11月前半の落語



11/1(日) 志らく百席 第33回
18:00〜20:20@横浜にぎわい座
らく次『雛鍔
志らく『二人旅』
仲入り
志らく『双蝶々』


11/3(火) 春風亭昇太独演会 昇太ムードデラックス 夜の部
19:00〜21:10@本多劇場
林家彦いち『反対俥』
昇太『子供になりたい』
ナマ着替え
昇太『火焔太鼓』
仲入り
昇太『寝床』


11/6(金) 日本橋夜のひとり噺 桃月庵白酒の会
18:30〜20:50@お江戸日本橋亭
入船亭辰じん『手紙無筆』
柳家ほたる『悋気の火の玉』
桃月庵白酒明烏
トーク 白酒&演芸研究家・瀧口雅仁
仲入り
桃月庵白酒木乃伊取り』


11/10(火) 志らくのピン
19:00〜21:00@内幸町ホール
らく兵『居酒屋』
志らく『後生鰻』
志らく崇徳院
仲入り
志らく井戸の茶碗


11/11(水) こしらの集い
19:30〜21:00@お江戸日本橋亭
こしら 『豆屋』
仲入り
こしら 『壷算』


それぞれの会についてちょっとずつ書きます。


11/1 志らく百席
この日、志らく師は風邪で体調があまりよくなかったみたいでした。最後に、亡くなった文都師の話を少しなさいましたが、志らく師は「文都アニさん…」と言った途端、声をつまらせた。
一緒に二つ目昇進披露をした文都、談春志らくの3人が揃って出演したのを観たのは、わたしは2年前の立川流同期会が最後でした。最初に談春師が『棒鱈』を、次に文都師が『千両みかん』を、最後に志らく師が『たまや』をやったのでした。トークセッションでは高座に三人が並んで、家元の命令で文都師が戸塚ヨットスクールに行かされた…という話で笑った。文都師は「(家元の命令だから)誰かが行かなあかんやろ〜」っておどけていた。志らくさんの話を聴きながらそんなことを思い出していました。
まだ若かったのに、ご本人も周りの方々もどんなにか無念だろうと思います。ご冥福をお祈りします。


11/3 昇太ムードデラックス
昇太師のライブはいつも自分を元気にしてくれます。この日もとても楽しかった。
今回の三席は、“たま〜にしかやらない噺”(子供になりたい)、“ネタおろし”(火焔太鼓)、“(昇太師自身が)やってて楽しい噺”(寝床)というラインナップ。
『子供になりたい』はかなり昔(なかの芸能小劇場の落語ジャンクションに出てた頃)作った噺で、体力は使うわ、やってて恥ずかしいわでほとんどやっていない、この会の夜の部で上演四回目…と言っていました。わたしは2007年暮れの無限落語@お江戸日本橋亭で観たことがあって、2回目でした。
主人公は中学校の教師で、奥さんが赤ちゃんばっかり構って自分を構ってくれないのに業を煮やして「オレも子供になってやる!」って決意します。で、子供のよーにダダをこねて大泣きしたりする(こういうところが、やってて恥ずかしいらしいw)。
恥ずかしいと思いつつ、たまにこうして上演するのは、70歳くらいになってコレをやったら凄いだろうと思って、爺さんになるまで忘れないようにしてるからだそうです。『子供になりたい』をやる70歳の昇太師を絶対観る!と誓いましたw


