柳家三三・桂吉弥 ふたり会





12/25(火)19:00〜21:15@内幸町ホール
開口一番 桂佐ん吉 『手水廻し』
柳家三三 『道具屋』
桂吉弥 『天災』
仲入り
桂吉弥 『蛸芝居』
柳家三三 『薮入り』





上方落語はあまり聴いていなくて、よく知らない。吉弥さんは、マイミクさんからいいと聞いて一度聴いてみたかった。三三さんとのふたり会があると知り、絶好のチャンス!と出かけた会。


佐ん吉さん『手水廻し』 「手水を廻す」というのは、かつては大坂だけで使われていた言い回しで、同じ関西でも他の土地では通じなかった。大坂の客を泊めた田舎の宿屋。客に言われたこの言葉の意味が分からず、騒動が起こる…という噺。だいぶ前に東京の落語家で聴いたことがあったが、それは、江戸の宿屋に大坂の客が泊まるというものだった。この日聴いた本場上方バージョンは、生まれも育ちも関東の私には、大坂の客も田舎の宿屋もどっちも同じ大阪弁を喋ってるようにしか聞こえなくて、言葉が伝わらないという設定が素直にうけとれないのだった。そのせいか、最初のうちはそんなに面白いと思えなかった(ま、そんなこと考えずに『転失気』みたいな噺って思って聴けばよかったのかもしれない)。


三三さんは『薮入り』、吉弥さんは『天災』がネタ出しされていて、三三さんの一席目は“お楽しみ”だった。
一席目。定番“浴衣”ネタのマクラから『道具屋』へ。三三さんの『道具屋』は、今風のくすぐり一切ナシの、オーソドックスで、“お手本”と呼びたいような『道具屋』だった。きっちりしていて、しかも面白い。いいなぁ。最初、ちょっと鼻声気味のように感じて心配したが、聴いているうちに気にならなくなった。一席目に相応しい演目、それでいて三三さんの自負のようなものが伝わる。この数日間、二人会が続いている三三さん。同じ二人会でも相手によって会に臨む気持ちは違うみたいで、この会の三三さんには、ピッと背筋を伸ばしたような感じがあって、同期の左龍さんとの二人会とは少し雰囲気が違う。


吉弥さんはサンタみたいな真っ赤な羽織と着物で登場。『ちりとてちん』の草原兄サンは、今とてもお忙しいそうで、この会の後は寝台急行銀河で大坂へとんぼ返りだという。打ち上げにも参加できず、気持ちはドナドナ…と嘆く。
吉弥さんの『天災』は、心学者のセンセイの名前が“紅羅坊名丸”じゃなくて、“ほりさだかんべえ”っていう以外は、聴きなれた『天災』とほとんど同じだった。
八五郎の付け焼刃のお説教が面白いわけですが、「あなたはタヌキ(短気)でイタチ(いらち)です」「柳の枝にネコがいる。だからネコヤナギ〜♪」「あなたはニンニン(堪忍)をご存知か?」なんて他愛のない笑いを畳み掛け、これが可笑しかった。


仲入りの後、高座には見台と膝隠がセットされていなかった。真っ赤な着物から一転、シックな縞の着物姿の吉弥さんが登場し、次は芝居噺をやりますと言った(だから小道具をセットしてなかったのか)。
『蛸芝居』 初めて聴いたのだが、鳴り物がはいってにぎやか、芝居がかりの仕草も楽しく、華やかで楽しい落語だった。主人から丁稚まで芝居好きが揃った船場の商家。魚屋がもってきた蛸までが芝居好きで、逃げ出そうとする蛸と主が真っ暗(蛸がスミを吐いて暗転…というわけ)な中で、芝居のだんまりよろしく、相手を探りあう…というもので、落語っぽいバカバカしさと楽しさに満ちている。吉弥さんの『蛸芝居』は楽しく可笑しい中にも端正な印象があって、素敵だった。この噺は早世された吉朝師匠が得意にしていたというから、吉朝師匠の芸を継承したものなのだろうか。


最後は三三さんの『薮入り』 『薮入り』といえば小三治師匠。東西若手が師匠の十八番で対決だー!とワクワクしてきた。
三年ぶりに会う一人息子を迎える父親の気持ち。感極まって泣き笑いする父親を、三三さんには珍しく、思いをこめた表情・セリフで表現していたように見えた。父親の子を思う気持ちが伝わり、それでいて全体的に明るくて、良かった…けれど、申し訳ないんだが、どうしても小三治師匠の『薮入り』と比べてしまって、やっぱり小三治師匠の『薮入り』には敵わないなーと思ってしまいました。父親としても(三三さんにも息子さんが二人いる)落語家としても、年季が違いすぎるんだから、比べちゃいけないんだけど。父親もそうなんだが、亀ちゃんも小三治師匠のほうがいい。三三さん、息子・亀ちゃんの声をずいぶん可愛くやったが、不思議なんだけれど、若い三三さんより小三治師匠の亀ちゃんのほうがずーっと可愛いんだよなぁ。




お二人の落語は、どちらも“本寸法”と言われているけれど、同じ本寸法でも東と西では違うんだな。勉強になったし、“真剣勝負”って感じの良い意味で緊張感のあるいい会でした。