲかよ!」と、『魂の入替』を聞いたら「それがサゲかよ!」と感じると思います…と言っていました(たしかにそんな感想ですw)
『団子坂奇談』は扇橋師匠がよくやっているネタで、『魂の入替』は先代小さん師匠がよくやっていたネタだそうです。 ちなみに一琴さんは三三さんに教わったそう。わたしは『魂の入替』は三三師で聞いたことがあって、『団子坂奇談』は初めて聴きました。初めて聞いたということもありますが、一琴さんの『団子坂奇談』はとても面白かった。
こんな噺です。
旗本の次男坊・生駒弥太郎は、団子坂の桜見物に出かけた折「おかめや」という蕎麦屋に入り、その店の娘・お絹を見初める。蕎麦屋の娘を旗本の嫁にとることはできないので、弥太郎は婿になるつもりで蕎麦屋に弟子入りする。マジメに修行し、親方(お絹の父親)にも認められ「いずれお絹と夫婦にしてやる」と言われるようになった頃には季節は梅雨になっていた。ある晩、八つの鐘が鳴った頃、寝付かれずにいた弥太郎は戸を開ける音に気づいた。様子を伺うと、眉根を寄せて怖い顔をしたお絹が人目をはばかるように外に出ていく。こんな時間にどこに行くのか?まさか好きな男のところにでも通っているのでは…?と疑いをもった弥太郎は、お絹の後をそっとつけていくが・・・


…という調子で話は進む。お絹の下駄の音がコト・コト・コト・・・と夜に響き、その後をつけていく弥太郎の心臓の音が聞こえてくるようで、冬なのに薄ら寒くなりました。


アッサリ続きを書いちゃうと、お絹は谷中の墓地へ行くのです。そうして埋められたばかりの赤ん坊の墓をあばいて、赤ん坊の腕をガリガリガリガリと齧っているの。物陰からその様子を見ていた弥太郎、思わず足元の小枝をパリンと踏んでしまい、その音に気づいたお絹と目を合わせてしまう!お絹の口のまわりは真っ赤で・・・
ひゃーーー!こわいーーー!


赤ん坊の腕を齧るところとか、弥太郎が心の中で「ぎゃーーーッ!」っと絶叫するところとか、一琴さんはすごく上手で怖い。それでいて可笑しい。一琴さんの得意ネタ『夢見の八兵衛』(首吊り死体の番をする男の噺)と共通するモノがあります。一琴さんはこの手の不気味で怖い噺が上手ですね。


こんなに怖い思いをさせられるのですが、しかしこの噺、サゲで思いっきり肩透かしをくわされる。「ちくしょー」と苦笑いしちゃう感じ。一琴さんが言ってた通り「この話でそんなサゲかよ!」と言いたくなるけど、そこが落語らしいです。次は夏に聴きたい。


『魂の入替』
ある晩、先生と鳶の親方が大酒を飲んでいびきをかいて寝ていると、二人の口から魂がふわふわと抜け出て、二人そろって吉原に飛んでいってしまう。二人の魂は呑気に上空から吉原見物をしていたが、ふいにどこかで半鐘がジャン!と鳴り、慌てて体が寝ている家に戻る。しかし、親方が間違えて先生の体へ入ってしまう。魂が入れ違ってしまったわけです。二人を元に戻そうと医者が呼ばれ、医者は眠り薬を処方してもう一度二人を眠らせて魂を抜け出させようとする。眠った二人の口から再び魂が抜け出したが、薬が効きすぎて、二人の魂は体に戻らずに道端で眠りこけてしまう。そこへ見世物小屋の興行師が通りかかり、二人の魂を捕まえてしまった。一方、二人の体の傍では、いつまでたっても目を覚まさない二人に医者が首をひねり「もしや、薬が効きすぎて魂もどこかで寝ているのかもしれない」。書生や親方の弟子たちは、魂を呼び戻そうと、タイコを敲きながら「妙法蓮華経、ドン・ツク・ドンドン・ツク!」と祈祷を始める、すると…


三三さんでこの噺を聞いた時は、飄々としていいなと思った。一方、一琴さんは三三さんよりもうちょっとメリハリが効いてて、滑稽なところが強い気がする。
三三さんも一琴さんも、浮遊する魂の様子を、体の脇で両手をひらひらさせながら表現していましたが、痩せた三三さんのほうがやっぱり軽さがあったな、一琴さんの魂はちょっと重そうでした(笑)。


こうして11月後半を振り返ると、やっぱり志の輔らくごの最終回がこたえます。
なにごとも変わって必ず終わりが来るとはいえ、淋しいものは淋しい。毎月の小さいけれど確かな幸せが一個減ってしまいました。