3月前半の落語



3/1(月)
立川談春独演会
19:00〜21:10@横浜にぎわい座
開口一番 春太『湯屋番』
談春 『文違い』
仲入り
談春 『火事息子』


3/2(火)
こしらの集い
19:00〜20:45@お江戸日本橋亭
『まんじゅう怖い』
『文違い』
仲入り
お菊の皿


3/6(土)
神保町で一之輔の会
16:00〜17:45@神田餃子屋本店
雛鍔
『百川』


3/8(月)
鈴本演芸場 三月上席昼の部
12:15〜16:25
開口一番 柳亭市也『牛ほめ』
林家彦丸『幇間腹
鏡味仙三郎 太神楽曲芸
柳亭燕路『狸の札』
柳家喬太郎『夜の慣用句』
大空遊平・かおり 漫才
柳家さん喬『短命』
林家正蔵『新聞記事』
柳家小菊 粋曲
三遊亭圓歌 漫談『天皇陛下初めて落語で笑う』
仲入り
ホームラン 漫才
柳亭市馬粗忽の釘
柳家さん生『浮世床
林家正楽 紙切り
橘家文左衛門ちりとてちん


3/9(火)
志らくのピン
19:00〜21:05?@内幸町ホール
志らべ『小言幸兵衛』
志らく『唖の釣り』
志らく黄金餅
仲入り
志らく『柳田格之進』


3/11(木)
神楽坂落語まつり 神楽坂劇場二人会
18:35〜21:00@牛込箪笥区民ホール
立川らく太『蝦蟇の油』
立川志らく『松竹梅』
柳家喬太郎『錦木検校』
仲入り
柳家喬太郎『饅頭こわい』
立川志らく『柳田格之進』


3/13(土)
神楽坂落語まつり 毘沙門寄席 夜の部
18:30〜19:58@毘沙門天善国寺書院
開口一番 林家花いち『たらちね』
立川らく次『黄金の大黒』
三遊亭白鳥『はじめてのフライト』
古今亭志ん輔『子別れ』
仲入り
柳家小菊 粋曲
立川志らく黄金餅


3/14(日)
神楽坂落語まつり 毘沙門寄席 昼の部
14:00〜16:43@毘沙門天善国寺書院
開口一番 春風亭ぽっぽ『やかん』
柳家三之助『棒鱈』
桃月庵白酒『短命』
林家正雀『男の花道』
仲入り
ロケット団 漫才
柳家喬太郎幇間腹


第七回 新文芸座落語会
19:00〜21:15@新文芸座
開口一番 立川談大『持参金』
柳家甚語楼『粗忽の釘
桃月庵白酒禁酒番屋
仲入り
柳家喬太郎『カマ手本忠臣蔵


3/15(月)
立川談春独演会 アナザーワールド
19:30〜21:16@成城ホール
談春『野晒し』
仲入り
談春『猫定』


今月前半は若干立川流率が高かったかな?なので今回はこの半月に聴いた立川流の人々の感想。


談春とこしらの『文違い』
3月の初めに、談春師とこしらさんで『文違い』を聴きました。まったく“対極”にある『文違い』でしたが、どちらも良かったです。


談春師はいつも客席の照明を落として口演しますが、にぎわい座は暗い会場にぼうっと提灯がともります。その雰囲気がいい、この落語にあってるって言ってた。
2007年第一回「白談春」で『文違い』をかけた際、談春師が「この噺は、聴いているお客さんの頭に昔の廓の夜の暗さが浮かんできたら、自分としては成功」と話したのを思い出しました。


この日の『文違い』は幾分滑稽な印象が強かったかな。それと、芳次郎の冷酷・怖さが印象に残りました。
金をもらってそそくさと帰ろうとする芳次郎に、拗ねたお杉が金を返してくれとからむ。途端に顔色を変え凄む芳次郎。ヤクザみたいな男が上手いな、談春師は。


『文違い』って男女の騙しあいが哀しく滑稽で、ちょっと苦さのあるところがいいと思うのですが、談春師のはまさにそういうトーンです。ところが、翌日聴いたこしらさんのは“哀しさ”みたいなものはまるでないw、しかし、とにかく笑える!


『文違い』には田舎者(角造)が出てきますが、こしらさんはこれを“野田の醤油屋のオタクな若旦那”という設定で登場させます。コイツがたまらなく可笑しい!
「ご機嫌うるわしゅう、お染さん!」「僕はお染さんに会いたかったよ、会いたくなるといてもたってもいられなくなってしまう性分なのだ」そんな若旦那を、お染は「わかったよ、気持ち悪いねぇ」と心底気持ち悪がってるのw 
他所の妓のところに通っていたんだろ?と言われると「僕の好きな女はお染さんだよお染さん以外は女じゃないよお染さん以外はクソだよクソだクソクソクソクソ!」(←相手の目を見ずに区切らず息継ぎせずに言う様子を想像してください、そういうオタクっているでしょ?)、お染の母親が病気と聞くと「おーっと!病気フラグ立ったー!」ww
『文違い』であんなに笑ったのは初めてです。それにしても、『文違い』にこういうキャラクターをもってくるところが凄いよなぁ。こしらさんのユニークさって図抜けてるよ。


志らくの『黄金餅』『柳田格之進』
黄金餅』は昨年5月「みなと毎月落語会」以来、『柳田〜』は一昨年6月のピン以来でした。3/9〜13日の間に、どちらの噺も2回聴きました。


黄金餅はサゲが以前と変わっていた。また13日の毘沙門寄席では、9日のピンから更に変わったところもありました(以下は13日に聴いたものの感想です)。


志らくさんは、下谷・山崎町の裏長屋の世界を“黒澤明の『どん底』”に喩え、裏長屋の住人達を野良犬のように描く。人が捨てたゴミをあさり、屋台で飲み食いする人たちを物陰からじぃーっと凝視する長屋の住人達。金兵衛も、そんな飢えた野犬の群れの一匹。だけど、彼は西念の金でそこから脱出しようとする。
西念の遺骸を背負って焼場へ向かいながら、金兵衛はひとりごちる。生まれてからずっと野良犬のように扱われてきた、でも西念の金で人並みの暮らしができるかもしれない、「お前がひとり死んだおかげで、人間がひとり生まれるんだ!」。
(ピンの時は「お前のおかげでオレはうめぇもんが喰えるんだ!」って言ってましたが、↑このほうがいいと思いました)


だけど、夢中で西念の腹を裂く金兵衛はやっぱり野良犬なんだ、「ウォーン!ウォーン!」って吠えながら金を探す金兵衛。
文字通り“野良犬”そのものの金兵衛。その姿は怖くもあり可笑しくもあり、なんともいえない気持ち。


サゲは、まず金兵衛が開いた餅屋は「誰言うことなく“黄金餅”と呼ばれるようになりました」という言葉に続けて、男達のやりとりがある。まだ金兵衛の餅屋に行ったことがない男が尋ねる。「うまいのかい?」「いいや」「じゃ、なんで行くんだよ?」「時々、餅の中からカネ出てくるんだ」
(ピンの時は「誰言うことなく“黄金餅”と呼ばれるようになった」というところがなかったと思うのですが、それを入れたことで分かりやすくなった気がしました)。


今回の『黄金餅』は、わたしは二度目に聴いた時(3/13毘沙門寄席)のほうが良かったです。志らくさんの『黄金餅』って前から“怖いけど可笑しい”という印象があって好きなのですが、二度目に聴いた時のほうが、自分の中のイメージに近かったせいだと思う。


『柳田格之進』
今回、志らくさんは柳田と万兵衛の「友情」を全面に出せるように工夫したとのことです。これもピンでやったものと喬太郎師との二人会でやったものはちょっと違っていて、以下は喬太郎師との会でやったものです。


娘を吉原に売って50両を返した柳田のもとに万兵衛が駆けつけると、柳田は既に姿を消していた…というのが普通の『柳田格之進』ですが、今回はそこにまだ柳田がいて、万兵衛と言葉を交わすのです。


あの50両のことなら気にすることはございません、前から差し上げたいと思っていたくらいだと言う万兵衛に、柳田は尋ねる。「万兵衛殿、お前もわたしが盗んだと思っておったのか」「滅相もない、お友だちじゃございませんか、あなたがそんな泥棒みたいなことをするなんて…」と一生懸命言い訳する万兵衛。
それを聞いて柳田、半ば自分を蔑むように「友だち?武士と町人が友だちになれると思っておったのか?」「米や酒をめぐんで、その溝を埋めたと思っておったのか?」 「柳田は乞食ではないわっ!」
すると万兵衛、バシッと柳田の頬を打つ。
「貴様!武士の面体を!」「お詫び申し上げます、しかし、今までわたしはあなたにモノをめぐんだという気持ちはありません」
「もう、おしまいだ…」そう言って柳田は去っていく。


最後。
万兵衛は番頭は見逃してくれ、自分の首だけを斬ってくれと柳田に頼む。 柳田は万兵衛を斬ろうとするが、どうしても斬れず碁の盤を真っ二つに斬る。そして「斬れん!斬れん!そのほうの首は斬れん!」。そして「…友だちの首は斬れんよな」とつぶやいて、万兵衛の頬を打つ。 「いずぞやの貸しだ」。
「家名よりも世の中には大事なものがあるということを、娘はきっと分かってくれるだろう」と柳田。
こうして二人は和解する。「武士として失格だ、わしが弱かった」「いいえ、わたしが弱かったのです」とお互いに“自分のせいだ”と言い合う二人に、番頭が新しい盤を差し出して「どっちが弱いか、勝負したら?」「新しい碁盤があるのか?」「はい、粗忽で一つ余計に買ってしまいました」でサゲ。


