春の文左衛門大会 5/4





5/4(日)13:45〜16:25@なかの芸能小劇場
開口一番 柳家小ぞう 『金明竹
橘家文左衛門 『寝床』
柳家喬太郎 『ハンバーグができるまで』
仲入り
文左衛門&喬太郎 二人落語 『道灌』
橘家文左衛門 『短命』



文左衛門大会二日目は、ホントに楽しい、爆笑の会だった。


開演までの待ち時間、知人達と落語の四方山話をしていた。そこでぞうさんの話も出て、マクラが面白いねなどと話していたのだが、今日も小ぞうさんはマクラが面白く、さっきの話を思い出して余計笑ってしまった。
与太郎小噺「あんちゃーーん!来年の春の文左衛門大会と秋の文左衛門大会、どっちが先にくるんだ〜?」「ぶぁかーーー!来年やるかどうかわかんねぇ!」にどっと笑う。そこへ支度中の長襦袢姿の文左衛門師がハブラシをくわえてぬっと現れた(!)。歯を磨きながら小ぞうさんをねめつけた後、無言のまま退場。これも大笑い。
落語もなかなかでした。加賀屋佐吉の使いの男の上方言葉が滑らかで、サッと短かめで結構!


文左衛門師匠の一席目は『寝床』
豆腐屋が来られない口実にガンモドキの作り方を説明する茂蔵。「…水に漬けすぎますとシソの実が水を含んでしまいまして、油であげる時にパチパチはじけてしまいます、パチパチパチパチ…」“パチパチ”の仕草がなんだか可笑しい。旦那も見咎めて「なに、楽しそうにやってんだよ!」
長屋の住人たちのことをひととおり尋ねてしまうと
旦那「扇辰はどうしたっ!」
茂蔵「扇辰は独演会の準備で…」
「白鳥はッ?!」「アサダ二世は?!」…次々に芸人達が登場するのが楽しい。「昇太はどうした?」「家でひとりで暗ーく呑んでて、義太夫に来いとは、とても誘えませんでした〜」w
芸人達の後には店の者たち。「定吉はどうした?」いたいけな小僧・定吉が恐ろしい義太夫の犠牲になるのを恐れたのね、茂蔵、思わず「定どんは子供です!」これ、可笑しかったわー。ついに「お前はどうなんだい?」と自分に矛先が向けられると、茂蔵、座布団の上で体をハスにしてじりじり後退。「滝川クリステルかっ!」


ヘソを曲げて店だてを命じる旦那を、一計を案じた番頭がなだめにかかる。「長屋の者たちは皆、旦那様の義太夫を聞きたがっております」すると遠くからかすかに聞こえる長屋の衆の連呼…「聞ーかせろ・聞ーかせろ」。番頭「聞こえませんか、民の声が…」。これも可笑しかった!
しぶしぶ集まった長屋の衆は、せめてもの楽しみの豪華なお膳に舌鼓をうつ。文左衛門師匠の仕草がホントにおいしそうだった。しかし、その楽しみも束の間、「…うわっ!始まった!」旦那が義太夫をうなりだす。腹ばいで義太夫をよけながら、ご馳走を食べ続ける長屋の衆…。
この後、長屋の衆は全員寝てしまうわけなんだが、文左衛門師はふと素に戻り「…これ、おかしいと思わない?」「セコな芸は寝らんないよ!」偶然にも、会の前にそんな話をしていた。落語を聴いてると眠くなる、とくにリズムのいい落語はよく眠れる…という話を知人がしているのを傍で聞いていて、わたしも志ん生のCDは聴いてる途中でいつも寝てしまって、最後まで聴いてないのが結構あるなぁ…と思っていたところだった。『寝床』の最後の部分、いわれてみれば確かに違和感がありますね、あんなに殺人的な義太夫が飛んでくるところで“寝る”っていうのはね。“気絶”っていうなら分かるけど。でも、ここで寝ないと“寝床”にならない…と師匠は、今日は皆が寝てしまうオーソドックスなやり方でサゲまでいきました。


