9月後半の落語



9/17(木)
柳家喬太郎落語 アナザーサイドvol.3
13:30〜15:38@お江戸日本橋亭
柳亭市也 『道具屋』
柳家喬太郎 『源氏物語 空蝉』
仲入り
寒空はだか スタンダップコミック
柳家喬太郎 『孫帰る』


9/20(日)
立川流特選会 立川志らく立川談笑二人会
13:00〜15:08@よみうりホール
談笑 『子別れ』
志らく 『疝気の虫』
仲入り
談笑 『イラサリマケ』
志らく 『紺屋高尾』


9/21(月)
志の輔らくご 21世紀は21日
14:01〜16:08@新宿明治安田生命ホール
開口一番 めんそーれ『千早ふる』
志の輔 『異議なし!』
松元ヒロ 今日のニュース
志の輔 『新版・しじみ売り』


9/23(水)
鈴本演芸場 九月下席夜の部
17:20〜20:46
入舟亭辰じん 『手紙無筆』
古今亭志ん八 『たらちね』
アサダ二世 奇術
五明楼玉の輔 『財前五郎
橘家文左衛門 『寄合酒』
ロケット団 漫才
桃月庵白酒 『真田小僧
柳家権太楼 『壷算』
仲入り
鏡味仙三郎社中 太神楽曲芸
柳家はん治 『ぼやき居酒屋』
柳家小菊 粋曲
古今亭志ん輔 『佃祭』


9/24(木)
いちのすけえん
19:00〜21:20?@内幸町ホール
春風亭正太郎『道具屋』
春風亭一之輔『蒟蒻問答』
仲入り
鏡味仙三郎 太神楽曲芸
春風亭一之輔『宿屋の仇討ち』


9/25(金)
らくだ亭特別公演 柳家小三治一門会
18:00〜20:15@江戸東京博物館大ホール
柳亭こみち『黄金の大黒』
柳家三三『道具屋』
柳家喜多八明烏
仲入り
柳家小三治粗忽の釘


9/29(火)
赤坂名人会番外編 談志十八番に挑戦
19:00〜21:07@赤坂区民センター区民ホール
開口一番 立川らく兵『洒落小町』
立川志らく『二人旅』
立川談笑粗忽長屋
仲入り
柳亭市馬『お化け長屋』
柳家花緑『二階ぞめき』


◆印象的な落語
9月後半、印象に残ったのは談笑師の『子別れ』と花緑師の『二階ぞめき』です。


立川談笑 『子別れ』(9/20 立川流特選会 立川志らく立川談笑二人会)
この会は志らく師も談笑師も共に良くていい会でした。特に初めて聴いた談笑師の『子別れ』は、聴けて良かった!と思いました。
談笑師の『子別れ』は今年1月の月例がネタ下ろしだったそうです。その後立川流夜席でもかけ、今回のような大きい会でかけるのはこれが初めてだったみたい。落友の話では会を重ねるにつれスッキリしていっているようです。この『子別れ』は、わたしみたいな談笑師の月例には行かない(…行きたくないわけじゃなくて、「行けない」のよねん。三ヶ月分を一度に発売というチケット予約システムに、つい二の足をふんでしまい、そうしてる間にいつも売り切れてしまうのであった)“白い客”にも向く落語じゃないでしょうか。


談笑版『子別れ』の時代設定は昭和。大工の熊さんは“鳶の親方”で、若い衆から「社長」って呼ばれている。でも、息子の名前は「亀」のままです(笑)。社長はかつては東京タワーを作り、今は着工したばかりのサンシャイン60の建設現場にいる…っていうことなんで、昭和48年頃ですね。


2年前に妻子と別れた熊さんは、ある日、学校帰りの亀ちゃんが子供たちとケンカしているところに遭遇する。亀ちゃんにとって東京タワーを作った父親は“ウルトラマン”に匹敵するヒーローで、その父親を同級生にバカにされてケンカしていたのであった。


亀ちゃんに声をかける熊さん。
「しばらく」「…覚えてるか?」「ケンカ、強くなったな」。
しかし、亀ちゃんは無言。
「甘いものでも食べるか?」と熊さんは亀ちゃんを甘味処に誘い、クリームあんみつを頼む。クリームあんみつが運ばれてきても、亀ちゃんは手をつけない。無言で上目遣いに父親を見つめ、父親の問いかけにうなづいたり首を振ったり、ジェスチャーで応えるだけ。
しかし、父親がとうに女と別れたと知ると「え?バカ女もういないの?!」「なーんだ!アイス溶ける前に早く言ってよ〜」とようやく口をきき、クリームあんみつを夢中で食べだすのであった(笑)。かわいいです。


戻ってきておくれよと頼む亀ちゃんに、父親は“大人の事情”で戻れないと言う。「(女房、つまり亀ちゃんの母親に)“おまえよりこっちがいい”って、言っちゃいけないこと言っちまったんだ」
戻れないけど、明日、若い衆と鰻を喰うからお前も来い、小遣いをやろう…と亀ちゃんに500円札をやる。
亀ちゃん「わーい!ウルトラホークのプラモデル買っていい?…ここで“青鉛筆”とか言ったほうがよかったかな?」(笑)・・・