わたしは、“町人が武士の頬を打つ”というところにまず違和感がありました。
例えば二人が乳兄弟で一緒に育ったとか、そういう間柄だったら分かるのですが、身分が違って、しかも大人になってからつい最近知り合ったばかりの関係で、あんな風に頬を打てるのかなぁ?と。
そもそも柳田と万兵衛に好感が持てない。志らくさんの描き方は、好感の持てるような描き方じゃないと思う。万兵衛は商人らしく如才ないけど物事を深く考えない風だし、柳田は融通がきかなくて空気が読めない男で(だから、万兵衛が柳田に米や酒を与える時に言う“番頭が粗忽で余計に買ってしまったから”という言い訳を言葉どおりに信じて、番頭に「また粗忽か?」などと冗談を言って番頭をムッとさせちゃう)、そんな二人がどうして気があったんだろう?よくわかりませんでした。
要するに、この二人の“友情”がそんなにいいものに思えない。
この噺には、面子が何よりも大事な武士の家に生まれて、面子のために自分を犠牲にして不幸を背負った娘が出てきますが、その重さの前には柳田と万兵衛の友情はなんだか薄っぺらくて釣りあわない気がするのです。


…ええと、いろいろ書きましたが、今回の柳田は自分はあんまり好きじゃないってことです。志らく批判をしてるわけじゃないですよ、だいたい今日(3/17)だって「県民ホールの喬太郎」「圓生争奪杯」というビッグイベントを差し置いて、ブロッサムに行っちゃいましたからね、わたしはw(『百年目』良かったです)

二月後半の落語



2/15(月)下北沢らくご二夜 3人SWA
2/16(火)下北沢らくご二夜 昇太の日
※下北沢らくご二夜のことは前回のブログに書いたので興味のある方はそちらをご覧下さい。


2/18(木)巣鴨四丁目落語会 夜の部
19:00〜21:40@studio FOUR
志の春『鮑熨斗』
志らら『宮戸川
志の輔雛鍔
仲入り
マグナム小林 バイオリン漫談
志の輔『猫忠』


2/20(土)落語×オペラ 柳家喬太郎『錦の舞衣』
17:00〜19:28@ティアラこうとう小ホール
開口一番 小太郎『動物園』
喬太郎『名人くらべ 錦の舞衣』前編 
仲入り
生野やよい(ソプラノ歌手) オペラ『トスカ』より『歌に生き愛に生き』
喬太郎『名人くらべ 錦の舞衣』後編


2/21(日)桂宗助・桂吉坊二人会 夜の部
17:00〜19:24@らくごカフェ
宗助・吉坊 トーク
宗助『ちしゃ医者』
吉坊『抜け雀』
仲入り
宗助『蔵丁稚』


2/26(金)真一文字の会
19:30〜21:24@日暮里サニーホール
『黄金の大黒』
『堪忍袋』
仲入り
明烏


2/28(日)特選落語会 柳家喬太郎の会
18:50〜21:40@日本橋社会教育会館8階ホール
小んぶ『初天神
小太郎『粗忽の釘
喬太郎 長いマクラ&『転宅』
コラーゲンはいごうまん 漫談『僕の細道 ヤクザ篇』
仲入り
喬太郎 『文七元結




こうして振り返ると二月後半はなかなか充実してた。聴いた落語はどれも良かったです。下北沢落語二夜は楽しかったし、志の輔師の『猫忠』、喬太郎師の『錦の舞衣』を聴けてラッキーだった(『猫忠』を聴いたのは3年前の朝日名人会以来。自分はライブではなかなか出会えない落語でした。『錦の舞衣』は初めて。そう頻繁にはやらないみたい)。初めて聴いた桂宗助師匠も良かったし(ちょっと古風だけど好ましい)、一之輔さんも面白かった(三席とも面白かった、自分がいちばん笑ったのは『黄金の大黒』でした)。
そんな中で最も印象が強いのは喬太郎師の『文七元結です。今回はその感想をちょっと書いてみるです。


わたしは喬太郎さんの文七を聴いたのは今回が初めてだった。
喬太郎さんの文七は、オーソドックスなのとオリジナルバージョン(こういう言い方でいいのかな?…ま、とりあえず)の両方あるみたいですね。昨年暮れの鎌倉「圓朝の人情噺を聴く会」では、圓朝に敬意を表するということだったのでしょうか、普通の文七をやったと聞きました。今回わたしが聴いた後者のバージョンは、長兵衛が佐野槌の女将に借りた50両で借金を返し、その後働きに働いて50両を貯め、1年後の大晦日に女将に返しに行く。その途中、吾妻橋で身投げしようとしている文七を見かけ、宝のような50両を与えてしまう…というものでした。若干、端折った部分もあったみたい。この日はたぶん主催者から文七をやってくれと頼まれてて、時間が押してたこともあってこっちのバージョンでやったのでは?と推察しております。


博打の誘惑を振り切って、一年間働きに働いて50両を貯めた長兵衛は、文七を、死んではいけない働いて50両貯めて返せばいい、きっとできると諭す。「生きてるといいことあるぞ。その気になってなんかやろうと思えばできるぞ」「俺な、返したヤツ知ってんだ。だからなんとかなるぜ」


しかし、文七は「自分は奉公人です、職人なら50両貯められるかもしれません、でも奉公人の給金ではムリです」「あなたは奉公したことがないでしょう?だから分からないんです」と泣く。
この理屈に、一言も返せない長兵衛。そして、懐の50両を抱えて心がぐらぐらと揺れ始める。そして苦しい逡巡の果て、ついに長兵衛は文七に50両をたたきつけるのだった。


からかわないでくれ、もし本当だとしても見ず知らずのあなたから大金をいただくいわれがないという文七に、長兵衛はこの金がどんな金かを聞かせる。そんな金なら余計にもらえないと言われると、「今、娘に言われたんだよ!あたしはいいから、その人にあげてって!」「明日っから女郎になんだい!でも、死なねぇんだい!」


「自分ができたんだからお前もできる」という長兵衛の理屈も、職人とお店ものは違うという文七の理屈も、どちらもよく分かる。思わずつりこまれるような説得力がある。でも、理屈だけではなく、喬太郎師の人物の感情の描き方、表現が素晴らしいのだった。だから、もの凄く引き込まれるのだと思いました。


主人と番頭が文七を叱る場面も良かった。
文七から事情を聴いた主人は、文七に命じる「(長兵衛の財布を)持ちなさい」「おまえ、その金の重さを覚えておきなさい」。このセリフ、カッコ良かった。


最後の場面もいいんだな。
長兵衛は50両が出てきたこと、文七が死なずにすんだことに安堵するが「でも、すまねぇけど、おまえのツラ見たくねぇんだ。帰ってくれ」「そそっかしいのは愛嬌と限らねぇぜ。お前の粗忽で娘が一人女郎になったんだ!」
長兵衛は主人が差し出した50両を受け取ろうとしない。何故ならもう娘は女郎になってしまって今さら金を返されても仕方ないから。今になって金を受け取れとは「皮肉だなぁ、旦那」。


“いったん懐から出た金だからもういらない”という理屈よりも、「大事なのは金じゃない、娘だ。でもその娘がもどらない以上、金なんかなんの役にも立たない、だからいらない」という理屈のほうが、わたしは“江戸っ子”らしい気がして腑に落ちた。




ところで、ネットで多くの落語ファンのこの『文七元結』についての感想や意見を拝読しました。「(古典)落語らしくない」という感想があって、あぁそんな風に感じる人もいるのかと興味深かった。


自分は、ある時から“落語がどうあるべきか?”というようなことは言わないようにしようと決めました。落語がどうあるべきかを考えて決めるのは落語家だと思うから。
わたしの周りにいる、今の落語をライブで観ているお客さんの中からは、時々「それはあえて落語でやることか?」「それならコントでも演劇でもいいのではないか?」というような声が聞こえてきて、それを聞くと、言われてみれば確かにどうなんだろう…と考えてしまうことはあります。でも自分は、自分の心に響く、心を震わせてくれる高座だったら、どんな落語でも肯定したいと思ったです。この日の喬太郎さんの『文七元結』には間違いなく心を打たれた。自分はそういう落語家の落語にお金を払いたい。


いろんな落語ファンが、それぞれの価値基準で今の落語を評価して、自分がいいと思った落語家のライブに行けばいいと思います。そういう客の動き(身も蓋もないことを言えば“どこにお金が落ちているか”)を見て、落語家がどんな落語をやるかを決めていけばいいと思います。お金が落ちない処は、結局は文化として残らないと思う。
わたしとしては、自分がいいと思ってる落語家がこれからも活躍してくれることを、いつまでもその高座をライブで観られることを祈るのみです。

下北沢らくご二夜



今日はアナザーワールドに行くはずでしたが、風邪で咳がでるのでやむなく欠席。時間ができたので一昨日&昨日に本多劇場で開催された下北沢らくご二夜のことを書いてみました。


2/15(月)3人SWA
19:00〜21:05
第一部
三遊亭白鳥『頑張れ!JAL(仮)』(『奥山病院綺譚』リニューアル)
柳家喬太郎『同棲したい』(自作リメイク)
春風亭昇太『加藤支店長奮戦記』(彦いち作『保母さんの逆襲』リメイク)
仲入り
第二部
三題噺(客席からお題を募り“オリンピック”“朝青龍”“腰パン”に決定)を舞台上で創作、できあがった噺を3人でリレー


●今回のSWAは二部構成。第一部は今までにやったことのある新作を作り直したり、シャッフルしたりという、いつものSWA通りの展開。


白鳥師は『奥山病院綺譚』を寄席のおじいちゃん・おばあちゃんにウケるように、寄席風アレンジを施してリニューアル。「99%ネタ下ろしです!」ということで、かなり厳しい出来でした(笑)。
大学生が卒業旅行に2,980円のJAL沖縄ツアーに出かけた、搭乗した機内にはもんぺ&割烹着のおばちゃんキャビンアテンダントがいて…というお話。このおばちゃんが、オリジナル『奥山病院綺譚』で軽自動車に取り付く給食のおばちゃんの幽霊です。舞台はもはや病院ですらないw


喬太郎師は、息子の就職祝いの日に「父さんは母さんと離婚します!」「父さんはこれから母さんと同棲する!」と宣言してアパートで同棲生活を始める夫婦の話『同棲したい』。桜木健一主演『刑事くん』『柔道一直線』の主題歌を歌うわ、「父さんは今日からATGだ!」「でも実は『同棲時代』は松竹なんだ!」「今日の空は、限りなく透明に近いブルーだな」「(母さんに)赤頭巾ちゃん!気をつけて」と、極めて限られた年齢層にしか分からないネタをふりまくるわ、好き放題やっていた喬太郎師。若い頃から同棲に憧れていたお父さんに付き合って同棲生活を始めちゃう母さんの“同棲”のイメージが「パンツ一枚でインスタントラーメン作ってる感じ?」だっていうんですが、分かるような分からないようなw 喬太郎さん、かなり噛んでたが「最近は古典でも噛む!」と開き直っていました。


