池袋演芸場 余一会・夜の部 「噺坂 其ノ弐」

17:50〜20:05
開口一番 柳亭市丸 『金明竹
柳家三三 『だくだく』
柳亭左龍 『蒟蒻問答』
仲入り
古今亭菊之丞 『火焔太鼓』
柳家甚語楼 『五人廻し』





若手真打四人衆、申し分ないです、みんな良かった。とりわけ良かったのが三三師の『だくだく』、最高!と思いました。




店賃をためて引越しせざるを得なくなった男。家財道具一切を売り払って引越したものの、引越し先で新しい道具を買う金もない。男はからっぽの長屋の壁にぐるっと白い紙を貼りめぐらし、知り合いの絵師に頼み、そこに家財道具一切を描いてもらう。床の間、掛け軸、茶箪笥、扉がすこうし開いてる金庫、火が燃え盛るかまど、シュンシュンお湯が沸く鉄瓶、猫板の上のネコ…そんな絵を眺めながら、それらが「ホントにある“つもり”」で暮らそうというわけ。そんな男の長屋を覗いた泥棒。物持ちが住む家と勘違いして盗みに入ったものの、全て絵だと気づくと、絵の箪笥を開けて結城の着物・西陣の帯を、扉の開いた金庫から大金を「盗んだ“つもり”」になろうとする…。
『だくだく』ってこんな噺。軽くて他愛のない噺だけど、自分が「いいなぁ」と憧れる落語ワールドを象徴するような落語で、とても好きだ。“遊び心”(余裕)というようなものが、お金がたっぷりあって恵まれているヒトじゃなく、長屋の貧乏人や泥棒の心の中にあるっていうのが素敵だ。で、三三さんの『だくだく』は、その素敵をあくまでふわっとサラッと描いて、まさに軽妙洒脱、本当に素敵だった。三三さんの落語で、こんなに「いいなぁ…」とうっとりしたのは初めてだった。
全体の雰囲気がよかったし、ちょっとしたくすぐりがいちいち可笑しくて、本当に面白かった。例えば、長屋の壁にキレイに紙が貼れていると感心する絵師に、男が「オレ、経師屋なんだよ」(笑)、それを聞いた絵師が「…働けよ」ってつっこむところ。それから、泥棒というのが“近眼で乱視”なので(だから、表から長屋を覗いて、絵に描いた家財道具をホンモノだと思ってしまうのですが)、壁に顔をひっつけるようにして絵を確認するところ(三三さんの仕草が面白かったのです)。それから、ネコの絵の傍には“タマ”って名前が書いてあるんだが、泥棒が「…あすこにいる“タマ”が…あれ?なんで初めて入ったのに“タマ”って分かるんだろ?」とつぶやくところ…等々。
この『だくだく』は是非もう一度聴きたいです。


左龍師『蒟蒻問答』・菊之丞師『火焔太鼓』お二人の落語は強烈に個性的というのではないけれど、ハズレがない、いつも楽しませてくれます。『火焔太鼓』は数多の名人が散々やって、昨今ではやりにくい噺かもしれないと思うのですが、菊之丞さんのは素直に面白かった。大名屋敷に呼ばれた道具屋が、太鼓をいくらで売るか?と尋ねられ、「…い・い・いーーくらで売る?とアナタは訊いていますかー?」と裏返った声で聞き返すところなんかは可笑しかったです。


甚語楼師『五人廻し』熱演。ただ、役人(甚語楼師のは、士族上がりの軍人ぽかった)と、粋人を気取った気障な男が、惜しい感じがした。軍人は“教育はあるけど哀しいかな田舎出身”というニオイが出るといいな、気障な男はもーーーっと気持ち悪いといいなと思った(たくさんいろんなヒトのを聴いてるわけじゃないのですが、役人と気障男は、喜多八師のがいいです、イヤらしくてたまりません)。でも、田舎者は面白かった!「わっけ・さー!わっけ・さー!(若い衆、若い衆)」「あの、もーっす!あの、もっす!(もし!もし!)」と呼ぶところとか、「いどっこだよー(江戸っ子だよー)」とか。




こんな30代の真打達がいるので、自分が生きているうちは素敵な落語ワールドは安泰だなぁと思います。