志の輔らくご 21世紀は21日 10/21



10/21(火)19:00〜21:25@新宿明治安田生命ホール
志の八 『高砂や』
談春 『宮戸川
志の輔 『茶の湯
松元ヒロ パントマイム
志の輔 『帯久』



志の八さんの後、談春師が「前座そのニでございます」と登場!
談春師、今日はなんだか淋しくて誰かに必要とされてるんだとゆー実感が欲しくて、久々に自ら着物を持って「アニさん、今日前に出して」ってふいに楽屋を訪ねてみたそうです。
ヒト様の会だから気楽にできるって、楽しそうにやってた宮戸川 。
こんな夜中に男女が連れ立って歩いたら世間の噂になると慌てる半七に、お花はわたしは構わないと言い、「わたし、半ちゃんのことそんなにイヤじゃない」。“そんなにイヤじゃない”って言い草がいい。
おじさんちに連れて行くなんてとんでもない!とお花をおいてサッサと歩き出す半七。お花さんは最近きれいになった、憎からず想っていたんだよなぁなんてぶつぶつ独り言をいってる。その背後に、いつのまにかピタリとついて来ているお花。「なんで足音がしないんですか?!」「くノ一ですか?!」(笑)。
半七はお花を振り切ろうと走り出すが、お花は軽々と追い抜いてゆく。「抜かないでー!…肘を後ろに振るといいんだなぁ」・・・談春宮戸川』のこのあたり、とても好きだなぁ。
あと、なんといっても“婆さん”が可愛くていいですよね。おじさんの言う通り、どこの星のイキモノだ?って感じで。「まぁ、おじいさん、若い者に刺激をされて」「河渡れ!ババァ!(怒)」でサゲて、軽ーく約15分。


志の輔師のマクラは毎年恒例の戸隠の落語会の話。戸隠の満月の夜道の神秘的な美しさ、鳥のさえずりで目覚める朝の心地よさ…「いいんですなぁ、風流だなぁと思うのです」という話から茶の湯へ。
ご隠居&定吉の“初回”のお茶席がなにしろ面白くって笑える。ぐらぐらと煮立った釜のフタをつまんだご隠居、瞬時に「あーーっつい!」って右後方に思いっきりフタを放り投げたところがすごく可笑しかった。
それから志の輔師の『茶の湯』は、茶席に招かれた裏店3人衆の引越し騒動がとても可笑しい。『茶の湯』はここでだれることが多いと思うのですが、志の輔茶の湯』はここも面白い、むしろここがとっても面白い。ここは志の輔師の新作落語のような面白さがある気がします。落語部分だけで約30分。


『帯久』
人間には“魔が差す”ということがある・・・ということに、志の輔師はとても興味をもっているのかな…と思った。
帯久が返しにいった100両を懐にしまってしまう場面、和泉屋与兵衛が不注意で落とした煙管の火種を消しもせず、燃えうつっていくのを呆然と眺めている場面。二人それぞれの“魔が差した瞬間”をクローズアップで観ているよう。短い時間の中の、気持ちの動き・迷いの推移が細やかに描かれていて、あぁ人ってこんな風に誘惑に負けるものかもしれないな…と感じさせ、説得力がある。見ごたえのあるシーンだった。


ところで、この噺はあんまり気持ちのいい噺じゃない。それは、「善意の人が必ず幸せになるとは限らない」とか「ズルイ奴が得をする」みたいなことを感じさせるせいもあるし、帯久も和泉屋もどっちもどっちってところがあって白黒ハッキリできないせいもある。帯久はケチで冷酷だけれど、それは商人としての“抜け目のなさ”の範囲と言えなくもない。一方、和泉屋は良い人かもしれないが、お金を貸して証文をとらないというのは商人としてどうなのか?…とかとか、どっちが悪いって言えないよなぁーと思うのだ。モヤモヤしてて割り切れない。でもまぁ、それがまさに“人”であり“人の世”ですが。
そういう複雑を複雑なままに描き、また、それをとりあえず笑うっていうのが落語なんでしょうなぁ(志の輔師みたいな言い方ですねw)…と思う一方で、わかりやすいカタルシスを求める自分もいたりする。
で、志の輔版『帯久』はスッパリわかりやすくてラクに聴ける。帯久を“悪”、和泉屋与兵衛を“善”ていうふうに、善悪のメリハリをこころもちハッキチつけているように感じたのだけど、そのせいかもしれない。
帯久は、最初はそんなに悪い人間とは思えないが、ちょっといい気になり過ぎ…って感じに描かれていた気がする。零落してお金を借りにきた和泉屋与兵衛に、奉公人に“肩を揉ませながら”対応する姿なんて実に傲慢だ。一方、和泉屋のことは「何ごとについても良くとる人」「争いごとを好まない人」と評し(…だから帯久をつけあがらせて、こういう目にも遭ってしまうんでしょうが)、町方定廻りに「あなたは火付けなどする方ではない」と言わせている。和泉屋が帯久の屋敷に火をつけてしまったのも、絶望のあまり“もう向こうに気がいって”て、つまり心神喪失状態で、おがくずに落ちた煙管の火玉を消す分別がつかなかったから…という説明だった。そんな風に悪いヒトといいヒトがハッキリしてたせいか、志の輔版だとモヤモヤせずに聴いていられる。最後は気持ちよく終わって後味がいい。
後味がいいのは、大岡サマが登場するあたりから笑いが多くなるせいもあるかも。大岡サマに右手の2本の指に封印の紙を巻かれてしまった帯久の「番頭〜!」「寝れない〜」って情けない半泣きが笑いを誘う。こういうところは志の輔らくごらしい。
それと、落ちぶれた与兵衛が帯久にお金を借りに行った場面の二人のやりとりとか、最後のお裁きの場面の大岡様のセリフの言い方・間とか、志の輔師の落語は、落語というよりは“ドラマ”だなぁ。マクラなし、約1時間の長講。


談春師の出演はあったし、楽しい『茶の湯』にドラマチックな『帯久』というメリハリのある二席で、今日は内容濃かったなぁ。