立川流特選会 立川志らく独演会



7/6(日)16:30〜18:50@なかのzeroホール
らく太 『青菜』
志ら乃 『持参金』
志らく 『死神』
仲入り
志らく 『らくだ』


※ちょっと模様替えしてみました。内容は相変わらずです。


『死神』も『らくだ』も、わりと最近演られたようですが、わたしは志らくさんの『死神』は昨年末のピン以来、『らくだ』は昨年7月の三鷹の独演会以来でした。どちらの噺も、最近の志らくさんが目指している方向にそって“あくまで落語”的なバカバカしさ・おかしさがより明確になってきているような気がしました。特に一年ぶりに観た『らくだ』がとても良かった。


志らくさんの『らくだ』のいちばんの特色は、丁の目の半次が“ヘンな人”というところかな。談春師の半次の怖さはそのスジのヒトのそれですがw、志らくさんの半次は、気にいらないことがあると「あ゛ーーー!」と叫んで首をぐるぐる廻すというヘンな攻撃で屑屋を「意味がわからないよ!」と怯えさせる。この攻撃は、一年前に観た時よりも効果的&効率的に使われていて、笑いを生んでいた気がします。
屑屋の「フグたべてふぐ(すぐ)死んじゃったんですね」って駄洒落が気に入らなくて“あ゛ー!”と首を廻し、なかなか月番のところに行かない屑屋に「やさしく言ってるうちに行けよ!」と“あ゛ー!”と首を廻し…と、なにかと首を廻す半次。屑屋は「怖いんだか薄気味悪いんだか、ワケがわかんないよ」と嘆きながら、半次の言うことをきいてしまう。この半次のキャラクターはナンセンスギャグマンガに出てきそうで、噺をかなり“落語”っぽくしていると思いました。


それから、半次に酒をすすめられた屑屋がだんだん酔っていくところや、酔った屑屋が泣きながららくだに酷い目にあわされたことを掻き口説くところを思い切って短くしていているのも特徴。わたしは、それはとてもいいと思いました。
ここの部分、聞かせどころ!泣かせどころ!とばかりに一生懸命やる演者が多い気がするんだけど、わたしは、大抵このあたりで飽きる。わかった、もういいじゃん〜と思いながら聞いてることがよくあります。でも、志らくさんはアッサリ短くしてるので、ここでだれないし、ヘンにしんみりしない。だから、この後の屑屋の大暴れ(らくだの頭髪をむしる〜願人坊主を拾って…)まで自然に繋がって、サゲに向かって気持ちよくアップテンポになっていって、明るくカラッと終わる…という流れになってる気がします。


わたしは、屑屋が、らくだに脅かされて店屋物のどんぶりを買わされたとか、狸の皮があると騙されて床下に閉じ込められたとか、殴られたとか、いろんな泣きごとを延々と聞かされるのがイヤなんだけど、志らくさんは次のようなエピソードをひとつだけ入れていました。
ある日、らくだは原っぱで折れ釘で地面に絵を描いていた。通りかかった屑屋が何を描いているんですか?と尋ねると、らくだ「オレの兄貴分(半次)の顔を描いてんだ」。屑屋が絵を誉めると、らくだ「じゃぁ、この絵を買え!」。屑屋は仕方なく金を渡してその場を去ろうとする。だが、らくだはなおも「せっかく買ったのに、お前はこの絵を持って帰らないのか?」と因縁をつける。泣く泣く原っぱの泥や砂をかき集める屑屋。すると、らくだは「おい!さっき描いた絵、また見たくなった。ここに出せ」。勘弁してくださいと頼む屑屋をボカボカ殴るらくだ、それを近所の子供達が遠巻きに見て「また、屑屋がやられてるぞ」と笑う。笑っている子供達の中に屑屋の子供もいる、子供は皆と同じようにしないといじめられるので、仕方なく笑っているのだけど、よく見ると泣きながら笑っているのだった・・・。
この、ちょっと胸が痛くなるエピソードをひとつだけっていうのが、いい塩梅だなぁと思いました。


それから、志らくさんの『らくだ』には、屑屋がらくだの頭髪を乱暴に手でむしって、ぽいぽいそこら中に放り投げる、その毛が酒の茶碗に入って、酒を口にふくんだ屑屋が、口の中から髪の毛をひっぱりだす…というシーンがあります。『らくだ』はもともと上方の噺で、このシーンは上方のやり方にあったもので、関東にうつされてからこちらの噺家はやらなくなったそうですが(前に『圓生百席』で聞いた、たしか)、おっかなくて面白い志らくさんの『らくだ』にはピッタリで、印象に残るシーンだった。


志らくさんの『らくだ』を聞いた向井秀徳のオファーで、志らくさんは9月にZAZEN BOYSのライブにゲスト出演することになったそうです(もちろん『らくだ』をなさいますのよ →…と思ってたらまだ何をやるか決めてないんだそーです。昨夜のピンでそうおっしゃってました。ということでお詫びして訂正※7/8記)。志らくさんはすごいアウェイ感だろーなぁと想像しますが、どーかひとつ、ロックファンにクレージー落語をかましてやって欲しいです。