立川談春・三遊亭白鳥 二人会

8/28(火) 19:00〜21:00@イイノホール
談春 「持参金」
白鳥 「黄金餅
休憩 10分
談春 「星野屋」
白鳥 「はらぺこ奇談」





二人で二席ずつ。だから今日はさっさとやらなくちゃとオープニングトークの時に出演者二人で話していたが、白鳥さんの「はらぺこ奇談」は終演予定の9時に10分早く終わり、最後は二人で時間調整トーク
イイノホールには会場内にデジタル時計があるので、今日は時間をメモしてみたのだけど…
「持参金」17分
黄金餅」23分
「星野屋」23分
「はらぺこ奇談」24分
どの噺も短めでだれるところが少なく、そういうのが4席続くというのは、とてもラクに聴けて良かった。「持参金」を始める前に談春師が“今日は鈴本の昼席みたいに”なんて言っていたが、ホントに寄席の特別興行って感じがしないでもなかった。
今回のテーマは“欲望”。
談春師は苦い笑い、白鳥師は“金”と“食い物”へのすさまじい執着をとりあげながら、ひたすらバカバカしい…という受け止め方を自分はしたので、談春(苦笑い)→白鳥(爆笑)→談春(苦笑い)→白鳥(爆笑)という順番もよかったです。


オープニングトークでちょっと興味深かったのは談春師の「二人会における出演の順番」の話。二人会では二人の噺家(AとB)が“A→B→A→B”の順番で勝負するのが正式なんだとおっしゃっていた。今回はその正式の順番だったわけだが、ちょっと面白いと思ったというのは、順番云々ではなく、談春師が“勝負”という言葉を使ったことだった。二人会が噺家にとって勝負の場であるということを、今更気づいた次第です。だとすると、白鳥VS談春って、どういう戦い?(やっぱ異種格闘技か)。
ともかく、談春さんのほうが分が悪いかも。白鳥さんのあまりに見事なエゴイズム&マイペースには、大抵のヒトは負けてしまう気がする(もっとも、今回は談春師が白鳥師に花をもたせた観があったけど)。


談春師がやった『持参金』『星野屋』。落語ってそもそも人間の業を笑うものなのでしょうが、自分は、特にこの二つの噺からは、人間のヤなところをとりわけ強く意識してしまいます。だから、実はあんまり好きではない。
『持参金』うっかり手をつけて孕ませた女を他人に押し付ける男がイヤだし、いいヒトぶるわけではないが、容姿がよろしくない女中を笑うというのはスカッとしない。
ま、そんなことがあったりはするのですが、談春師の『持参金』は、持参金目当てで友だちの子を宿した女と夫婦になった男というのが、不思議といいヤツに見えたりするところがイマイマしいけど良かったです。しかし、なんでそういう印象を受けるのか、談春師のやり方のどんなところが、そういう印象をもたらすのかということを、落語鑑賞歴浅い自分には分析できない。ただ、談春師『持参金』は、友だちが捨てた女を嫁にもらった男が、友だちに向かって彼女のことを「こいつ、気立てはいいんだよ、凄くいいんだ」と言い、だから自分はこの女と一緒になってもいいのだと説明したところが印象に残った。この男は、やさしいんだか非情なんだか、よく分からないけど、そこに魅力があって、この噺の後味をそんなに悪くないものにしてるように思います。
『星野屋』この噺は、妾が自分にどれくらい惚れてるか試すというのがアホらしいので、あんまり好きでない噺なのです。でも、談春師の『星野屋』は、後半の、妾と鳶頭が互いに「実はコレコレ…」と相手を騙した手の内を披露しあって、得意になったり悔しがったりするところが子供のように可愛くて良かった。ヒトは欲望に素直な時、無心な子供のようにも見えるのかなぁと、大げさだけどそんなことを思いました。


白鳥師の黄金餅(もちろん古典の黄金餅とは違う)『はらぺこ奇談』白鳥師の新作は、売れない頃の白鳥師が体験した“どん底”、そこで味わった、あまりにも原始的な強い欲望と悔しさ(「お腹一杯食べたい!」「金欲しい!」「認められたい!」ニーズ)が昇華されて生まれたものが多いと思うのですが、この二つの噺もそういう類の噺だと思う。誤解を恐れずに言うと、自分が白鳥師から強く感じるのは“田舎者のしたたかさ”です。それは、時に“粋”や“イナセ”をぶっ飛ばすパワーがあって(白鳥師には大抵の噺家が負けちゃうかもなぁと感じるのは、そこです)、それが白鳥師の個性であり魅力だと思います。
白鳥師が人気者の三三師や白酒師をやっかんで「小手先だけの噺家」とけなした場面があったが(あくまでギャグですよ)、もうちょっと良い言い方をすると、お二人は、良くも悪くもスマートだということではないか?と思った。こんなことを言ってみたりするあたりに、白鳥師の自信を感じました。


それはともかく、白鳥師の落語には、可笑しいくすぐりがいっぱいで楽しい。『はらぺこ奇談』では、“イカフライサンド”を食べる仕草なんかが面白かった。扇子(イカフライ)を手ぬぐい(パン)で包んで、イカフライサンドを表現、注意して食べないと、ずるずるとイカフライ(扇子)だけをくわえて引っ張り出してしまう…というのを「志ん朝譲り!」と言いながらやってみせた。
ところで、『はらぺこ奇談』には、過激なダイエットをしながら屋敷に閉じ込められて死んでしまい、「食べたい!」という妄念で屋敷にとりついた令嬢・西園寺ミヤ子という登場人物がいます(西園寺ミヤ子がとりついた化け物屋敷に、お腹をすかせた売れない芸人とその子供が迷い込んできて、食べられそうになる…というのが『はらぺこ奇談』という噺です)。ミヤ子が、かつて「太ってるからヤダ」と婚約者にフラれた過去を回想する『金色夜叉』的シーンがあるのですが、「来年の今月今夜のこの月を、あたしの中性脂肪で曇らせてみせるー!」ってセリフに、「今夜、皆既月食じゃん!月ないじゃん!」とつっこみたくなりました(あの会に行った方、そうじゃありませんでしたか?)。
あと、今回は、芸人の子供(トクジロウ)が化け物の舌に巻かれる場面で、緋毛氈(化け物の舌)を扱うのに、小春ちゃんが活躍して、可愛かったです。