SWA 「ブレンド・ストーリー2」 2/13夜の部





2/13(水)19:00〜20:53@本多劇場
総合タイトル 黄昏の母校
昇太 『遠い記憶』
喬太郎 『やとわれ幽霊』
彦いち 『アイアンボーイ』
白鳥 『明日に向かって開け』





廃校が決まった小学校をめぐる4つのストーリー。喬太郎さんと彦いちさんは今回の公演のために作った新ネタだった。演目は3公演とも共通だが、喬太郎さんと彦いちさんの噺の内容などは、どうやら回を重ねるにつれ変化をとげたらしい。




オープニングは4人のトーク。テーマにちなんで学校の思い出を紹介し合ううちに、彦いち&白鳥両師が補導歴があることをカミングアウト。彦いちさんは高校時代のバイクの無免許運転で、白鳥さんは花火で山火事を起こして(失恋の憂さ晴らしにあげて遊んだ花火で裏山を一つ燃やしてしまった!)、それぞれ補導されちゃったんだそうだ。失恋した女子は“野中のスミレのようだった”と懐かしむ白鳥師を「今の奥さんそっくりなんじゃないの?」「(2号師匠の奥さんは)長州力に似てるんだよな」と他のメンバーがからかう。白鳥師「違うよ!“長州小力”似だってば!」
昇太&喬太郎両師、前科コンビから「何もないってことないでしょ?高校時代なんか危ナイことしたでしょ?」と尋ねられ、昇太師は無免許の友達が運転するバイクに二人乗りして補導されかかった、喬太郎師は映画研究会で“教え子に馬乗りになって包丁で刺そうとする教師”を演じていて迫真の演技のあまり教え子役の後輩をホントに刺しそうになった…というエピソードを披露。喬太郎師はこの映研で製作した映画の中で“女子高生にモテモテ”役を演じたこともあるそうだ。


昇太師『遠い記憶』 小学6年生の頃、小3女子達から“抱かれたい6年生No.1”に選ばれた栄光の過去の持ち主、しかし今は会社中のOLからバカマサ呼ばわりされているダメ男・マサヒコの物語。今回、マサヒコは“学生時代は映研で女子にモテモテの役”を演じたこともあり、現在は“長州小力似の奥さん”がいるという設定。同窓会で再会する小学校の同級生には、かつての夢が“総理大臣”で今は夕陽ヶ丘高校の先生をしてる小原クン(喬太郎師)とか、“パイロット”になりたくて、今は万年筆工場で働いている藤田クン(白鳥師)なんかがいました。


喬太郎師『やとわれ幽霊』 廃校を阻止したい小学校のOBたちが、この小学校にとりついている幽霊に「行政や工事関係者を怖がらせて、取り壊し工事を妨害して欲しい」と協力を求める。しかし幽霊は「自分はそろそろ成仏しようと思っていたところで、心霊現象を起こす力が衰えている、やり方を教えるから自分達で脅かしなさい」と、OBたちに“本寸法”の怖がらせ方を伝授する。おりしも学校に泥棒が入ってきた。試しにあの泥棒を脅かしてみろと言われ、OB達は手分けして泥棒を怖がらせようとやっきになるが…。
幽霊は落語好きで、OBの中にも落語ファンがいる。幽霊は時々口調が古今亭志ん朝になり、OBは理科室の人体模型を「かんかんのーう、きゅーれんすー」と踊らせたりするのだった。
濡れ場もあります。体育館で泥棒を待ち構えているOBの男女二人(後藤クンと井上サン)。体育準備室に入ってマットレスを見た後藤クン、ついムラムラッとして「井上!オレ、昔からお前のことが…」と人妻・井上サンを押し倒す、「いやぁー!こんなところでやめてぇっ!」。襲い掛かる後藤クンと抵抗する井上サンを、喬太郎師は高座に伏して激しくリアルに演じたのであった(さすがさん喬一門)。さんざ演った後で一言「まったく柳家のくせに…」。
最後の場面では、校庭の四隅からボウッと浮かび出た陰火が合体し、火柱となって夜空高く昇る。火柱と共に幽霊は学校から去っていった…「この火が飛んで、裏山が一山燃えてしまいました」。
この噺、初日は小学校の夜警さんの前に幽霊が現れて「成仏したいから功徳を積ませてくれ」と頼む…という設定だったそうだ。
昇太師「マサコ」、白鳥師「セーラー服奇談」、彦いち師「熱血!怪談部」にこの噺を加えて、今年の夏はSWA怪談特集!っていうのはどうでしょ?


彦いち師『アイアンボーイ』 廃校になる前日、校庭で親子ボーリング大会が開催されることになった。ボーリングをしたことのない主人公の少年は、父親に「ボーリングやりたいよぉ」と訴える。「まかせろ!教えてやる」とうけあった父親は工事現場で働くガテンなオヤジ。だもんでマイシューズは地下足袋、マイボールはクレーン車の鉄球…。手ぬぐいの片端を玉結びにしてやった史上初“クレーン車のしぐさ”が彦いちさんらしい。彦いちさん、一箇所重要なギャグを忘れてしまったらしく「仕込みを忘れた!」と一瞬あわてた。が、すぐに開き直って「もういいっ!最終日だー!」とハイテンションで押し通した。この噺、以前にも聴いたような気がしたのだが、彦いちさん自身がボーリングのピンの姿になる新作(『水たまりのピン』だっけ?)がありましたね、たしか。


白鳥師『明日に向かって開け』 三○東○UFJ銀行某支店の金庫を狙う怪盗ブラックジャガー。この金庫、江戸時代から使われていてイギリスの名工が作ったという舶来品。ブラックジャガーは長年この金庫の保守をしていた金庫番を抱き込んで金庫を開けようとする。しかしこの金庫、名工が作っただけあってただでは開かない。「“錠”ならぬ“情”で開けるのさ」と金庫番、扇子片手に戸を叩く仕草で「(トントン!)お父っつぁん、開けておくれよ」と『宮戸川』を始める。が、金庫からは「パスワードが違います・パスワードが違います」って人口音声の応答が。「人情噺で金庫が開いたら鈴本演芸場の金庫なんか開きっぱなしだよ!」といきり立つ怪盗…。
金庫番「オレの預けた革の財布があるだろ?出せよ」
金庫「夢だったんだよ!」
金庫を作ったイギリス人は“レフト甚五郎”だし、『宮戸川』『芝浜』『竹の水仙』…と連発する古典ネタが可笑しい。
どこで今回のテーマにつながるかというとですね、金庫番の過去は“小学校の校長先生”で、金庫には小学校を離れた落語好きの幽霊がとりついていました。
最後、金庫は金庫番と怪盗をお腹に入れたまま転がって逃げていこうとする。金庫番の「お前、立方体じゃないか!」っていうセリフが可笑しかった。白鳥師は座布団の両端をしっかりとつかんで座布団に座ったまま転がって退場していった。




オープニングトークの笑い話をふくらませて噺の随所に入れ込み、ネタの内容は上演するそばからどんどん変わっていく。楽しくて柔軟なSWAであります。