志の輔らくご in PARCO 2008 1月6日





1/6(日)14:00〜16:45@パルコ劇場
『異議なし!』
『ねずみ』
休憩
歓喜の歌』





お正月の一ヶ月公演が始まってからまだ3年目なんだけど、既にお正月の風物誌みたいな観のある志の輔らくごinパルコ。今年は、パルコ劇場ならではの演出が楽しい新作2席と、干支にちなんだ古典1席で始まった。


一席目のマクラの話題は環境問題。
世界各国から飛行機に乗ってCo2を思いっきり吐き出しながら集まったくせに、何も決めずに散会してしまう地球温暖化防止会議って何?“マイナス6%”っていうけど、たった6%の削減でホントに地球温暖化を食い止められるの?…等々、多くの人がなんとなくモヤモヤと抱えている疑問を笑いにして提示する。
そんなマクラから始まった『異議なし!』。マンション自治会の会議に集まった住人達の話し合いを面白おかしく描いた新作。
築35年・5階建て、13世帯が暮らすマンション「中板橋ヒルズ」。マンションのエレベーター内に防犯カメラを設置する件を話し合うため、自治会長宅に集まった住人4名。セキュリティサービス会社の担当者を招いて、防犯システムの説明を受ける。
防犯カメラには大きく二通りのタイプがある。一つは、セキュリティサービス会社と24時間オンラインでつながったシステムで、カメラの設置費用・月々の管理費がかなり高い。もう一つは、常に決まった時間分の映像を録画するシステムで、もしもエレベーター内で何かがあった時の証拠映像を保存できる。
月々30万円の管理費は高すぎるから録画タイプにしよう。でも、カメラの設置は犯罪を未然に防ぐのが目的なのに、何か起こってからでは証拠映像があったって仕方ないではないか?それじゃどうする?いい案は出ず、浮かんでくるのは下らないアイディアばかり。
要するに犯罪者が犯罪を起こす気がなくなるようにすればいいんですよね?と、一人がエレベーターを鏡ばりにすることを提案する。「(犯罪者は)おのれの姿が鏡に映るのを見ておのれで驚き、たらーりたらりと脂汗を流す、これを下の金網にてすき取り…」って『がまの油』が始まっちゃう。
そうかと思えば、要するに“安全”てことですよね?と「こうしましょう、エレベーターの中に“家内安全”のお札を貼りましょう」「そのお札の下に花を置きましょう!犯罪者は気持ち悪がって乗りません」。
やがて住人たちは口々に論点のずれたことを言い始める。
一階の住人が、エレベーターを使わないのに他の住人と同じ管理費を払うのは不公平だと言えば、「それじゃエレベーターを動かすのは2階から5階までにしましょう!」
ズレていく過程が可笑しい。で、聞いているうちに、自分が体験した現実の不毛な会議を思い出す。恐ろしく優秀な人たちが集まった(ハズの)国連の温暖化防止会議も、こんな風にズレていくのかねぇ。

落語が終わると、舞台が暗くなり、高座の後ろの壁面(壁といっても、実際はアレです、『歓喜の歌』の演出のために設置してある背の高い仕切り…)に国連会議らしきニュース映像が映し出される。各国の代表の英語や母国語のコメントに日本語のデタラメな字幕がつくのだが、各国の温暖化問題に対する態度を揶揄したもので、痛快で面白い。
マクラと落語と映像。その三つ全体で、地球温暖化防止会議に対する風刺が伝わる仕掛け。
マジメとか深刻とかの対極にある落語、その落語で環境問題をとりあげるとしたら、どうやるか?そんな試みだったようだ。
明るくなった舞台に再び登場した志の輔師、「こういうことをやらせてくれるのがパルコなんです」。


二席目は『ねずみ』 卯兵衛・卯之吉親子が営む、宿場一小さい宿屋「ねずみや」。卯之吉に連れてこられた甚五郎は、蔵を改造したみすぼらしい建物を一目見てつぶやく、「趣もあるけど、傾きもあるね」。このひとこと、『井戸の茶碗』で千代田朴斎宅をみた屑屋も言うんだよね(このフレーズ、好きだな)。
志の輔師の『ねずみ』は前にも聴いたことがある気がしたのだが、調べてみたら初めてだった。去年聴いて印象が強かった『竹の水仙』(甚五郎)『しじみ売り』(貧しい男の子)『井戸の茶碗』(既述のフレーズ)…このあたりの志の輔らくごと重なる要素があるせいかもしれない。


休憩をはさんで歓喜の歌』 改めて、志の輔師の落語って、まったくドラマのような・映画のような落語なんだよなと思う。例えば、主任と加藤クンがタンメンを食べながらやりとりするところ。そこから、合唱団のリーダーがメンバーに謝罪するシーンにパッと変わる。うつむいた顔をあげる、そんなことだけでホントに画面が変わったよう。映画化むべなるかなって感じだ。
初演の2004年以来で、細かいところは忘れていた。初めて聴いたみたいに楽しくジーンとしてしまった。「ギョーザだ…。ギョーザがなかったんだよ、俺たちの仕事には。ずーっとなかったんだよ」このセリフはおぼえていたけど、やっぱりいいな。
映画だとどうなるんだろう。ラーメン屋の奥さんに泣かされちゃうんだろうなぁ、きっと。


『ねずみ』『歓喜の歌』は人情噺。どっちも面白くてしんみりして、最後はハッピーという構成が分かりやすくて楽しい。『異議なし!』は面白くてスマートな風刺がさすが。That’s 志の輔らくご!お正月のパルコならではのエンタテイメントだった。


鳴り止まない拍手の中、三味線、笛、太鼓の音と共に幕が上がった。志の輔師、鉄九郎社中、合唱団の出演者全員が勢揃い。最後は会場全員で三本締め。


この日で23回公演のうちの5回が終了。この後の演目はどうなるのか?『歓喜の歌』は変わらないわけだが、他の二席はどうなるんだろう。今年の新作『異議なし!』はこのままで他の一席の演目が変わるんじゃないかなぁ…と予想してるんだけど、もし『異議なし!』も変えるとしたら、すごいな。志の輔師のことだから、それもありそうな気がする。いつ、どのタイミングで変えるのか?…等々興味はつきない。
もう一回くらい、行けるといいんだけどなぁ。