三月前半の落語



凄い勢いで去っていった三月。気がついたら三十一日でありますよ。
何も書かないよりは…と思いまして、三月の落語活動を前半・後半に分けて記録しておきます(…今後、このやり方が定着しそうな予感が)。まずは三月前半に行った会、聴いた落語は以下の通り。


3/1(日) 巣鴨四丁目落語会 昼の部
14:00〜16:30@スタジオ4
開口一番 志のぽん『金明竹
志の輔 『雛鍔
志の輔&志の八 志の八二つ目昇進挨拶
志の八 『大工調べ(序)』
志の輔 『メルシー雛祭り』


3/2(月) 志らくのピン
19:00〜21:00@内幸町ホール
開口一番 志らべ 『粗忽の使者』
※以下、すべて志らく
『子ほめ』
『二番煎じ』
仲入り
『浜野矩随』


3/3(火) 三三背伸びの十番 第一回
19:00〜21:00@横浜にぎわい座
開口一番 柳亭市也『子ほめ』
柳家三三 『雛鍔
柳家喬太郎 『次郎長外伝 小政の生い立ち』
仲入り
柳家三三 『花見の仇討ち』


3/7(土) 下北沢演芸祭2009 春風亭昇太 「Bネタ市」
19:00〜20:55@シアター711
※すべて昇太さん
『短命』
『悋気のコマ』
仲入り
『伊与吉幽霊』
『お見立て』


3/11(水) 下北沢演芸祭2009 SWAクリエイティブツアー
19:00〜?21:00?@シアター711
三遊亭白鳥 「かわうそ島の花嫁さん(白鳥版「大工調べ」)
柳家喬太郎 「本当は怖い松竹梅」(「松竹梅」その後)
仲入り
林家彦いち 「厩『大』火事」(「厩火事」その後)
春風亭昇太 「本当に怖い愛宕山」(「愛宕山」その後)


3/12(木) 立川談笑傑作選
18:30〜20:30@川崎市高津市民館 ノクティホール
※すべて談笑師
金明竹津軽弁ver.)』
まんじゅうこわい
仲入り
『芝浜』


3/14(土) ベシラノテンコ
18:00〜19:30@落語協会2階
春風亭百栄 『引越しの夢』
三升家う勝 つなぎのトーク
春風亭百栄 『トンビの夫婦』
三升家う勝 『紀州
春風亭百栄 『木乃伊とり』


◆良かった落語
立川志の輔 『雛鍔 (3/1 巣鴨四丁目落語会)
この三月には、『雛鍔』を三人の噺家で聴きました(志の輔師、三三師、らく次さん)。『雛鍔』って他愛のない噺ですが、上手い人がやるとこんなに味わいの深い噺になるんだなぁと思ったのが、志の輔師匠の『雛鍔』。
噺の真ん中あたりに、植木職人をしている熊(金坊の父親)のところにお得意先の旦那が訪ねてくるところがありますね。熊は、この店の番頭が自分に断りなく他所の職人に庭の手入れをさせたのが面白くなくて無沙汰をしている。そんな熊を心配した旦那が直々に「機嫌を直して、またうちにきておくれ」と頼みにくる…というところ。ここは、「旦那、いい人だなぁ」とか「熊の気持ちわかるよー」とか、まぁちょっとほっこりするところで、「なんだって羊羹を菜切り包丁で切ろうとすんだよ!」「半紙は斜に折れ!」とかと同じくらい、この噺で聴かせて欲しいところのひとつです。上手い人の『雛鍔』は、皆、ここのところがいいと思う。
ちなみに、志の輔師の『雛鍔』では、熊を訪ねてくるのは旦那じゃなくて番頭さん。熊と番頭さんのわだかまりとそれが解ける過程がちょっとしたドラマを観てるみたいで、良かったです。


それと、志の輔師の『雛鍔』は、金坊と若様がどっちも可愛い。
三太夫に何を拾ったのか?と尋ねられた若様、銭をつまんで「見たことのないものである!」。この言い方がじつに天真爛漫。
父親に汚ねーなぁ!って呆れられる金坊は、泥遊びで汚れて鼻水2本たらした顔で「おとっつぁん、親がそんなことゆーなよぉ、えへへへ」と明るく笑う。憎めない悪ガキって感じ。


最後のところ。
番頭さんの前で銭を知らないフリをする金坊。感心した番頭さんはお小遣いをやろうと財布をとりだす。しかし、銭を知らない子に小遣いをやっても仕方がないと気づいた番頭さんは「こんど、おじさんが手習いの道具一式を揃えてやるからな」と財布をしまってしまう。そうしながら金坊の顔を見て、番頭さん「植木屋さん、いまムッとしなかった?この子?」。ここ、可笑しくて好きだ。


