ひる落語 ひる談春 第一回



9/25(木)14:00〜16:15@北沢タウンホール
※すべて談春
『子誉め』
『短命』
仲入り
『包丁』



落語の、また談春の“初心者”をメインの客層としたいという意図の会。「白談春」のコンセプトを一層尖らせてみました、みたいな。だから平日のこんな時間にやるんですね。いつ、どこでやろうとやって来る人々(かくいうわたしもそうかもしれませんが…)はむろんいるわけですが、それでもたしかに普段の談春独演会の客層とは違う人々が結構いた。地元の方とか、ご高齢の方とか。また、談春師も、いつもより(本人いわく)「ギスギスしてなくて」、のんびりしたいい会だった。


会の構成は、談春師がひとりで前座・二つ目・真打の噺を三席やるというスタイルで、談春師は独演会ではこの形を定着させたいみたい。『子誉め』『短命』…ときて「この“純粋・白談春”的雰囲気だと、トリは『文七元結』とかだったりするのかなぁ。それでもいいけど、ちょっとつまんないなぁ…」と思っていたら、嬉しいことに『包丁』をやってくれた。わたしはまだ談春師の『包丁』を聴いたことがなく、常々是非聴きたいと思っていたので、今日は行ってよかったです。


談春師の『包丁』は、饒舌な談春師らしく、例によって警句のような心憎いセリフがいっぱいで、心理描写が実に細やか。
例えば、かつての相棒・ツネ(圓生だと“久治”)の家に上がりこんだ寅が佃煮をつまむシーン。その美味さに、かなりモノのいいカネのかかった佃煮であることに気づいた寅は、清元の師匠(ツネの女房)に「大変だね」と言う。「なにが?」と怪訝そうな師匠に「所帯の苦労が大変でしょ?」。口の奢った亭主の気に入るような食べ物を毎日食卓にそろえるのはカネがかかって大変だろ?と言っているわけ。図星で、ホントは図々しい寅に怒ってる最中なんだけど、つい「そんなこともないけれど…」と恥らう師匠。寅は「ちょっといま嬉しかったろ?」・・・こういうやりとりが談春師らしい。また、こういう会話があるから、人物の陰影が深くなるというか、キャラクターに、また噺自体に奥行きが出て引き込まれるんでしょうね(余談ですが、こういうことに気づいて、それを口にする男って、わたしはやだ。ただ、この寅ってちょっと愛嬌があるんですね。この寅には談春師が投影されてるんだろうな)。
それから、寅は女ざかりの師匠を「中トロ」って評しますが、圓生はただそれだけなんだけど、談春師はうなじを指でつっと撫でると脂がつく…って言ってて(セリフはこの通りじゃないけど)、“うなじに脂がのってる”っていうのがナマナマしくていいなぁと思います。わたしは談春師のこういう表現センスにしびれる。細かくってヤだなぁと思うんだけど、スゲーなぁと。談春師の落語は、それが楽しみで聴いてるといっても過言でないです。


清元の師匠がとても魅力的だった。
若い情婦ができて、邪魔になった自分を30両で売ろうとしているとんでもない亭主を、師匠は追い出してしまうんだけど、そうしながらこのひとはホントはいい男の亭主が好きなのね。「これからあたしのいいヒトはね…」「寅さんなんだからね!」ふたつのセリフにしばらく“間”があって、その間にアリアリと未練を感じた。惚れてるけど、こんなに見くびられてまで一緒に居るものか!…って女の意地なのねん。
清元の師匠というのだから、いずれ玄人あがりのヒトなのでしょうか、それなのに堅くて亭主に尽くしてるというのが健気で、そういうヒトが泣きそうになりながら意地をはる姿は切ない。でも、可愛い女のヒトだなぁ、カッコイイなぁと思いました。
あ。そういえば、談春師の落語に出てくる女のヒトにこんなに共感したのは初めてかもしんないです。


あと、『短命』で、熊さんが帰ってくるとおかみさんが「おかえんなはーい」って低いドスの効いた声で迎えるのに吃驚して笑っちゃった。談志ファンのマイミク諸兄に、それは家元がやってて、今日の談春師の『短命』は家元のを踏襲してるんだって教わりました。「談志ひとり会」聴いてベンキョーしないとなー。