それぞれの掛取り





12/16(日)18:30〜20:30@国立演芸場
・三人のトーク
・出演順は下記の通り。
喬太郎
白鳥
市馬
(休憩なし)
 




トーク いつものように最初に3人で今日の落語についてトーク。といっても、例によって落語の解説担当は喬太郎師と市馬師で、白鳥師は専ら聴き役。
かつて『掛取り』といえば六代目圓生師匠の独壇場で、他の人は演りにくい落語だった。その本寸法の『掛取り』は圓彌師匠に受け継がれたが、「三遊派お家芸というよりは、圓生師匠一代の芸でしょうね」と喬太郎師と市馬師。初めて聞くみたいな顔で感心して聞いてる白鳥さんがおかしい(大師匠じゃないかー)。
市馬師は、先だって紀伊國屋で『掛取り』をやった時のエピソードを披露。トリの小三治師匠の前に出た市馬師は、おとなしめにやるつもりだったが「お客さんの反応がよくて、つい…」例のあのパートで思い切り唄ってしまったのだそう(笑)。舞台を降りて、出番を待っていた小三治師に挨拶すると「楽しんだのか?噺家が楽しまなきゃな。でもオレはやらねぇ」(そんなこと言って、鈴本にピアノいれてリサイタルやったのは誰でしょう?)。
今回、白鳥師と喬太郎師はネタ下ろし。今回は『掛取り』十八番の市馬師に最後をしめてもらうということで、この順番になったそうです。


喬太郎 小三治師匠が仰る通り、噺家が楽しんだほうがいいのだが、今日の『掛取り』は、お客はさておき「自分がいちばん楽しい」掛取りにした…という喬太郎師匠。なんと、掛取りが“ホール落語好き”“ウルトラマン好き”“『熱海殺人事件』当時のつかこうへい好き”“寄席好き”というものだった!
最初は“落語好き”、しかも“ホール落語”が好きな魚屋の金さんがやってくる。おかみさんのセリフで「ちょっと展開が安易なんじゃないかい?」と自らツッコミながら、実に楽しそう。
熊さん「誰かと思ったら八っつぁんかい」とご隠居になってお出迎え。「ノッてやろうじゃないか!」と魚金が八五郎になった途端、「婆さん、一本つけとくれよ。なに、セガレと約束しただろうって?いいじゃないか、ちょっとだけだよ」と『親子酒』の父親に変わる熊さん。魚金が息子になって酔っ払い同士のやりとりが始まると、今度は『按摩の炬燵』へ…。次々に落語が変わる度、客席大喜び。最後は『芝浜』。「お前さん、お願いだから河岸いっとくれよ」と長襦袢で涙をふきながらおかみさん(熊さん)が頼むと、金さん、天秤棒をかつぎ出て「いってくるぜ!」と出て行ってしまう。「行っちまったよ。さすが魚屋だねぇ」。
こんな風に、ウルトラマン好きの日向屋の若旦那はメフィラス星人に、つかこうへい好きの駿河屋さんは熊田留吉刑事にされて、自ら気持ちよく撤退。いや、もう面白いのなんのって!でも、わたしがサイコーに笑ったのは“寄席落語好き”の掛取りのパートでやった落語家モノマネです。志ん朝師匠、家元、さん喬師匠、円丈師匠、雲助師匠…しかも、各人のモノマネをいちいち座布団から立ち上がり、袖から登場するところからやるのだ。全員ソックリなんだが、傑作はさん喬師匠。高座にあがってくる時の、さん喬師匠のあの姿勢・歩き方そのもの(うつむいて肩を落とした暗い上半身、そのくせスタスタとまっすぐに座布団まで歩いてくる…)!!いや、もう笑った笑った。


白鳥師 これもいつもの通り、噺の原型をとどめない白鳥師の『掛取り』。『任侠上野動物園 〜人生・掛取り劇場〜』って感じでしょうか?上野動物園の動物のくせに、何故か借金をこさえて困っているあらいぐま母娘(母“ラスカル”、娘はもちろん“オスカル”)と、それを助けるブタ次のお話。かつてアニメの「あらいぐまラスカル」が流行っていた頃、動物園のおみやげのぬいぐるみが売れに売れ、ぬいぐるみバブルを体験した母あらいぐま。当時は動物園の閉園後、タクシーで数寄屋橋次郎へ乗りつけ、ウニやらトロやらアワビやらを注文しては、ひたすらネタを洗う…そんなお大尽遊びをしていた。あらいぐまだから、ついなんでも洗っちゃう。カステラを洗って「これぞ水カステラ!」。こういうのはホントに白鳥師っぽいギャグだ。ちょっとだれるところもあったけど、楽しかった。二日目(17日)は、細部を変えたりしてるかもしれないなぁ。


市馬師の『掛取り』は、12月14日の「夕刊フジ平成特選寄席」で聴いたばかりだった。その時と変わらない『掛取り』(狂歌好き、相撲好き、ケンカ好き、芝居好き、三橋美智也好き…と続き、三橋美智也のパートでは思いっきり唄う、唄う…)だったが、つい先日聴いたばかりでもやっぱり面白い。市馬師、自分で言ったギャグに自分で笑ってしまう…という箇所があった。夫婦が、去年は死んだフリで掛取りを逃れたっけという会話をしてるところで、家元が登場する(松岡のダンナ)ところとか。ご自身で「やっていて楽しい」と仰っていたが、そういう気持ちが伝播するのだろうな、本当に何度見ても楽しい。




この“それぞれシリーズ”、今回が最終回だそう。落語もさることながら、この会は三人のトークが面白かった。また、どこかで三人のかけあいで楽しませてほしい。