春風亭昇太独演会 4/26 夜の部





4/26(土)18:00〜20:20@三鷹市芸術文化センター 星のホール
林家彦いち 『反対俥』

※以下、すべて昇太師
『天災』
ナマ着替え
『伊与吉幽霊』
休憩
崇徳院



初めて聴く昇太師の『天災』、大好きな昇太版『崇徳院』。この二席が聴けたのが嬉しかった。




オープニング トレードマークのハンチング、明るいコバルトブルー×白の太めのボーダーTシャツにジーンズ姿で昇太師登場。オープニングトークは『ガマ王子VSザリガニ魔人』のこと、その2ヶ月間の公演が終わって「独演会(この会)の前の肩ならし」で出演した生志師真打昇進披露落語会のこと…等々。
『ガマ王子〜』の和気藹々の現場で浄化された清らかな心と、立川流に混じってささくれ・どろどろになった心が「半々くらいで、いま、落語をやるのにちょうどいい感じです」。
今日やる落語を、“昔はやってたんだけど、どういうわけかやらなくなって久々にやる噺”と“人の作った新作”“普段あまりやらない噺”と“春らしい噺”と説明。“人の作った新作”っていうのは、たぶん『伊与吉幽霊』だと分かったけど、他の二席は分からなかった。楽しみー。


今回のゲストは彦いち師。お馴染み“JAL「機長が来ておりません!」事件”のマクラから、「急いでいる時ってありますよね。今日はそんな急いでる時の噺」…と『反対俥』。彦いち師の『反対俥』は威勢のいい車屋のパートが楽しい。ドラム缶を飛ぶところ、彦いち師は座布団の上で正座のままジャンプする。今日もジャンプが高い。「気をつけろ!中目黒落語会で高座壊したんだぞ!」3回目のジャンプは特に高い。「…今、ミシッて言ったぞ」「三鷹市に任せて先へ行け!」。
車を引いたまま川を渡ろうとする車屋が、川を睨みつつじりじりと後ずさりして勢いをつけるのが可笑しかった。


たくさんの人が関わり時間をかけてひとつの舞台を作り上げる演劇に比べ、「落語は効率がいい」と昇太師。「この座布団さえあれば、どこへでも漕ぎ出していけるんですねぇ」と、座った座布団の端をもって舟のように揺らす(よくやる、あの仕草ですね)。一席目は“13、4年前にやって以来、ずっとやっていなかった噺”をやると言う。「ただただバカバカしい」「出てくるヤツが全員バカ!」「聞き終わった後、何にも残らない、清々しい噺をやります」。なんだろう?


「ぴらめんねぇっ!ぴらめんねぇっ!」
「はいはい、どなたかな?」
「おめぇか?べらぼうになまるってぇのは!」
あ!『天災』だ!これはきっと面白いぞ、嬉しいな。


昇太師の『天災』は、八五郎が隠居(いわたの旦那)に離縁状を書いてくれと頼みに行き、紅羅坊名丸への紹介状を渡されるところはすっぱりカットしている。後のストーリーは基本的におなじみの『天災』の通り。でも、八五郎は乱暴者というより“おバカ”。
坊名丸「あなたが山田八五郎さんじゃな」
八五郎「うぅ〜…あ?なんだ、今の山田なんとかって?」
坊名丸「あなたのお名前でしょう?」
八五郎「オレは、八っつぁんだよ!」
すぐにハナシが見えなくなって「…うぅ〜、バンザーイ、バンザーイ!」とやる八五郎に、「…お分かりでないようだ」とため息をつく坊名丸。
でも八五郎はバカなだけで、坊名丸をやりこめようとはしない、わりに素直。広い野原で雨に降られた、雨宿りをする居酒屋も大きな木もない、どうなさる?と詰められると「居酒屋も大きな木もないんだろ?しょうがねぇ、諦めるしかねぇよ」。
坊名丸、すかさず「そこですっ!」と“天災”理論を教示する。
この後、八五郎が「オレ、天災を心得ちゃったから」と長屋の熊さんに付け焼刃の天災理論を披露するわけですが、ここからがとっても可笑しい。
“堪忍”が思い出せない八五郎「あなたは、かん…かん…かんにょん?かんみょん?…お分かりでない?」熊さん「おめぇの言ってることが分からねぇよっ!」
「…かんみょん…かん…かんぬし!あなたはかんぬしをご存知か?奈良の神主、駿河の神主…」「柳の枝というのは南から風が吹けば南へなびく。北から風が吹けば寒いから一杯やりたくなーる、一杯やりたくなるけど居酒屋は、なーい!さて、どうなさる?」…
“うちは先妻だ”で下げた後、「…聞き終わって、何も残らない」「清々しいですねぇ」