昇太師は、男にお金を騙し取られて捨てられた保母さんが銀行強盗に入るという、彦いちさんの『保母さんの逆襲』を、保母さんを“子供ショーのお姉さん”にして上演。「グーチョキパーで、グーチョキパーで、なに作ろー♪」って唄って、チョキで二挺拳銃つくって銀行強盗に入るお姉さんが可笑しい。


●仲入り後はSWAの創作過程のエッセンスをお見せします!という“公開!SWAネタ作り”。三題噺を作って上演。
客席からあがったお題は「オリンピック」「桜」朝青龍」「腰パン」「ツイッター」「彦いち」「吾妻橋」。拍手の大きさで「オリンピック」「朝青龍」「腰パン」の三題に決定。
最終的には、相撲の道を諦めてパン屋になった元力士が、相撲がオリンピックの正式種目になったことがきっかけで、再びオリンピック選手として相撲の世界に返り咲く…というストーリーに落ち着いた。


ネタを書いたホワイトボードの前に三人が座って、あーだこーだ喋りながらだんだんストーリーが出来上がっていく過程がとても面白かった。
みんなそれぞれ自分の得意な世界にもってこうとするんだねw 白鳥師は「舞台はさ、冬季オリンピックだから、“瀬戸物(陶器)の店オリンピック”ってのはどう?」とか「(お題“腰パン”から)おじいさんとおばあさんがやってるさびれたパン屋の噺にしよう」といかにも白鳥さんが考えそうなストーリーを提案、喬太郎師は喬太郎師で「引退してパン屋を開く力士なんだけど、まだ相撲に未練があるんだよ」っていい噺にしようとし、昇太さん「それじゃ、オレにもチャッピー入れさせろよ!」(笑)
“元力士のパン屋”の話に落ち着く前には、喬太郎師の「ちょっと待って!それ気をつけないと『千早振る』になるよね?」の一言で、「いっかい朝青龍をバラそうよ」ということになってデブなイケメン3人グループ“朝・青・龍”が主人公の物語になりそうになったりもした(笑)。


一人が言ったひとことでイメージがどんどん膨らんでいく時もあれば、煮詰まって沈黙する瞬間もある。でも、短い時間でゴールをめざして、メンバーが次々にアイディアを口に出していく。こんな風に皆でものを創る、アイディアを生み出していくって楽しいことだ。


上演は、白鳥→喬太郎→昇太の順でリレー。
白鳥師、「〜でごんす!」ってワケわかんない力士言葉を喋るパン屋さんを演じ、パン生地に見立てた座布団を高座で思いっきりこねる!やっぱりそれか!(笑)
手拭いとセンスでチョココロネを作る仕草はナイス!奥さんが「父ちゃん、喫茶店ブルードラゴン”からモーニングの注文だよ!」って、そこに“朝青龍”を持ってきたかー!w


喬太郎師は、泣きながらパン生地をこねて、涙でしょっぱいチョココロネを作ってしまう夫を奥さんが「オリンピックの種目に相撲が入ることになったんだよ。お父ちゃん、もう一度やってみたら?」と励ます…という喬太郎節で噺を運び、昇太師にバトンタッチ。


昇太師。国際種目となった相撲では、パンツの上にふんどしをつけるという姿で競技をする。オリンピック選手となった男は腰パンにふんどしをつけた姿で空港からオリンピック開催国へ旅立とうとする。「そんな格好で恥ずかしくないんですか?」と周囲の人になじられ、「反省してマース」(笑)
打ち合わせたネタはほとんど白鳥&喬太郎がやってしまって、どうする?!と心配したけど、さすが昇太さん!


そこでサゲのはずでしたが、白鳥師が強引に再び高座にあがった。オリンピックで金メダルを獲得して戻って来たパン屋には取材の新聞社が殺到。「新聞とパン、どちらも記事(生地)が大切です」という地口落ちで下げました。


いや〜、第二部、面白かった!!




2/16(火) 昇太の日
19:00〜21:10
オープニングトーク
『リストラの宴』
ナマ着替え
『錦の袈裟』
仲入り
愛宕山』〜『本当に怖い愛宕山


●今回はゲストなし、着物姿で登場した昇太師。オープニングトークは昨日の三人SWA、旬のオリンピックのことなど。「反省してマース」のカレは東海大だそうですが、同校OBの昇太さん「(公式ユニフォームは)行き帰りにちょっと着るだけでしょ?シャツの裾なんか、その時だけピュッと中に入れればいーじゃないですか?頭の悪い中高生じゃないんだから」(笑)、ホント、ホント!
でも彼のおかげで当分ネタには事欠かない、昨日も今日も“反省してマース”をフル活用してたw


●昇太さんの新作には、年々やりやすくなる噺とやりにくくなる噺があるそうです。前者の典型は『ストレスの海』。世の中が年々ストレスフルになってるのでやりやすくなる一方なのだとか。対して『渚の二人』などは近頃まったくやっていない(“日本海”の海辺を散歩していたカップルが行方不明になって大騒ぎになる、その真相は…という噺だそうですが、なるほどコレはできませんね、イマw)。
「これも最近やりにくいんですねぇ」と二席目の『リストラの宴』。前に浅草でやったら、すごく辛そうなカオで聞いてて全然笑わないおじさんがいたそうで、気になっちゃってそれ以来やってなかったそうですw


●『リストラの宴』の後ナマ着替え(BGMオザケン)。着替えながら、9月の赤坂レッドシアターでの公演(SWA&独演会)の告知。そこでは小朝師に勧められた新しいネタをやるそう。“小朝師の勧め”といえば、わたしは大銀座落語祭での昇太『牡丹灯篭』が忘れられませんw あれをまたやってくれるんでもいいなぁ。


●弟弟子の柳好師と兄弟子の小柳枝師匠の話。昇太さん、相変わらず柳好さんに遊んでもらってるそうで、最近は柳好さんに「ヘンなカオして」「蛇!」「イカ!」って命じて遊んでるんだそうです。昇太師「与太郎をやる時は柳好さんを思い浮かべてる」「与太郎のむこうに柳好さんがいるんですねぇ」。そうか、昇太落語の与太郎のバックボーンは柳好さんだったのか!w
そんな与太郎が登場する『錦の袈裟』へ。
自宅に帰って「ごめんください!ごめんください!」と玄関口で叫び、おかみさんに「女郎買いにいくんで、錦のふんどしを用意しなきゃいけない」ってまったく悪びれずに言っちゃう与太郎。そして、そんな与太郎が可愛くてたまらないおかみさん。なにかと「バッカだねぇ〜〜」って言うんですが、言いながらすごく嬉しそうなのね。「ばーか!」って言いながら、与太郎の口元を両手でつまんで横にう〜んと伸ばしたりしますw。
このおかみさんは昇太落語によく出てくるキャラで、わたしは大好きです。昇太さんの『抜け雀』『火炎太鼓』にも出てくるよ。あと『崇徳院』にも出てくるかな?とにかく、昇太さんのおかみさんは、旦那をバカ呼ばわりしながら実は大好きで、そこが落語ワールドのおかみさんらしくていいです。
与太郎も可愛い。おかみさんに「うまく持ち上げるんだよ」と教えられた口上をちゃんと言えないわけですが、たどたどしい言い方が実に愛らしい。和尚さんに「うちの親戚のキツネに娘がつきまして…?」「うちのキツネ?キツネ?むすめ?」「うちの・・・親戚の・・・・娘!に・・・ここからが肝心ですよ、持ち上がってください!」(笑)


●最後は『愛宕山』と、愛宕山その後を描いた『本当に怖い愛宕山』。『本当に〜』は昨年3月のSWAで上演したもの。昇太さんの『愛宕山』は大好き。かわらけを投げるところ、着物と長襦袢をチーッ・チーッと裂いて、縒って、石を結びつけてひゅーんと投げるところなんか、動きがイキイキしててダイナミックでカッコいい。そして面白い。
『本当に〜』のストーリーは以前も書いたので興味のある方は読んでみてください。今回も狼と商売の神様が可笑しかったです。


●昇太さん、柳好さんに「今日はなにやるんですか?」って訊かれて「愛宕山の上下」と答えた。「あの噺って下があるんですか?」「そうだよ、知らないの?」(笑)。「だから、柳好さん、今まだ『愛宕山』に下があるって信じてますよ」と言ったとたん、舞台袖から憤慨した柳好さんが登場。しかし昇太さんに「蛇!」って言われると、素直に蛇マネでペロペロ舌を出す、心優しい柳好さんであった。

2月前半の落語



2/2(火) 新にっかん飛切落語会 第12夜
18:30〜20:41@紀伊國屋サザンシアター
開口一番 柳家花いち『たらちね』
柳家三三『おしくら』
林家たい平粗忽長屋
仲入り
柳家花緑『おせつ・徳三郎(下)』
柳家喬太郎『おせつ・徳三郎(上)』(花見小僧)
この番組、もともとは花緑師がトリの予定だったそうだ(花緑師は高座で主催者からそう頼まれたと言っていた)。が、当日配られたプログラムは喬太郎師がトリになっていて、急遽プログラム通りにやることにしたみたい。で、そのせいかどうなのか、『おせつ・徳三郎』の“下→上”という珍しい逆リレーを聞けた。
本来は喬太郎花緑で上下をやる予定だったんじゃないかしら?間違ったプログラムを配っちゃったから、花緑師が喬太郎師に花をもたせたのでは?で、喬太郎師は気転をきかせて洒落で下をやったんでは?…とかとか、どうでもいいことを推測して楽しませていただきましたw ともかく楽しい趣向でした。
喬太郎師の『花見小僧』は面白かった。
番頭が“お嬢様に虫がついた”“その虫は徳三郎”と注進する。花見の御供をした定吉がなにか知っているはず、定吉から聞きだしては?と勧めるが、旦那は定吉が素直に答えるだろうか?といぶかる。番頭は“年二回の宿りを三回にしてやる”“小遣いをやる”とエサをちらつかせる一方で、言わないと灸をすえると脅せばよい、と。「そこはアメとムチですな」「え?花と蛇か?」「違います!それではムチとムチです」w
「そういう腹芸は苦手だな」という旦那に、番頭、旦那(喬太郎師)の腹を見やり「…得意そうですがな」「その腹芸じゃない!」。“その腹芸”の見事さは後日(12日)確認出来ました(笑)。


