四月後半の落語



四月後半はこんなところに行ってました。


4/18(土) 立川談志独演会
18:38〜20:35@よみうりホール
『二人旅』
仲入り
粗忽長屋


4/19(日) 悠々遊雀
19:00〜21:20@内幸町ホール
開口一番 昔々亭A太郎 『たらちね』
三遊亭遊雀 『花見の仇討ち』
昔々亭桃太郎 『長短』
仲入り
三遊亭遊雀 『文違い』


4/21(火) 志の輔らくご21世紀は21日
19:05〜21:30@明治安田生命ホール
開口一番 立川志の春 『看板のピン』
立川志の輔 『お血脈
松元ヒロ パントマイム
立川志の輔 『江戸の夢』


4/22(水) 月刊少年ワサビ第2号 柳家わさび落語勉強会
19:30〜21:30@神保町 らくごカフェ
柳家わさび 『強情灸』
桂夏丸 『雑俳』
柳家わさび 『BAR ぶらり』 前回の会で集めたお題「黒ぶちメガネ」「ぶらり途中下車の旅」「エジプト」から作った三題噺
仲入り 会場からお題を回収
次回の三題噺のお題決定 回収したお題からわさびさんがくじ引き形式で5つを選出、その中から客席の拍手の大きさで3つに決める。次回は「グッゲンハイム美術館」「定額給付金」「わさび」になりました。
柳家わさび 『三井の大黒』


4/25(土) 春の文左衛門大会
18:45〜20:55@なかの芸能小劇場
橘家文左衛門 『寄合酒』
鈴々舎わか馬 『一目上がり』
古今亭菊之丞 『景清』
仲入り
橘家文左衛門 『竹の水仙


4/28(火) 立川志の輔独演会
19:00〜21:20@銀座ブロッサム
立川めんそーれ 『金明竹
立川志の輔 『異議なし!』
仲入り
立川志の輔 『井戸の茶碗


4/30(木) 真一文字の会
19:35〜21:34@日暮里サニーホール
※全て春風亭一之輔
『位牌屋』
『化物使い』
仲入り
『妾馬』


どの会も面白かったです(“面白かった”の意味はそれぞれ違ったりするんですけど)。一番印象的だったのはやっぱり立川談志独演会、その他には志の輔師匠の二席と一之輔さんの会が面白かった。


立川志の輔 『江戸の夢』(4/21@志の輔らくご21世紀は21日)
マクラは、北陸自動車道徳光パーキングエリアの付近に加賀の千代の句碑がある・・・という話から始まって、“俳句”の話(千代女の代表作「朝顔につるべとられてもらい水」は、後に千代女自身が推敲して「朝顔やつるべとられてもらい水」になった/松山城を訪れた時のこと。天守閣から見えたのは、正岡子規「松山や秋より高き天守閣」そのままの風景だった〜)、そこから『江戸の夢』へ。言葉ではなく“茶”で心を通わせる茶人父子を、たった十七文字で心象を描く俳諧の世界に重ねて描いた、戯作者・宇野信夫作の落語。


あらすじをざざっとメモしますと…
東海道・丸子の庄屋の奉公人・藤助は、氏素性の知れない男だったが、気立てがよく立ち居振る舞いがきちんとした男で、庄屋の娘・お花に見初められ婿となる。ある時、お花の父親(武兵衛)と母親が、武兵衛の兄の還暦の祝いのために江戸に行くことになった。籐助は、自分で丹精した茶の木から挽いた茶を武兵衛の兄への祝いとして渡す。そして同じ茶をいれた茶筒の一本を、浅草は並木にある茶問屋「奈良屋」の主人・宗味に渡して目利きをしてもらって欲しいと頼む。
江戸に行った武兵衛夫婦は、婿に頼まれた通り、奈良屋宗味に茶の目利きを頼む。その茶をたてて味わった宗味は、夫婦に「婿殿はどういう方でございましょう?」と籐助のことを尋ねる。
話を聞き終わった宗味、「ここに不思議な話がございます」「ここにありますこのお茶は、先年、わたしが将軍家に献上したそのお茶と、同じ挽き方でございます」。その挽き方を知っている者は、この世に自分と息子の二人だけ…と語る。
実は、藤助は宗味の息子だった。酒席での争いで誤って人をあやめてしまった藤助は、罪を恥じて出奔してしまったのだった。しかし、この父子は、もはやお互いに縁を切ったつもりでいる。宗味は、藤助は自分の息子ではない、せがれは死んだのだと言い切る。
宗味は、武兵衛に籐助への言伝を頼む。「もはや誰知るものもない、一子相伝のこの秘法、どこでお知りになったか知りませんが、よくぞ会得なさいましたな。奈良屋宗味は喜んでいたと、お伝え下さい」。
店を出た武兵衛夫婦。俳句をたしなむ武兵衛は、皐月の空を横切った燕を見て「燕(つばくらめ)幾年続く老舗かな」と詠む。そんな武兵衛を、頭を下げていつまでも見送る宗味。
籐助のあの立ち居振る舞いの良さは、あの茶人の息子だからなのですねと感慨深げに言う妻に、武兵衛「氏(宇治)は争えぬものだ」。


