扇辰・喬太郎の会 第51回

10/6(土)18:30〜21:25@国立演芸場
開口一番 春風亭正太郎 『桃太郎』
入船亭扇辰 『お血脈
柳家喬太郎 『熱海土産温泉利書 〜八王子金造〜(あたみみやげいでゆのききがき ・はちおうじきんぞう)』
仲入り
柳家喬太郎 『カマ手本忠臣蔵
入船亭扇辰 『幾代餅』





幕が上がると黒紋付姿のお二人が高座にいらした。お二人並ぶと、小柄な扇辰師匠はますます小さく、喬太郎師匠はますます丸く見えます。ともかく、扇辰師匠がお元気そうでなによりでした。




正太郎さんは初めて観ました。ブースカに似てる!と思ってしまい、『桃太郎』よりもそれが気になってしょーがなかった。すいません。


扇辰師お血脈 マクラでは、お釈迦様誕生の逸話から始まって、俳仏派の物部守屋が難波池に投げ込んだ白金の仏像を本多善光が拾って…という善光寺の由来まで丁寧に語った。六代目圓生がやりそうなちゃんとしたマクラだなぁと思った。でも、扇辰師の『お血脈』は、五右衛門が地獄でヒット曲集片手にお風呂に入ってて、『湖畔の宿』の替え歌に続いて『東京ホテトル音頭』まで唄った。扇辰師「アンケートには“やめたほうがいい”とか書かないでもらいたい、こっちだって芸域を広げようと…」と五右衛門のセリフで言い訳。


喬太郎師の『熱海土産温泉利書』は初めて聴いた。圓朝だろうなと思って家に帰って調べたら、以前、森まゆみ女史の『圓朝ざんまい』であらすじを読んでいたことを思い出した。たしか、圓朝が実際に熱海に取材して作ったもので、熱海をはじめ各地の風景がリアルに描写された噺…と紹介されていたような気がする。相州小田原藩の近藤家に奉公していた娘・お浜は主家の次男・弥三郎と恋仲になる。しかし主従の恋はご法度というわけで、二人は生木を裂かれるように別れさせられる。弥三郎は勘当になり、乳母の息子・金造(八王子で廻り髪結いをしている)のもとに身を寄せる。弥三郎を思い切れないお浜は、弥三郎を追って八王子へ。弥三郎を探し回り、疲れ果てて道に倒れていたお浜を助け起こしたのが金造(このあたりの都合のよさが圓朝っぽいなー)。この金造、実はとっても悪いヤツ。女房・おさわと謀って「弥三郎は今、拝島の牢にいる。助けるためには50両がいる」とお浜を騙し、お浜を吉原に売り飛ばしてしまう…というところまでを、喬太郎さんはやった。このパートでは、金造&おさわの悪人夫婦が見所(聴き所)なのかもしれません。


仲入り後は、お二人とも、観客から募ったリクエスト噺をやった。これは前回(50回)予定されていた企画(前回は扇辰師が休演したのでできなかった)。


ちなみに、喬太郎師へのリクエストは、票がバラけて、一位といっても5票だったそうだ。その一位は、『居残り佐平次』。喬太郎師“ニンに合わない”“居残りは志ん朝、談志…と素晴らしいのがあるので、とてもできない”等々の理由で却下(…余談ですが、喬太郎師は家元の居残りがはいった2枚組みのLPを持ってるそうだ。居残りの他に、家元の選挙演説とか、家元が故・三木助※名人の息子の自殺した三木助さんのほうですー に『野晒し』の稽古をつけている様子なんかが入ってるそうで、すごく珍しいレコードみたい。さすが落語オタだと思いました…)。とはいえ「いつかはやってみたい」ともおっしゃっていた。また、やるなら“東宝”の居残り(東宝映画・無責任シリーズの居残りですね)をやってみたいとも。佐平次はもちろん植木等、廓の旦那はハナ肇、花魁は淡路恵子喬太郎さん、淡路恵子が好きだなぁー)。『居残り佐平次』と無責任シリーズの植木等の共通性は、たしか小林信彦氏も中野翠女史も指摘していたと思う。
二位は4票で『黄金餅』。喬太郎師「できませーん!」。落研時代にやったことがあるが、既に言い立てのところを忘れている…とのことでした。同数票で『ぺたりこん』。これは、よくやってるから…ということでナシ。で、2票はいった『カマ手本忠臣蔵を。マクラは例によって“落語家をキャストに忠臣蔵をやるとしたら?”。志ん朝師匠・家元・権太楼師匠のモノマネは今日もソックリだった。


カマ手本の後だったせいか、扇辰師の『幾代餅』は清造が可愛らしく清潔な印象だった。




喬太郎師のケレン味と扇辰師のオーソドックスは、いい取り合わせだなぁと思いました。