大銀座落語祭2008 柳家三三の世界



7/17(木)18:30〜20:50@教文館ウェンライトホール
開口一番 三遊亭歌ぶと 『転失気』
柳家三三 『加賀の千代』
宝井琴柳 『大瀬半五郎』
仲入り
宝井琴調 『寛永馬術より曲垣平九郎』(愛宕山出世の春駒)
柳家三三 『魚屋本多』



昨年9月の三人集(市馬・談春・三三@紀伊國屋ホール)で、三三さんは『お富与三郎・木更津』と『国定忠治山形屋乗り込み』をやってとても良かった。その後、三三さんが講談が大好きで宝井琴柳先生に稽古をつけてもらっていると知り、「“講談”もちゃんと聴いてみたいな…」と思い始めた。山陽さん、茜さんの新作は何度か聴いてるけれど本格的な講談てちゃんと聴いたことがない。でも、落語で手一杯で、講談までなかなか手が回らない・・・というわたしにとって、この企画は願ったり適ったり。銀座落語で一番楽しみにしていたといっても過言ではありません。期待通り、とても面白かった。


ウェンライトホールは銀座通りの教文館書店の9F(エレベーターがとってもゆーっくりなので、開演時間ギリギリに行くとハラハラすると思います、これからの会にいらっしゃる方、時間に余裕をもって行きましょー)。天井の低い小さなホール。床はフラットだから、後方の客席からも見えるように高座はかなり高い。なので、演者は高座に普通に立つと頭を天井にぶつけてしまいます。背の高い三三さんは、高座にあがるステップの二段目で既に頭が天井につきそうでした。


『加賀の千代』 三三さんのを聴くのは初めてだったが、とっても面白かった。7日に『青菜』を聴いた時にも感じたが、三三さんはダメ亭主としっかり者のおかみさんが出てくる噺をやると、俄然面白い。夫婦の掛け合い漫才みたいな会話がきわめて自然で可笑しい(そーゆー夫婦関係なのだろうか?三三さんちはw)。
晦日。年を越すお金がなくてカリカリしているおかみさん、とぼけたコトを言ってばかりの亭主に「あたしたち夫婦に今必要なのは、お笑いじゃなくてお金なの!わかってる?」(笑)
おかみさんは、亭主を、井上のご隠居のところに金の無心にいかせる。手土産に饅頭をもたせ「これをご隠居さんのお目にかけてくださいって女中さんに渡すんだよ」と念を押す。亭主が、ご隠居はこの饅頭よりも、隣町の饅頭屋の皮がうすくて餡がいっぱい詰まった饅頭のほうが好きだと言うと、女房「いいんだよ、義理かけに持ってくんだから」と亭主を送り出す。
井上のご隠居は、ぼんやりした、でも人の好いこの亭主が大好きなわけですが、隠居と亭主の二人の会話がすごく可笑しい。
ご隠居に饅頭を差し出した亭主、「ご隠居さんの目にモノ見せてください!」
ご隠居「…そういうところが好きだ」
隠居が饅頭の礼を言うと、亭主「かみさんが義理かけに持ってけって」。
「たまらないな」ご隠居、嬉しそうに嘆息。
さては金でも借りに来たかと言われた亭主「お坊さんが二人」「…というと?」「そうそう!」「…絶好調だな!」
ご隠居の一言がいちいち可笑しい。
おかみさんやご隠居のセリフに三三さんらしいセンスが感じられ、とても楽しい好感のもてる一席だった。


三三さんの後は講談二席。
琴柳先生『大瀬半五郎』は侠客伝。次郎長外伝の一部で、次郎長の子分・大瀬半五郎が兄・又五郎の敵を討って大暴れする話。
琴調先生『寛永馬術より曲垣平九郎愛宕神社“出世の階段”の由来のお話。


半五郎が兄を陥れた情婦・お染と遣り手婆を容赦なく惨殺する(喉に煮え湯を流し込み、長脇差を口から喉に突き通す)とか、急勾配の186段の階段を馬で駆け上がるとか、講談のストーリーって実に豪勢。それを外連味たっぷりに語る。ちょっと歌舞伎に似てると思った。講談を楽しめるかどうかは、まずはこういうトーンや雰囲気にハマれるかどうかなのかも。それと、当たり前だけど、落語とは違うリズムで、これは心地よいと思った。琴柳先生の張扇のタイミングとか音は実に効果的で気持ちよかった。講談て、落語よりももっと音楽に寄ったものなのかな?という印象を持ちました。
三三さんは『三方ヶ原軍記』を習ったそうだが、その昔、志ん朝師匠も琴調先生の師匠・宝井馬琴先生(五代目)に『三方ヶ原軍記』の稽古をつけてもらったそう。二人のお稽古を、琴調先生は正座して聞いていた…なんていうエピソードが興味深かったです。


「コレがやりたくて銀座に出た」と実に楽しそうだった三三さんの『魚屋本多』。琴柳先生の十八番だそう。
徳川所縁の大名・旗本には「本多」姓が多い。数多の本多のお殿様のうち、本多隼人正(三三さんは“はいとのしょう”って言ってた気がする)のエピソード。若き日、小牧山の戦で手傷を負った隼人正は、徳恩寺の近くに住まう父娘に匿ってもらう。隼人正は手当てをしてくれた娘と一夜の契りを結び、娘は男の子を身ごもる。成長した男の子・宗太郎が江戸へ出て魚屋となり、隼人正と偶然の再会を果たす…というお話。
三三さん、魚屋・宗太郎のセリフは完全に落語調で、本多の用人に呼び止められて屋敷のうちに通されるところなんかは、そこだけ聴いたら「妾馬?」って思ったかも。ただ、隼人正が小牧山の合戦を語るところなどは完全に修羅場読みで、見事だった。三三さんが得意にしている『五目講釈』がありますね、あれから滑稽な要素を払拭した本格的な修羅場をイメージしてもらえると近いかもしれません。
修羅場のような語りって、演者によっては、時代がかってもっともらしくて嫌味な印象をうけるような気がする。三三さんはそういうヤな感じが全然しないなぁ。硬質でキッチリした印象の声と細身でアッサリした容貌がプラスに働いてるのかもしれない。ともかく“大真面目にクサいことをして、クサくない”とゆーのが、三三さんの魅力のひとつだと思う。
機会があったら、琴柳先生の『魚屋本多』も聴いてみたいなと思いました。