今日のゲストは喬太郎『ハンバーグができるまで』。これを聴くのは3回目で、前回聴いたのは昨年11月の「喬弟仁義 さん喬一門勉強会」。聴くたびに細かい設定がちょっとずつ変わってるんだが、今回の変更のポイントは、できあがったハンバーグを食べる最後の場面。おかげで、この噺の印象は大きく変わった。
男やもめ・まもるちゃんのところに、突然別れた妻が訪ねてくる。あなたの好きなハンバーグを作ってあげるわ…と商店街に材料の買い出しに行く。この部分、今までは二人で一緒に買い物をしていたが、今回は元妻にいいつけられた材料を男がひとりで買いまわるという設定に変わっていた。まもるちゃんはずうっと地元に住んでるのかな、商店街の店主達は皆顔なじみで、彼の性格・身の上を親戚みたいによーく知ってるんだった。「ひとりもんが、なんだって合い挽きなんか買うんだよ!?」「なんかあったのか?」と騒ぐ詮索好きの商店街の人たち。まもるちゃんの挙動がおかしいという話は、商店街の連絡網の電話であっという間に広まり、彼の部屋にかわるがわる様子を見に来る。
一方、部屋では、まもるちゃんが元妻の作ったハンバーグを複雑な気持ちで食べている。彼は彼女に未練がある。そこへ彼女のほうから訪ねてきたんだから、もしや脈アリ?と思ってるのだ。いままで聴いた2回では、まもるちゃんはなかなか気持ちを伝えられず、ようやく口を開こうとした時、元妻が突然「あたし、再婚するんだ」と告げる。まもるちゃんはついに想いを口にできないまま終わる。…別れた男のところに、わざわざ「再婚する」って言いに行く女がよく分からない。いまだに自分を想う男に引導を渡しにいったのか?それにしてもハンバーグ作って帰ってくるって、イヤミたらしくないか。男も男だよ、あんまりにも未練タラタラだよ…と、わたしの中ではこの新作落語は“ヤな女と、情けない男”の話だった。ところが、今回は、まもるちゃんは元妻に“戻ってきてくれ”と頼む。「…オレ、やっぱお前がいないとダメなんだ。戻ってきてくんない」ぶっきらぼうな言い方だけど、ちゃんと言った。よかった!
結局、元妻は再婚すると告げるのだが、その後の彼女のセリフは前回聴いた時はなかったものだった。「さっき、あなた“お前がいないとダメなんだ”って言ったけど、違うよ。わたしがいると、ダメになるんだよ」
…うーむ、同じ引導を渡すのでもちょっとやさしくなったんだ。
今回、この噺、前よりも好きになった。


仲入り後は文左衛門師と喬太郎師の二人落語『道灌』 以前もやった企画で、今回、主催者のリクエストで再演の運びとなったらしい。二人が客席に向かって並んで座布団にすわり、文左衛門師が八五郎喬太郎師がご隠居と提灯を借りに来る友人をやった。これがもう、すっごく面白かった。
「こんちわー!」とやってきた八五郎を迎え入れるご隠居、奥の婆さんに声をかける「婆さん、怖がることはないよ」。このひとことが、もう可笑しくて。
ご隠居がお茶うけに羊羹でも買いに行かせようとすると、
八五郎「お!ドンキの羊羹?」(この会場の隣にドン・キホーテがあります)
ご隠居「お前が言うと“鈍器”だな」
文左衛門師と喬太郎師、お二人の息がピッタリ!
ご隠居の家にはいろんな絵がかかってるねと、八五郎が一枚を指し「あれはなに?あの、みんながかがんで何か拾ってるやつ」「あれはミレーの『落穂拾い』じゃな」「ああいうの浅草でよく見るよね、場外でああやってなんか拾ってるヒトいるよね」「あの絵は浅草ではないな」。ご隠居さんちには、この他、ムンクの『叫び』(モデル・さん喬をしくじった弟子××)、ピカソの『ゲルニカ』(モデル・師匠が次々変わる噺家××)といった名画もかかってましたw


「七重八重…」の兼明親王の歌を書いた紙(手ぬぐい)を、ご隠居が八五郎に手渡す。お二人は正面を向いて演じてるんだけど、ご隠居(喬太郎師)は自分の手ぬぐいを前に差し出して八五郎に渡す格好、八五郎(文左衛門師)はそれを受け取ったような格好で自分の手ぬぐいを持っている。ご隠居「おや、渡すと手ぬぐいの色が変わるな」に、また笑ってしまった。
最後は、いつもの女形みたいな八五郎がでてくる。くの字なりに横座りして「さ、読んで!」と歌を書いた紙を差出す。提灯を借りに来た友人(喬太郎師)、思わずムラッと「オレ、前からお前のことが〜!」と八五郎を押し倒す(!)…こんな調子で最初から最後まで笑いっぱなし。こういう会でないと滅多に観られない、爆笑『道灌』だった。


文左衛門師匠、昨夜は寝ていなかったそうだが、あの『道灌』は疲れただろうな。にもかかわらず、最後の『短命』も熱演だった。
文左衛門師『短命』の八五郎は、伊勢屋のお嬢さんと若旦那のアツアツを羨ましがって地団太を踏む。座布団の上で、ホントに膝で地団太を踏むんだが、ご自分で「彦いちみたい」と言う通り、激しい地団太。この仕草が何度も出てきて、可笑しかった。若旦那たちが次々に亡くなる原因をようやく理解した八五郎、長屋に帰る道すがら「そんなことして、あのお嬢さんたら…」と狂ったように地団太を踏んだのが凄く可笑しかった。
おかみさんも面白いんだよね、八五郎からお給仕しろと命じられて「“お給仕”ってなんだよ?」って言葉を知らない!ご飯をふわっとよそれだのなんだのと言われ怒り心頭、「…パキン!」と掌にのせた飯椀を割っちゃったのにも笑った。


本当に楽しかった。文左衛門師匠、有難うございます!あと一日、頑張ってください。
あぁ、最終日、いけないのがホントに残念だ〜