月例 三三独演 9/4



19:00〜21:40@紀尾井小ホール
ゲスト 春風亭一之輔 『あくび指南』
三三 『髪結新三』
仲入り
三三 『御神酒徳利』



今回でしばらくお休みになる月例三三独演。「夏の強化合宿・長講だけの三ヶ月」の最終回は『髪結新三』と『御神酒徳利』、それぞれ約70分・1時間弱というたっぷりの上演。『髪結新三』は圓生『髪結新三(上・下)』の通し、『御神酒徳利』は三遊派の型。「小“三”治門下の“三”遊派」(※注)三三師らしい高座だったw。


※「三三とは小“三”治門下の“三”遊派」
これは知人の名句(迷句?)ですw。いや、まぁ冗談なんですが、けだし至言であるなぁと。で、わたしは三三師の枕詞に好んで使っております。



『髪結新三』 わたしは以前は落語より歌舞伎を観ることが多かったんで、『髪結新三』は歌舞伎のほうが馴染み深いです。三三さんがやった圓生版『髪結新三』のストーリーは、歌舞伎のほうでいうと『梅雨小袖昔八丈』の序幕から二幕目まで(家主長兵衛がかつおの半身と15両、さらに新三の取り分15両から店賃をさっぴいて持っていってしまう)、大詰の深川閻魔堂橋の場には入らずに終わる。
高座を観ながら、勘三郎の襲名の時観たっけなぁと思い出した。勘三郎が新三、富十郎が弥太五郎源七、三津五郎が家主長兵衛、染五郎が下剃りの勝をやったんだった。


登場人物がそれぞれ魅力的だった。


新三はいかにも“小悪人”という感じ。忠七を騙し、弥太五郎源七に啖呵をきり、悪人ぶっている新三だが、家主長兵衛にしてやられてしまう。長兵衛にやり込められる三三師・新三の情けない表情は滑稽で、“所詮チンピラに過ぎない男”という感じがよく出ていた。新三は三三師に合ってるなぁと思った。
一番良かったのは、やっぱり芝居の永代橋川端の場にあたるシーンかな。芝居だと流麗な七五調のセリフだったけど、落語ではもともと講談の噺だけあって、ここはキレのいいセリフで、三三さんはそういうのが上手なんで、見ごたえがあった。
忠七を騙して深川富吉町の自分の住まいに導いていく新三。稲荷堀から新堀にさしかかったあたりで雨足が強くなる。着物の尻をはしょって、パッと傘を広げ、忠七を置いて新三はスタスタと歩き出す。傘にいれてくれと頼む忠七に、新三、いままでのやさしげな態度とは打って変わった突き放すような態度で「俺が買った傘に俺がへえるのに何が悪いんでい」。そんな新三にとまどいながら「待ってください、あたしは新三さんの長屋を知りませんので…」と新三を追う忠七。「道知らねぇ?…ふーん」、ガラッと態度を変えて新三「お熊はな、とうから俺の情人(いろ)なんでぃ!」と忠七の胸をドンと突き、水溜りに突き転がす。
騙されたと知って挑みかかる忠七を新三はゲタで打ち、忠七はひたいから血を流して倒れる…
新三、なかなかカッコいかったです。


弥太五郎源七は新三よりは年かさで貫禄のある感じがちゃんとした。新三にこき下ろされ面目を潰され、悔しくてたまらないのを奥歯を噛み締めてぐっとこらえている様子が印象的だった。


三三師の長兵衛はあんまり老獪な感じはしなかった。憎々しくない。飄々としていて、むしろなんだか可愛い。しかしこれはこれで良かった。
金に細かい、しわい爺さんだ。
来客のたびに「婆さん、お茶だしな、いいお茶のほうだよ」と呼びかけるが、婆さんは慌てふためいていて急須をもってくるくる廻っているばかり、その間に用件が済んで客は帰ってしまう。長兵衛は客を見送りながら「婆さん、お茶しまっちまいな」。婆さんがくるくる廻ってるのは作戦なのね(笑)。
新三のところに行って、弥太五郎源七との一件をもちだし「だいぶポンついてやがったな、えらいえらい」「溜飲が下がったぜ」とおだて、喜ぶ新三を、金をもらってお熊を白子屋に戻すように説得にかかる。「金じゃねぇ」といきがる新三に、長兵衛「人間はカネに転ぶべきもんだよ」。このセリフは、分からないけど、三三さんのオリジナルかなと思った。三三さんが言いそうっていうか(笑)、三三さんにはこういうセリフが合うのだ。
500両なら返そうという新三に「わかったよ、お前のいう通り“30両”で話をつけてくる」(笑)。新三が何度「500両」と言っても、「30両」と聞き間違えたフリをしてとぼける長兵衛。こうして飄々と新三を出し抜くさまが面白かった。


弥太五郎源七と長兵衛に新三との交渉を頼む車力の善八。善八とその女房は、この間三三さんで聴いた『加賀の千代』の夫婦みたいだった。しっかり者の女房に入れ知恵されたことを、善八は弥太五郎源七の前でペラペラしゃべっちゃう。「悪いヤツんとこには、悪いヤツが行くのがいい、親分さんは江戸で一、二を争う親分、悪いヤツ…」。それを聞いた源七「善八っつぁん、胸に響くな」(このセリフは笑えた)「そういうところが、お前が好きなんだ」。こういう流れも『加賀の千代』の亭主とご隠居そのままだ。


それぞれの人物がイキイキとして70分という時間を感じさせない『髪結新三』だった。わたしは三三さんでこういうのが聴きたかったのでとても満足だった。


『髪結新三』は思った以上に時間がかかってしまったらしい、三三師は『御神酒徳利』に入る前に「長いほうの『御神酒徳利』やろうと思ってたんですが…短いほうでいいですか?」って尋ねた。だから、最初は柳家の『御神酒徳利』(『占い八百屋』、神奈川の宿屋のところで逃げちゃうほう)をやる気だったのかもしれない、でも、興がのってたのか、結局『占い八百屋』じゃないほうの『御神酒徳利』(登場人物は二番番頭の善六、大坂へ行ってお稲荷様のお告げでお嬢さんの病気を治し、上方を物見遊山して江戸へ帰ってくる、で、サゲは「なぁに、カカア大明神のおかげだ」)をやった。


『髪結新三』の後だったからよけいそう感じたのかもしれないが、『御神酒徳利』はとても落語らしい調子で心地よく聴けた。
この噺も、基本的にはしっかりモノのおかみさんとそそっかしいダメ亭主(=善六)が登場する落語で、三三さんに合ってるんだと思う。
占い師を父に持つ女房から、「山水蒙(さんすいもう)」 だの「艮為山(ごんいさん)」だの難しいコトバを教えられて覚えようとする善六が「なんかいわないで!こぼれるから!」なんて、三三さんらしいセリフが随所にあって楽しい。めでたく御神酒徳利が見つかって、もよおされた宴で酔っ払った善六が「かっぽれをダンシンぐー!」などというワルふざけもあって、けっこうはじけていた三三師であった。善六が大坂から帰るところでは道中立てをいれたが、なんどかつかえた。善六は家にたどりついて「おっかあ!ただいま…あーくたびれた、道中立てなんかしなけりゃよかった」(笑)。
やや冗長な印象もあって、もうちょっと削ってもいいんじゃないかなぁという気もしたが、全体に楽しい『御神酒徳利』だった。


12月の特別公演も楽しみだなー