7月前半の落語



7/5(日)
立川流特選会 立川志らく独演会16:30〜18:50@なかのzeroホール
らく太 『青菜』
志ら乃 『持参金』
志らく 『死神』
仲入り
志らく 『らくだ』


7/7(火)
志らくのピン
19:00〜?@内幸町ホール
らく兵 『十徳』
志らく 『代脈』
    『疝気の虫』
仲入り志らく 『たまや』


7/12(日)
林家彦いち 喋り倒し vol.34
14:00〜16:10@下北沢ザ・スズナリ


7/14(火)
白酒ひとり
19:00〜21:00@内幸町ホール
※すべて白酒師
『犬の災難』
前回アンケートで寄せられた質問に白酒師が回答
『おくびょう源兵衛』
仲入り
『お直し』


7/15(水)
談志ひとり会
18:30〜20:20@国立劇場演芸場
談吉 『初音の鼓』
談志 『勘定板』
仲入り
平林 『浮世根問(名古屋弁バージョン)』
談志 『よかちょろ』〜『山崎屋(中)』


今月前半のNo.1はなんといっても志らく師の『疝気の虫』ですが、前回&前々回と続けて志らく師のことを書いてるので、今回はその他の会についてちょっとずつ書いてみます。


林家彦いち 喋り倒しvol.34(7/12)
『喋り倒し』は、彦いち師が見たこと・体験したことを文字通り“喋り倒す”会。だれでも遭遇しそうな些細な出来事も、行きずりの人の何気ない振舞いも、彦いち師の視線で切り取られ語られるヒトコマはとっても面白い。わたしは自分の体験を面白く喋るのがヘタなので、彦いち師みたいな人がとても羨ましいです(喋りを商売にしてるヒトを羨ましがるって、基本的に間違ってる気がしますが…)。でも、おしゃべりが面白い人っていうのは、おしゃべりが上手いとか面白いということ以上に、面白いコトやヒトにちゃんと“めぐり会う”センスと才能があるのですね。彦いち師ももちろんそういう才能のある人で、フツーに新宿を歩いてるだけで職務質問されて警察に引っ張られるし、蘇民祭では初参加にして木札奪取の栄誉を表彰されるし、稀有な体験に事欠かないのであった。この春だって、東京マラソンに出場した時には、救命処置をうけている松村邦宏をしっかり目撃してフィルムにおさめていた。凄いわw
今回彦いち師によって喋り倒されたヒト・コトは、ざっとこんな感じでした。


・会の前夜、お気に入りの目黒の蕎麦屋で相席になってしまった、トンチンカンな親子3人連れ
アメリカ在住の彦いち師の弟・その嫁
・関西のフシギ落語家・桂三象
・目黒のやき豚屋で「ぴっ・・・たしカンカーン!」と叫んだ久米宏
・スライドショーその1:彦いち、浅草寺でほおずきを売る
清水宏&彦いち師のトーク〜彦いち師、着替えのため退場〜清水宏、彦いちを語る
・スライドショーその2:彦いち、東京マラソンに出場


彦いち師と仲良しの怪優・清水宏トークも面白かった。この人のひとりライブも相当面白いです。落語ばっか行っててしばらくご無沙汰でしたが、久々に行きたくなりました。


白酒ひとり(7/14)
この日は録音が入ってたので、“白酒師ならではのネタ”ということでこの三席にしたのかもしれません(『犬の災難』は古今亭の噺、『おくびょう源兵衛』は馬生師匠以来ほとんど誰もやらなかったのを白酒師が復活させたんだそーだ、『お直し』は志ん朝師匠のとほぼ同じだった)。 “非モテ男子”“酔っ払い”“慌てふためくヒト”は白酒師の鉄板キャラクターだと思うのですが、3つの噺のどれにもそういったキャラクターが登場して、三席ともとても面白かった。