2/3(水)吉川潮『戦後落語史』刊行記念落語会
19:00〜20:28@紀伊國屋サザンシアター
第一部 
対談「昭和の四天王 柳朝、談志、円楽、志ん朝」:吉川潮立川志らく
司会:春風亭勢朝
第二部 落語 立川志らく文七元結
第一部はほぼ本の内容と重なり、吉川氏が初めてナマで高座を観たのが小えん時代の談志『源平盛衰記』だった…という話から、家元のこと、二朝会(柳朝・志ん朝二人会)のこと、S53年の落語協会分裂騒動のこと等。
著書『戦後落語史』については「この本は作家として書いている」「わたしは作家。作家は人間を描く職業だと思っている。人間を見て“その人がどう動いたか”という視点で書いている」・・・


第二部は志らく師の高座。「四天王がやった落語をやります」と『文七元結』を。この前聴いたのは昨年8月のピン。その時と大きく変わってないと思うけど、人情噺的なウェットな感じはますます薄くなっている印象。トントントン…と、ずいぶんテンポがよかった。東橋のシーンなどずいぶん短くなった気がする。およそ40分弱。


2/8(月)鈴本演芸場 夜の部
17:20〜20:52
開口一番 古今亭きょう介『子ほめ』
初音家左吉『初天神
鏡味仙三郎社中 太神楽曲芸
隅田川馬石金明竹
入船亭扇遊『家見舞い』
林家正楽紙切り
春風亭百栄『愛を喩えて』
五街道雲助時そば
仲入り
大空遊平・かほり 漫才
宝井琴調『浜野矩随』
花島世津子 マジック
桃月庵白酒『文違い』
昨年「日本橋夜のひとり噺 桃月庵白酒の会」で、白酒師は「廓噺をなんとかしたい」と言っていたが、この日の『文違い』はとても良かった。前に聴いた時よりも面白かった。
田舎モノの角造が可笑しかったこと!
半ちゃん「なにかってぇと“ひーふ・ひーふ(夫婦)”って、ラマーズ法か!」(笑)
面白くて面白くて、ほんのちょっぴり哀しさもあって、とってもいい『文違い』でした。


2/9(火)志らくのピン
19:00〜21:04@内幸町ホール
志ら乃『星野屋』
※以下志らく
『お七』
『笠碁』
仲入り
『妾馬』


志らく師のマクラは、入院中の家元の話と朝青龍の一件について。家元は最近だいぶ調子がよろしいとのことなんですが、輸血したらすっかりいい人間になっちゃったっそうですw


『お七』は初めて聞いた。圓生がやった噺だそうですがヤな噺だしあんまり面白くない。
子供が生まれて祝っている夫婦のところに、ひねくれ者の熊がやってきて、やたら縁起の悪い言葉を並べて嫌がらせをする。その挙句、子供の名が“お初”と聞いて、大きくなったら『お初・徳兵衛』のように心中すると言って夫婦をヤ〜な気分にさせる。
で、その後熊に子供が生まれ、意趣返しのために男が熊のうちに乗り込む。でも、この男はちょっと弱いヒトなのでw、悪口が上手く言えない。
「ボク、土左衛門〜」(お初・徳兵衛は入水して死ぬ)って言うところも、「ボク、野晒し〜」って言っちゃうw
熊の子供は“お七”なので、『八百屋お七』の覗きからくりの口上で嫌がらせをしようと試みるのですが、これも上手くいかなくて、熊のほうが上手。それを聴いてるうちに男はお七が可哀そうになって泣き出してしまう。お七が死なないように「毎晩火の用心をします」というサゲ。
覗きからくりの口上は、志らくさんが昔、大道芸の芸人から教わったもので、しらくさんのオリジナルだそう。


志らくさんの『笠碁』はとても好きな噺。男の友情を描いた映画はたくさんあるが、落語ではこの噺…と。志らく師「友情とは不様なもの」。碁でケンカするじいさま二人はみっともなくてブザマだけど、そこが人間らしくて可愛い。


今回は、“待った”をかけているといつまでも上手くならない、今日は待ったなしでやろうと言われたほうが「今、わたし、小ちゃな感動をしました!」「面白いですなぁ、待ったなしというのは」と大いに賛同の態度を示しました。だから、後で「待った」をかけられてムッとする…というのがよく分かります。
あと「でしょ!でしょ!」と子供のようにはしゃいだり、二人がそれぞれ「俺の相手ができるのは、アイツだけ」「あいつの相手は私だけ」とニンマリ笑う顔が、ますます可笑しかった。
お金の工面に来た男が「西洋のヤサイみたいな顔でそこに立ってた」、笠をかぶって肩をすくめチラチラ横を見ながら通り過ぎる「柳家小さん戦法」、最後にハグするところ(今回はとん・とんと片手ずつ相手の肩に手をおいて、そのあとぐっと抱きしめるのが可笑しかったw)、好きなところいっぱいあるなぁ、この噺。


『妾馬』 今回は八五郎士分になって馬にのって長屋に帰るというところまでやってくれました。
侍だから馬に乗らなくちゃいけないんだけど、行きは八五郎は馬をひいて長屋まで行く。母親をお屋敷に連れて帰ろうとするのだが、御供に「馬にお乗り下さい」と頼まれ、母親と共に馬に乗る。でも、御し方を知らないから、思い切りムチをいれちゃって馬が暴走。八五郎様、どこへいらっしゃるんですか?!との声に「前へまわって馬に訊いてくれ!」というサゲ。
え、それだけ?っていうサゲで、志らく師「前回のピンの『鰍沢』はびっくりオチでしたが、これもある意味びっくりオチです」。


八五郎の母親(おトラ婆さん)が、ちゃっかりしてて柄が悪くて、元気な長屋の婆さんという感じなのがよかった。お鶴の件で大家に呼ばれると、店賃の催促だと勘違いしてなんとかいい逃れようとする。八五郎と親子だなぁw
八五郎が大家に軽口を叩いて遊ぶところも好き。大家に“二本差し”になれると言われて、八五郎「え?日本橋?」、大家「なってみろ!日本橋(怒)」とか。
志らくさんは、この噺を「人情噺ではなく、長めの滑稽噺」という意識でやっているとのこと。たしかに、八五郎がお鶴と殿様に「ババァが初孫を抱けないねってメソメソメソメソ泣きやがんだ」「殿様、うちのババァに赤ん坊を抱っこさせてやってください」と頼むところなど、志の輔師や談春師の『妾馬』のその部分に比べたら、だいぶ短いし、セリフに間をとったりしない、サラッとした演出。でも、ドライっていうんじゃなく、ほのぼのした感じがちゃんとあって、好ましい『妾馬』だった。


2/10(水)第15回角庵寄席 春風亭一之輔
19:08〜21:16@カフェ角庵
『唖の釣り』
『徳ちゃん』
仲入り
『らくだ』
マクラが面白かった(落語が面白い人ってマクラも面白いですね、大抵)。
つい一昨日、家族サービスで久々にディズニーランドを訪れた一之輔さん、「ディズニーランドで芸人らしさを学びました」。
ファストパスのシステムを理解してなくて、人気のアトラクションにはほとんど入れなかった。で、イッツ・ア・スモールワールドとかあの手の比較的空いてるアトラクションを回った。
「なかなか楽しいところですよ、チキルーム。第6志望・第7志望のところでしたけどね」。そして、ふと思ったのだそうです。「オレはチキルームのような落語家になろう」w
あの落語家もこの落語家も、人気のあるヒト達のチケットはすぐ完売してしまって手にはいらない。そんな時「あ、一之輔の会があるじゃないか!」と次善の策wで来てもらえる、そんな落語家を目指そう!と。頑張れ、チキルーム芸人!


一席目は春風亭のお家芸『唖の釣り』。昨年五月の真一文字の会以来。釣りをやる奴はバカだと言われた与太郎が、同じく釣り好きの七兵衛さんちにやってきて「…“バカ”って言うんだよ、でもあたい“バカ”じゃないってったら、いいいやオマエは“バカ”だって…」とバカ・バカ・バカと連発、七兵衛さん「ブっ飛ばすぞ、この野郎!」ここんとこ可笑しい。
いちばん笑えるのは「口をきけなくなった七兵衛さんが「オエ、オア、オエ、アエ…」ってデカイ声でワケわかんないこと言いながら身振り・手振りしてるところ。


一之輔さんの『徳ちゃん』は初めて聴きました。敵娼が物凄く恐ろしい。「よく来たねぇ!花魁だよー!」、花魁じゃないよ、イモを齧る様子が巨大なゴリラにしか見えないよ!逃げる噺家を追って床を踏み抜き「助けてくんろー、足抜いてくんろー」、つい手をさしのべた噺家を「隙ありっ!」と捕まえて唇を奪おうとするゴリラ花魁。


『らくだ』 一之輔さんは登場人物の微妙な心理を表情の演技だけでちゃんと観客に分からせて、しかもそこがとても面白い。噺の間、表情が死んでるときがない。『らくだ』も、一之輔さんの表情が面白くて観てて飽きなかった。一之輔さんは眉毛がよく動きますね。屑屋が困ってるときの眉毛は八の字に垂れるし、半次がすごんだり重たいらくだを抱きかかえる時なんかは、眉がキッと上がる。
頬の筋肉もよく動く。半次に「自分で自分のハラワタ見たことある?意外とキレイだよ」と囁かれた屑屋の頬がぴくぴくと震えるw


チキルーム芸人・一之輔さんの魅惑のライブ。これで2,000円(予約)、しかもふんわり&しっとりの手作りシフォンケーキのお土産つき。おトクだ!


