落語ジャンクションin下北沢『栄助・天どんの会』

10/9(火)19:00〜21:00…をかなり過ぎてたと思う下北沢「劇」小劇場
春風亭栄助 『古典の天使・新作の悪魔』
三遊亭天どん 『トラウマさん』
休憩
春風亭栄助 『状況説明窃盗団』
三遊亭天どん 『壁抜け』





ネタ下ろしではなかったが、自分は『古典の天使・新作の悪魔』以外は初めて聴いた。目当ての栄助さんはもちろん面白かったが、今回、遅まきながら天どんさんに開眼した(天どんさんおよび天どんファンの方々、御見逸れしました、遅すぎで恥ずかしい)。


天どんさん『トラウマさん』『壁抜け』 どちらも今時の病んだ若いコが登場する。病的に自己チューのワガママ娘(『トラウマさん』)とか、ひきこもりオタク(『壁抜け』)とか。でも、その手のキャラクターが出てくるだけのありがちなキワモノ噺ではなく、イマの若いコたちの弱さ・マジメさ・人懐っこさ・心細さ…等々をサラッとすくいとっててリアルな感じがした(もっとも、それは中年であるわたくしが感じたことなので、若いヒト当事者がどう思うのかは分かりませんが)。不思議と爽やかな後味で、いいなぁと思った。二作とも、できたばかりの頃はどんな感じだったのかは分からないが、ネタ下ろし当初よりもどんどんよくなって、こういういい感じの噺になったのではないのかなぁ、そんな気がする。


『トラウマさん』はコンビニのバイト達の話。登場人物は、皆から「センパイ」と呼ばれる古株のバイトくん、語彙が「マジすか?ヤバイっすね?」しかないサブちゃん、何かといえば幼少時のトラウマのせいにして仕事をサボりたがる自己チューのカオリちゃん。ストーリーはどうということはないのだが、彼らのゆるゆるの会話がいい。こういう会話を交わしてるコたちがホントに居そうな気がする。サブちゃん、センパイに言われたことの3%も理解してなさそうなんだが、微妙にちゃんと通じてて、たまに鋭いことを言ったりするのが可笑しい。


『壁抜け』 アニメオタのひきこもり男子が、死後、逆恨み(しかも人違い)で幽霊になって男にとりつく、しかしその男のおかげで自立をとげる…という物語。ひきこもりの幽霊にとりつかれる男・近藤真彦のキャラクターが魅力的。やる気なさそな脱力系、でも言うことはまっとうで気のいいヤツ(なんとなく、天どんさんみたいだ)。男はひきこもり幽霊を自分の部屋に同居させるのだが、いつの間にか幽霊は男の世話をかいがいしく焼き始め、それが生きがいになっていく。男が会社から帰ると、幽霊がハンバーグを手作りして待っている。ハンバーグはおいしい、ビールは冷えてる、テレビは巨人戦をやってる。快適で何ひとつ文句はないが…「新婚かっ!」幽霊とこんな居心地よく暮らしてていいのか?オレ?という苛立ちから、思わず箸を投げる男。ここのところ、間とか仕草とか会話とか全部よくてすごく可笑しい。


天どんさん、以前『遺言を』を聴いた時はなんとも思わなかったのだけど、今回来てよかった。やっぱり一回聴いたくらいでは、そのヒトの魅力は分からないなぁ。


栄助さんの『古典の天使・新作の悪魔』 マクラの“マンデー落ち”、初めて聴いたが傑作!(落語のオチにどんな種類があるか?という話の中で、要するにどんなオチだっていいのだ、例えば“月曜日”で下げるとこうなる…っていろんな落語を「月曜日」を入れて下げるんですが、くだらなー、不条理ー。是非ライブで聴いてください)。噺はこの前聴いたばかりだったが、今回も面白かった。「新作なんかに手を染めなければ」こんなに悩むこともなかったのにー!と苦しむ栄助さんを、天どんさんは「実際、あのヒトは、ああいう葛藤の果てに、寄席では新作やってませんからね」と冷ややかに分析。


「落語のほうで、“三坊”といいまして…」と入った『状況説明窃盗団』 (栄助さんのブログに、マクラになる面白いネタが見つからなかったらこうやって入りますって書いてあったんですが、そうか、この噺をやることは決めてたんですね) 盗む前に状況説明―コントで、舞台に登場した人物が「久しぶりに故郷に帰って来たぜ、今は都会で暮らすオレだが…」とかなんとか独り語りでコントの設定なんかを説明したりしますね、アレです―をしないと気がすまない泥棒が、子分二人を従えてデパートの北海道物産展に盗みに入る。親分は、外で見張りをしている子分には周囲の状況説明を、一緒にデパートに侵入した子分には物産展フロアの状況説明を強いるが、二人の状況説明は相当トンチンカン(フロアの状況説明なんか、いつの間にかダジャレ漫談になっている)、三人が三人とも、それぞれにマヌケな泥棒のお話。昔の泥棒に憧れる子分は豆絞りの手ぬぐいで頬かむりして三波伸介の泥棒メイクみたいなヒゲづら、親分を「オヤビン」って呼んだり、ディテールが昭和のコントみたいでいいです。




お二人の会は不定期開催だそうだが、次回も是非行きたい。あ、それから天どんさんの独演会も、これからは行かせていただきたい(聴きたいヒトがまた増えてしまった…弱った)