柳家三三独演会〜冬〜





1/23(水)19:00〜20:50@東京芸術劇場小ホール2
春風亭一之輔 『口入屋』(引越しの夢)
柳家三三 『夢金』
仲入り
柳家三三 『言い訳座頭』





一席目が『夢金』でちょっと吃驚。で、最後は『言い訳座頭』というのが三三さんらしい。三三さんの『夢金』はたいそうよござんした。




前座は一之輔さん。前夜に三三さんから出演を頼まれたそうだ。「一之輔さんはいい」という評判をよく聞く。今年は意識して一之輔さんを聴く機会をもちましょうと思っていたので、ちょうどよかった。
『口入屋』は噺が進むにしたがってどんどん面白くなっていく感じで、番頭と二番番頭が真っ暗な台所で釣ってある棚を左右から担ぐハメになる、そのあたりはとても面白かった。一之輔さんは自分がとても好きなタイプの落語家とはちょっと違うのだが、評判通り上手い、一之輔さんよりよっぽど退屈な真打はいるなぁと思った。もう何席か聴きたい。


三三さんは黒紋付で登場。マクラで新春の初席の話などをひとしきりした後、「今日は冬の噺をやりたいなと思います」「“欲の深い人”というのがいるもので…」と続いたので「え?まさか最初から『夢金』?」と驚いた。
『夢金』といえば、自分には、昨年暮れの談春師が記憶に新しい。談春師の『夢金』は冬の夜の暗さと寒さをキリッと美しく描いて、聴いているうちにその情景につい陶酔してしまうのだが、三三さんのは、描写はきれいだが、談春師よりもう少しだけ面白いほうに寄ってて、ストーリーで楽しませるという感じだった。
談春師は、浪人を“頬からアゴのあたりにかけてうっすらと刀傷”がある一癖ありそうないい男…としてみたり、雪が落ちてくる頭上の闇を見上げて“吸い込まれそう”と言ったり、枯れ枝に雪のつもった川岸の並木を“桜が咲いたよう”と喩えたり、そういう細かい描写が見事な陰影を生んでいた。三三師の情景描写はそこまで細かくない。だが、あっさりとして綺麗だ。浪人の声は低く通りカッコイイ。素足に駒下駄、垢じみた黒紋付姿の“浅黒い、まみえの濃い”いい男が浮かぶ。
それでいて、船頭の熊で笑わせる。娘を舟に案内するのに、自分の肩におかせた娘の手に触れて役得を喜んだり、浪人に約束の心づけを早く出させようとして愛想をふりまき、それでもくれないとなると「…でないの?ナゾかけてみようかな。」とひとりごちてみたり、ただもうお金が欲しいだけの単純な男で可笑しい。
浪人がもちかけた儲け話というのが、娘を斬って懐の大金を奪うことだと知ると「そりゃ邪道な欲張りだよ!俺ぁ本寸法の欲張りなんだ!」っていうのは面白かった。
浪人「けしからん!」
熊「芥子が辛えかとんがらしが甘ぇか知らねぇよっ!」
なんて啖呵も、調子いいし明るいし、聴いてて気持ちいい。
舟を中州に近づけて、浪人が中州にポンと飛び降りる。この辺りからは、ストーリーの面白さで一気に最後まで運んだ。綺麗で、それでいて軽妙な楽しい『夢金』だった。


一席目に『夢金』をやって、仲入り後は何をやるんだろう?と期待が膨らむ。
が、始まったのが『言い訳座頭』で、正直ちょっと拍子抜け。これは昨年12月の月例で聴いたばかりだった。でも、コレ楽しいんだよね…と聴く態勢に入ったものの、左ナナメ前方の若いカップルが落語の最中にいちゃつくこと甚だしく、気が散ってしょーがない。ということもあって、二席目はあんまり集中して聴けなかった。
あのカップルには落語を聴くモノは含羞を知れ!と言ってやりたかったよ、ふんとに。…あ、“含羞”が通じないな、カップルの女子のほうに「なにソレ、チョーうけるんですけどー」とかって一笑に付されておしまいじゃ(泣)