ふたりのビックショー



10/10(金)19:00〜21:35@練馬文化センター小ホール
開口一番 喬の字 『短命』
寒空はだか スタンダップコミック
市馬 『鼠穴』
仲入り
千代馬&千代衿 音曲漫才
喬太郎 『双蝶々』



去年のビックショー(去年は、色モノははだかセンセイ、馬夫&豚夫のコンビ漫才、ゲストに桃太郎師匠、落語は市馬師『お化け長屋』、喬太郎師『彫師マリリン』)から想像して、今年もひたすら楽しい会になるのかしらんと思っていた。入り口で手渡されたパンフレットにも“いたって呑気に、いつもながらの企画モノ”って書いてあって、やっぱそうかと。
しかし、今年はメリハリのある構成で、両師匠の高座にしっかりウエイトが置かれていてよかった(去年みたいなノリも好きですけど)。ヒザの色モノさん(千代馬&千代衿も含む)でわぁっと沸かせた後、落語はキリッとたっぷりと。お二人ともマクラ殆どなしだった。特に喬太郎師の『双蝶々』は良かった。実はにぎわい座が気になりつつ足を運んだ会だったが、行ってよかった〜と思いました。


喬の字さん』『短命』 長屋に戻った八五郎が、お給仕をさせようとおかみさんを呼ぶところ、高くさしあげた両手で「おーい!」って手招きする仕草が左龍さんとおんなじだった。左龍師に習ったのかな?


久しぶりのはだかさん。自己紹介で「見かけは若いけど中味は意外に古いんです、喩えて言うなら中野ゼロホールの小ホール」。玄人女に捧げるバラード「あたいはプロの売○〜、プロバイター♪ウィルス感染中」ひどいわぁ、好きだわー。最後はいつものように、耳に残って心に残らない『東京タワーの唄』。


市馬師『鼠穴』 この噺は苦くて、聴いたあと複雑なキモチになります(苦いところがあるっていうのがとても落語らしいのかもしれないのですが)。噺の終わり方も、肩透かしをくったような感じで複雑。でも、そんな終わり方でもいいから、最後はキモチをラクにしてほしい、自分は。なので、市馬師匠の『鼠穴』はいいなと思った。最後に竹次郎が夢から醒めるところがカラッと明るい。竹次郎の見た夢の話をうんうんと聞いた兄の「短い間に、なげぇ夢みたなぁ〜」なんてセリフやその言い方(ちょっと間の抜けたような言い方)に笑えて、ホッとする。
竹次郎がサシ売りをとっかかりに少しずつ商売を大きくしていくところ、朝は納豆に豆腐、昼間はゆであずき、夜はうどんにおいなりさん…それぞれ見事な売り声で、喉自慢の市馬師匠らしかった。「こうやって夢を見る間もなく働きました。夢を見るのは五臓の疲れと申しますが…」とここでオチを仕込む。
10年たって3文と利子の2両を返しに兄の店を訪れる竹次郎。3文を「よく使い込まなかったな」と兄の何気ないひとことに、竹次郎がちょっと悔しそうな顔をする。この表情がよかった。すぐに帰ろうとする竹次郎を兄はとめて、10年前さぞ自分を怨んだろうと言う。否定する竹次郎に「怨まなきゃ人間じゃねぇ」「許してくれ。この通りたのむ」と頭を下げる・・・
運びもセリフもオーソドックスながら、無駄がなくて丁寧で、竹次郎兄弟に自然に心が添っていくようで、素直に聴けた。よかったなぁ。


仲入り後の千代馬・千代衿の音曲漫才は市馬&恩田えり師匠の松鶴家千代若・千代菊のコピー。「もう帰ろうよ〜」「せっかく出てるんだから、頑張んなさいよ〜」を知ってる人はあの会場にどれくらいいたのか?ツッコミのえり師匠は、千代菊師匠のモノマネということを超えてかなり可笑しかった。えり師匠は、以前、百栄師匠に頼まれてコンビを組んでM-1に出場している。その漫才観たかったなぁと思っていたのだが、これを観てますます百栄師匠とやった漫才はきっと相当面白かっただろうと思った。
最後はえり師匠の三味線で市馬師匠の八木節の替え歌。合いの手をトチったえり師匠が、これまた可笑しく可愛かった。


喬太郎師の『双蝶々』 今回は『小雀長吉』の序にあたる部分を大幅にカットしていた。冒頭、長兵衛が「すまねぇな、おみつ」と、息子・長吉の嘘八百の告げ口を鵜呑みにして手をあげたことを後妻・おみつに謝る場面から始まる。その後、長兵衛とおみつの会話で、長兵衛が大家から長吉の悪行を知らされたこと、長吉を奉公に出そうと決めることが説明される。大家は登場しない。奉公に出された長吉が17歳になり…というところまで約5分。その後は、広徳寺前でスリをはたらく長吉を見た番頭がジワジワと長吉を追い詰めて強請るシーン、小僧・定吉の殺害、物乞いをするおみつ、長吉とおみつ・長兵衛の再会〜といった見せ場を丁寧にたっぷりと。上演時間はおよそ45分。


喬太郎師らしい入れごともありました。長吉は悪友の長五郎と組んで、広徳寺の前で芝居帰りの娘のかんざしや財布を掏りとって小金を稼いでいる…というのが本来だが、今回長吉はぼんやり佇む田舎者の男にわざとぶつかって懐から財布をぬきとる。財布をすられた男は「あれ!あぁっ!あんてこったー!およしが身を売って借りた金が〜!」。長兵衛がカモにした男は竹次郎!…というような笑いもありながら、基本シリアスな運び。後半(雪の子別れ)の最後、長吉と父親が再会する場面は、前回聴いた時よりも一段と良くなっていた。喬太郎師の『双蝶々』は、この場面の長兵衛が素晴らしい。息子のために辛酸を舐めつくしながら、息子を許すことに迷いもためらいもなく、胸を打たれる。
自分のせいで苦労をかけたと詫びる長吉に、「謝りやがったな…俺たちゃいいんだ、俺たちゃ親だ。謝るんなら、番頭さんと小僧さんに謝れ!」。
50両を差し出され、この金で暮らしを立て直し夫婦養子でもとって面倒をみてもらってくれと言われると「…うぬはそういう了見だからいけねぇんだ」「俺と一緒に暮らしてくれと、何故言えねぇんだ!」。
病の床から半身を起こして苦しい息づかいで長吉を叱りつける様子や、息子との別れ際「もう一度、顔を見せてくれぇ…」としぼりだすような声・セリフまわしは、喬太郎師以外の人だったらただクサイだけだろう。でも、喬太郎師がやるとその迫力に圧倒される。父親・長兵衛の情愛の深さ・哀しさが胸に迫る。


この夏世田谷パブリックシアターで観た時も良かったけど、序をすっぱりカットした構成や、セリフが実に自然だったこと等々、さらに良くなったと思いました。
談春・居残りも観たかったけど、こういう喬太郎師を観られて良かったよ〜