春風亭昇太独演会 ムードデラックス 11/13夜の部

11/13(火)19:00〜21:15@本多劇場
携帯電話撲滅ムービー 
昇太師、東大卒の昇吉さんを連れて、大好きな中世城郭跡を訪ねるの巻
立川笑志 『堀の内』
以下すべて昇太師匠
『唖の釣り』
ナマ着替え
時そば
休憩
『寝床]』





今回の三席は、昇太師いわく「好きだけどあまりやらない噺」。確かに、『時そば』はともかく、他の二席は久しぶりに聴いた。それに独演会で三席全部がおバカネタっていうのは珍しい。しかも仲入り前に必殺の『時そば』、最後は待ってました!の『寝床』。いつもに増して気合の入った昇太ワールド全開の独演会だった。


オープニングトーク 例によって、自分がどんだけバカでいられるか?いつまでバカでいられるか?それが自分のテーマなのだと語った昇太師。「今日はバカネタ3席!バカの畝状竪堀(うねじょうたてぼり)ですからねー!」と力強く宣言。
畝状竪堀というのは中世城郭(天守閣とかが作られる以前の日本のお城。昇太師の趣味は中世城郭めぐり)のお掘の一種だそうです。昇太師の解説によると、中世の掘は空堀(水のない掘)で、敵の侵入を防御するだけでなく、敵を誘い込んで迎え撃つ構造になってたらしい。お城を攻めてくる敵をこの畝状の溝に誘い込むわけですね、溝を通過する時は、どんな大群も一列になって通る、そこを上からデカイ石を転がしたり、ヤリでダーッと突いたりしてやっつけちゃう…と、そういう戦術がとれるように作られた堀なんだって。
中世城郭好きというのは、昔の釣り(『唖の釣り』)や義太夫(『寝床』)と同様、他人に理解されにくい趣味…ということで、会の最初から最後まで中世城郭の話が出てきた。なので、“畝状竪堀”“武田の三日月掘”“北条の障子掘”とかいうワードがしっかりインプットされてしまいました。
オープニングトークでは、今朝、昇太師のところに、本日の渦中のヒト泰葉さんから離婚報告の電話があったというハナシも。取材が行くかもしれないけど、すいません、よろしくお願いしますという連絡だったみたい。寝ていたところを電話で起こされたので、「はい、頑張ります」とワケの分からない答えをしてしまったそうだ。


ゲストの笑志さん。来年、有楽町マリオンで真打昇進披露が行われる予定。ゲストは、(もちろん)家元、志の輔師、そして昇太師。家元と志の輔師が一緒に出演するのも珍しいが、そこに昇太さんが加わるというのは更に珍しいですね(わたしは、この三人が揃ったところは『落語のピン』のビデオでしか見たことないよ)。
笑志さんの『掘の内』は、こういう言い方がいいのかどうか分かりませんが、“淡々としてる”という感じで、それがよかった。そそっかしい男というのが、そそっかしくはあるんだが、なんだかボーっとしてて、それをおかみさんや子供が「しょーがないなぁ」って世話してる感じが微笑ましい。
昇太師は『掘の内』を、自分にとっては難しい噺でうまくできないとおっしゃっていたが、何となく分かるような気がします。
『掘の内』に登場するのは、とてつもなくそそっかしくてバカをやるヒトですが、そういうバカは昇太師が好きなバカとは違うのだろうなぁ。ぼーっとしてるヒトじゃなく、力強く突っ走るバカがしっくりするのですよね。
それから、昇太師のバカ噺で好きなのは、焦ってパニックになるヒトです。『唖の釣り』の場合は、役人に見つかってびっくりしてうまく口がまわらなくなってしまう男がそれで、「アウアウアウ」とワケのわかんないことを言いながらやる身振り・手振りがすごく可笑しい。


ナマ着替えの後、ダイエットの話など。知人から、炭水化物と脂分が合わさると良くない、同じ炭水化物でも太りやすいものとそうでないものがある等々の知識を授けられたそうです。炭水化物で一番太りにくいのは“そば”。「今日は“そば”が出てくるバカな話を…」とふって時そばへ。『時そば』と分かると客席で小さな拍手が起こった。『愛犬チャッピー』と同様、『時そば』は昇太師の代表作になりつつあるなぁ。
今回は会場の上手よりの席だったのだが、『時そば』は正面か下手よりで観たほうが楽しいかも…と思った。アニキが与太郎に袖をひっぱられるところ、あそこんとこがすごく可笑しいのに、ひっぱられる方向と反対側から観る形なので、あの動きの激しさが充分見えないのだ。
時そば』が終わると、会場のあちこちから「はぁ〜っ…」と笑い疲れのため息が聞こえた。これを聞くと、わが事のように嬉しくなります。今回の客層は常連ファンと初めて来たヒトが程よく入り混じってた感じがするが、爆笑してたお客さんは、きっと初めて聴いたんだろうなぁ。


最後は『寝床』。これも昇太さんのやる古典の中で大好きな噺だ。
逃げ込んだ蔵の窓から旦那に義太夫を語りこまれた先代番頭さん。朝になってようやく蔵から出てくるが、髪がごっそり抜けてすっかりお爺さんになっている、店の者たちが「あ、あんた番頭さんかい?」と恐る恐る尋ねると、「てじなーにゃ!」と一声叫んで、ぼんっ!と白い煙と共に消えてしまった…。「ウソでしょ?」「それくらい旦那の義太夫は恐ろしいってことなんだよ」。
てじなーにゃ!」はあんましウケない時と、ウケる時があるみたいなんだけど、今回は凄いウケてました。
それから、長屋のみんなが旦那の義太夫と戦うシーン。ここが好き。「伏せろ、そうすりゃ義太夫は頭の上を通ってくからな!」と、昇太さんは高座に腹ばいになる。足でドーン!ドーン!と高座を打って、戸板にぶつかる義太夫のカタマリを表現。「皆で固まるな〜!固まってると狙われるぞー!」「後ろのヒト、前へ〜!」。凄く可笑しい。でも、仲入り前の『時そば』でお疲れになってたせいか(なにしろ、今日は昼の部もあったので、この『寝床』は6席目だ)、この戦闘シーン、ちょっと短かったような気がする。だけど、しばらく前から「あのほふく前進を観たいなぁ」とずーっと思ってたので、最後にこの噺をやってくれたことはとても嬉しかった。


こういうバカネタ3連発はたびたびはできないだろうけど、バカ道を突っ走る昇太師をいつまでも観続けたいです。