春風亭昇太26周年落語会 「オレまつり」 2/9夜の部





2/9(土)19:00〜20:53@本多劇場
『雑排』
『力士の春』
『オヤジの王国』
『花粉症寿司』
『ストレスの海』
『人生が二度あれば』
〜『マイウェイ』(唄)〜
(全て昇太さん)





昇太さんの代表作である新作がズラリ。初めて昇太さんを聴く人に薦めたい“春風亭昇太入門”のようなライブ、でありながら、これらを聴き慣れた昇太ファンも楽しめる構成だった。




舞台の下手、高座の左側に、昭和チックな部屋のセットが作られていた。クラシックなラジオが載った茶箪笥、昇太さんのメガネコレクションが入ったケースや湯飲みが置かれたちゃぶ台、その前には座布団。奥には数着の着物と長襦袢がかかったラックが置かれている。昇太さんの自宅の“昭和の部屋”ってこんな感じ?舞台に現れた昇太さんは、高座にあがる前にそのセットの座布団にどっかと座った。「さーて26周年落語会、何をやろうかなぁ。『文七元結』でもやるか?…なんてな。ケッ!やるかよ、『文七元結』なんか!」とひとりごち、ごろんと横になる…というように、昇太さんが昇太さんを演じているという光景が繰り広げられる。


独り言は続く。東海大落研から柳昇師匠に入門して落語家生活のスタートを切った頃のことを振り返る昇太師。当時、新作をやっていた柳昇師匠の評価は低く、そこに入門する昇太さんは、落語仲間の多くから「なんでそんなところに?」といぶかしがられた。「そうだ。今日は久しぶりに、師匠に教わったアレをやってみるか!」昇太さんは一度舞台の袖にひっこみ、ぐるっと廻って高座に登場。「江戸時代は、いろんな趣味がさかんだったそうです…」というマクラから『雑排』へ。
「おや、誰かと思えば八っつぁんかい。まぁま、おあがりよ」「いただきます!」「なんだい、『いただきます』ってのは?」「だって、“まんま、おあがりよ”って言ったじゃないですか」…昇太さんが、典型的な古典落語の導入部をやってるのが新鮮でなん
だか可笑しい。『雑排』は柳昇師匠の十八番だったそうだ。柳昇師匠のは聴いたことはないが、雑排には昇太さん作だろうなというものが大分あった。


高座を下りて袖に消えた昇太さんは、すぐに舞台に現れ、またちゃぶ台の前に座った。「師匠に教わったのは、『雑排』と『牛ほめ』の二つだけだったんだよな。前座時代、寄席じゃ『雑排』やって次の日は『牛ほめ』、その次の日は『雑排』…って、この二つを繰り返しやってたなぁ」。
やがて昇太さんは円丈師匠の『実験落語』や吉川潮氏主催の『落語109』などの新作の会に出演するようになる。「円丈師匠の『実験落語』に初めて呼んでもらった時は、嬉しかったなぁ」。初めてやった新作はボクシングの噺だったが、今となっては自分でもタイトルは覚えてない…当時を語りながら、昇太さんはラックにかかった着物に着替え始めた(今日は一席ごとにナマ着替えだった)。当時は前座時代に頭の中で構想を練っていたネタがたくさんあって、なんの苦もなく次々に新作を作りまくった。「『落語109』なんて、オレ全然期待されてなかったから、のびのび作れたんだよ。そうだ、あの頃作ったアレをやるか!」着替え終わった昇太さんは再び舞台袖に消え、すぐに高座に現れた。そして次のネタ『力士の春』へ。


一席の落語の前後に、茶の間のセットの中でその作品を作った当時のことやその新作が生まれた背景等を解説する。語られるエピソードは既知のものだが、改めて時間の流れに沿って昇太さん自身の解説で聞くというのは新鮮だ。また、解説の部分を昇太さんの部屋風のセットで一人芝居のようにやるっていうのも楽しい構成だ。
こうして落語と一人芝居を繰り返し、休憩ナシでライブは続いた。「オレも休めない
けど、みんなもオシッコいけないからな!へへっ、もらしちゃえ」


昇太さんにも学校寄席に行っていた時代があって、『力士の春』は中学生たちに大ウケの必殺ネタだった。教壇から戻る貴乃爪クンの背中をクラスメイトたちがバンバンたたく…というところでは、必ずといっていいほど大きな笑いが起こった。そういえば、去年の下北沢演芸祭では、“春風亭昇太トリビュート”企画で、談春師がこの噺がモトネタの『噺家の春』をやったんでした。


ライブでは爆笑をさらっていたが、新作落語家ということで認められない時代は続く。そんな当時、昇太さんを認めてくれていた先輩落語家に亡き二代目小南師匠がいた。『昇ちゃんはそれでいいんだよ』って言ってくれたんだよなぁ」。煩いのは、いわゆる“落語ファン”の爺さん達。「今でも覚えてるよ、あれは東池袋の地域寄席だったなぁ」。打ち上げに呼ばれた昇太さんを「キミは誰のお弟子さん?…ふぅ〜ん柳昇さんの弟子なんだ。ちゃんとした落語はやらないの?」といじめた爺さん達。「また、オレもそういうことを言いやすいタイプだったんだよ」「あのジジイたちに今の落語界を見せてやりたいよ。でも、もうとっくに死んじゃってるだろうな」
その頃作った新作『オヤジの王国』小田急線の中で会社帰りの疲れたサラリーマンたちを見て「このお父さん達が帰る家ってどんなところなんだろう?この人たち、幸せなのかな」と思ったことがきっかけで作ったという。昇太師の家族観が仄見える。お父さんの夕食のおかずは妻と娘が食べ残したすき焼き。「なんだよ!このオカズは!」と怒るお父さんに、妻が返すセリフ「何って、長ネギとシラタキを甘辛く煮たものよ!」が可笑しい。「オレの落語には“不孝な家族”が出てくるのが多いんだよ。オレの家族観てなんなんだ?…結婚できないハズだよなぁ」。この作品、“作風がちょっと変わった”と言われたそうだ。


