五月前半の落語



五月前半の落語活動はこんな感じでした。


5/2(土) 
百栄渦 春風亭百栄独演会
18:00〜19:49@下北空間リバティ
春風亭百栄 『エコラーメン』
(?タイトル分かりません)〜『引越しの夢』
ナオユキ 漫談
春風亭百栄 『マザコン調べ』



5/3(日) 
立川流特選会@よみうりホール
14:00〜16:00 第一部 志らく・談笑二人会 
志ら乃 『締込み』
談笑 『黄金餅
仲入り
志らく 『中村仲蔵



18:00〜20:10 第二部 立川談志独演会 
談修 『看板のピン』&踊り(茄子かぼ)
談志 『短命』
仲入り
談志 『金玉医者』&小噺



5/4(月) 
ノラや寄席特番 五月猫 其の2
18:00〜20:00@高円寺ノラや
春風亭一之輔 『七段目』
鈴々舎わか馬 『たがや』
仲入り
三遊亭天どん 『大工調べ』



5/10(日)
第20回恒例大演芸まつり 落語協会
13:00〜16:00@国立演芸場
林家たけ平『大師の杵』
柳家三三『引越しの夢』
柳家喬太郎『ハンバーグができるまで』
三遊亭歌司 『鰻の幇間
桃月庵白酒 『化け物つかい』
仲入り
口上 三遊亭金馬・三遊亭歌司・桃月庵白酒(司会)
林家二楽 紙切り
柳亭市馬『七談目



志らく一門会
18:30〜20:50@上野広小路亭
らく太『ざる屋』
志らべ厩火事
志ら乃『人情八百屋』
仲入り
らく次『野ざらし
志らく『品川心中(通し)』



5/12(火)
第17回 喬弟仁義 さん喬一門勉強会
18:30〜20:50@お江戸日本橋亭
さん市 『道灌』 
喬四郎 『松竹梅OL篇』
※新作・タイトル不明につき仮題をつけました
喬之助 『三枚起請
仲入り
喬太郎 『牡丹灯篭 お札はがし〜栗橋宿・おみね殺し』




今回は「楽しかった落語会」篇、「良かった落語」篇でまとめてみましたです。


◆楽しかった落語会
5/3 立川流特選会@よみうりホール 
一部も二部も楽しかったけど、一部の志らく・談笑二人会が予想以上に良かったです。お二人がやった噺は、それぞれご自分でかなり工夫している噺だと思うのだけど、そういうネタをこういう会にかけるっていうところがいいと思った。
この日の家元、志らく師、談笑師の高座については後述。


5/4 ノラや寄席特番 五月猫 其の2
一之輔さん・わか馬さん・天どんさんは、好きなんだけどなかなかひとり会に行けないヒトたちで、この三人をまとめて観られる!って理由で行きました。顔付けがいいせいか、すごーく混んでてぎゅうぎゅう詰めだった。でも、来たかいのある、良い会でした。
三人ともとても楽しかったけど、個人的にはわか馬さんの『たがや』が印象的でした。小朝師が昔やってた『たがや』とほぼ同じ型らしいが、わか馬さんの『たがや』は、なんというか、音楽を聴いているような心地よさがありました。調子も声もよく、爽やかで明るくて、実に気持ちよかった。この日はえり師匠もお囃子としてひっそりと出演、それでだと思うけど、わか馬さんは時々浪曲の愁嘆場なんかのいれごとをして、そのタイミングで三味線が入ったりして、そういう演出も楽しめた。


ちなみに一之輔さんの『七段目』も小朝師とほぼ同じだった。
天どんさんの『大工調べ』は、あくまで古典の『大工調べ』で、改作ではありません。が、登場人物のセリフやあの啖呵は、ほぼ天どんさんの間と天どんさんらしいセリフになっていて、まさに“天どんの『大工調べ』”いう感じだった。
棟梁が、そんななげぇ言葉をつかってたんじゃ“温気の時分にゃ腐っちまう、日のみじけぇ時分にゃ日が暮れちまう”“後で犬の糞で仇をとられたんじゃつまんねぇ”っていったのを、与太郎が言い損なうところなんかは、「ウンコの時分にゃ犬の糞だ、日のみじけぇ時分にゃ犬の糞、要するに犬のクソだーー!」とか、滅茶苦茶であったが(笑)、その滅茶苦茶がちゃんと何度もリフレインされてて、笑いをうんでいた。
大家と政五郎がそれぞれの“理屈”を言うところのセリフは、あんまり理屈がちゃんとしてないなぁと思ったのだが、政五郎がやたらと“大家さんは細かい”って言ってるのが印象に残った。で、後で政五郎がキレて啖呵をきるところで「細かい!まだそーゆーこと言うかっ!(あんたのヤナとこは)そーゆーとこです!」って怒るのに笑った。滔々と小理屈を言ってやりこめるんじゃなくて、“そーゆーとこです!”ってキレて怒ってるっていうのは、天どんさんの新作にもよく出てくるキャラクターみたいで、天どんさんらしくて可笑しかった。