『猫の災難』だと、酒の肴は隣のネコのおあまりの鯛で、男は酒がなくなったことを隣の猫のせいにして誤魔化そうとしますが、『犬の災難』では、肴は隣のおかみさんから預かった鶏肉、災難にあうのは野良犬です。
鶏肉で一杯やりたいのをガマンしてる男は、鶏肉を恨めしげに眺めながら「おひつ抱えて断食してるみたい」(あのカラダの白酒師が言うと妙に説得力があってw、このつぶやきは可笑しかった)。男は、うまい具合におかみさんが自分に預けたことを忘れてくれたりなんかしないだろうか?と考える。「もしくは亡き者になるとか…」(笑)。しかし願い虚しく、鶏肉を回収すべくおかみさんがやってくる。「すいませーん」「…生きてたよ」。“生きてたよ”って言い方と間がよくて、思わず笑っちゃった。
どんどん酔っぱらっていく男。犬をこらしめているフリをして出刃を構えて「さー!この野郎!」って大声を出すところ、白酒師が頭のてっぺんから「さーー!」って異様にでかい声を出すのがやけに可笑しい。「こうやって飲めるのも犬のおかげだ」とほくそ笑んで、「…ま、どの犬に言やいいのかわかんねぇけど」(笑)。
やがて「これで脇に女のコがいたらいうことないんだけど…」と妄想を始める。「外は雨、あとはあなたの度胸を待つばかり…なんて言われてみてぇな!たまらねぇな!」とひとりで大いに盛り上がる男(笑)。『転宅』の泥棒もそうですが、白酒師の落語に出てくる“妄想する非モテ男子”はサイコーです。


白酒師の『おくびょう源兵衛』は、とにかく源兵衛のケタ外れのおびえっぷりが可笑しい(典型的な“慌てふためくヒト”ですね)。些細な物音に「なにっ!なにっ!なにっ!」と怯え、一歩夜道に出れば「まっくらーー!」「あー!あー!あー!」と絶叫、怯えながらキョトキョトあたりを見回しながら酒をのむところなんか、ホントに可笑しい。
この噺、『おくびょう源兵衛』ってタイトルなのに、途中から八五郎の話になっちゃうしw、他愛のないくだらない噺なんですが、白酒師はこういう噺を毎回面白く聞かせてくれるところがいいです。


『お直し』志ん朝師匠のものを踏まえているのだろうと思いますが、全体的にカラッと明るかった。それが白酒師に合っていました。
最後の、亭主とケンカして女房がさめざめと嘆く場面なんかもそんなに湿っぽくない。亭主、「ヤキモチじゃねぇよ!…なんかヤなの!」。“なんかヤなの!”って言い草が子供みたいで、ちょっと微笑ましい。女房は「こんなコトするあたしのほうがよっぽどヤだよ!」って泣くんだけど、あんまり辛気臭くない。白酒さんの女は、全体に“ちょっと気が強い、徒なお姐さん”て感じだなぁ。
蹴転の客が、これまた“酔っ払い&非モテキャラ”でたまらない。女房に「おまえさん、たまにはぶっておくれよン」と色目をつかわれて、「強くぶたないよ〜、や・さ・し・くぶつから〜」って鼻の下をのばすところが可笑しかったです。


白酒師はマクラも面白くて、この会では前回アンケートで寄せられた質問に白酒師が回答するコーナーがあるんだけど、そのトークもとっても面白いです。白酒師の“毒”が炸裂するんですもん。この日は「ホントは怖いディズニーランド」「膝をガクガク震えさせるテクニックをもつお姐さんは常任理事クラス」とゆー話に笑ったわ(詳しくは書けません、どーしても)。あと、白酒師は「薬師丸ひろ子派じゃなくて原田知世派」とゆーことを知りました(笑)。


談志ひとり会(7/15)
この会のチケットにプレミアムがついて7万円で取引された、その一方で先日の高崎の独演会は満席にならなくてチケットがばら撒かれた…という話を耳にしたのだそうです、家元。7万円で落語のチケットを買うような了見の客には「オレの落語は聴かせたくないんです!」。そういう客を除いたら、その他大勢の客は悪くない、でもこの中にそういう客がいることに耐えられない。そういう客が来ないようにするには「この会の価値を下げてやれ!」と考えたそうで、「それでわたくし、“お前、出ろ!”って言われました」と平林さん(笑)。
タダ券もらってただ笑いたいだけでやって来る客には自分の落語は分からない、つまらないと分からせないといけない、「だから今日はうんとつまんない落語をやります」…と『勘定板』を始めた。
「(ひとり会は)今日で最後です!」とさんざん言ってたが、仲入り後登場したときには「…やめるつもりだったけど、来月もあるんだってサ」(笑)。とりあえず来月のひとり会はあるみたいです。


客に威張るのにもいろいろあって、「メモとるんじゃねぇ!」っていうのは気の小ささの現われだが、「了見が気に入らないヤツには、客であろうとなんであろうと、オレの落語は聞かせない!」というのはポリシーだ。こういうのは好きです。