【たまには演劇】 MIDSUMMER CAROL ガマ王子VSザリガニ魔人





※このブログ、落語について書いたものだけ載せているのですが、このお芝居には昇太師が出演している、だから落語と関係なくもない…というわけで、今回はライブ記録番外編。


昇太さんが出演するので観にいったお芝居なのだが、実は初演の時、観ようとしてチケットがとれず、諦めた芝居でもあった。ということもあって、この公演はとても楽しみだった。


舞台はとある病院。入院患者たちはそれぞれ屈折をかかえ、心を通わせることなくバラバラに生活している。患者のひとり大貫は嫌われ者の孤独な老人。自分ひとりで起こした事業で財を築いた有能な経営者だが、入院中に社長の座を追われる。
誰も信じず周囲を見下し続けてきた大貫は、病院でも傍若無人の振る舞いで皆から嫌われている。人から名前を呼ばれると、「お前が私を知ってるっていうだけで腹が立つ!」と毒づく、たいそうな偏屈モノ。そんな大貫が交通事故で入院してきた少女・パコと出会う。そして、二人をめぐる奇跡の物語が始まる。それは「いじわるとよわむしたちの記憶」。


(以下、ネタバレです。これから観て楽しみたいひとは読まないでね)


パコは交通事故のために“眠ると、その日いちにちの記憶がすべて消えてしまう”という記憶障害の後遺症がある。毎朝目覚めた時には、前日に会った人・出来事のすべてを忘れているのだ。パコのそういう障害を知らない大貫は、パコの言動を自分へのいたずらと誤解して、パコの頬をしたたかに打つ。後でパコの障害を知った大貫はさすがに反省する。翌日、再びパコに対面する大貫。しかし、この時パコは前日大貫に打たれたことは忘れている。彼女にとって、大貫は、いま初めて出会うおじさんなのだった。大貫は、少女に名刺を差し出し「大貫です…」と自己紹介する。おそるおそる手を伸ばし、そっとパコの頬にふれる大貫。するとパコは大貫の目をまっすぐに見て言う「…おじさん。おじさんとは昨日も会ったね。昨日もわたしの頬に触ったよね」。昨日の記憶がないはずのパコが、大貫の掌の感触だけを覚えていた。誰も何も留まることのできないパコの心の中に、大貫だけが存在できる…。
世界中の人から嫌われても平気だと思っていた男、「お前が私を知ってるってだけで腹が立つ」というのが口癖だった男の心に、「この子の心の中に居たい」という強い願いが生まれる。そんな自分の感情にとまどう大貫は、その夜、病院の待合室で生まれて初めて涙をこぼす。泣きながら、傍らにいる担当医・浅野に尋ねる「教えてくれ先生、どうやったら泣き止めるんだ?生まれて初めて泣いたから、どうやったら泣き止めるのか分からないんだ」。泣き止むには、いっぱい泣けばいい…と教えられ、吠えるように泣き続ける大貫。
…この場面、すごく胸を打たれる。劇中歌が流れるんだけど、それがもう、憎らしいくらいこのシーンにピッタリで、泣かせる(唄ってるのは、瓜生明希葉というひと、透明なきれいな声だった)。


でも、時間がたつにつれ、この場面よりも、“いじわる”な大貫の周りにいる“よわむしたち”、情けない患者達のエピソードが思い出される。例えば、拳銃で撃たれて入院中の暴力団員・龍門寺(山内圭哉が演じている)。龍門寺は自分を撃った「じゅんぺい」という名の犯人をかばって頑なにその正体を明かさないでいるのだが、実は彼がかばっていた犯人は小猿だったw。小猿・じゅんぺいは龍門寺の住まいの裏山に住む野生の猿で、時々龍門寺の部屋に遊びにきていた。ある時、龍門寺の部屋で彼の拳銃をおもちゃにしていて、つい龍門寺を撃ってしまったのだ。人間を撃った猿はキケン…と猟師に撃たれ殺されてしまう。それを知った龍門寺は、じゅんぺいとの思い出をせきをきったように語りだす。可愛がってた猿に撃たれちゃう暴力団員。
しかもその猿が死んだと聞いて、関西弁でまくしたてながら、いかつい顔でぼろぼろ泣いている。そんな龍門寺の姿はカッコわるくて可笑しくて、でも、たまらなく切ない。龍門寺にスポットがあたるこの場面は、大貫の号泣以上に、この芝居の見せ場かもしれない。


そんなふうに、全篇、大笑いしながら泣けてしょーがない、という不思議な舞台だった。
どうしてこんなに可笑しいのに泣けてくるのだろう…?
登場人物には完璧な良いひとは誰も居なくて、その意味ではふつうのひとたちだ。このお芝居は無様に生きてるふつうのひとたちに温かいまなざしがそそがれていて、たぶん、そのまなざしのやさしさに泣けるのだ。


パコと大貫とその周囲の人々に起こった奇跡は、結局、夢かと思うくらい一瞬で、最後に皆を待っていたのは無情な現実だった。うちひしがれる人々の中で、諦めて自暴自棄になるでなく激しく抗うでなく、時にふざけながら時にマジメに、淡々と現実をうけとめる医師・浅野(岡田浩暉)が印象的だった。


さて、肝心の昇太さんだが、皆が恐れる大貫にイタズラをしかけたりする不思議な男・堀米という入院患者の役。堀込は、かつてあの病院にいたいじわるやよわむしたちの思い出を抱え、その記憶を語り継ぐために登場する、狂言回し的な重要人物だ。いたずらっぽくちょっとひねくれモノの堀込に、昇太さん、ピッタリはまっていた。
「ガマ王子VSザリガニ魔人」というのは、パコがもっている絵本のタイトルです。交通事故にあった時、一緒にいたパコの両親は死んでしまうのだが、この絵本は母親からパコに贈られた誕生日プレゼントだった。で、劇の最後に、堀米は実はこの絵本の作者だった…というのが明かされる。


素敵なお芝居だった。昇太師匠は、初演を観て感動し出演オファーを快諾したという。ちかごろのSWAブログは昇太さんがアップした舞台の共演者紹介などが続いていて、芝居への入れ込みようが伺えた。舞台を観て、そのワケが分かったような気がする。




※龍門寺の小猿の名前、わたくし当たり前のように「ジョージ」と書いていましたが(いえ、あの、小猿といえばGeorge!って…)、「じゅんぺい」だったみたいです、こっそり修正。