2/12(金)如月の三枚看板 喬太郎・文左衛門・扇辰
19:00〜21:20@銀座ブロッサム
開口一番 入船亭辰じん『たらちめ』
柳家喬太郎『たいこ腹』
入船亭扇辰『徂徠豆腐』
仲入り
橘家文左衛門『らくだ』


喬太郎師はトリの重圧から解放されてよほど嬉しかったのでしょうか、楽しげに馬風師匠の『峠の唄』の踊りを舞ったりなんかして。「10年ぶりに踊りましたっ!」w 
若旦那に命じられてイヤイヤつき出した一八のお腹がうねるうねる!若旦那「何故おまえがこの噺を覚えたかわかったよ。あるものは利用しようって魂胆だね」(笑)


扇辰師の『徂徠豆腐』は初めて。「商売ものはいつか金を払えばよい。しかし飯をめぐんでもらうと乞食になるから断る」「えらいっ!あっしゃ、旦那は世に出ると思いますよ!」〜「旦那!そのご様子じゃ世に出ましたね!」・・・豆腐屋七兵衛は絵に描いたような単純明快な江戸っ子で、あくまで爽やかな『徂徠豆腐』という印象。それにしても扇辰師匠のモノを食べる仕草は、なんでもうまそうに見える。豆腐もしかり。


この日の『らくだ』は、自分が今まで聴いた文左衛門『らくだ』の中で最も良かったです。そう感じたのには、一昨日一之輔さんの『らくだ』を聴いたせいもあるかもしれないです。一之輔さんはおそらくこの噺を文左衛門師に習ったのではないかと思う。セリフや運びはほぼ同じなのですが、例えば一言のセリフのインパクトが全然違う、「オレの名前なんてんだ?」「七輪が一輪になっちゃう」「なにコレ?今朝はこうじゃなかった」…これらのセリフは一之輔さんもつかってて、もちろんちゃんと可笑し味があるのですが、文左衛門師は、その一言でワッと会場が笑うのだった。文左衛門師がどれだけこの噺を磨いて磨いて磨き続けているか、分かったような気がしました。


2/13(土) 立川志らく独演会
18:30〜20:47@アルカディア市ヶ谷(私学会館) 3F富士
らく八『強情灸』
らく次『片棒』
志ら乃『壷算』
仲入り
志らく『短命』
 〃 『文七元結
この日、開演から1時間過ぎても志らく師は現われなかった。らく八さん→らく次さんとつないで、ついにめくりに名前のない志ら乃さんが、らく八さんの着物を着こんで高座に登場。「師匠来た!」の合図を求めてチラチラと横をみながら必死につなぐというスリリングな展開に!(志ら乃さん、面白かった!)
一緒に観ていた友達と「志らくさん、きっと忘れちゃってるんだよね」と噂していました。そして、もし志らくさんが来なかったら、らく兵さんがトリをやってくれるといいなと密かに願っていた(焦ったらく兵さんが観たかったんだもん)。


志らく師は公演日を14日と間違えてて、自宅で奥さんとオリンピックの開会式中継(再放送と思われる)を観ていたそうです。
一生懸命つないだ弟子たちには、あくまで低姿勢に「ありがとね」と声をかけたそうですが、高座では「弟子達は3人でつないだが、わたしは(ブロッサムに来ない談志を待って)ひとりでつないだ」とちょびっといばるw そういうところが志らくさんらしい。


仲入り後、50分弱で『短命』と『文七元結』の二席を。『短命』は、会場に駆けつけたばかりで落ち着かなかったのかもしれないが、そのせいか、察しの悪い八五郎に苛立つご隠居が妙に面白かった。「あたしは何も言わない!言葉のウラを読みなさい!」とお嬢様のフリで悶えるご隠居。バカに可笑しかった。そして、女房の「オカエンナハイ」のダミ声が素敵でしたでした。
志らく師、昨日のmixi日記で、この日のお詫びと共に、来る3/21独演会では「凄まじい落語をお聞かせします」と宣言されてました。行かれる方、楽しみですねw

2010年1月の落語



今年もよろしくお願い申し上げます(遅きに失するにも程があるくらいの遅すぎなのですが、まだ今年のご挨拶をしていなかったことを思い出しましたので…)。
さて。
今年の落語始めは1/5、今月の落語活動状況はこんな感じ。中旬以降は忙しくてあんまり落語に行けませんでした。1ヵ月まとめての報告なので長いです、特に志の輔らくごin PARCOは。覚悟して読むか適当に読み飛ばすか、どっちでもお好きなようにしてくだされ。


1/5(火) 第66回新春プラザ寄席
18:30〜20:53@大田区民プラザ大ホール
志らく花緑 ご挨拶
柳家三三『引越しの夢』
立川志らく『らくだ(上)』
仲入り
柳家喬太郎『初音の鼓』
柳家花緑『三軒長屋(上)』
今年最初の落語はとてもいい会でした。四人とも良かったが、特に印象的だったのは花緑師の『三軒長屋』 。爽やかで躍動感があって、ちょっとオーバーだけど、高座がキラキラ輝いて見えましたよ、ホントに。二階で喧嘩が始まるところ…“獅子舞”のしくじりとか、過去の行状をわーーーっと言い立てるところ…なんか、リズムがとても心地よくて、聴いてて心が晴々してきた。落語に“爽やか”なんて粋じゃないのかもしれないけど、あんなに爽やかで、それでいて嫌味がないのは“血”と“育ち”なのか。ともかく、今年最初に、こんなに気持ちいい高座を観られて良かった。


1/6(水)立川談春アナザーワールド
19:30〜21:42@成城ホール
談春鰍沢 
仲入り
談春明烏


昨年の談春師は落語のエントリー層を獲るという活動に力を入れていた(そんなこともあって、自分はしばらく談春師から遠ざかっていた)。そうした活動が一段落して迎えた今年。談春師はどうするのかな?どんな落語をやってくれるんだろう?というのを確認したくて、久々に出かけた談春独演会でありました。


明烏のマクラで志ん朝師匠の思い出(東横落語会で志ん朝の『明烏』を聞いた、またその時、楽屋で聞いていた志ん朝と談志のやりとりが忘れられない…というもの)を語ったのだが、その際“昔の名人はヨコに広げる”“縦に積み上げるのを好まない”という発言があった。ヨコに広げるとは「レパートリーを広げる≒いろんな噺をやる」ということで、縦に積み上げるとは「芸を深める」ということだろう。
こうした発言や会の冒頭の話などから、今年、談春師は“ヨコに広げる”ことを意識して落語に取り組んでいくつもりってことが確認できた。
で、この会は、一席は“今まで手をつけていなかった噺(ネタおろし)”“昔一度やったきりそのままにしていた噺”をやる場にするとのこと。早い話が“勉強会”。この会でかけたネタは、その後別の会でもやっていくようにしたいとのことなので、この会を逃しても別の場で聴ける可能性があるってことです。


今回は鰍沢がネタ下ろし。“『芝浜』の勝五郎”“『妾馬』の八五郎”といった、自身の個性が登場人物に強烈に投影されている談春落語に比べると、まだまだおとなしく、細かな言葉遣いこそ違うが、全体的にはほぼ“圓生の『鰍沢』”という印象だった。
これがこの先どうなってくのか?ってのが大事。


その後、現在までの間に、談春師は蕨で久々の『芝浜』を、三鷹で『包丁』をやったそうだが、昔から談春を観ている落友たち(二つ目時代から観続けている人たち)から上々の評判が聞こえてきている。また、14日の「志らくのピン」では、志らく師が先に談春師がやった『鰍沢』『明烏』をやった。“ヨコに広げる”談春師に対して、志らく師は“縦の変化(芸の進化・深化)”を志向する人で、落語へのアプローチが違う二人を期せずして見比べることとなった。こういうのはね、ホント面白いですよ。そんなこともあって、今年は「また談春観るか」って気になっております。


1/10(土)志の輔らくご in PARCO
14:00〜16:40
『身代わりポン太』(今年ネタおろしの新作)
『踊るファックス』
仲入り
中村仲蔵


この公演は、会場の空気も志の輔師の気構えも“普通の落語会”とは全然違うと思う。客は思いっきり「楽しませてちょうだい!」という期待に溢れてここに来ていて、その期待に応えようとする楽しい演出がロビーにも舞台にもちゃんと用意されている(裏方さんや売店の売り子さんにいたるまでスタッフの気が揃ってて、“楽しませます!”というホスピタリティに満ちてる気がします。落語会でここまで気持ちよく迎えてくれるところってなかなかない)。
そして、お正月のパルコ公演における志の輔師の落語は、パルコ以外の会でやる落語とは違う。志の輔師がかねてから繰り返し言っているように、志の輔師はこの公演を“お正月以外の11ヶ月のパルコ”を意識してやっていて、他の落語家・普通の落語会は歯牙にも掛けていない。志の輔師が比較の対象としている見ているもの・届こうとしている場所は、落語の世界にはない。だから、パルコに“粋で江戸前でオツな落語”を期待していったらいけないと思うし、この公演を観て「これが落語なんだ!」と思ったら、ちょっと違うと思う。
今年の公演は、そんな志の輔らくごのエンターティンメント的性格がより強く鮮明になっていたような気がしました。