なお、どーでもいい情報ですが、“五月猫”は“ごがつびょう”と読むそうです。


5/12 第17回 喬弟仁義 さん喬一門勉強会@お江戸日本橋亭
さん喬師匠十一番目の弟子・さん市さん、この日が初高座だったんだそうです。
さん市さんは「そいじゃ、ご隠居さんの頭は粗ハゲ頭だね」の後で絶句、舞台袖からアニ弟子の誰かが「茶菓子!」と助け船をだし(笑)、無事に羊羹のやりとりに突入、あとは最後までつかえることなくやり通した。
“小町”のパートもあって、実にまっとうな『道灌』。全体的にひじょーにゆっくり・まったりテンポで30分くらいかかりました(こんなに長い『道灌』は初めてw)が、調子は落語らしく、絶句にめげず落ち着いてたのは良かった。
後に出た三人の兄弟子は、全員が“初高座で絶句”をネタにしっかり笑いをとっていた(笑)。当分あちこちで言われちゃうんだろうね。
それにしても、初高座というのは清々しくていいですね。


この日は、正直、喬太郎師目当てで行ったんだけど、喬之助師が意外に良くて(“意外に”なんて、すいません…)、これからは喬之助さんを聴くのがもっと楽しみになりそうです(いままで、つまらなかったってワケじゃないですよ、念のため)。
喬之助師はいつもマクラが面白いけど、この日もマクラで客席を爆笑させた(一門の天然系No.1・さん弥さんエピソード“さん弥、ヘレン・ケラーになる事件”/“芸協の『時そば』はレーメン”発言…等々)。喬之助さんちの隣に引っ越してきた人がベランダにカラスの模型を逆さにつった、それはどうやら関西発祥の“カラスよけ”らしい(「ブードゥー教かと思いました」w)、昔は起請文にカラスの印を押すならわしがあって、起請を破るとカラスが三羽死ぬといわれていた…という説明を経て『三枚起請』へ。
マクラだけじゃなく落語もよかった。明るくカラッとした『三枚起請』で、とても楽しかった。
※ふと読み直したら「喬之助」が全部「喬之進」になってたのでこっそり直しました(単語・用例の登録を間違えておりました…喬之助師匠・喬之進さん、ごめんなさい…)


目当ての喬太郎師は『牡丹灯篭』へ。マクラなしで35〜40分くらいだったかな?
お露・新三郎のあらすじは地の語りでカンタンに、伴蔵・おみねのやりとり(おみねが、お米の幽霊と話している伴蔵を見て、やきもちを焼くところ)から落語に入った。
お札はがしのパートはわりと短めで、その後も見せ場(おみね、馬子・久蔵から伴蔵の浮気を聞き出す/帰宅した伴蔵とおみねの口論/幸手堤のおみね殺し)に絞って、展開のはやい締まった『牡丹灯篭』。時々笑いを入れたが、脱線というのではなく、見事な緩急でありました。のってる時の喬太郎師のテンポだなーと思いました。


◆良かった落語
立川談笑 『黄金餅』(5/5 立川流特選会 第一部@よみうりホール)
談笑師の『黄金餅』を初めて聴いた。自分は談笑師の落語は“可笑しくておっかない落語”だと思っているのだけど、この『黄金餅』もそういう感じで、談笑師らしいと思いました。 “おっかない”というのは、ただブラックなジョークが多いとかいうんではなく、人間の欲や俗なところを容赦なく描いて、笑いでうやむやにしたりきれいごとに終わらせたりしないところです。視線が冷徹なのだな、談笑師って。それでいて笑っちゃう。


