月例三三独演 8/1



8/1(金)19:00〜21:30@紀尾井小ホール
開口一番 三遊亭王楽 『尿瓶』
柳家三三 『帯久』
仲入り
柳家三三 『唐茄子屋政談』



今夜の三三さんは良かった。
もちまえの語り口の上手さに一段と磨きが掛かった印象があり、それは『帯久』を聴いている時にことさら強く感じた。
また『唐茄子屋政談』は、人情味のある若旦那のおじさんがよく描けていて、三三さんの人情噺ではいままでになく説得力があった。笑いも随所にあり、全体には若い三三さんに相応しい爽やかな人情噺に仕上がっていた。正直言って、わたしは三三さんの人情噺を聴いて、こんなに「いい」と思ったのは初めてだ。


『帯久』という落語は、ドラマ性に乏しい噺だと思う。零落した和泉屋与兵衛が帯屋久七に金を借りにいって素気無く断られる場面あたりでいくらか緊張感がうまれるが、それまではひたすら与兵衛の身の上が淡々と語られるダレ場。そこを三三さんは、一切笑いを入れずに通した。語りもさることながら、表情もよくて、例えば、大晦日に100両を返しに来た久七が、100両と共にひとり座敷に残される場面。ぽつねんと座った久七が、あたりをはばかるように目だけを左右に動かして周囲をうかがって、無言で100両を懐に入れる…その時の表情などは印象的だった。
最後にお白州で帯久がやりこめられるところ。人差し指と中指を紙で結ばれてしまった帯久、「何がつらいといって、じゃんけんできないのが一番辛い」なんて軽口や、利子150両を払えと申し付けられた帯久が「…は?」って聞き返す、その間。また、悔しそうな顔…メリハリが効いている、笑いも起伏も少ないストーリーが続いた後だから、解放されたように笑いが起こる。
また、講談のお稽古がモノをいっているのだろう、大岡様の口調は見事なものだった。


仲入り後、「なすかぼ」の出囃子で登場して『唐茄子屋政談』。若旦那のおじさん、「てめえで稼いだ銭であすんだらどうだ!」なんて一喝に、大袈裟でない自然な貫禄があった。それでいて面白い。若旦那が唐茄子をいれたかごを担ごうとして担げないのを、一緒になって体に力を入れて見守っていたおじさん(三三師のぎゅーーっとしかめたカオが可笑しい)、ついに自分で担ごうとして「どけ!カオが疲れる!」なんてセリフが笑わせる。
無理やり入れごとをするのでなく、噺の流れに沿った登場人物のセリフで笑わせるのが、本格本寸法の三三師に相応しく、好ましい。


若旦那に代わって唐茄子を売ってやる男もよかった。唐茄子なんかいらないと買わずに行こうとする知り合いを、奥歯をくいしばって「唐茄子、買ッテ!」と脅す(笑)。
「お前、おじさんは何故こんなことさせると思う?」一生懸命に唐茄子を売っているお前の姿を誰かが見かけて、それが父親の耳に入って勘当が許されるかもしれない、「そこまで、おじさんは考えてるんだよ」。そんなセリフも押し付けがましくなく爽やかだった。


若旦那が人気のない吉原田圃で売り声の稽古をする場面も、いい。花魁と睦まじく過ごしたひとときを述懐する短いシーンだが、花魁がとっても色っぽい。
居続けした寒い朝「女がクスって笑いやがった。“いま、舌の先で白滝が結ばれたの…”」そのセリフの言い方は、例えば志ん輔師匠と比べると全くサラッとしているんだけど、くすぐったくなるような色っぽさ。思い出してヤニ下がる若旦那の表情もなんとも言えない。
「何か唄ってよ」「唄えネェよ」「じゃ、なにか話して。あたし、おまはんの声が好きなの」「耳元で“おいらん”って言われると、ゾクッとするの」
…そーゆーコトどこで言われてんだ、三三さん?えらくナマナマしいじゃんwと思ったよ。


その後、長屋の貧しい母子に出会うところからは、軽妙な色っぽさからガラッと変わって真面目な熱演。うりだめはおかみさんにやってしまったと告白する若旦那に、おじさん「嘘じゃねぇのはおまえの目をみりゃわかる。だが、今までのことがある。これからその長屋に案内しろ」このおじさん、ホントにいいなぁ…と思わせたところで「オイ、婆さん、出かけるぞ。…なに?お揃いで吉原ですか?…聞いてねえのか!!いままでの大事な話を!」というセリフで笑わせた。こういうタイミング、メリハリがいいと思った。


マクラのトークも楽しかった。三三師の言うことにビビッドに反応する客席に、また三三師がすかさず応え、いい雰囲気。リラックスしてて自信があって、頼もしい感じがしました。ホントに良かったなぁ、今日の三三さん。