このお正月、故郷富山は大雪だった。車で移動中、白い雪に覆われた大きなモニュメントのようなものが15、6本並んでいるのを見た。それは、完成間近で予算が凍結し作りかけのままになった道路の橋脚。「仕事で全国あちこちに行きますが、昨年はいたるところでそういう風景を見ました」・・・というマクラから、ネタ下ろしの新作『身代わりポン太』へ。
過疎化が進むくすのき村では、地域活性化事業“狸の里プロジェクト”が着々と進行中。くすのき村の全住人47世帯の家の前に信楽焼の狸を置いて灯を入れてライトアップすると共に、狸の姿をした展望台を建設、観光客を集める!というプロジェクト(笑)。信楽焼の狸をそっくりそのまま巨大化した展望台は、現在ちょうど下半身だけ出来上がった状態で、“算盤”と“徳利”のあたりから上がないw
事業の進捗について話し合う村長とあけぼの建設社長、そこへ県会議員の山川がやって狸の里プロジェクトの予算凍結が決まったことを告げる。ここで工事がストップになると、下半身だけの巨大な狸が放置されたままになってしまう!
村長と社長は、予算凍結が正式に発表されるまではこのことは黙っていようと相談するが、その話を五本松のトメ婆さんが聞いていた。トメ婆さん「この話、まるでこの村に伝わる狸の伝説みたいじゃ」。
その昔、くすのき村にはたくさんの狸がいて人にいたずらをした。中でもいたずら好きだったのはポン太という狸。ある晩、ポン太は武士にいたずらを仕掛け、怒った武士に体を上下真っ二つに斬られてしまう。ポン太の上半身は斬られた勢いでどこかへ飛んでいってしまい、下半身は上半身を探してさまよった。それを哀れに感じた村の人々は、総出でポン太の上半身を捜し出す。後日、狸たちが揃って村に御礼に現われ、二度と人間にいたずらをしないと誓い、ポン太のご加護で村人達は他人に騙されなくなった・・・
「そんな話、聞いたことあるか?あけぼの」「ねぇなぁ」「婆さん、ホントにそんな伝説があったのかい?」、トメ婆さん「ねぇよ。今つくった」(笑)
トメ婆さんは、そうやってウソでもいいから伝説をでっちあげてしまえと二人に勧める。“恋人岬”を見よ、あの岬で恋人が結ばれるなんて伝説はなかった、ただ地元の人間が“恋人”岬って名付けただけ、それなのに全国からカップルが押し寄せるようになった。あの展望台も、伝説にちなんで最初から下半身だけの狸を作るつもりだった、この下半身のポン太を拝むと生涯人から騙されなくなると言えばいい、そこら中から人が拝みにやって来る…と。
壊すのにも莫大なお金がかかるし、ただ放置しておくにはあまりにみっともない下半身だけの狸。しかし世間を騙すのは…とためらう村長に、トメ婆さん「“行くも地獄、戻るも地獄、ならばここらが極楽だ”って言うでねぇか」「そんな諺あるか?」「ねぇよ。今つくった」
こうして、巨大な狸の下半身の建造物は、くすのき村の伝説にちなんだ“身代わりポン太”として無事除幕式が行われ、全国から「どうかオレオレ詐欺にあいませんように」「結婚詐欺にあいませんように」と人々が願いに来るようになった…というお話。


誰もが「なんかおかしくない?」って感じる出来事、それをとりあげる。その“おかしさ(ヘンなところ)”を嗤う。だから痛快なのですね。志の輔師らしい新作。


志の輔師が舞台袖に消え、マンガ日本昔話のテーマが流れる中、舞台にスクリーンが降りてきた。こんなコトが言われていましたね、って様々な言い伝えや都市伝説が流される。“「コアラのマーチ」の中にまゆげのあるコアラが入っていたらいいことがある”“佐川急便の飛脚のふんどしをさわるといいことがある”・・・こんなの企業が言い出したにきまってます。だから、今年はコレをあなたのまわりの10人に伝えてください。「黒紋付の落語家を観ると、幸せになる」(笑)


仕事の関係者が足を捻挫した。原因は…
彼は、スニーカーを履いて外に出てから忘れ物に気づいた。そういう時、ヒモのあるスニーカーなんかをまた脱ぐのは誰でも面倒だ。彼もそうだった、彼は床につく面積を極力少なくしよう…と思い、スニーカーを履いたままエッジをたてて…つまり、足の外側の側面だけで歩いて室内を歩いていったw 忘れ物まであと一歩という時、カクっとよろけて足を挫いちゃったのだった。
そんなコトしたら怪我するかもしれない、それなら最初からスニーカー脱いで面倒でもまた紐を結んだほうがいい、そんなことちゃんと分かっている、でも「人間は分かっていてもバカなコトをしてしまうんですな」「そんな可愛い人間」・・・というマクラから『踊るファックス』へ。
小林薬局に間違いファックスが届き、それがきっかけで最後には顔の見えない知らない相手とファックスで罵倒しあう…というお話。
客席をドカンドカンと笑わせていたなぁ。聞いたことない人が結構いるんだなぁと思ったけど、何度も聞いてる私も声をあげて笑ってしまった。常連の落語客をも巻き込んでしまう、独特の空気―とても素直な熱い期待感みたいなもの―がこの会の客席にはあるみたい。つい、一緒になって笑っちゃうのね。


中村仲蔵
上演時間およそ1時間10分。
志の輔師の仲蔵は、最初に、昔(今もそうだけど)歌舞伎の世界では“血筋”のない人間が役者として出世するのが、どれだけ異例なことであったかということを丁寧に説明する。だから、團十郎に引き上げられた仲蔵が、“特別扱い”と見られて仲間から嫉みをうけるということが自然に納得できる。
説明が丁寧なのは、忠臣蔵「五段目」のかつての位置づけの解説もそう。
こういうところは落語口調じゃなく、マクラを語る時のような口調なんだけど、仲蔵が新しい趣向をぶつける五段目の場面はガラッとケレン味たっぷりになる。そこに会場の照明やツケの音を入れる演出が加わる。
「おーい!とっつぁーん!」カカン!(杵でツケ板を叩く音)、ちょうど花道の位置にあたる舞台に向かって左側の会場通路に天井からパッとライトが当たる、「つれになろうかーーい!」・・・
解説と演劇的なところのメリハリがはっきりしてて、分かりやすく飽きない。


最後の芝居通のおじいさん(何か訊かれると「ホゲェ」って答えるw)が出てくるところでグッとくるんだよなぁ。
この日はあちこちで鼻をすする音が聞こえて、あーみんな泣いてるー、そうだよね、ココいいとこだよねぇ…と思ったら、自分もしみじみしてしまった。


2008年国立劇場大劇場以来の志の輔中村仲蔵』は、その時と大きく変わったところはなかった。
ただ、今回印象に残ったのは、噺の途中に挟んだ志の輔師のこんな芸談
「よくアイツがライバルだとか言いますが、人じゃない、芸人にとって一番恐ろしいのは“飽き”かもしれません」
同じことを繰り返すうちに、昨日も上手くいった、今日も同じようにやればいい、まぁこんなものだ…そういう気持ちになりやすい。
「今日、この瞬間がベストの状態だ!と思い込ませる“技術”、それが大事なのかもしれません」「それくらい“飽き”は恐ろしい」


結局、落語って、落語家は「同じ噺を何度もやる」、客は「何度も聴く」っていう芸能。“客を飽きさせない”ためには“まず自分が飽きない”ということが大切…って考え方か。志の輔師は、自分がどれだけ日々新鮮な気持ちで高座をつとめられるか?ってことにチャレンジっていうつもりもあって、この1ヵ月公演に臨んでいるのかなと思いました。


あー、パルコのことは、コレだけ別に書いても良かったなw


1/11(月) 新春恵比寿寄席 柳家喬太郎橘家文左衛門二人会
16:00〜18:51@EBIS303
前座 柳家小んぶ『小町』
柳家喬太郎『錦の袈裟』
橘家文左衛門『芝浜』
仲入り
橘家文左衛門『のめる』
柳家喬太郎『ハンバーグができるまで』


喬太郎『錦の袈裟』 お馴染みのマクラ「尾がないのに騙すからおいらん(花魁)」に笑わない客席。喬太郎師「落語ファンが揃っているとこういうマクラに反応がない」、袖の文左衛門師に「おーい!手ごわいよー!」w
確かに、やたらヘンなところで笑ったり、“自分、ツウです”的アピールなバカ笑いをするヒトはあんまりいなくて、たぶん両師のファンである常連客と、「初めて落語を聴きにきました!」って感じの若い人が混じっていたのかな?という印象。志の輔師のパルコに比べたら、落語の客として「純度が高い」とでもいうのかしら?w、そんな客層でした。


喬太郎師の『錦の袈裟』を聴くのは初めてだったけど、とても良かった。とにかく与太郎が可愛い。
吉原に誘われて「行きたいっ!ことのほか行きたい!」、女房に口上を“口うつし”で教えてやるからと言われ、嬉しそうに「なんだかんだ言って、あなたも女ですな」、袈裟のふんどしを締めた姿を女房に誉められて「誇らしいっ!」・・・
喬太郎師の新作によく出てきそうなキャラがちょっとだけ入っているけど、与太郎以外は“きちんとした古典”という印象。


そして、続く文左衛門師は本気の『芝浜』。『芝浜』と分かって「え!ここでやっちゃいますか?!」とちょっと吃驚したが、久々に観れる!と嬉しかった。そして、この日の『芝浜』はことのほか良かった。
文左衛門師の勝五郎はあくまで男臭く、女房はあくまで可愛く。ハゼの佃煮を掌にのせて食べるところは、何度見ても上手そうだ。
「別れないで!勝っつぁんのこと好きだから」…女房のこのセリフも良かった。初めて聴いた時のようにドキドキした。
上演時間1時間弱(55分くらいと思う)。仲入り前の二席で、今日はもうこれで終わっても十分満足だと思った。


『のめる』は凄く楽しかったなぁ。
八っつさんがご隠居に“つまらねぇ”が口癖の半公のことをこぼす。「あいつとこないだ寄席に行ったんですよ、やたら“つまらねぇ”って…」、ご隠居「芸協の寄席か?」「えぇ、ま、そうなんですけどね。…アレ、両国寄席だったかな?」(笑)


文左衛門師が終わって仲入りに入った時点で、予定していた終演時間(18時)を過ぎていた。こうなったら、喬太郎師にもガッツリ古典をやって欲しいなぁと思っていたが、マクラで“スーパーのお惣菜”ネタが始まったので「あぁ…アレに行っちゃいますか〜」とw でも、仲入り前にあんな凄い『芝浜』があって、楽しい『のめる』があって…という流れだったから『ハンバーグができるまで』はグッドチョイスだったかも。それにこの日の『ハンバーグが〜』はとても良かった。


