春風亭昇太独演会 オレスタイル 7/30



7/30(水)19:00〜21:15@紀伊國屋サザンシアター
携帯撲滅キャンペーンビデオ 昇太&柳好の「携帯ヤッホー」
開口一番 林家彦いち 『初天神
※以下すべて昇太師
『天災』
『化け物つかい』
仲入り
船徳



「“追い詰められてヘンなコトをする”ヒトの噺が大好き」で、また、そういう噺が自分に合ってる…と昇太師は言う。昇太師の古典ネタで言えば『壷算』なんかがその典型か。だが、さすがに古典のその手のネタはつきてきた。後輩たちに何やったらいいかなぁ?と相談したら、自分に合うネタばっかりやってちゃダメだ!と叱られた。だから今日は二席目にあんまり自分に合ってない噺、すなわち“自分が追い詰められるんじゃなくて、周りを追い詰めていく”ヒトの噺をやります…という話がオープニングトークであって、それが『化け物つかい』だった。昇太師に合わないなんてことはなく、昇太師らしい工夫が施されてとても面白かった。
ちなみに『化け物つかい』はこの前々日に志らく師で、『船徳』は前日に喜多八師で観ていた。それらと比較しながら昇太師のを観れたんで良かった、また、改めてそれぞれ個性的で面白かったなと思った。


開口一番の彦いち師『初天神。金坊の「ドメスティックバイオレンス!」という一言は喬太郎師を、買ってくれない父親に金坊の「ご近所のみなさまーー!」って絶叫は遊雀師を思いださせる(遊雀師はたしか「誰かー!ダンゴ買ってくださーい!」だったが)。面白いけど、なんか足りない。あとちょっと“何か”があると、もっと彦いちさんらしい『初天神』になるんじゃないか?なんて思った。


『天災』は、今年4月、三鷹の独演会で久々にかけたネタ。「最近、いちばん好き」「抱きしめて押し倒したいくらい好き」と自身で言う通り、三鷹以降、昇太師はあちこちの会でこれをやっているみたい。今日は三鷹で観た時より一層面白くなっていた。この噺、天災理論を心得ちゃった八五郎が、とっくに収まった隣の夫婦のケンカの仲裁に入って聞きかじりの講釈を垂れるところが特に面白くて、昇太師のもそうなんだけど、昇太さんはとにかく“ココ!”ってところを的確に掴んで押す。
「あなたは“堪忍”をご存知か?」を言いたくて、しかし“堪忍”というワードを思い出せない八五郎、「…かん…かん…かん、かんみょん?…かんにょん?…かん、かん…」ってずーっと言ってるんだが、ここなんか、前観たときよりかなりしつこくやっていた、でも、“かんにん”を言えないっていうのが昇太さん自身のキャラクターと口調(すぐ噛む、甘えたような言い方)に合ってて、たまらなく可笑しい。「…そう!“かんぬし”!あなたは神主をご存知か?」「奈良の神主、駿河の神主、中で天神寝てござる!」「あなたはネズミになーる!」「全身、ネズミだらけっ!」「北風が吹いて寒い、一杯やろうと思っても居酒屋はなーい!」昇太さんの勝ち誇ったような言い方が、また可愛くて可笑しいんだなぁ。何度聞いても面白い、昇太『天災』。


昇太師、『化け物つかい』を評して“工夫のしがいのある噺”。昇太『化け物つかい』に登場する化け物たちは、一つ目小僧、ろくろっ首、三つ目入道。“のっぺらぼう”じゃなくて“おどろおどろしい形相で口から血を流すろくろっ首の娘”が出てくるのが昇太さんの工夫。一切に動じないご隠居は、ことあるごとに「血をボタボタ垂らすな!拭け!」「だから血を垂らすなって!」って叱りつけながら家事をやらせる、これが可笑しい。
ところで、普通は“のっぺらぼう”が出てきて、そこでの「なまじ目鼻がついてるばっかりに苦労してる女がたくさんいるんだ」という隠居のセリフが笑いを呼ぶ。でも、このセリフはやや陳腐化した観があって、わたしはこのセリフでホントに笑えるのは、最近は白酒師くらい。また、たぶんこいういうセリフは、昇太さんよりも、白酒師みたいにすまして皮肉を言うのが得意なヒトが言ったほうがずっーと可笑しいんだろう。だから昇太さんは、のっぺらぼうを出さなかったのかしら?と思ったりした。
ヒト、もとい、化け物使いの荒いご隠居には親切な一面もあって、一つ目小僧に自分の食事を作らせて「お前もお食べ」とご相伴をさせようとしたり、かきもちをすすめたりするところが妙に可笑しかった。
昇太師、自分に合わないと思ったけど、やってみると意外によかったとのこと。


船徳 女性を“ご婦人”と呼ぶ喜多八師匠のそれは、力の抜けた・洒脱な、それでいて大いに笑える…という大人っぽい『船徳』だったが、昇太さんのはとにかく爆笑のおバカ一直線の『船徳』(同じ『船徳』で、こうも違って、それぞれ面白いというのが、落語の素晴らしさですね)。
昇太落語お馴染みのキャラクターがここにも登場する。「わがままでバカな若旦那(“酒に漬けた米ですずめを酔わせて捕まえる”って話をして、若旦那、酔ったすずめを演るんだが、ここんところの昇太師は48歳のオッサンであることを一瞬忘れそーになるほど可愛い)」「先走って親方の知らなかった悪事を喋ってしまうそそっかしい若い衆(昇太落語の“パニックになるヒト”の典型)」。
いちばん「昇太さんらしいなぁ!」と思ったのは“動き”。特に竿をあやつる若旦那の動きはたまらなかった、「ホー!ホー!ホー!」とふくろうのような声をあげながらのあの動きの可笑しさは、とても文章にできない。ともかくあの動きだけで大笑いをとるのは、さすが。
ハチ巻きを粋に片手で巻こうとして何度も失敗するところも、昇太さんの仕草は独特で可笑しかった。
昇太さんの『船徳』、また観たいなぁ。


※もうちょっといろいろ書きたいことはあるのですが、今回はややあっさり目でご容赦。