立川志の輔独演会〜秋の文左衛門大会

文化の日。中央線沿線を志の輔師→文左衛門師と落語のハシゴ。




立川志の輔独演会
11/3(土)14:00〜16:10@三鷹市芸術文化センター 星のホール
開口一番 志の春 『道灌』
志の輔 『買い物ぶぎ』
休憩
志の輔 『井戸の茶碗





昨日(11/2)は長崎、今日は三鷹、明日は横浜…と独演会が続く志の輔師。お疲れのためか、話し始めた声は低くやや聞き取りにくかった。ちょっと長めのマクラは「声を整えたい」という意図があったみたいだ。話題は赤福、戸隠の落語会など。山深い戸隠では携帯が使えないそうだ。携帯が使えないと聞いて最初は不安だったが、結局、使えなければ使えないで何も困ることはなかった。便利なモノが増えたけれど、その多くはなくても困らないものだ、そういうものが増えたために世の中に新たな不便が生まれているね…という話から『買い物ぶぎ』へ。この噺、何度聴いても面白い。何処でも掃除できるユア・ペットが出てきたら、お風呂のユア・ペットの立場はどうなる?!何処でも使えるユア・ペットがあるのに、何故一本でホワイトニングも歯槽膿漏も虫歯も口臭も大丈夫なハミガキがないのだ?…そんな問いを投げかけられて、平穏な日常の足元をぐらぐらと揺すぶられ混乱をきたすドラッグストアの店員が可笑しい、気の毒。


志の輔師の井戸の茶碗は初めて聴いた。全体は“面白い”『井戸の茶碗』なのだけど、正直で気のいい屑屋・清兵衛が茶碗の代金150両を受け取ろうとしない千代田朴斎の頑固に泣く場面だけは、ちょっとホロッとさせられる。千代田様は間違っていません、でも間違っていなければ何をしてもいいのですか?わたしは、懐に抱えた大金を、万が一にも失くしちゃいけないと怯えながら、お二人(千代田と高木)の間を行ったり来たりしているのです、そんなわたしのことを、千代田様はちょっとでも考えてくださったことがありますか?…という清兵衛の叫びは胸を打つ。
人に聞いた話では、志の輔師のこの噺は、以前はもっとシリアス色が強かったそうだ。でも、今日の『井戸の茶碗』は、あくまでも“面白い”が基本だった。
高木の下僕・良助が屑屋を呼び止め、顔を改めては「黒ーい!」「長ーい!」と言い放つところ、仏像から出てきた50両を返そうとする千代田朴斎に言う清兵衛のセリフ「千代田様の後ろの景色が『返さないでぇー』と言っているのです」「(千代田の住まいは)趣はあるけど、傾きもある」等々、面白いところがいっぱいだった。笑って笑ってちょっとだけホロッとして…という、笑いと涙のバランス絶妙な『井戸の茶碗』だった。




志の輔師の後は予定があったがそれが流れた。どうしようかな?と「かわら版」を見ていたら、中野で文左衛門師の会があるのを発見。しかもゲストは前から一度聴いてみたかった神田茜さん。問い合わせたら、まだ席があるとのことだったので予約を入れた。




秋の文左衛門大会
11/3(土)18:45〜21:05@なかの芸能小劇場
開口一番 柳家小ぞう 『道具屋』
橘家文左衛門 『花筏
仲入り
神田茜 講談『初恋閻魔』
橘家文左衛門 『天災』



文左衛門師の独演会に行くのは初めて。常連のお客さんが多そうな感じ。開場を待っていたら、受付に私服の文左衛門師が現れ、お客の一人一人に「いらっしゃいませ」と声をかけていた。


ぞうさんは、昨夜の黒門亭でも聞いた『道具屋』 文左衛門師にそそのかされて(脅かされて?)入れたギャグ、“ど”のつく仕事といえば「ドーナツ屋」「どきょうていりゅうま」(コレ知らないわ)はウケてました、昨日より一層リラックスした雰囲気で楽しい高座だった。


花筏は面白かった。銚子の網元の息子・千鳥が浜大五郎と相撲をとることになった提灯屋の「おうち帰るー(泣)!」とか「しゃろん・すとーん!」とか面白いくすぐりがいろいろあったけど、なんといってもサゲが可笑しかった。普通は「あの張り手はたいしたもんだ」「なにしろ提灯屋」でサゲだけど、花筏がニセモノと分かって相手は「なんですとー!」と驚愕、ニセモノ花筏を土俵にあげた親方は角界追放されてしまいましたとさ…という終わり方なのだった。文左衛門師の「なんですとー!」、ホンッと可笑しいなぁ。


神田茜さん 『初恋閻魔』はご自身の作。レンタル衣装の閉店セール。セールといえばオバサン、ウェディングドレスまで買う勢いで物色していると、ディスプレイされた衣装が崩れ、その下敷きになって圧死してしまう。気がつくと閻魔サマの前。生前の罪を問いただされるが、ぬけぬけと言い訳して反省の色なし。しかし初めてウソをついた初恋の日の出来事を持ち出されると、素直に「ウソをつきました」と認める。圧死オバサンのおかげで「中年オバサンの弱点は初恋だ!」と気づいた閻魔サマ、以後、オバサンへの接し方を改めたところ、地獄は中年オバサンで大盛況になるが…というお話。講談らしくない喋り方で、新作落語を聴いているような感覚だった。私は女の噺家や講談師によくある押しの強い感じがちょっと苦手なのだけど、茜さんは「よかったら聞いててねー」くらいのぼわんとした雰囲気で、講談自体も面白く、居心地よく聴いていられた。「オバサンは初恋に弱い」なんていう女性らしい視点だとか、細部の描写が面白い。また茜さんを聴きに行きましょうと思いました。


最後は『天災』 これも面白かった。文左衛門師は、『天災』みたいな、教わったとおりに言おうとするんだけど、できなくて適当なことを言いまくる…という噺が特に面白い気がする。それに、短気で口より先に手が出たり乱暴なくせに苦手なものにとっても弱かったりする八五郎は、文左衛門師にピッタリ。イキイキした八五郎だった。


花筏』も『天災』も、今までそんなに面白いと思ったことはなかったけど、文左衛門師はとても楽しく聞かせてくれた。


次回は来年のゴールデンウィークに3日連続で「春の文左衛門大会」を開催予定だそう。来年の手帳に早々としるしをつけた。