『火焔太鼓』志ん生志ん朝の噺だから、今これをやる落語家はそんなに多くないみたいだけど、この噺をやってちゃんと面白く聴かせられる人というのは「やるからには“自分の『火焔太鼓』”を!」という気持ちがあるのだろうと思います。昇太師の『火焔太鼓』にも、ちゃんと「昇太印」がついていた。
昇太・火焔太鼓の甚兵衛さんは“妄想するヒト”です。おかみさんにそんなボロボロの太鼓だと分かったらヒドイ目に遭うよって脅かされて、なにかというとお侍に斬られるところを想像して「あぁっ!あぁっ!あぁーー!」って怯えて絶叫します。それが凄く可笑しい。
甚兵衛さんとおかみさんの関係は昇太版『抜け雀』の夫婦に近いかな?おかみさんは甚兵衛さんを「ばっかだねぇぇ〜、おまえさんは…」ってバカにしてるんだけど、甚兵衛さんがお屋敷から帰ってくるのに気づくと「あーあ、きゃぁきゃぁ言いながら帰ってくるよ、あの人。かわいーんだから」って言う。『抜け雀』で宿の亭主が「ちゅん・ちゅん・ちゅん・ちゅん…!」って衝立に描いた雀がエサをついばむところを夢中で説明するのを見て、おかみさんが「あたしに怒られると思って、かわいーんだから。布団に入りな」ってゆーのと同じ感じ。
あと、おかみさんは甚兵衛さんを徹底的にやりこめちゃうんですが、甚兵衛さんのことを「バカとバカの隙間にバカを埋めたよーなバカ」って言ったのに笑った。太鼓なんかがいりようなヒトはいないよ!って叱られた甚兵衛さんが「世の中には太鼓を必要としてるヒトだっているかもしれないじゃないか!」って反論すると、おかみさん「そういうとこには、もう太鼓があるの!」(笑)ただしい!


『寝床』は最近やっててとても楽しいのだそうだ。昇太さんには“やってて楽しい落語”というのがいくつかあって、数年前までよくやってた『壷算』とか、今でもよくやる『時そば』なんかがソレだそうです。
やってる本人が楽しんでるから、あんなに面白いんでしょうね。そういう落語が人を魅了するのだと思います。だってわたしは春風亭昇太の『壷算』を聞いて「このヒトはなんて楽しそうなんでしょう!落語ってなんて面白いんでしょう!」って思ったのがきっかけで昇太と落語がこんなに好きになったんですから。


新作をやるっていうだけでバカにされていた昔に比べたら、今はとても幸せと言っていた。そして、今の若手たち(後輩達)は大変だろう、「もうみんなイスに座っちゃってるから」と。つまり“古典の上手い人”のポジションには例えば談春師が、“新作”のポジションには例えばSWAの面々が既に座を占めているから、そこを奪うのは大変ってことですね。
売れる落語家は一握りです。若手は勉強会でホントに勉強してる場合じゃないですよ(…どの会の誰とは言いませんが、先月「ホントに勉強されても困るから…」とゲンナリしたネタおろしを聞いたので、つい…)。


この会では『文七元結』をやるとかやらないとかってウワサがありましたが、たぶん昇太さんはああいう人情噺はやらない気がする。ま、やってもやらなくてもいい。ファンとしては昇太さん自身が楽しいと思う落語をやってくれればいい。わたしは楽しそうな春風亭昇太が観れれば満足です。
…昇太さんのことは好きなもので、書きだすとつい長くなっちゃいます。すいません(汗)


11/6 桃月庵白酒の会
白酒師は相変わらずマクラが面白くて、この日も大笑いさせてもらった。あの毒はホントにたまらない。聞いてて嬉しくなります。
嬉しくなるというのは、心のなかでなんとなく「けっ!」と思ってることを、白酒さんがにこやかに完膚なきまでにけなしてくれるからです。
白酒さんのマクラで好きなのはいろいろあるけど、“クリスマス時分のイルミネーター”の話(白酒ファンならきっと知ってると思う…)なんかはほんっとに好きです。毎冬、得々と庭に下品で仰山なイルミネーションを飾り付けてる家を見かけると、心の中で「火事で燃えてしまえ」とつぶやいている自分です。なので、白酒さんのあのマクラを聞いた時は、心の底から「そーなの!わたしもそう思ってた!」と嬉しかったです。


この日は“流行”の話から「昔の吉原は“流行の発信地”」…という流れで『明烏』に入ったのですが、“流行”について語ったマクラが本当に面白かった!
雑誌読んで“いま落語が流行!”と騙されて寄席にやってくるカップルの話などをふって、白酒師「自分も流行にのって、流行に流されてフワフワ生きてみたい」、でも「流行がのせてくれない」(笑)「波にのろうとしても、浅瀬へ浅瀬へと追いやられ」「気がつくと岩場に打ち寄せられて」・・・
“流行がのせてくれない”ってゆーのが凄い可笑しくて、大笑いしてしまいました。
流行の発信地・ウラハラ(ウラ原宿)の話の後、「昔の流行の発信地といえば吉原です。ウラ浅草」これも笑った。