餅で小判をくるんで次々と飲み込む西念、それを隣から覗いている金兵衛。談笑師の『黄金餅』では、西念は覗かれているのを承知で「見ないでよ」って言いながら餅を飲む。
で、金兵衛は、西念が金を飲み込んでると分かるとすぐに隣に踏み込んで、西念を逆さ吊りにして「吐け!吐け!」って振る(で、西念は死んじゃう)。「あれ?死んじゃったの?」ってそりゃ死ぬさw。通夜にやってくる長屋の連中は、悔やみを言いながら西念の体をあちこちさぐってカネを探す・・・というように、登場人物がみーんな銭にたかる虫ケラのようなのね。
焼き場に向かう途中、背負った西念に「お前のことはおとっつぁんのように思っていたんだぜ」と語りかけていた金兵衛が、西念が息を吹き返した途端、すかさす息の根を止めて「…あーびっくりした」
・・・こういうところが、可笑しくて怖かったです。
最後。金兵衛はせしめたカネで餅屋を開く…のではなく、結局、西念みたいにカネを手放せなくなっちゃう、カネを抱えたまま病み、死期を悟った金兵衛はカネを餅でくるんで飲み込もうとする、それを隣から覗いているヤツがいて…という、ループ的な終わり方でした。
奪ったカネを元手に貧困から脱出するっていうんじゃなく、自分もまたカネに魅入られちゃうというのが、業の深い人間らしいと思った。


立川志らく中村仲蔵』(5/3 立川流特選会 第一部@よみうりホール)
ブロッサムの初演の時も良かったけど、さらに良かった。そんなに変わってはいないけれど、團十郎が仲蔵に目をかけた理由が、仲蔵の才能を認めたからというよりは、ただ“可愛いヤツだ”と思ったからだ…という点が初演の時より強調されていたように思った。
それと、仲蔵の女房が、志らく版『芝浜』の女房みたいに、ちょっとおかしくてヘンなところがありながら可愛い女房になっていた。
明日が忠臣蔵の初日という晩、もしも工夫が失敗したらしばらく大坂に行く、お前は一人で待っていてくれと頼む仲蔵に、「はい、大丈夫、あたしは役者の女房ですもの・・・って、あたしって貞女?」(笑)。女房は「大坂に行ったら、お前さん、大坂人になっちゃうからイヤ、“儲かりまっか?”ばっかり言うようになっちゃう!」って大反対し、その晩は夫婦ゲンカして仲蔵は初日を迎える(笑)。


『芝浜』ギャグも初演の時より増えていました。失敗したと思い込んで帰って来た仲蔵が…
「酒のもう」
「ダメ!夢になるといけない」
「夢にしてぇよ!」
“夢にしてぇよ”はよかった(笑)
上方へ向かう途中、自分の定九郎を誉める芝居通たちの話を聞きつけ、嬉々として家に引き返した仲蔵に、女房…
「お前さん、お酒飲もう!」「ベロベロになっちゃえ!」
「やだよ、夢にしたくないよ!」(笑)


志らく師の仲蔵、いいなぁ。楽しいし、團十郎芸談、仲蔵と二人の師匠の師弟関係の描き方も独自で素敵だ。


立川談志『短命』(5/3 立川流特選会 第二部@よみうりホール)
この日は、落語についてはあまり語らず、ジョークもやや少なめだった気がした。でも、いつもの“絶世の美女・クリスチーナ・ロゼ”のジョークを、「4/18の独演会ではうけなかったから、もう一度やる!」ってやったのが可笑しかった。
睡眠薬のせいで眠い」「途中で寝てしまうかもしれない」と仰っていたが、先月の独演会に比べると、ちょっと元気がなかったかな。でも、二席目のマクラあたりで「だんだん不快を忘れてきた」と。結局『金玉医者』を8時まで。医者をやる時の家元は、思わずつりこまれるような、なんともいえない笑顔であった。


『短命』 家元は、伊勢屋のお嬢さんの若さと美貌を「若い!若い!若い!若い!」「きれい!きれい!きれい!きれい!」って“若い”“きれい”を力を込めてたくさん言うことで表すのであります(コレ、なんかいいです)。「“若いだろ?”“若いですね”って、そういうんじゃないんですから」「角でばったり出くわすとドキッとする、できれば遠くで見ていたい」そういう若さ・きれいさ。
それを聞いてご隠居が、短命のワケを都都逸をひきあいに出してそれとなく教えようとするわけですが、今回は“数の子”だの“締める”だの詳しい(笑)解説がなくなっていて、淡白であった。


