第46回 三三・左龍の会





12/23(日)18:30〜20:40(くらい?)@池袋演芸場
開口一番 古今亭志ん坊 『元犬』
柳亭左龍 『風呂敷』
柳家三三 『芝浜』
仲入り
柳家三三 『寄合酒』
柳亭左龍 『二階ぞめき』





開演の一時間以上前に演芸場に着いた。ちょっと早すぎたかな?と思っていたが、既に地下の会場へ下りる階段口に列ができていた。休日とあって、特別興行と知らず「寄席にでも入ってみようか?」という感じで列に並んだらしい人たちもいたようだ。開場早々座席はすべて埋まり、立ち見が出るほどの大盛況だった。


今日は仲入り後の『寄合酒』(三三師)と『二階ぞめき』(左龍師)がネタ出し。仲入り前の二席はお楽しみで、パンフレットには左龍師は「らくご」、三三師は「落し咄」とあった。だが、最初に高座にあがった左龍さんが「三三さんの『芝浜』聴きたくないですか?」と客席をけしかけ、三三さんが現れると「芝浜!」と声がかかった。というわけで、思いがけず、また三三さんの『芝浜』が聴けた。


幕が開き、お二人が登場。いつものように、座布団の距離を詰めておしゃべり。高座に座るとお腹がかぶさってせっかく着物とコーディネイトした帯が見えない左龍さん(うーん兄弟子もそうだねぇ。昼間、国立演芸場で昇太さんにお腹をネタにされていた)。これでも2?痩せたんですと言う左龍さんに、三三さん「100本の爪楊枝の束から2本抜いたくらい、分かんないよ」。この軽口、うっかり兄弟子の一琴さんにも言ってしまって、えらくご機嫌をそこねたとか。左龍さんは開口一番の志ん坊さんを紹介する際に、最近の笛のお稽古のエピソードを披露。志ん坊さんとお囃子の恩田えりさんと一緒にお稽古しているらしいのだが、志ん坊さんに比べ、上達がはかばかしくないのだそう。要するに筋が良くないのねと三三さんに指摘され、左龍さんが「どう?えりちゃん?」と舞台袖に呼びかけると、御簾の向こうで「はっはっはっ!」とえりさんが高笑い。オープニングトークは、出演者・楽屋のリラックスムードが伝わっていつも楽しい。


左龍師の『風呂敷』 酔っ払いも面倒見のいい兄貴も愛嬌があって面白かった。左龍さんは『妾馬』の八五郎も可愛くて面白かったけど、酔っ払いが上手いのかな。


続いて高座にあがった三三さんは、三越落語会の『五目講釈』で文化庁芸術祭新人賞を受賞したという報告を。自らエントリーしたわけでなく、出演した三越落語会が芸術祭参加公演だったことから受賞したそうだが、新人賞をもらえるのは今だけなので有り難く頂戴したい…と。おめでとうございます。
三三さんの『芝浜』は野暮ったくないあっさりした感じで、そこが好きだ。この日は、全体的にはサラッとしていながら、「あ、このセリフいいな」としみじみするような箇所が所々あるのに気づいた(13日鈴本で聴いた時よりもずっと高座に近く、表情もよく見えたせいかもしれない)。勝五郎は、女房に「あれは夢だ」と押し切られた時、「ガキの時分から、やけにハッキリした夢を見るクセがあったんだよ」と言う。しかし、三年後の大晦日の晩、夢じゃなかったと分かると「ねえよ!そんなクセ!」と叫ぶ。そんなウソをついたのは、そうでも言わなければ、大金を拾った夢をみて大喜びで飲み食いした自分が情けなくて「てめぇがもたねぇ」からだったと。あの日以来、ピタッと酒をやめ、人が違ったように働き始めた彼の気持ちがよく分かる、いいセリフだった。他にも「今日からおめぇのことは女房と思わねぇ。親と思うで」なんていうセリフも良かった。でも、こういうところでどっと笑いが起こるのは意外だった。たしかに滑稽味はあるけれども、その中に情感があって、あんなに笑うセリフじゃないような気がするんだけど、そう感じるのはわたしだけかなぁ。
強く心を揺さぶられるというのではないけれど、ふわっと心が温かくなるような、それでいてスマートな『芝浜』だと思った。


この日、三三さんは高座に白湯をいれた湯飲みを置いていた。仲入り後に高座にあがったときに、あまり喉の調子が良くないので、と事情説明。以前、やはりこの会で、喉の調子がよくなくて同じことをしたそうだが、その時は、事情説明したにも関わらず、アンケートで「30年早い!」と非難されたとか(ま、どうしても小三治師匠を思い出してしまいますもんね)。ところでこの湯のみ、真打になったお祝いに、さん喬師匠から贈られたものだそう。こっそり調べてみたら、けっこう高価だったというそれは、白地に藍色の模様が入った綺麗なお茶碗でした。
『寄合酒』は軽快且つ滑稽(「かつお風味のふんどし」で下げるとは…)、やっている三三さんも楽しそうに見えたが、気のせいかしら。当日の午後、喫茶店で喬之助さんに習ったばかりのネタ下ろしだったそうだ。そんな短い時間に覚えたとは思えないくらい、手馴れた感じがあった。要するに、三三さんお得意の類の噺なんだろうなぁ。


三三さんのように短い時間では、噺を覚えるだけならともかく、高座にかける自信はないという左龍さん。でも、左龍さんのネタ下ろし『二階ぞめき』はこの日いちばん面白かった。この落語は、下品で猥雑でいかにも廓噺って感じの喜多八師匠のが好きだったが、左龍さんのは喜多八師匠とは全然タイプが違う『ぞめき』で、これはこれで良いのだった。喜多八師匠のは「ここ(二階)が吉原だったら…」と若旦那が妄想してるだけだったが、左龍さんのは、番頭が大工をいれて二階をしっかりプチ吉原に改築させるという設定。
若旦那「二階に吉原ができるのかい?」
番頭「できますよー!落語なんですから。(頭の上を指し)ココで花見ができちゃうんですから」
なんていう会話が可笑しい。
廓のおばさんは登場せず花魁とのやりとりも少ない。そのかわり、空想で牛太郎とケンカするシーンが可笑しかった。互いの頭を「こうして、こうして…」と前後、左右に揺さぶりっこする。もちろん、このケンカは若旦那一人がやってるわけで、呆れたおバカぶり。面白かったな。また聴きたいです。


二人会というのは、一緒にやる人によって、普段はあまり見えないその人の意外な一面がのぞくというのが面白いです。二人が一緒の時、器用で直感的な三三さんは弟、左龍さんは大人で慎重な兄って感じ。改めて三三さんと左龍さんはいいコンビだなぁと思った。