白酒さんの明烏は可笑しいところがいっぱいあって、白酒師のネタの中では好きな噺です。
○若旦那「とんぼを追って知らない街に迷い込んでしまいました(目がキラキラ)」〜
○若旦那、源兵衛と太助に「ナリが悪いとご利益がないと伺いましたので」「おふたかたはご利益はよろしいんでしょうか?」
○若旦那に、近寄らないで!汚らわしい!と、汚いホコリみたいにフーーっと息を吹きかけられた女将、「おばさんは、そんなことしても飛びませんよ〜」
○若旦那のノロケに甘納豆を食べながら怒ってる太助に、源兵衛「喰うか怒るかどっちかにしろよ!」「…(甘納豆を食べ続ける)」「喰うのかよ!」〜
他にも面白いところはいっぱいありますが、とにかくこの日は面白いところがすべてピタッ!と決まって爆笑を生んでいて、楽しかった。若旦那も、女将も、太助も、みなますます面白くなってる気がしました。


対談は、瀧口氏が、白酒師が“肉が好き”だの“自転車が好き”だのファンなら既に知ってることばかりふって、しかも話はそこからたいして膨らまず、自分は少々物足りなかったです。
ちょっと面白かったのは、雲助師匠に弟子入りを決めたエピソードかな(別に瀧口氏がプルーブしたわけじゃなく、白酒師がたまたま自分から話してくれたから聞けたのですが)。
大学時代、噺家になろうか?弟子入りするとしたら誰がいいか?…と考えた時、当時は志ん朝もいたし談志も元気だったけど、「この人ならずっと頭を下げてもいいかな」と思えたのが雲助師匠だった…という話。
“師匠”には一生頭を下げなきゃいけないわけですが、どんなに尊敬する人でも反発みたいなことは感じるわけで、白酒師も好きな志ん朝師匠に対してでさえ「そこ違うよ、志ん朝」って思うことがあった(この“そこ違うよ、志ん朝”って言い方が、落研のナマイキな学生っぽくて可笑しかったですw)。 でも、雲助師匠にはそういう気持ちが起こらなかったってことか。雲助師匠が弟子にしてくれなかったら、白酒師は落語家にはならなかったと思うと言っていました。こっち側にいて、ほたるさんにお小遣いやって「肉でも食え」って言ってただろうって(笑)。
今後やりたい噺を尋ねられて、廓噺、『お茶汲み』はなんとかしたいと思ってる…とのこと。この間、どこかでかけたそうですが、わたしは聞き逃した。でも、きっとまた聞けるってことですね。


木乃伊取り』 角海老に行ったきりで帰ってこない若旦那は、あの後、吉原にハマっちゃった時次郎だった!(笑)という設定でした。かしくに迫られて清蔵が大はしゃぎするところは面白かった。かしくに「どこらへんがよかったの〜?」ってニヤけて尋ねたりするところが、すごくキモ可笑しかったです。


11/10 志らくのピン
志らく師の三席のなかでは初めて聞いた『後生鰻』が面白かったのですが、意外にもらく兵さんの『居酒屋』が印象に残っちゃいました(“残っちゃた”ってのは失礼ですが…)。
最初「ふーん、金馬のコピーかぁ〜」と聞いていたのですが…
客「イタコか?」
小僧「アルカポネじゃありませんよぉー」
客「そりゃイタ公だろ!」
というやりとりに、一瞬の間があった後、客席にどっと笑いがおきました。
“ナマイキ盛の唄”(イエローサブマリンのメロディで「狭心症にはニトログリセリンニトログリセリン♪」)も可笑しかった。らく兵さんの『洒落小町』の“秋刀魚の唄”も耳に残って困りますが(笑)、この唄も気がついたらリフレインしちゃってて困ったものだ。


11/11 こしらの集い
実は、今月前半の収穫は「立川こしら」です。この夏ごろから、複数の落友から「最近、こしらが面白いよ」って聞いていて、一度ちゃんとこしらさんの落語を聞きたいと思っていた。で、今回初めてこしらさんの独演会「こしらの集い」に行ったわけですが、いやぁーー、面白かった!吃驚しました。伊達に立川志らくの総領弟子やってるワケじゃなかったのね。


