下北沢演芸祭 最終日 シークレットライブ





2/17(日)19:00〜21:10@本多劇場
三遊亭白鳥 『プロレス少女伝説』
林家彦いち 『青畳の女』
柳家喬太郎 『子別れ(下)』
立川談春 『愛犬チャッピー』(序)
仲入り
ポカスカジャン 
春風亭昇太 『悲しみにてやんでぇ』
演芸祭プロデューサー昇太師に花束贈呈&蘇民祭ニュース映像上映
(祭のクライマックス、ふんどし姿の男達の渦の中に蘇民袋に手を伸ばす彦いちが!)
アンコール 昇太・歌『マイウェイ』




祭の最後を飾るに相応しい、最高に楽しいライブだった。個人的には、以前から聴きたかった喬太郎師『子別れ』・談春師『愛犬チャッピー』・昇太師『悲しみにてやんでぇ』を聴けたのが収穫。特に『子別れ』には吃驚したな。それからアンコールの時の談春師。昇太師の唄う『マイウェイ』にあわせてヤケクソのようにカーネーションを振っていた、あんな談春師の姿は滅多に観られないよ。




オープニング ゴダイゴ銀河鉄道999』のテーマ(♪Journey to the Star〜)にのって、会場後方から昇太、彦いち、白鳥、ポカスカジャンの6名が駆け下りてきた。オープニングトークから既に出演者のテンションは高い。ところで喬太郎さんが居ないな?…と、舞台袖からキャスター付きのトランクを引いて紙袋を提げたおじさんがとぼとぼと登場。…喬太郎さん!?昼間は名古屋で落語会で、そこから駆けつけたそうだ。状況が飲み込めず、メンバーのハイテンションについていけない喬太郎さんが気の毒やら可笑しいやら。


白鳥師『プロレス少女伝説』 女子プロレスラーエリカちゃん、リングネームは“オチャコンブ”。今日はジャスコ駐車場で“閑古鳥しのぶ”とのタイトルマッチ。しかし、しのぶは失恋したばかりで闘う前から戦意喪失状態…。ワザをかけられ苦悶のポーズをとる白鳥さん「これは、腹にハリをさされてる『幇間腹』の一八じゃありません!」。


彦いちさんはマクラで蘇民祭のエピソードを。13日のSWA終演後、四駆をとばして黒石寺へ駆けつけた彦いちさん。会場に用意された小屋で六尺ふんどしをつけようとするが、つけ方が分からない。傍にいた男性に頼んでふんどしをつけるのを手伝ってもらう。メイン行事の蘇民袋の争奪はまだだが、祭は既に始まっている、はやる心と公演の後の疲労で上の空だった彦いちさん、背後にまわった男性の「…ステキ」というつぶやきにハッと我に返る!男性の視線は明らかに彦いちさんのお尻に…。この祭、男萌えの男性が集まってくる祭でもあるらしい(うーむ、まさに男祭!)。彦いちさん、雪の中を東京から岩手にたどりつくまでも相当大変だったが「祭に参加するまで、いったいいくつの難関を突破しなければならないんだぁぁ!」…実は、この会の前の「喋り倒し」も観た私。そこでは彦いち・蘇民祭初体験の一部始終を聞いて大笑いしたのだが、さっき聞いたばかりだというのに、また笑ってしまった。
『青畳の女』は恋する女子柔道家の噺。大好きな“昇太さん”が試合を観に来ると聞いて、結んだ髪に勝負リボンをつける女子柔道選手・キタガワトモエちゃん「こんな噺をするつもりじゃなかったけど、流れってモノがあるのよ!」