“東京タワー”とか“甘味処でクリームあんみつ”とか“500円札”とか、懐かしいですね。昭和30〜40年代のニオイがします。


そういえば、亀ちゃんの額の傷のエピソードは談笑さんの『子別れ』にはなかった。それと、父親が大工じゃないから、玄翁も出てきません。母親は500円の出所を白状しない亀ちゃんを、おさえつけてその手を包丁で切り落とそうとする。亀ちゃん「そんなイスラム教徒みたいなこと、やめてくれよ〜(泣)!」w
泣かせるところはできるだけ減らそうということなのかもしれません、そういうところが好ましいです。


鰻屋での夫婦の再会の場面もとても良かった。


翌日、熊が亀ちゃんを連れて鰻屋に行ってみると、いるはずの会社の社員達がまだ来ていない。あいつらどうしたんだろう?と首をひねるが、鰻を待ちきれない亀ちゃんに先に箸をつけさせる。
息子から、実は母親に父ちゃんに小遣いをもらって鰻をご馳走になることを喋っちゃったんだとアッサリ告げられ、うろたえる父親。そこへ母親がやってくる。


母親はきれいに化粧してかつての夫に会いにくるんだけど、いざ顔を合わせると彼にこう言うのだった。
「あれから2年。ずいぶん苦労しました。この子にもずいぶん苦労させました。全部あなたのせいですから!…それを言いたかっただけです」


せめて恨み言くらい言いたかったということも、そんなに簡単に水に流せないということも、彼女の気持ちはとても良く分かります。『子別れ』の女房って“理想”の女の姿ですが、こういう『子別れ』の女房もよいなぁと思いました。


言いたいことを言って立ち去ろうとする母親に、
「お母ちゃん!いっちゃやだ!いっちゃやだ!いっちゃやだー」
泣きながら必死にしがみつく亀ちゃん。
熊も、やり直したい!今すぐでなくていい、少しずつよりを戻せないか?と頼む。
「お近づきのしるしに、ビールでも飲もうか?」と熊は階下に向かってビールを注文する。すると…「へい!おめでとうございます!」とビールを手に手に持った鳶の若い衆たちがあがってくる。
「実は、亀ちゃんに頼まれましてね」


そう、この再会劇は亀ちゃんが仕組んだことだった。
亀ちゃんは「高いビルの建設現場を探せば父親に会えるかもしれない」と考えて、東京中のビルの建設現場を探していた。そして5日前、サンシャイン60の建設現場をうろついていたところを、父親の弟分・鳶のテツに発見されたのだ。そして昨日、テツと父親が連れ立って歩いているところに、いかにも偶然を装って現われ、父親と再会を果たした…というわけでした。
「素直な大人は騙しやすい」しゃあしゃあと鰻を食べ続ける亀ちゃん。古典の亀ちゃんよりも知恵がまわって小生意気で、でも「お母ちゃん!いっちゃやだ!」と泣いたのは、子供の亀ちゃんの“素”だね。やっぱり可愛い。


最後は…
テツ「父ちゃんは今でも亀ちゃんのウルトラマンかい?」
亀「ううん、帰って来たウルトラマンだ!」
…というサゲでした。


しめっぽくなくて、それでいてほのぼのする『子別れ』でした。


談笑師は、「赤坂名人会番外編」で観た『粗忽長屋』も面白かった。兄貴と熊は、粗忽・そそっかしいというより、暗示にかかりやすいタイプって感じ、二人だけじゃなく長屋の住人一同がそろって粗忽っていうのが面白かった。




柳家花緑 『二階ぞめき』(9/29 赤坂名人会番外編 談志十八番に挑戦)
花緑師がいかにきちんとした“落語テクニック”を備えているかがよく分かった気がした高座でした。「ちゃんと落語の技術がある人が、それを適切に使って効果(面白さ)を生んでいる」っていう落語だった。 若旦那が手拭で頬かむりをするところとか、大袈裟だけど、若旦那の“髷”が見えるような気がしたよ(笑)。そういうことはホントに些細なコトなんだけど、でも些細なことが積み重なって“『二階ぞめき』の世界”がきちんと立ち上がってくるのだった。若旦那が二階に出来上がった吉原を素見しに行くあたりからは、ほうっとため息がでそうになるところがあった。
若旦那と妓夫太郎が互いの襟元をつかみ合ってケンカするところなんかも、面白かったなぁ。


◆その他ひとこと
志の輔らくごはやっぱり凄い!
シルバーウィークではあるし、休日の昼公演ではあるし、21日の志の輔らくごには両親を連れて行きました。両親は落語ファンではありませんが、志の輔師の落語は喜んで聴きます。こうるさい落語ファンであるわたくしと、そうじゃない両親が、一緒に楽しく聴ける志の輔らくご。志の輔師匠が凄いのは、そういう落語を常に常に追求しているところなんだよぉー!


喬太郎師の『空蝉』は、どういうカオして聴いてればいいのか?
昨秋、博品館劇場で催された芸術祭参加公演「落語版『源氏物語』」で、喬太郎師は「空蝉」をやりました。
喬太郎師は、「空蝉」の舞台を現代にして、光源氏を大学生・ミナモト光司、空蝉をミナモトの友人の義理の母・ナツミにして、日活ロマンポルノみたいな落語にしたんだが、17日の会ではそれを録音した(近々CDが発売されるのでしょう)。初演の時には、ナツミの夫がすみれ荘の市会議員吉村みたいなキャラで笑えたのだが、今回はあえておとなしいキャラにしたとのことで、笑えるところが少なくなって、さらにエロさが増しました。『乳房榎』ならともかく、大学生の夜這いの噺を聞いてもなぁ。マジメに聞いててもニヤニヤ聞いててもマヌケだなぁ…と、どうでもいいことを思いながら聞いていました。