2007年の志らく一門会100回記念で、革の着物を着て『王子の狐』をやったのを見たのが、こしらさんとのファーストコンタクトであった。その時は「ちょっと面白いけど、全然落語っぽくないな」と思っただけだった。
でも、この日の二席、特に『壷算』を聴いていて、あ!これは凄い!と思ったのでした。


たぶん、落語としてはヘタなんだと思います(こしらさん、ごめんなさい)。だから、かつてのわたしのように「落語っぽくない」という理由で評価しない人はいるであろう、きっと。でも、「面白い」ということも間違いないのであった。ハッとするようなコトを言う、その一言にドッと笑ってしまう、「そうきたかー!」と感心してしまう。談笑師もそういうところがあるけど、こしらさんのほうがもっとそれを感じる。計算してない天性の“意外性”というか、とにかく“センス”があるのでしょうね。


わたしは『壷算』という噺は、もう工夫のしようがないんじゃないかと思っていた。店の主がうろたえてパニックになっていく様子で笑わせるか、昇太さんみたいに弟分を“くっつくヒト”というおかしなキャラクターにして笑わせるか、あるいは談笑師みたいにスキのない“騙し”のロジックで唸らせるか、そのいずれかの方向しかなく、しかも、どの方向についても「こういう『壷算』なら、このヒト!」というのがいて、昇太師の言い方でいえば“既にイスが埋まっている”状態なんだろうと思っていた(…ま、古典はどの噺もそうなのかもしれないけど)。
ところが、こしらさんの『壷算』はすごく新鮮だったんだなぁー。


オープニング。
休みの日、寝ているところを女房に起こされて「買い物上手の熊さん(アニぃ)に一緒に行ってもらって水がめを買っておいで」と命じられた男が熊の家を訪ねるわけです。すると、熊は男が“水がめ”の“み”の字も言わないうちに、「で、水がめ買う店のアタリはついてんのか?」って尋ねる。つまり、熊は家にやって来た弟分の顔を見ただけで、コイツが女房に言われて水がめを買いにいくんで一緒についてきてくれってしぶしぶ頼みに来たと看破しちゃうのだ。
驚いた男に、熊は落ち着き払って名探偵のように自分の推理を説明する。これが面白かった!兄貴分の、目から鼻への抜けっぷりwをこんな観点から描いた『壷算』は、自分は初めてだった。わたしは、まずここんところで感心してしまいました。


それと男の“バカっぷり”が可笑しく、しかも新しいです。ニュータイプです(笑)。
熊の推理にすっかり恐れ入った男は「凄ぇ〜!凄ぇ〜!」を連発するんですが、そのキャラクターが、いかにも“いまどきのバカな若い男”って感じ。こしらさんのキャラにも合ってて、とっても可笑しい!
「アニィ、“神”だよ!俺、アニィのこと尊敬していい?これから“アニィ”って呼んでいい?」「もう呼んでんじゃねぇか」「凄ぇ〜!気づいてるよー!」(笑)バカ!
熊が「最初の話に戻って、店のあたりはつけてんのか?」と尋ねると、「おれ、アニィに一緒に水がめを買いにいってもらいてぇと頼みに来たんだよ」「どこまで戻るんだよ!」(笑)
店の主に“足元を見られないように”と、男は店に着くとしゃがんで着物のスソで足を隠してるのw 「オレ、絶対足元見られないようにするよ!アニィ以外の誰にも足見せないよ!」バカ!(笑)
とにかく、こんな具合に可笑しいところがいっぱいあるのです。あの面白さを伝えるのは至難の業なので、まぁ機会があったら是非聞いてください、こしらさんの『壷算』。


あ、『豆屋』もとっても面白かった。
二番目の強面の客が豆屋に「俺のことをハメようとする奴と俺の家族を悪く言う奴は、許しちゃおけねぇ」って言うんです、すると豆屋「イタリアの風が吹いてきたよぉ〜!大物なんだよぉ〜!」これに笑ってしまった。あと「“おこうしょう”(※お焼香のサカサマ)って何〜?!」ってセリフに爆笑でした(このセリフが何故可笑しいかを説明するには、豆屋をぜーんぶさいしょから書かなくちゃいけません。勘弁してください)


また観にいきたい!という気持ちになってしまった、こしらさん。近頃、なかなか落語にいけなくなってきているというのに、また観たい落語家が増えてしまった。困った。