柳家三三独演会

10/15(月)18:30〜20:25@国立演芸場
開口一番 古今亭志ん坊 『元犬』
三三 『五貫裁き
休憩
三三 『猫定』





人情の機微に通じたようなセリフをちらっと吐く、世相をチクッと皮肉る…三三さんのそういうところは、以前は、年齢に似合わない“背伸び”“老成”という印象を持たないではなかったのだけど、最近はそういう部分と、明るさ・軽やかさがいい具合にブレンドされてて、好ましい。今日の高座もそのあたりのバランスが良くて、いいなぁと思った。『五貫裁き』における“吝嗇の諌め”、『猫定』の“おどろおどろしさ”…といったシリアスがありつつも、ベースはあくまでも軽く洒脱な落語。しかも口調も高座の佇まいも端正だから、観てて・聴いてて、気持ちいい。とても良かった、どちらとも是非もう一度聴きたい。特に『五貫裁き』は良かった、「三三さんの『五貫裁き』はいい!」という話は以前から聞いていたのだが、評判どおりだった。


五貫裁き 昨日まで、福井県で公演をしていらしたという三三師。マクラで、四日間の滞在中に空き時間を利用して見物した「山田コレクション」の話をした。「山田コレクション」というのは、福井の資産家山田某氏の趣味の蒐集物(ミスター長嶋グッズが中心だそう)を展示した私設ミュージアムみたいなものらしい。話を聴いたかぎりでは、金に飽かせて集めた、そうとう脈絡のない笑えるコレクションみたい。現代の金持ちエピソードから、江戸のしわい金持ちがでてくる落語『五貫裁き』へ。
大家の差し金で、徳力屋を訴えたはいいが、毎朝・毎晩一文を届けるハメになる八公のぼやきが可笑しい(一晩中大家と徳力屋を往復しながら、夜空を見上げて「あ、流れ星…」と情けなさそうにつぶやくところなど)。三三さんのいれるくすぐりはオーソドックスなものだけど、あの可笑しさはどうしてだろう、絶妙な“間”のせいなのかしらね?
三三さんの噺とはまったく関係ないが、以前、らく次さんが高座で、二つ目昇進記念の会を談春師の尽力で紀伊國屋ホールで開けることになったものの、チケットの売れ行きを心配した談春師から日毎・夜毎に『切符は何枚売れた?』と電話がきた」という件を「まるで『五貫裁き』みたい」とこぼしていたのを思い出し、ちょっと可笑しくなった。


『猫定』 六代目圓生師がお得意にしていた噺らしい、初めて聴いた。魚屋(実は博徒)の定吉、料理屋で、店の魚を盗んで殺されそうになっていた黒猫を助け家に連れ帰る。“クマ”と名づけられた猫は、壷の中のサイコロの目を“にゃご半・にゃごにゃご丁”(“にゃーご”と一回鳴くと「半」、二回鳴くと「丁」)と定吉に教え、おかげで定吉は博打に勝ち続け、たいそう羽振りがよくなる。いつも懐にクマをいれて賭場にやって来る定吉は、いつか「猫定」と二つ名で呼ばれるようになる。金回りはよくなったが、博打にばかり精をだす定吉に女房お滝の心は離れていく。やがて定吉の弟分と密通したお滝は、ある晩、男をそそのかし、賭場帰りの定吉を殺害する。しかしその晩、お滝も、引き窓から飛び込んできた黒い生き物に喉を噛み切られて死んでしまう。夫婦の通夜、夜が更けて、集まった長屋連中が居眠りを始めると、二つの早桶のフタが開き、定吉とお滝の遺骸が立ち上がり、凄まじい形相で睨みあいを始める…というストーリー。
心離れた夫を殺す女、女の喉を噛みちぎる化け猫、死んでからも憎みあう遺骸…と怪談の要素もあれば、滑稽な部分(通夜に集まる長屋の衆の怖がり方がおかしい)もあって、三三さんが得意そうな噺だと思う、見ごたえ・聴き応えがあった。そうそう、三三師は猫も上手かった。上目遣いにめんどくさそうに定吉を見てにゃーごと鳴く様子は、猫らしかったなー。




最近の三三さんはすごくいいなぁ。20日のかわら版落語会、29日の三三独演、楽しみだ。