チームプレイの妙というか、二人会はこうでなくちゃ!という見事な流れ。息の合った二人だからこう出来るんでしょうね。


1/13(水)白酒ひとり
19:00〜20:52@内幸町ホール
寿限無
質問に答えます
『羽うちわ』
仲入り
『宿屋の富』


わたしは今まで『天狗裁き』しか聞いたことなくて、『羽うちわ』を聞いたのは初めてだった。そーかぁ、あの噺を全部ちゃんとやるとああなるのか。


寿限無が面白かった。『寿限無』にはいくつかやり方があって、白酒師のは甚語楼師に教わったあんまりメジャーじゃないバージョンだそう。学校寄席でやると子供に「ちがーう!」って言われるそうだw
ご隠居が次々と提案する名前に、男がいちいちケチをつけるわけですが…
海砂利水魚シーシェパードにやられそう/スイギョウバツ・ウンライバツ→“バツバツ”って成績悪そう/喰ウ寝ルトコロニ住ムトコロ→言っとくけど、人の名前なんですよ!/ヤブラコウジブラコウジ→杉田ヤブラコウジってダブルスみたい/シューリンガングーリンダイ→うち日本人なんで「ハーフなんですか?」っていじめられても困る・・・
男があくまで“名前としてヘンではないか?”という視点で文句を言っているところが、白酒師らしくて可笑しかった。
わたしが一番ウケたのは…
寿限無のお婆さんが「うちの、じゅ・じゅ・じゅじゅじゅ・・・ジュリアンヌ・マリアンヌ・怒涛の寄り切り!」


『今おもしろい落語家ベスト50』をお読みになったそうです。自分に票を入れたファンのほとんどが、「“毒”がいい」とコメントしていたのが気になったそうで、「今年は“クリーンな感じ”“ホワイト”でいくのが目標」と心にもないことを仰っていらした。
マジな目標としては、圓朝もの・人情噺を手がけたいとのこと。「心中時雨傘」などやってみたいとのこと。


落語者』の収録こぼれ話も少々。
個人的には、あの番組の司会をやる女子アナは落語に“詳しい”必要は全然ないけど、落語に“ホントに興味がある”人であって欲しかったな…と思っている。もっとも、わたしは落語はライブで観る派なので、テレビの落語番組に多くを期待してないんで、まぁいいんですが。


1/14(木)志らくのピン
19:00〜21:10@内幸町ホール
開口一番 らく次『雛鍔
志らく『たいこ腹』
 〃 『明烏
仲入り
志らく鰍沢


志らくさんの『たいこ腹』は、鍼をうたれたネコは一声断末魔の叫びを上げて死んじゃうのだ(笑)、かわいそー(笑ってるけど)。
それから一八が、なんの躊躇も迷いもなく、パーパーパーパーヨイショしまくるのですが、リズムは気持ちよく、言ってることは下らなく(「あなたのことをなんと誉めていいか分からないっ!今、松島を見た松尾芭蕉の気持ちが分かった!」「若旦那、あぁ若旦那、若旦那!」w)、もうホントに楽しかった!。


明烏 “弁慶と小町は馬鹿だなぁ かかぁ”の川柳をあげ、「わたしはあの若旦那は“異常”だと思う」と。なので、志らく師の時次郎は、これでもか!ってくらいオカシイ。紛れも無く異常です(笑)。
志らく師の時次郎はただの読書好きじゃない、“辞書”を読んでるのだw「あと、経文を読みたいですね。耳なし芳一の体に書いてある経文を隅から隅まで読みたい・・・」と目つきが怪しい若旦那。父親「…婆さん、涙ぐむんじゃないよ。どうしてこんなになっちゃったかは後で相談するんだよ」w
もっと別のところをコチコチに…という父親のつぶやきを聞きつけて「どこですか?膝?かかと?頭?」としつこく食い下がる時次郎に、「すまない、ヘンな話題をふってごめんよ」と謝る父親(笑)
時次郎を除けば、他はわりとオーソドックス、「柳の下にたってます」「お化けだな」…なんて聞きなれたやりとりなのですが、とにかくこの時次郎のオカシさが突出してて、それが物凄く面白い。爆笑だった。
志らく師自身は「(明烏は)そんなに得意じゃない」と言っているが、いやもう、こんなに面白い『明烏』は久々でした。


そして志らく師が「わたしの中ではホラー落語」という鰍沢。サスペンスホラーのような緊迫感のある運びと、意表を突くサゲ(「びっくりオチ」って仰ってたw)のギャップが激しく、最後は笑っちゃう。でも、三題噺ってもともとムリのあるストーリーだから、こういうのアリだと思います。
お熊がとっても怖かった。旅人の胴巻きの中をしきりとのぞこうとする様子、何度も何度も「玉子酒どうです?」とすすめるしつこさ、亭主の亡骸(亭主は、毒の入った酒の残りを飲んで死んでしまうのだ)に子守唄を唄いきかせる不気味さ…。
この不気味なお熊の描き方がとても上手い。また、旅人はお酒が苦手でしかも酒が熱いから少ししか飲めない、一方亭主は、冷えた玉子酒だからごくごく飲んでしまう(だから毒で死んでしまう)…というのがよく分かった。細部にちゃんとリアリティがあるから、噺にノレるのですよね。


1/27(水)百栄・一之輔ふたり会
18:45〜21:06@湯島天神
開口一番 ぽっぽ『ん廻し』
一之輔『あくび指南』
百栄『小噺チャチャチャ』
仲入り
一之輔『明烏
百栄『浮世床


男性客および先輩噺家たちの間で絶大な人気を誇るぽっぽちゃんの後に高座にあがった一之輔さん、彼女のことを“ファブリーズ前座”と。彼女が出た後で高座にあがると、とってもいい匂いがするんだそうだw
でも、ぽっぽちゃんのすぐ後の一之輔さんは、返した座布団に座るので、ぽっぽちゃんの匂いもぬくもりも味わえない。「それを味わうのはこの後に出る百栄師匠」と言われ、一之輔さんの後に出た百栄師は、お約束どおり、ぽっぽちゃんが座った座布団に思い切りカオを押し付けた。バーカw
百栄師はそういうスケベ&変態全開のときのほうが断然面白い気がする。


一之輔さん、この日は『あくび指南』も『明烏』もかなり崩していたという印象。『あくび指南』は、最初の、男が習いに行くのが“あくび”だと言うところで“あくび”とはっきり言わない・聞き取れない…というのをヤケに引っ張ったり(自分で「“あくび”でそんなに引っ張るんじゃないよ」と言ってた)、男がカッコつけて言う「でぇくです・・・でぇく」「うち・・・建ててます」というセリフも、かなりタメてたな(ここんとこ好き)。
明烏は、ところどころに挟まれた、一之輔さんらしい醒めたセリフ・醒めた言い方に、くすっときた。
おこわを“13杯”おかわりしたという時次郎に、おとっつぁん「あんまりいい数字じゃないな。もちょっと増やすとか減らすとか」/時次郎にお金はこちらが出します、なんたってあなた方は“町内の札付き”…と言われた源兵衛&太助、「よろしくお願いしマース!」「町のダニと言われておりマース!」・・・とか。
あと、可笑しかったセリフ
時次郎、花魁のかんざしをいっぱい指した髪型を「黒ヒゲ危機一髪みたい」/「青少年吉原入門36ページで読みました!」/「く・る・し・ひ…」・・・


百栄師の『小噺チャチャチャ』は、前日せめ達磨でネタ下ろししたものらしい。落語というより、長めのマクラといった感じ。面白かった!小噺は、ちょっとセリフに感情を込めたりちょっとした設定を足すと、意外なストーリーになります…ということで、例えば“「隣の空き地に囲いができたってね」「へぇ(塀)」「カッコイイ(囲い)」”という小噺が、いつのまにか「実家が牛久の土地持ち」という青年のプロポーズになってしまう(笑)。バカバカしいけど、すごく笑った。
浮世床』は、太閤記をうまく読めない男、読めなさ杉で可笑しい。また、半ちゃんの夢のところ、女が絹布のお布団に入ってこようとして〜というところで、話を聞いてる男達が色めき立つところは、変態全開!で可笑しかった。


1/28(木)源覚寺寄席
19:00〜21:05@こんにゃく閻魔 佛心庵
開口一番 朝呂久『一目あがり』
一之輔『長屋の花見
一左『宮戸川
仲入り
朝也『厄はらい』
正太郎『粗忽の釘


源覚寺寄席第一回は春風亭の二つ目たちの会。会場がご近所だったもので、つい二日続けて一之輔さんを観にいってしまった。


一之輔さんは、昨日に比べたらオーソドックスな『長屋の花見』。トリは二つ目になったばかりの正太郎さん(これ、軽いイジメ?w)。『粗忽の釘』はネタおろしだったそう。本人は早口過ぎた・噛みすぎたと反省していたが(たしかに早口でよく噛んでいた)、そういうのは気にならなかった。安心して楽しく聴いていられたので、立派なものだと思います。


以上。とりあえず一月をソーカツしました。

【感想】『この落語家に訊け!』

『この落語家に訊け』を読みました。とても楽しくて一気に読んでしまった。


なにが楽しかったって、著者と落語家がすごく楽しそうに話してる感じ。落語家がとてもリラックスして喋ってる。例えば、文左衛門師匠の「コーンと打たれたらコーン、ですよ」なんて言葉。あぁ文左衛門師匠はこういう言い方するな…とその時の表情と言い方がアリアリと浮かんできて(文左衛門ファンは分かりますね?)、ニヤッとしてしまった。そして著者本人がすごく楽しそう(笑)。広瀬さんは普段も落語のことになるとお喋りな方ですがw、この対談でも落語家に劣らず饒舌だ。だからこの対談はホントに楽しく盛り上がったんだろうなと想像します。
自分の好きな人に会って、訊きたかったいろんなことを一つ一つ確認してって「やっぱりそうですよね!」っていう著者の嬉しさや喜びが伝わる、そういう空気が読んでいてとても楽しかった。


それと、広瀬さんは基本的に“ファン目線”で落語を観てて、それが一介の落語ファンである自分が強く共感する所以。例えば、喬太郎師との対談で、広瀬さんは2008年10月の「さん喬・喬太郎親子会」(@なかのゼロホール)の公開小言について尋ねている。自分もあの会には行ったが、あの会の値打ちはさん喬師匠の公開小言に尽きる!と思ったし、師匠にああ言われた喬太郎師はどう思ったろう?というのをずっと知りたかった。「よくぞ訊いてくだすった!」って感じ(この件についての喬太郎師のお話、いいですよー!)。
この本を読んだある落友の感想は「広瀬さんが落語家の“心のおだん”って感じ」というものでしたが、ホントにそうです、喬太郎師のことを著者はすごく励ましています(笑)。そういうところからも、“ファン”という立場から落語家を見守ってるのだなと感じる。