白鳥師は女子プロレスの噺、それを受けて彦いち師は女子柔道の噺。その後だから、喬太郎さんは女の子が登場する新作かな?と思っていた。それが『子別れ』とは!驚きました。
喬太郎師も「まさかこの流れで『子別れ』やるとは…」(熊五郎)「じゃ、『諜報員メアリー』にするかい?」(番頭さん)
喬太郎師の『子別れ(下)』は初めて聴いたのだが、意表をつく展開、いや展開というか流れはちゃんとした『子別れ(下)』なんだけど、亀ちゃんが凄かった。談春師の亀ちゃんも小生意気だが、喬太郎・亀ちゃんは小生意気の域を通り越している。
3年ぶりの父子の再会。「久しぶりだな…」とおずおずと声をかける熊に、亀ちゃん「どのツラ下げていらっしゃたんでしょう?」。苦労しただろうな?と労わられれば「母子家庭ですからね」と冷ややか。更に、熊が“母親に新しい男ができたんじゃないか?”と遠まわしにさぐりをいれると、亀ちゃん「母はそんなふしだらな女じゃありません」。実に憎々しく可笑しい!
50銭が母親に見つかっちゃう場面に吃驚した。50銭を盗んだんじゃないかと疑う母親に、亀ちゃん、つつみかくさず「おとっつぁんに会いました!」と即答(!)。客席から笑いと共に「え〜!?」と驚く声があがる。だから、喬太郎さんの『子別れ(下)』は玄翁が登場しないのだった。わたしもこんなのアリ?!と思ったが、とにかく面白い。それでいて最後の鰻屋の場面は泣かせる。前夜、母親から「店中の鰻を食べちまいな、それがあたしたちの復讐だよ」と言われた亀ちゃん、たらふく鰻を食べる。亀ちゃんは「おとっつぁんもおっかさんもお上がりよ、一緒に食べようよ」と両親にも鰻をすすめるが、気まずい二人は箸をとらない。すると亀ちゃん「…この鰻、あんまりおいしくないよ」「酔っ払っててもおとっつぁんが居たほうがいい。おとっつぁんとおっかさんと三人で食べるご飯が一番おいしかったよ…」とほろほろと泣き始める。
さっきまで大笑いしていたのがウソのように胸が熱くなる。『ハワイの雪』もそうだが、喬太郎さんはこういう転調(…といっていいのかしら?)が見事だ。大笑いさせ、その一瞬後に泣かせる。サゲは、“かすがい”も“げんのう”も出てこない、まったくのオリジナル。可笑しくてステキな『子別れ(下)』だった。


喬太郎さんが『子別れ』を始めたと分かると、他の出演者一同は、袖に集まって横から高座を観ていたそうだ。昇太師の高座の後、出演者全員が舞台に集まったが、その際の発言…
「コイツ(喬太郎)が一番ヤだよ!この“子別れ”ヤロー!」(昇太師)
「あの『子別れ』聞いて、俺はお前が嫌いになったよ」(談春師)
喬太郎師の『子別れ(下)』は、同業者にも印象的だったみたい。わたしは特に談春師があの『子別れ(下)』をどう思ったのか、興味津々だ。わたしは談春師の『子別れ(下)』(昨年9月紀伊國屋でやったやつ)が大好きだが、喬太郎さんのもとてもいいと思った。“かすがい”“玄翁”を取っ払ってしまったことも、喬太郎さんにおいては正解だと思う。
とにかく、しばらく忘れられそうにない面白さだった。


続いて談春の登場に会場はおおいに沸く(まさかこの日この会に談春師が出演するとは思わなかった)。常々落語の将来を憂う談春師、SWAの3人の後に高座にあがって「噂には聞いていましたが、ここまでとは…」「わたくしは、おなじみのところを一席うかがって、お後と交代したいと思います」。しかし、その後始めたのは『愛犬チャッピー』(!)しかも、ヤケクソのような熱演だった。「♪迷子の迷子の子猫ちゃん〜」「オレはイヌだぁぁっ!!」絶叫する談春師に爆笑と拍手が起こる。“シェーッ”のポーズをとらされるチャッピーの「もうやだ〜!」という叫びは、“SWAと一緒にこんな落語やりたくなーい!”という談春師の心の叫びに聞こえたよ。飼い主の目の前でウンチをさせられたチャッピー、飼い主の「くちゃい、くちゃい〜」についに切れる!「てめぇ、殺すぞ!」「オレは日本の純血種“豆柴”だぞ!成長したら熊の喉笛にかみつく狩猟犬なんだぞ、てめぇの喉笛に喰らいつくからなっ!」コワーーい!
この後チャッピーはレインコートを着せられて散歩に行くのだが、そこに入る前に談春師は「『愛犬チャッピー』の序でございます」と下げた。
この談春チャッピーも、出演者一同が袖で観ていたそうだ。後で高座にあがった昇太師は「あのチャッピーはやる人によって変わるんですね」「花緑クンがやるとまさに“血統書付き”、僕がやると“雑種”、談春は“野犬”ですね〜」。ホント、野犬まるだしだった。