『オヤジの王国』には、オヤジ達が畳の上で二つ折りにした座布団をまくらにうっと
りと寝そべったり、寝タバコをして喜ぶ場面がある。昇太師の落語は“寝転がる”のが特徴のように言われた。「当時は寝転がったりするヒトが珍しかったんだよな。でも、昔の落語家だっていろんなことをやってたんだよ。円右師匠なんか『高座ですき焼きを食べながらやったこともあります』って言ってたもんな」。寝転がるといえば、このネタもそう…と『花粉症寿司』へ。花粉症に苦しむ寿司屋の話。寝ると少しは楽になるからと、寝転がって寿司を握る。「ダークション!ダークション!ダークション!」ってすごいくしゃみを連発、寝そべって魚のように身をくねらせて寿司を握る、激しいアクションが多いこの落語。「二日酔いの日にやって、死にそうになったことがある」。このネタ、時代を意識して狙って作ったものだそうだ。


いろんなネタをやってきた。「このネタなんか、何千回やったか分からない」「気を失ってもしゃべれるかもしれない」「二つ目時代、このネタでご飯をたべさせてもらったんだよなぁ」それが『ストレスの海』。このネタで建てたといわれる昇太邸を、山陽さんは“ストレス御殿”と呼んでいたっけ。


『ストレスの海』の後はスライドショー。フツウの男の子・田ノ下雄二クンであった幼少時代、昇八を名のった前座時代(顔が幼いー)、でかい黒ブチメガネの二つ目時代(痩せてるー)…過去から現在までの昇太師の姿が映し出される。
ここまでで5席。SWAだとスライドが流れるのは最後だし、これで終わりかなと思った。が、再び高座にあがった昇太さんは、体を前後に揺らし、自分自身が下北沢の街を歩いている場面をやり始めた。まだ落語が続くらしい。


気がつくと白い霧につつまれ、みすぼらしい小屋の前に立っている昇太さん。そこは、昇太さんが作り、1〜2度高座にかけただけでやらなくなったネタたちが住む“ネタの部屋”だった。「あ!お前は『松野明美伝』!」(松野明美がオリンピックに出たい!とアピールした記者会見を観て作ったネタだそうです)「あ!お前は…」「そうです、ボクシングのネタです。僕なんか名前もないんだ…」(これは可笑しかった)。「ずっと忘れててすまなかった、またお前たちをやるから」と謝る昇太師に、ネタたちは「いいんです。昇太さんは、これまで通り、目先の笑いをとりにいってください」と励ますw。ネタたちに「よっ!天才!」と送り出された昇太師、「ありがとう、ネタたち。お前たちのおかげでオレがいるんだよ。いつか、またやるからな!それまで待っていてくれよ」と感涙にむせぶ。やがて声をたてて泣き始めた。「うぇ〜ん、うぇ〜ん!…あれ、ワシ、なんで泣いてるんだろう?」…そうやって『人生が二度あれば』が始まった。この流れも面白かった。


『人生が二度あれば』が終わると、昇太さんはマイクを片手に舞台に立ち、「マイウェイ」の替え歌を唄い始めた。6席やってまだやるか、しかも唄うか。
昇太さんが唄い始めると、舞台のすぐ下に、歌詞のカンペを広げた男の子が飛び出してきた。東大卒の弟子・昇吉クンだ。舞台を動き回る昇太師に合わせて昇吉クンが目の前をウロウロする。昇太さんは客席に降り、補助席で埋まった狭い通路を動き回る。昇太さんをあたふたと追いかける昇吉クンが可笑しい。


最後は客席にむかってマイクパフォーマンス。
古典が面白いのは当たり前、先輩たちの作った落語をその通りにやってたってしょうがないんだよ。落語は魂の叫びだ!オレは教わったとおりの落語なんか絶対やりません!おれはやりたいようにやります!でも、お客さんのためじゃありません、オレのために落語をやります!
「お客さんの一人一人が3,500円に見えます!そして、当日券3,800円の皆さ
ん!今、皆さんの顔が一番輝いて見えます!」


2時間弱、ノンストップで喋り熱唱した昇太師。幕が下がっていく舞台の上で、客席から完全に見えなくなるまで舞台に突っ伏して手を振り続けた。幕の下りた後も会場に流れ続ける『マイ・ウェイ』はジプシーキンクスのカバーバージョン…




…という9日夜の部でした(細かいところはちょっと違ってるかも。ご容赦ください)。
初日を観たマイミクさんによれば、昇太さん、初日のオープニングは、ワイングラスを片手に客席から登場したそうだ(昇太さん、ワイングラス好きだなぁw)。しかし初日は時間が大分押したそうで、そのせいか、二日目からはこのオープニングはカットになったらしい。スライドを流すタイミングも初日とは違ったみたい。逆に、わたしが観た会では、昇太さんは途中でしょうが湯を作って呑んだりしていたが、これは初日にはなかったらしいです。今日の最終日はどうなんだろう?


セットと高座を行ったりきたり、かなり忙しそうではあったが、落語はどれも短さ・物足りなさは感じなかった。いつもの独演会以上に気合を入れて作りこんだ舞台という印象。自分大好き・いつもイイ気になっていたい昇太師らしい、まさに“オレまつり”なライブでしたよ。




※下北沢演芸祭、今年も最終日の17日にシークレットライブ(別キャラ亭)があります。運よく抽選に当たった。わーい、楽しみ!