立川志らく『子ほめ』 (3/2 志らくのピン)
この日の志らくさんは『浜野矩随』も良かったんですが、あえて『子ほめ』をあげたい。
あまりにも大笑いしちゃったんで(『子ほめ』で大笑いって、したくてもフツウできなくないですか?)
タケさんちに行った八っつぁんは、赤ん坊のお腹を押して“キューッ”といわせるにとどまらず、まだ頭蓋骨がかたまりきっていない赤ん坊の頭をモミモミし、抱き上げて「コンニチワ・コンニチワ」と腹話術の人形代わりにする(!)。可哀そうに赤ん坊の頭は福禄寿のようになってしまいました(笑)。ひでぇな、八っつぁん!


柳家喬太郎 『次郎長外伝 小政の生い立ち』 (3/3 三三背伸びの十番)
喬太郎師は後輩との二人会だと容赦なくかましますね。後輩イジメ?って気がしないでもない(笑)、講談大好きな三三さんの会のゲストで講釈ネタをやるなんて。でも、正直、この会では喬太郎師のこのネタを聴けたのが収穫(だって、三三師がやったの『雛鍔』と『花見の仇討ち』なんだもん、それって“背伸び”? )。


春風亭昇太 「本当に怖い愛宕山」(「愛宕山」その後) (3/11 SWAクリエイティブツアー)
今回のSWAでは“古典落語”をとりあげて、古典落語の“その後”“サブストーリー”を作るという試みにしたんだそう。いちばん面白かったのが昇太師の“その後の『愛宕山』”。もともと昇太師の『愛宕山』は面白いけど、これも面白い、その上昇太師の可愛さ(吉川潮センセイ言うところの昇太の“稚気”ってやつだ)全開!で、「くーっ!たまらん!」って感じだった(笑)。


谷底からあがってきた一八は30両を諦めきれず、もう一回茶店の婆さんからカサを借りて谷底へ落ちていく。旦那に着物を裂いてよった紐を下ろしてくれと頼むが、旦那は紐を渡してくれない。実はこの旦那、お金目当てですりよってくる幇間が大嫌い。毎年幇間をつれて愛宕山にやって来ては目の前で小判を撒き、谷底へお金を拾いに行く幇間をむざむざ死なせていたのだ。谷底には商売の神様の祠があって、撒いているお金は神様へのお供え、幇間は生贄だったのだ。
谷底に取り残された一八は、さっき着ていた着物をヒモにしてしまったので、身につけているのはふんどしだけ。そこでふんどしを裂いてヒモをつくるが、所詮ふんどし、できあがったヒモは「みじかーい(泣)」。そのヒモをつかってなんとか大きな岩の上にまではあがったが、周りをオオカミに取り囲まれてしまう。オオカミにおびえる一八。しかし、幇間の悲しい性で、ついオオカミにヨイショしてしまう(笑)。犬より野生的でカッコイイだの、足が立派だのヨイショされたオオカミ「ウオ!(喜)ウオウオ〜」と照れる!この「照れるオオカミ」がなにしろ可愛くて可笑しかった!歩く姿も立派に違いないとヨイショされたオオカミが歩いて見せるんだが、昇太さんの“照れて嬉しそうに歩くオオカミ”の仕草(『動物園』のらいおんの仕草を思い出しましょう)がすごーく可愛くて、もう、ここんとこは昇太ファンには絶対見て欲しい!と思いました。


このあと一八は、谷底で「商売の神様」に出会うんですが、この神様のキャラクターもサイコーです。『人生が二度あれば』に出てくる盆栽の松の木の精、あれにちょっと通じるものがあります。今回の神様は「そんなかんじのオレのオレのオレ?」とかニセモノラッパーみたいなコトは言いませんが、全然貫禄がなくてフツウの男の子みたいという点が松の木の精に共通しています。一八に「オマエ、誰だよ!」と聞かれて「だからぁ〜、神様」って言ったりする、その言い方、ちょっと首をかしげてそういうセリフを言う姿に、昇太さん独特の可愛げがあります。


◆その他
●6日の志らく喬太郎二人会」を楽しみにしていたけど、仕事で行けなかった(悔しいです!)