喬太郎さんの『子別れ』、サプライズゲスト談春師の『愛犬チャッピー』で盛り上がっ
た会場の空気は、仲入り後のポカスカジャンで更にヒートアップ(お馴染みのワールドミュージック大伴家持アフリカン」「津軽ボサ」「魚河岸フラメンコ」「エルビス・キムスリーの監獄ロック」等々…)、最高潮に達したところに昇太さんが登場。
プロデューサーの昇太師は、当初トリは喬太郎さんを考えていたそうだ。しかし、他の出演者から今日はアニさんがトリをとるべきと勧められ、「いい気になれますよ!」というダメ押しの一言でトリを決意した。
『悲しみにてやんでぃ』を聴けたのは嬉しかった。実は「オレまつり」でこれを聴きたかったのだ。楽屋で彦いち師に「アニさんのメモリアルなやつをやってくださいよ!」と言われて、やることにしたそうだ。昇太師は「もう当分、いや二度とやらないかもしれない」と言っていた(ここで聴けてよかった〜)。彼女・ヨシコちゃんに四年後の再会を約して落語家に弟子入りした田ノ下クン。師匠から、江戸前の落語家らしく「てやんでぇ!」を粋に言えるようになれ!と命じられた田ノ下クン、修行に励み四年の間にすっかり落語家口調が板についてしまい…。「て・て・てぃやんでィ?」と語尾上がりのインチキ外人みたいな口調がおかしい。相変わらずカミカミだわ、カミシモを間違えるわ、昇太師「オレだって久しぶりなんだよッ!」。大喜びする客席におおいにいい気になってご機嫌の様子であった。


最後は出演者全員が舞台に。
演芸祭プロデューサーのために最終日の今日はゲストが駆けつけてくれました!と紹介だれ、彦いちさんがふんどし姿で登場。花束を手渡された昇太師「お前らーー!コレ、ロビーに飾ってあった花じゃねーか!」。
続いてニュース映像の上映。一瞬だったが、画面左上に、たしかに裸の彦いちさんの姿を認めた!笑いの中、再び「銀河鉄道999」のテーマが流れ、幕が下りた。
しかしアンコールを求める拍手がなりやまない。
ふたたび幕があがり、昇太さんが登場した。


「皆が唄えっていうんで、独演会で唄った『マイウェイ』を唄います」。ポカスカのギター伴奏で昇太さんが『マイウェイ』を唄いだす。歌にあわせて、贈呈した花束から抜き取ったカーネーションを振る出演者一同。幕が下りて着替え始めていたポカスカは上半身裸だし、彦いち師は相変わらずふんどし姿、白鳥師は談春師に「釣堀の管理人か!」と言われた青いアノラックと揃いのナイロンパンツ姿、喬太郎師はらくだ色のセーターとチノパンで休日のお父さんみたい…そのわけの分からない姿の3人に並んで、まともな着物姿の談春師がカーネーションを振っている。なんだこの画は?!談春師、いくらアウェイったって、こんな舞台にいるのは気の毒だー!と笑ってしまった。あんな談春師の姿はこの先二度と見られないかもしれません。


そして極めつけは『マイウェイ』を唄う昇太師。最後のサビのところで、手に持ったカーネーションが絶好のタイミングで折れて首からポトリと落ちた(!)。あまりのタイミングの良さに会場大爆笑。




あぁ楽しかった!抽選に当たったのはホントに幸運でした。
今年行った下北沢演芸祭の公演は、「オレまつり」「談春独演会」(レポート書いてませんが行ってました)「SWAブレンドストーリー2」「彦いち喋り倒し」そしてこのシークレットライブ。時間さえ許せば他にも見たい公演はあったけど、どれも楽しかったから満足。今は、お祭が終わってちょっとばかり寂しい気持ちだ。
…さて、気持ちを切り替えて。次のライブは黒談春だ!