第二回 楽橋亭 鯉昇・喬太郎二人会

11/18(日)18:35〜21:03@内幸町ホール
開口一番 瀧川鯉斗 『動物園』
瀧川鯉昇 『千早ふる』
柳家喬太郎 『心眼』
仲入り
柳家喬太郎 『いし』
瀧川鯉昇 『御神酒徳利』





初めて行った「楽橋亭」。明治大学落研で“楽橋(らっきょう)”を名のった赤上好氏・小出巧氏・橘右門師匠のお三方が主催する会だそう。“鯉昇師匠と喬太郎師匠”という顔合わせは珍しいし絶対面白そうだと楽しみにしていたが、期待に違わず、芸達者なお二人の落語を存分に楽しませてもらった。


鯉昇師は独特のフラが魅力だけど、フラということだけじゃなく“上手い”のですよね。昇太師は鯉昇師匠のことを、たしか「凄くテクニックがある人」と言ってたと思う。鯉昇師の落語は、面白さがじわじわと畳み掛けるように来て、やがて気がつくとずーっと笑ってる…という感じなのだけど、ああいう笑いの起こし方、ちゃんと計算されてるのでしょうね。
『千早ふる』では、最初、業平の歌の意味を教えてと迫られたご隠居が、答えられずに散々空っとぼけるところがあるけど、あの辺りから、もうじわじわ可笑しくなってくる。ご隠居は「あの歌の意味というのはな、こういうことだよ」と言って、右手を左の肩のあたりにあてて「この位置だな、始まりは左の肩口からだぞ」とつぶやく。そして「ちはやぶる〜」と言いながら、右手を前に出す。「ここで曲がるんだな」と一人ごとを言い、体の向きを変えて「かみよもきかず〜」と続ける。金さんに「それ、ただ読んでるだけじゃないですか!」と言われても、ご隠居、繰り返し「だから、この位置だよ」とぐるぐる体の向きを変えながら節をつけて業平の歌をよむ。…なんだかワケが分からないかもしれませんが、鯉昇師が、あのとぼけたようなマジメなような顔つき・口調でこれをやるのです、たったこれだけのことが可笑しくてたまらない。この『千早ふる』といい『茶の湯』といい、鯉昇師の落語に出てくる“ご隠居”はホントに面白くて好きだ。鯉昇師ご自身と重なる。


喬太郎師『心眼』 マクラでは“銀座は近接する街(新橋・京橋・築地・日本橋)をどう思っているか?”という話を。いわく、京橋・日本橋・築地に対しては「江戸?下町?…ってオレ(銀座)下町じゃないけど、伝統っていうの?そのあたりで一緒にやりましょ!手、組みましょ!」って感じでシンパシーを感じてる。でも、新橋に対しては一線を引いてて「勘弁して!一緒にしないで!」って態度…。こんな「銀座の気持ち」とか、「コロッケ蕎麦となる宿命に生まれたコロッケの落胆」「縦半分に切られて天ぷらにされた魚肉ソーセージの嘆き」とかとか、喬太郎師のマクラで聴けるこの手の話はショージくん(東海林さだお)のエッセイみたいだなぁと思う。「そうそう!」「わかる、わかる」とうなずいて笑ってしまう感じ。
そんな楽しいマクラから、一転、シリアスで苦い噺『心眼』へ。これが見事だった。梅喜、お竹、上総屋主人、芸者・小春、登場人物それぞれが実にきめ細かく描かれ、それぞれの心情がよく分かる。四人全員に対して「そういう気持ちは、誰の心の中にもあるよなぁ」と思え、苦く切ない。それにしても喬太郎師、凄いなぁ。高座に吸い込まれるようだった。師の表情・仕草にじいっと見入っていたが、途中、一瞬、笑いで緊張がほどけたところがあった。目が見えるようになった梅喜が上総屋と仲見世を歩くシーン。女乞食を見た梅喜が、上総屋に、あの女乞食と比べてお竹の器量はどうだ?と尋ねる。上総屋は女乞食のほうがずっと器量がいいと言い、「あの女乞食、昔は江戸で一、二を争う“千早”という花魁だったんだよ」。こういうところもさすがだなぁ。


仲入り後、再び喬太郎師。『心眼』とうってかわってシュールな新作落語『いし』。例によって、ところどころ演者の喬太郎師の独白が入るものの、最初から最後まで登場人物はたった一人。こういう落語は珍しいのではないかな?面白かったです。ちなみに今、ラジオデイズで配信されてるようですよ(わたしはラジオデイズの関係者ではありませんが)。


最後の鯉昇師『御神酒徳利』 この噺は主人公が八百屋のパターンもあるけど、鯉昇師のは旅籠の番頭(善六)が主人公のパターン。これも面白かった。善六夫婦がいい。女房は、しっかり者っていうより明るい楽天家って感じ。善六も「困った」「弱った」といいながら結構成り行きまかせを楽しんでる風。すごく息のあった夫婦で「なぁに、カカァ天下だ」のサゲがぴったり。楽しい『御神酒徳利』だった。善六が京都から戻ってくる道中シーンは、柳昇一門とは思えない滑らかな言い立てでした。


鯉昇師と喬太郎師、おふたりの落語は、面白くって、しかも「うまいなぁ」と唸ってしまう。天才的っていうんじゃないけど、すごく魅力的な秀才の落語って感じだろうか?(あんまりぴったりの喩えじゃないなぁ)…ともかく、そんな共通点がある気がします。




楽橋亭は、来年2月から右門師匠が文化交流使として渡英のため1年休会になるそうですが、このおふたりの会は来年3月13日にもあるそうです(夢空間主催の木村万里さん関わりライブ)。