落語が好きな人は、きっとこんな風に好きな落語家と話したい!と思うことがあるはず。でも、もちろん、落語が好きなだけでは落語家とこんな風には話ができないのだ。落語家から“ちゃんと落語が分かっている人”と信頼され、落語家への眼差しに愛がある人だから、こんなに楽しい対談になったんだろうと思う。


また、本の中で、繰り返し・強く強く「落語の魅力は、演者の魅力」「面白くない落語は“上手い”とは言えない」と言っているところも心強かった。わたしは数年前からの落語ブームがきっかけで落語を聴きはじめた新参者の落語ファンだけれど、そういう自分のようなファンを「誰にでも分かりやすいモノしか楽しめない、落語という芸能の真髄を理解できないヒト」というような冷ややかな視線で見ている落語通という人たちが、ずっと分からないでいる。また、わたしはただ「この人はなんて楽しそうなんだろう!」って思える落語家を、「なんて面白いんだろう!」って思える高座を観たいだけで、人から“面白い”と聞いた落語家がいればどこへでも観に行くというスタンスなんだけど、落語ファンの中には「古典と新作」「寄席とホール」「○○協会と○○流」…というような線引きをするヒトがいて、そういうヒトから“線”を引かれて「我々とは違いますね」的扱いをされたりすると、とても悲しい。でも、この本を読むと、そういう落語通や落語ファンのことは気にせずに、今のまま落語を観ていればいいんだなと思える。


最後に自慢させてください。
昇太師匠との対談で、広瀬さんが“凄くポジティブ”と言ってる昇太ファンはわたしです。偶々「今度、昇太師匠にインタビューするんですが、訊きたいことありますか?」って訊かれて、「わたしは昇太さんがどんな落語をやろうと(新作でも、カミカミの『宿屋の仇討ち』でも、似合わない『牡丹灯篭』『文七元結』『芝浜』をやろうとも)、この先もずーっと・全面的に肯定!の姿勢をとるものであります!」と伝えてくださいとお願いしたのだった。広瀬さんは昇太さんにそれを伝えてくださった。それを聞いて昇太さんが大笑いした、「僕のファンは日本一ですよ」と言っていたよと後で伺ったのですが、本にも書いてくださった。凄く嬉しいです。

2009年 今年の落語総括



これから一之輔さんの「下北のすけえん」に行きます。それが今年の落語納めになりますが、それを除いた2009年の落語活動はこんな感じでした。


・今年出かけた寄席&落語会の数 147
・今年聴いた落語 582席   (※12/30現在)


去年は152回出かけてました。今年は仕事のためにキャンセルした会が毎月いくつかあったから、大分減ってるはずと思っていたのですが、そうでもなかったな。でも、去年聴いた落語は775席で、出かけた回数がそんなに減っていないのに聞いた落語の数に200近く差があるのがちょっと解せない(集計間違ってたりして)。たぶん寄席に行く回数が減って、談志ひとり会みたいな(落語2席だけとかw)会が多かったからじゃないか?と思います。


誰をよく聞いたかも集計してみました。


1.立川志らく 55席
2.春風亭百栄 30席
3.柳家喬太郎 28席
4.立川志の輔 27席
  桃月庵白酒 27席
  柳家三三 27席
7.春風亭一之輔 23席
8.春風亭昇太 22席


志らく師は、ピンは毎月必ず、独演会もなるべく行くようにしていたから、やはり突出しています。本当は下丸子、三鷹の井心亭、にぎわい座の百席にも行きたいくらいなんですが、会場が自宅から遠いのと、他にも聴きたい人が聴けなくなっちゃうんで、セーブしています。志らくさんは来年もこのくらいになりそう。
他に意識して聴いていたのは白酒師と一之輔さんですが、思ったほど数が多くないのは、お二人の会は仕事とぶつかってキャンセルすることが結構多かったから。
意外に多かったのは百栄師と三三師。お二人目当ての会にも行ったけど、寄席や他の方の会のゲストでお目にかかることが多かったのかも。
今年は、当初、談笑師と花緑師をもっと聴くつもりだったのだけど、結局あまり聴きませんでした。途中から白酒師と一之輔さんを追い始めてしまったからです。


今年観た人たちの中で良かったのは志らく師と喬太郎師です。今年はこの二人の高座で何度となく唸らされました。ホントに充実していたと思う。


立川志らく
志らく師は、上手いとか面白い以上に、落語に対する姿勢がカッコいい。落語に真摯に取り組んでいて、どんなに完成度が高くてもそこに決して満足しないところが凄い。「中村仲蔵」「芝浜」「たちきり」など、観るたびに変わっていて、どんだけ満足しないんだ?と呆れるくらい。
今年の志らく師の印象的な高座をあげると…
中村仲蔵』(3/17立川志らく独演会@銀座ブロッサム
この後何度も高座にかけて、どんどん変わっていった仲蔵だが、印象の強さでいうと、一番最初に観たこの高座が一番。あくまでも“落語”として語り聞かせる五段目のシーンが見事でした。志らく師の3月のブロッサムは毎年素晴らしい高座が観れる楽しみな会で、来年も期待している。
『たちきり』(4/13志らくのピン)
この前の月(3月)に、志らくさんは『たちきり』をやっているのだが、そこからガラッと変わっていた。「こうすればもっと良い」と気づくと、ためらいなくどんどん変える、このフットワークの軽さが素敵。
この日のピンでは、他に『鮑熨斗』『花見の仇討ち』をやって、それらもとても面白かった。
『疝気の虫』(7/7 志らくのピン)
これを観てしまった以上、フツウの『疝気の虫』ではもう笑えないと思いましたw
まだ観てない人に絶対観てほしい。
『笠碁』(7/19 志らく一門会)
志らく師は、当初『抜け雀』をやるつもりで高座にあがったそうですが、マクラが長くなったので突然『笠碁』をやることにしたのだとか。だからこの日の『笠碁』は全篇ほとんどアドリブだったそう。二人の老人の会話がとっても自然だったのは、登場人物の気持ちがすっかり入って、自由に喋ってたからなのか。大笑いしながら、なんとも温かい気持ちになる『笠碁』だった。


柳家喬太郎
意識して追ってはいなかったが、今年の春あたりからだろうか、喬太郎師に“腹が据わった”といった印象を受けるようになった。そこからは凄かったなぁ。喬太郎師の高座にはほとんどハズレがなかった。あまり観ていないので、他にもコレ!という高座はあるでしょうが、自分が観たなかで特に良かったのはこのあたり。


『次郎長外伝 小政の生い立ち』(3/3 三三 背伸びの十番)
『心眼』(4/12 一本柳道中双六)
創作落語(タイトルなし)(6/27 柳家喬太郎 横浜開港150周年記念独演会)
『死神』(11/17 瀧川鯉昇柳家喬太郎二人会 古典こもり 銀座篇)
俵星玄蕃』(12/12 柳家喬太郎独演会 師走、忠臣蔵にて御機嫌伺い候 夜の部)


鎌倉の『文七元結』、11月以前の『死神』も観たかったなぁ。
こうしてみると、創作あり、講釈ネタあり、古典あり…と改めて喬太郎師が手がける落語の幅の広さに感心します。怪物だなぁ。


志らく師と喬太郎師は46歳、世間一般的にも男盛りのお年頃ですが、お二人とも落語家としての魅力、上手さ、面白さがますます増しているような気がする。来年もこの二人はしっかり観ようと思う。とても楽しみです。


桃月庵白酒春風亭一之輔
この二人は、とにかく面白かったなぁ。一之輔さんなんて、一年前は大晦日にのこのこ独演会まで行くようになるとは思わなかったよw この二人も来年も観ます!今年、面白かったのはこんな高座。


白酒師は『替り目』『転宅』といった何度も聞いているネタがやっぱり良くて、コレというのを選ぶのが難しいのですが、あえて選ぶとコレですかね。
金明竹』(8/31 第28回読売GINZA落語会)
『宗論』(12/24 鈴本お笑い師走会)
白鳥師との会でやった白酒版『メルヘンもう半分』を観られなかったのが痛恨!


一之輔さんはコレ!
初天神』(5/31末廣亭余一会 文左衛門・喬太郎二人会)
『蛇含草』(7/28 らくごカフェに火曜会)


その他
他に良かった高座はこんな感じ
柳家喜多八『首提灯』(2/18浜松町かもめ亭 喜多八・白酒二人会)
瀧川鯉昇『千早振る』(4/4 第13回特選落語会)
立川志の輔高瀬舟』(6/21 志の輔らくご 21世紀は21日)
立川談笑『子別れ』(9/20 立川流特撰会 立川志らく立川談笑二人会)
柳亭市馬『らくだ(通し)』(10/19 柳亭市馬立川談春二人会)
立川こしら『壷算』(11/11こしらの集い)
柳家小三治『百川』(12/9 柳家小三治独演会)


それから、落語ではありませんが、6/13「柳家小三治一門会 夜の部」の公開稽古は印象に残ります。あれは観ることができて本当に良かったです。


一時と比べると、落語に行く回数は少しずつ減っています。行きたくないワケではなく、忙しくて行けなくなってきているのですが、そうなるとハズレたくない!という気持ちが強くなってきて、いままで聞いたことがない人や面白いかどうか分からない二つ目を試しに聴くということをあまりしなくなります。新しいモノ、面白いヒトをなかなか自分でみつけられないのがちょっと悩みです。
でも、今年は落友の評判を聞いて立川こしらさんを聴くようになりました。彼はアタリでした。落友は本当にありがたいですw


来年もこんな感じで落語とつきあっていくと思います。
落友の皆様、ブログとかmixiとかツイッターとか、ネットだけで存じ上げているカオを知らない落語好きの皆様、皆様のおかげで楽しい落語活動でした。有難うございます。
来年もどうぞよろしく!