●12日は談笑師の『芝浜』を聴くために「談笑傑作選」に行った。


談笑師の『芝浜』、後半のポイントだけ抜き書きしてみますと…


・財布を拾ったのが夢だった…ということになり、魚勝は女房に「オレ、商いに行くよ。もう怠けねぇ、死ぬ気で働く」と誓う。疑う女房に「オレがお前にウソついたことがひとつだってあるか?そのオレがおめぇに言うよ、死ぬ気で働く」。それを聞いた女房「あたし、死ぬ気で支える」


・5年後、魚勝は奉公人を抱えるほど店を大きくし、来年は魚河岸の中に中卸の店をもてるまでになる。中卸の店を開くためには100両かかったが、魚勝がそんな金はないと迷っていると、女房が右から左に100両を用意してくれたのだ。もつべきものはやり繰りの上手い女房…と魚勝は感謝する。


・除夜の鐘を聴きながら、魚勝は何気なく台所に行き、床下の糠みその横から革の財布をとりだす。それを見て泣き出す女房。実は魚勝、夢だといいくるめられたフリをしていただけで、女房がウソをついていると分かっていた。魚勝「夢か夢じゃねぇかくらい分かるよ」。
魚勝は、財布の一件があった後、一生懸命働いてはいたが、女房がちょっと留守にすると、その間血眼で家中捜した。そして一年後のある日、台所の床下に糠みそに並べて隠してあった財布を発見したのだ。1年の間、あれはどこにあったんだ?と魚勝は女房にたずねる。


・女房の告白。
あの日、亭主が40両拾ってきた時、女房は大喜びする。「魚屋なんて貧乏人がやる商売だよね〜!」(笑)。で、亭主が寝ている間に、大家に半年分たまっていた店賃をまとめて払おうとして怪しまれ、財布のことを白状してしまう。それが人に知れたら大事だと言われ、財布はお上に届け、亭主には「夢だった」とウソをついたのだ。1年後、持ち主の見つからない財布は下げ渡され、女房の手に戻って来た。


・魚勝、背後から酒をとりだし手酌で飲み始める(!)。
泣くな、謝らなくていい、オレも酒を飲んでいたんだと言いながら、魚勝は当時を振り返る。
…あの頃、仕事に出かけようと朝一歩家を出た魚勝が、忘れ物に気づいてふと振り返ると「おめぇオレのこと拝んでた」「気まずくってなぁ」「気づいてることを、もっと早く言ってやりゃよかった」


・女房「お前さん、お酒飲まない?」と酒を出す。「それ、お酢でしょう?」「わかってたの?」「ここらへん酸っぱいニオイでいっぱいだもん」(笑)。魚勝は女房にも酒をすすめるが、女房は「呑めないワケがある」と断る。女房はみごもっていたのだ。
そうして魚勝はついにホントに酒を飲む。「いい大みそかだなぁ…うまい酒だ」「お前さん、ホントに飲んじゃったね」「ここで飲みたくってよ!」(笑)


・魚勝は財布は見つけたけど手はつけてないと言い、女房に金を出してみろという。言われるままに女房が財布を逆さにすると…出てきたのは石ころ。びっくりする魚勝。「わたしのやりくりが上手だって驚いてたでしょ」と微笑む女房。


・女房「ね、その財布拾ったの、夢にしちゃおうか?」
 魚勝「うん、いい夢かもしれねぇ」


この『芝浜』は昨年の暮れに初演だったそうだが、それを観た落友たちのレポートや話から推察するに、今回は刈り込んでて、初演にはあったのに今回はなかったエピソードやせりふがあったみたい。初演の時には、こういうエピソードがあったそうです。


・財布を発見した魚勝はハラワタ煮えくり返る思いで、財布を持って酒屋へ向かった。42両(※初演は42両だったみたいですが、12日は40両だった)で飲んで飲んで飲みまくってやろう!と外へ出たら…酒屋までの短い道のりが寒い!その寒さの中で魚勝は女房のことを思い出した。女房は寒かろうが暑かろうが、魚勝が「酒屋行けッ!」って言うと黙って行った。「こんなに寒かったのか…」と初めて知った魚勝。「しかも、おめぇが酒屋から帰ると飲んだくれのしょうがねぇ亭主が居るんだ。俺が走らせてるんだよ。俺がいけねェと思った。俺がいけねェ、お前に申し訳がねぇよ、この金で酒買っちまったら…」


わたしは「なぜ魚勝は財布を発見したのに、お金をつかっちゃわなかったのか?」っていうのがちょっと疑問だったんだけど、そういう疑問が沸いたのは、この話↑がなかったせいじゃないかと思いました。この話があれば、魚勝が女房がウソをついているのを承知で黙々と働き続けたワケがよく分かった気がする。


でも、好きか・嫌いか?で言ったら、この『芝浜』は好きかも。聴きおえて温かい気持ちになるところが。勝が酒を飲んじゃうのもサゲを変えたのも、大胆だけど違和感がない(むしろ納得しちゃう…)っていうのもすごい。


※次回は「三月後半の落語」を書きます…そのつもりです、いまのところ。
※今年は“落語会は月8つまで!”を目標にしたんですが、この半月で既に7つ行ってる。敗因は下北沢演芸祭だと思う・・・