「おっかぁ、ただいま」と長屋に戻ると、女房は「おかえり」とフツウに出迎えた。あれ?オカエンナハーイはナシなんだ…と思ったら、家元はすぐに「オカエンナハイ」と言いなおした。
「おっかぁ、大丈夫か?」
「うん、喉がガンだってさ」って言い訳してたw。


「いわしがあるよ」「おいしい青菜がある」って、家元の女房はけっこうマメマメしくご飯の支度したり、亭主の世話をやいてるんですね。いい方がつっけんどんなだけで。
「よそってくんねぇか?」「イヤだよぉ!亭主にご飯よそってるなんて世間に知れたら、恥ずかしくってこのヘン歩けないよ!」って、ご飯をよそってやらないのは照れだったのか(笑)。家元の、こういう夫婦の描き方、好ましいです。


飯茶碗を手渡された亭主、手と手が触れて顔をあげる、すると女房、一節(※)うなる。
“長生きだ”で下げたが、仲入り後に「“そうか、俺も短命だ”っていうサゲもあるね?」だって。
正岡容・脚色『天保水滸伝』の出だしの節回し、「利根の川風…」だそうです。落友に教えてもらいました。


立川志らく『品川心中(通し)』(5/10志らく一門会@上野広小路亭
品川駅は品川区ではなく港区にある/土蔵相模があった場所は現在はコンビニ、かつての鉄火場は「どんぐり保育園」になっている…というおなじみのマクラから入りました。


特に大きな変化はなかったが、さらに落ち着いて、志らくっぽいギャグが若干少なくなった気がした。金蔵が、赤ん坊の頃のまま今でも首が据わってなくて、やたらとゆらゆら揺れてる…というギャグがありますが、今回は金蔵がゆらゆらして笑いをとるところは一回だけだった(…たしか)。


でも金蔵ギャグは健在。
「金蔵です。台所にあるのはぞうきんです…って、そんな洒落はお好き?」
「こんばんわ。金蔵です。胸がドキドキするのは心臓です」
「金蔵です。鼻がながくて耳が大きいのは象です」「ギャグが尽きたな!」


そういうギャグより、ふつうっぽいくすぐりが何気に可笑しかった。
親分「向こう(お染の店)で芝居をやるんだよ!」
金蔵「義経千本桜ですか?」
親分「愉しませてどーすんだよ!」
とかね。


志らく師の落語は、どんどんフツウに、それでいて面白くなっていくなぁ。




ところで
5/10の大演芸まつりでのこと。喬太郎師はマクラで“夜のターミナル駅の片隅で見かける、煮詰まったカップル”の話をしました。
そういうカップルの女には2パターンあって、“無言・無表情で怒りの視線で男を見つめ続ける”、または“わけのわからないことを言いながら泣きじゃくり、時々チラッと男の目を見る”、そのどっちか。対して男の反応はひとつで、決して女の目を見ないで視線を“円を描くように”泳がせ続ける…という話であった。喬太郎師の男女の恋愛・修羅場バナシは面白いなー。


その後で行った志らく一門会で。
高座の合間や仲入りに、後ろからずーーーっと女のささやき声が聞こえて、それはどうも怒りのささやきなのであった。
こっそり振り返ってささやきが聞こえてくる方向を確認してみたら、30代くらいのカップルだか夫婦だかが座っていた。女は物凄く機嫌が悪そうであった。
「あたしがお腹空くと機嫌が悪くなるって分かってるでしょ?!」「もーお腹空いて気持ち悪いくらいなのよっ!」
…よく聞いてみたら女はこんなようなコトを言っていて、要するになんだかもの凄くしょーもないコトで怒っているのだった。
で、男のほうは一言も返さずに、終始無言であった。


この二人を喬太郎師に見せたい。マクラに仕立てて嗤ってやって欲しい。で、“花火大会のバカップル(カップルの女の浴衣は、美術室に落ちてる油絵の具で汚れたゾーキンみたい…ってヤツです)”とともに「喬太郎・男と女のマクラシリーズ」っていうCDでも出してくんないかなぁ…と思いました。
それにしても、怒りながら落語聞いてて、楽しかったのだろうか?あの女のヒト。