志の輔師の『江戸の夢』は、庭の柿の実で一句ひねっている武兵衛に、妻が「大変ですよ!あなた」と、娘が奉公人(藤助)と夫婦になると言いだしたと騒ぎたてる場面から始まった。藤助の人柄や庄屋の婿になるまでのいきさつは、地の語りではなく、庄屋夫婦や村人の会話で分かるようになっていて、おそらくそのあたりが志の輔師ならではの演出ではないかしら?と思いました(『江戸の夢』を聴くのは初めてで、圓生師匠のも聴いたことがないので、ホントはどうなのか分からないけど)。簡単に先の読めるストーリーだが、志の輔師は、真実を伏せたままその胸中を決して語らない藤助・宗味父子の姿を印象深く描いていて、“語らない”“言葉にしない”ということに思いがいった。
上演時間は約1時間。2006年のパルコ以来の上演だったそう。珍しい噺が聴けて良かった。


立川志の輔 『井戸の茶碗(4/28立川志の輔独演会@銀座ブロッサム
志の輔師の『井戸の茶碗』は何度か聴いてて、流れもギャグも結末も、全て分かってるのに知ってるのに、新鮮に笑える。そして、聴いた後「あぁ、よかったなぁ」と思えるのだった。
前よりますます軽やかになっているようだ。屑屋の清兵衛が千代田朴斎に、斬られてもいい、でも死ぬ前にひとことだけ言わせてくれって「…そんなに返したいならおまえが自分で返しに行け!」って小さな声で言うところ。正しければ何をしてもいいのか?朴斎と高木の間を、懐の大金を万が一にもなくしたらどうしよう?と怯えながら何度も往復する自分、そんな自分のことを、あなたは少しでも考えてくれたことがあるのか?と泣きながら訴えるところ。ここは、以前はもっとシリアスだった気がする。この日は笑いながらじぃーんとしたって感じだった。
終わった後、会場全体の空気が「よかったねぇ〜!」って感じになってて、あちこちで客が「面白かったねぇ〜!」って言い合ってて(わたしもそうだけど)、大勢の客をこんなふうに喜ばせて送り出す立川志の輔って落語家は、なんて凄いんでしょう・・・って思いました。


春風亭一之輔 『位牌屋』(4/30 真一文字の会@日暮里サニーホール)
一之輔さんのことは前々からずーっと気になっていたが、なかなかひとり会に行けなかった。いや、正確に言うと、気にはなってたんだけど、一之輔さんよりも好きなヒトの会のほうを優先しちゃってて、一之輔さんの会はつい後回しにしていたのだ。でも、去年の10月に深夜寄席で『あくび指南』を聴いた時、「これは面白いなぁ!」と心から思い、「一之輔ひとり会行くべし!」の思いを強くしました。で、ついにこの日、一之輔ひとり会デビューを果たしました。この日は真一文字の会始まって以来の大入りだったそうです。


“皮肉でいぢわるで面白い噺家”というと、わたしは白酒師がまず浮かびます。で、一之輔さんは白酒師よりも更にいぢわるで辛辣な感じがする。それでいて険がなくて、面白いのは何故だろう?落友になんででしょうね?って尋ねてみたら「一之輔さんはクールで醒めてて、でもとぼけた感じがある」「タレ目の顔がトクしてる」と。そうか、“クール”っていうのは白酒師とは違うな。白酒師はニコニコと毒を吐く感じだけど、一之輔さんは淡々といぢわるなコトを言うな。でも、ヤな感じがしないのは、あのタレ目の柔和にも見える顔で、いぢわるが緩和されるからかもしれない。


会が始まって座布団に座った時、会場の扉がまだ開いてて高座からロビーが見えたらしい。「いま、外にいる人と目が合いました。…頑張っております」と会場の外にいる知らない人に向かって、全然頑張ってるふうに見えない感じで言ったのに笑った。一之輔さんは、滑稽な状況を淡々と描写して、それが面白い。ぼそっと言うなんでもない一言に、なんとも言えないシニカルな味わいがあります。


落語もそうで、登場人物が醒めた感じで言う一言が妙に可笑しい。例えば、この日の『妾馬』。店賃の催促で呼びつけられたと思った八五郎が、大家に「カネがあれば店賃なんかいくらでもいれてやる、カネもないのに店賃をいれようなんていうヤツを、どう思う?」とワケの分からないことを言ってケムに巻こうとすると、大家は冷ややかに「どうとも思わねぇ、ただ店賃をいれて貰いてぇと思うだけだ」。そういうところで笑ってしまうのだった。


この日は『位牌屋』がいちばん面白かった。赤螺屋の旦那の堂に入ったケチっぷり、小僧・定吉がベタッとした子供っぽい喋り方で無邪気に言い放つ皮肉なセリフが可笑しかった。通りを行く荷売り商人を呼び止めては、売り物や商人の刻みタバコをせこくくすねる赤螺屋に、小僧・定吉「勉強になります!」「重ね重ね、勉強になります!」「旦那、今気づいたことがあります。旦那は泥棒です」(笑)。旦那のマネをする定吉に、位牌屋が言うセリフ(ツッコミ)も可笑しかった。


一之輔さん、やっぱりひとり会に行ってよかったな。また行きたいと思いました。