喬弟仁義 第13回さん喬一門勉強会

11/30(金)18:30〜20:55@池袋演芸場
開口一番 小きち 『出来心』
喬之進 『仏馬』
喬太郎 『ハンバーグが出来るまで』
仲入り
座談 喬太郎・左龍・喬之助・喬之進・喬四郎・さん弥 & 飛び入り(文左衛門・天どん)
左龍 『妾馬』





この夜、さん喬師匠の弟子10人のうち、別の仕事で来られなかったさん若さん以外の9人が楽屋に勢揃いだったという。小きちさんの開口一番の最中にも、舞台袖の奥から楽屋の笑い声が聞こえてきた。楽しそう。
兄弟弟子たちの笑い声をよそに、小きちさん『出来心』を一生懸命に。来年3月、二つ目に昇進するそうだが、この会で二つ目名を初披露した。その名も「喬の字」。喬太郎師が名前の候補をいくつか考えてくれて、その中から決定したそうだ。いつもよりリラックスもし、張り切ってもいたのかもしれない、マクラで“こんな落語家になりたい”と抱負を語ったりして、高座はちょっと長めだった。羊羹を食べてたところを見つかっちゃった泥棒が、慌てて外に飛び出して「泡食ってぞうり忘れてきちゃった!」…で唐突におしまい。舞台袖から「長いぞー!」のサインが入ったのかもしれません。


喬之進さん『仏馬』 この噺、やる人がほとんどいなかったものを喬太郎さんが掘り起こして高座にかけるようになった古典とのこと。喬之進さんは喬太郎師に教わったそうだ。生臭坊主が登場する噺。檀家まわりをして寺に戻る途中の僧侶・弁長と西念。荷物を持たされ「重い」とこぼす西念。酔っている弁長は「それなら…」と、道の傍らにつないであった馬に荷物を載せ、西念に命じて寺へ連れ帰らせてしまう。弁長はその場で酔いがさめるまで一眠りしようとするが、そばの川に落ちないように、くいにつないであった馬の手綱を自分の体に結びつける。やがて馬の持ち主のお百姓が戻ってくる。お百姓さんに起こされた弁長、「わたしはあなたが飼っていた馬だったんです」と言い訳をするが…というお話。お百姓さんが、いい。仏罰で馬になり苦行を積んだので人間の身に戻った…という弁長に「怠けモンの働かなねぇ馬だったっけが、あれで修行になったのけ?」なんて言う。騙されてるのか、知っててとぼけてあてこすりを言っているのか。こういうところは喬太郎さんが考えたのかなぁ?初めて聴く噺だったので、ストーリーだけで楽しめた。


喬太郎『ハンバーグが出来るまで』 初めて聴いたのは2005年の暮れのSWAだったが、たしかその時がネタおろしだったんじゃなかったか?それ以来聴いていなかったから、今回が2回目。あまりやらない噺らしい。離婚した妻が突然現れて「あなたの好きなハンバーグを作ってあげる」という。男は彼女にちょっと未練がある。もしかしたらやり直せるかも…と期待ふくらむ男。出来上がったハンバーグを食べながら、「やり直そう…」と気持ちを打ち明けようとした時、元妻が「わたし、再婚するの」…。初めて聴いた時のことをほとんど忘れてしまっているのだが、その時は、男と元妻の再会の場面があって、男が驚きととまどいであたふたするところがあったような気がする。今回は、二人でハンバーグの材料を買い出しに行った商店街で、元妻がつけあわせの野菜を選ぶシーンから始まった。かつての二人を知る商店街の店主やパートのレジのおばちゃんたちが「あんたたち、より戻ったの?!」と大騒ぎする場面が面白いのだが、前よりもそのあたりに笑いの比重が置かれているような気がした。喬太郎チックな、くさくてほろ苦い男と女の話。ハンバーグは、元妻の男への引導だったのかなぁ。「わたし再婚しちゃうんだから、あなたしっかりしなさい!早く新しい生活始めなさい!」って。そんな優しい元妻はいるだろうか?…なんて思わないでもないが、未練の男が可哀そう、とにかく。


仲入り後の座談 話題の中心は、今年落語家生活40年を迎えたさん喬師匠のこと。さん喬一門のカラーが分かったような気がして面白かった。
喬之助さんがこんなことを言ってた、「権太楼一門は制服の男子校」「さん喬一門は私服の共学」。何となく分かるような気がします。
“さん喬師匠の落語で好きなのはどれ?”という話も興味深かった。惹かれるところは各人それぞれ違うようだ。人情噺に惹かれて入門した人もいれば、軽い滑稽な噺がいいという人も。残念ながら誰がどの落語をあげたか細かく覚えていないのだが、喬四郎さんが『柳田格之進』をあげたのが意外だった(本人も「意外でしょ?」って言ってたけど)。喬之助さんは『松竹梅』。喬太郎師は『棒鱈』と『猫の災難』。この二つの噺には、なかなか手がつけられないのだという。そして、喬太郎さんは「左龍の『棒鱈』がいいんです」「ちょっと悔しくなるくらい…」と褒めていた。また喬之助さんの『徳ちゃん』も、いい!と。左龍師の『棒鱈』、喬之助さんの『徳ちゃん』、聴きたくなりました。
さん喬師匠の稽古風景の話も面白かった。喬太郎師が『初天神』を「おまえの『初天神』には雑踏がきこえない」と言われてあげてもらっていないというエピソードは有名だが、“雑踏がきこえない”とダメ出しされたのは喬太郎さんだけじゃないらしい。お侍が出てくる噺の稽古をつけて、刀の扱い方がダメだ!としびれを切らしたさん喬師匠、刀に見立てて教えようと包丁を持ち出してきたので「刺されるかと思った…」とかとか…。「まじめすぎる」「ひきこもり」なんて師匠の悪口をいいながら、「さん喬の『松竹梅』、機会があったら是非聴いてみてください。初席でよくやります」なんて勧める。師匠のことを敬い慕う気持ちが伺えて、やりとりを聴いてて気持ちよかった。途中、私服の文左衛門師が出演者にお茶を配りに登場、一緒に天どんさんもぬーっと現れた。ほんとに楽しそうだなぁ。


左龍師『妾馬』は蔵出し。4年くらい前にやって以来、久々とのこと。左龍師の八五郎は明るく無邪気。田中三太夫は「〜ねぇではねえか!」っていうセリフが田舎侍っぽいんだが、頑固なじいさんと天真爛漫な八五郎のやりとりが微笑ましかった。




さん喬一門というのは、いい意味で仲良くてのびのびしてて、すごくいい感じだなぁと思った。