第11回 ラジオデイズ落語会





3/1(土)14:30〜17:30@コア石響
開口一番 春風亭一之輔 『雛鍔
橘家文左衛門 『道灌』
柳家三三 『長屋の花見
休憩
柳家三三 『宮戸川
橘家文左衛門 『文七元結





今日はなんといっても文左衛門師。『道灌』はたっぷりフルバージョンだったし、初めて聴いた師の『文七元結』、凄く良かった。


ラジオデイズ落語会に行くのは初めてで、会場のコア石響も初めてだった。この会は録音しているらしいのだけど、会場は地下にあり、天井には配管みたいなパイプが見えてたりしてちょっと寒々しい。今日は外も寒かったせいか実際とっても寒くて、上演中、多くの客はコートやダウンを着たままだった。開口一番で登場した一之輔さん「春らしい、コンクリートに囲まれた会場で、凄惨なリンチの現場みたいですね」なんて言うので笑ってしまった。こういうところはちょっと白酒さんに似てるような気もする。一之輔さんの雛鍔は、女房にようかんの切り方・出し方を口うるさく指図するところが面白かった。“凄惨なリンチの現場”発言といいこの場面といい、一之輔さんは皮肉や小言が面白いな。


文左衛門師『道灌』 寄席で短いバージョンを聴いたことは何度かあったが、前半(ご隠居と八つぁんが書画をサカナに散々駄洒落を言いあうところ)が長いバージョンを聴いたのは初めてだった。寄席で聴いた『道灌』も面白いと思っていたのだけど、今日のはそれ以上に面白かった。「文左衛門師の『道灌』は面白い!」という人はたくさんいて、皆がいう“面白さ”というのはこれか!と分かったような気がした。
ご隠居から歴史上の傑物の“四天王”を教えられた八つぁんが「しじみ・はまぐり・ばか・はしら…貝の四天王ってのはどうです?」なんていう駄洒落を返すわけですが、文左衛門師の駄洒落というのがまったく文左衛門師ならではの味があって大笑いした。四天王の駄洒落「姐ちゃんいいケツしてんのう」とか、八五郎がすらすらと歌を詠みあげるご隠居に「それ、やさしいロシア語?」とか、あの画は太田道灌を描いたものだと聞かされて「太田さん?知ってるよー、三味線で“♪イエスタデー”とかやる人でしょ?」とか、文左衛門師の言うこと・言い方、ほんとうに面白い。
提灯を借りにきた友達に、待ってましたとばかり「いい?やるわよ?」とシナをつくって賤女を真似るところも可笑しい。『道灌』でこんなに笑ったのは初めてかも。改めて文左衛門師が好きになった。


続いて高座にあがった三三さん「寄席に出ておりますと、毎日いろいろと思うことがあります」「たとえば今日は、ああいう人の後にどうしよう?…というようなことを思うんでございますよ」。そのくらい面白かった文左衛門師の『道灌』であったわけです。
三三さんの長屋の花見』『宮戸川もよかった。特に『宮戸川』が好きだ。お花が「しめだし食べちゃったの」と言った後、カワイコぶって思いっきり上目遣いに半七を見る、その様子が三三さんに似合わないお茶目さで好きですね。今日は、半七のおじさんが昔のモテ自慢で、自称“霊岸島のチョイワルおやじ”って言ったのが可笑しかった。それから、最後にエッチな雰囲気をもりあげて、いいところでサッと下げてすまして高座を降りていく三三さんも、らしくて好きです。


文七元結 文左衛門師には“ダイナミック”という言葉が似合うけれど、こういう人情噺をやるときの文左衛門師は実に繊細だ。昨年末、師の『芝浜』を観た時もそう思ったし、今日の『文七元結』でもその印象を強くした。左官の長兵衛は何故、博打にはまったのか?50両は左官をなりわいとする長兵衛にとってどれだけの大金だったか?それを文七に投げるように与えた時の長兵衛の気持ちはどんなだったのか?…そういうところがとても丁寧に描かれていて、疑問やケチをつける隙を与えずに聴く者をその世界に引き込んでしまう、魅力的な『文七元結』だった。


佐野槌の女将に問い詰められて、長兵衛は博打にはまっていった経緯をとつとつと語る。周りの人間に誘われてつきあいで始めた博打で最初は大勝ちした。「働かなくてもこんなに金が入る、女房や娘にいい思いをさせられる」そう思って博打にのめりこんでしまったのだ…と。長兵衛は根っからのダメ男ではないのだ。女将は、50両を左官の仕事で返せ、働いて返すとしたらどのくらいの期間で返せるものか、ちゃんと考えた上で、いつまでに返せるか返事をしろと言う。迫られて長兵衛は「正月明けはまだちょいとヒマで金はすぐに入らない〜梅雨の頃は壁がなかなか乾かないから仕事ができない〜」と一年を順々に考えていく。一生懸命働いても、お天気やらなにやらで仕事が出来ずお金が入らない日もある、暮らしの費えと消えていくお金をのけたらどれだけ貯められるか…江戸時代、長兵衛のような職人にとっての50両の重みを感じさせる場面だった。
吾妻橋の場面では、長兵衛は50両を文七にやるかやるまいか散々迷う。ここの文左衛門師のやり方はわりと“こってり”というか、それなりに時間をかけてやっていたような気がする。でも、それまでに長兵衛の人柄や50両がどれだけの大金かが丁寧に説明されているので、長兵衛の逡巡をくどいとか長いとかまったく思わなかった。
長兵衛は50両を「…授かんなかったのか」と嘆く。談春師はこのセリフ(…談春師は「授からないのか」だったと思う)を、“嘆く”というより諦めたように言った気がするが、文左衛門師の長兵衛は、本当に残念そうに言った。そして「オレには無理か…」と悲しそうに言って後ろ振り返り、空に呼びかけるように「お久!ちゃん、勘弁な!」と叫んだ。その後、文七に50両を投げつけるように与えてしまう。ここは、とてもいいなぁと思った。


一夜明けて文七と主人が長兵衛宅を訪ね、50両が盗まれたと思ったのは誤解で将棋の盤の下に置き忘れたのだと説明して侘びる、そこの場面もよかった。長兵衛はへなへなと力が抜けたようになる。そして、一瞬沈黙した後「バカヤロウ!」と文七を大喝するのだ。これはすごく迫力があって、さすが文左衛門師だった。
返された50両を受け取る・受け取らないでもめて、結局、衝立の後ろに隠れたお兼の圧力で長兵衛は受け取るのだが、長兵衛は「いや、よかった…恥を言いますがねぇ、ゆんべから寝てねェンですよ」とちょっと泣きそうな声で言う。ここで、わたしもちょっと泣きそうになってしまいました。


いやー良かった!文左衛門師『文七元結』。




※風邪だとか忙しいとかで、久々の日記でした。ご無沙汰失礼いたしました。