その後、舞台でナマ着替え。
昭和33(じゃなくて)34年生まれの昇太師、「いい時に生まれてきたなぁと思うんです」。子供時代は日本は高度経済成長の真っ只中、二つ目時代はバブルで小遣い稼ぎの仕事がワンサカ、そのまま真打になって、今は「笑点」で全国区。しかし、笑点のおかげですっかり“結婚できないキャラ”が定着してしまった…と例の“名古屋のオバチャン”の話など。その後、ご母堂のエピソード“50万円ババア”の話へ。この話、独演会などで聞いたことがある人は多いと思う。現在、実家の静岡に一人で暮らす昇太さんのお母様は、“旅行に行く”“家に塀をつくる”“レンジをガスから電気に変える”等々、ことあるごとに昇太師に電話をかけてくる。昇太師が「いくらかかるの?」と尋ねると、どんな時でも「50万円」と答える。「うちの母親にとって“大金”は“50万円”なんです」…
そんなマクラから『伊与吉幽霊』へ。照明が落ちて客席が暗くなった。


乗っていた船が沈んで死んだ伊与吉。幽霊になって、友人・吉っつぁんのところにやってくる。船の仕事はおっかさんが探してくれた、その仕事でオレが死んだと知ったらおっかさんが悲しむだろう、だから「伊与吉はとうに船を下りて、別の仕事をしてる」っておっかさんにウソをついてくれ…と頼む伊与吉。互いに思いあう母子の姿が温かく哀しく、いい噺。
昇太さんは、さっきの『天災』みたいな、バカなキャラクターがまっしぐらに疾走する落語が楽しくて、それは自分も大好きだ。でも、昇太さんのこういう可笑しくてホロッとする噺も好きだ。昇太師は「自分ではこんな親子の話は作れない」という。演るとこんなに素敵なのにね。


会のオープニングで「今日は8時10分頃には必ず終わります!だからチラチラ時計とか見ないようにっ!」と命じた昇太師であった。しかし、仲入り後に登場すると、実は“50万円ババア”の話はする予定はなく、それを話してしまったために時間が延びそう…ときまり悪げ。「終演時間を下方修正します」。客席は延長歓迎の拍手。
次は「長めでバカバカしい噺」だと言う。これも登場人物がみんなバカ、「全員廊下に立ってなさい!」というバカ達が出てくるネタだと…。なんだろう?期待ふくらむ。
静岡の同級生たちに再会した話、昔好きだった女の子の話など。中高の頃は、好きな女の子を想うと胸が苦しくてご飯も食べられなかった、でも、あんな風に人を好きになれるのは思春期の一時期だけ。「皆さん、もうそんなことないでしょ?」「ああいう気持ちは、ちょっともう取り戻しようがないですよね、胸がキュッ!ってゆーのね…」「でも、落語の中には、胸がキュッとなってご飯も食べられないってヒトが出てくるんですね」…あ!もしかして崇徳院
嬉しいなぁ、久しぶりに聴きたいなぁと思っていたのだ。


まず“若旦那”が可愛い、昇太さんの『崇徳院』は(『明烏』もそうだけど)。八五郎に“恋わずらい”だとなかなか言えなくて、もじもじと「…おまえ、笑うだろ?」「笑いませんよっ!」「…わたしの、やまいはねぇ…。おまえ、やっぱり笑うだろぉ?」と畳にのの字を書かんばかりの様子の若旦那、ようやく小さな声で「こ〜ひぃ〜あ〜ず・ら・ひ…」


上野の清水さまに桜見物に行って…と話し始めた若旦那を遮って、八っつさん「清水さま!あそこに茶店があるでしょ!あの茶店はいいっ!」「あそこにいる女がおもしれぇ女なんだよ」と茶店の女の子をベタ誉め。八っつぁんはこの女の子が好きなのだ。
「オレが冗談言うとね、普通の女は『あら、やだよー』なんか言うけど、あの女は『え゛?』ってゆーんだよ!」(この『え゛?』のいい方が、なんともいえない)
若旦那「わたしが一目ぼれしたのは、そんなバカな女じゃないよっ!」
八五郎「バカってゆーな!(怒) あっしゃー、あの女が好きなんだ!」
この、茶店の『え゛?』って言う女の子の話は、この後も2回くらい出てくるのだが、なんだかとっても可笑しい。


茶店に腰掛けていたお嬢さんと目が合うと、お嬢さんは若旦那ににっこりと笑いかけた。「わらった途端、今まで蕾だったサクラが、ぱっ・ぱっ・ぱ…って咲いたんだよ」顔の周りで掌をぱっ、ぱっ、ぱっと開きながら、うっとりと言う若旦那。
拾った茶袱紗を渡すと「お嬢さんは、蚊の鳴くような声で“アリガトウゴザイマス…”って…」八五郎「え?!“アリババと40人の盗賊”?」
崇徳院の歌を聴かされた八五郎が「それを唱えると、石の戸が開く?!」って言うのも可笑しかった。


お嬢さんを探しに出かけた八五郎、「瀬を〜はや〜みー・瀬を〜はや〜みー…」と崇徳院の歌を口ずさみながらきょろきょろと周りを見回す。気がつくと子供が大勢ついてきて「こらーっ!あっちいけー!飴やじゃない!」と怒るところは、ちょっと『人生が二度あれば』のお爺さんみたい。


最後は床屋の鏡を割って、「割れても末に買わんとぞ思ふ」でサゲ。
若旦那と八五郎、ふたりともホントにバカで可愛いくて大好きだ。


昇太師、この会場(星のホール)を「これで天井がこの半分くらい低ければ、まさに落語にうってつけ」と言い、機会があればここで“企画モノ”をやりたいと言っていた。実現するといいなぁー。