8/13 市馬・談春 風の盆

18:35〜21:20@国立演芸場
開口一番 柳亭市朗 「たらちね」
柳亭市馬 「青菜」
立川談春 「へっつい幽霊」
仲入り
立川談春 「慶安太平記 善達の旅立ち」
柳亭市馬 「竹の水仙





「青菜」前日、鈴本の夜席で権太楼師の「青菜」を聴いたばかりだったのだけど、同じ柳家だから当然なのか、笑わせるセリフなんかも含めて概ね同じだった(権太楼師のほうは植木屋夫婦が動物園のカバの檻の前で見合いをしたってエピソードが入ったけど)。でも、印象はだいぶ違う。市馬さんのに比べると、権太楼師のは植木屋もおカミさんも一段と庶民的って感じだったかもしれない。市馬さんのだってとっても長屋の住人らしいのだけど、あんまりドタバタしてない。でも可笑しい。おカミさんが押入れから出てくるところ、大柄の市馬さんが「旦那様ァー!」とやると、それだけでさぞ暑かったろうねと笑ってしまう。
ところで、市馬師はマクラで「今日は『青菜』をやります」とことわった後、小さん師匠が寄席でやたらなヒトがこの噺をかけることを嫌ったこと、ある時その日のネタ帳を指して、上品な噺なんだから「こんなヤツがやっちゃいけねぇ」と機嫌が悪かったというエピソードを紹介、「そこに書いてあった名前は今でも覚えております」「存命なので申し上げられませんが…」(笑)。小さん師匠の言う“上品”というのは、どんな感じを言うのだろう、きっと市馬師がやったのがそうなんだろうなと思った。


「へっつい幽霊」最初にちらっと、今日は市馬師と一緒だから鷹揚に…なんて言って、「幽霊は陰、柳は陽木…」というオーソドックスなマクラから入った。あ、ホントにおとなしくやるんだなと思って聴いていたら、へっついの説明のところで、突然いつもの談春師らしい調子になって、きくおクンエピソードを披露(きくおクンはこの噺をやる時、へっついを“ガスこんろ”みたいなものと説明、「ガスコンロから幽霊が出る噺をやります」と言ったそうです)。物足りなさそうな客席の空気を読んでとのこと。気が廻るヒトだなぁ。
談春師の「へっつい幽霊」は初めて聴いた。登場人物が渡世人と博打好きの幽霊って、談春師にぴったり。特に熊五郎。肝が据わって、気前が良くて、幽霊に凄んだりするくせに、紙を落として雪隠詰めになりかかったりして愛嬌がある。山分けした150両を博打で一晩ですってしまうわけだが、その負け方(山も谷もなくずるずると少しずつ負け続けた)をつまらねぇと悔しがるあたりは、博徒談春師の面目躍如。


仲入り後、談春師は高座にスッとあがってマクラもふらずに「慶安太平記。(このネタを喜ぶファンは多いみたいなんですが、どうしてですか?滅多に聴けないから?それはともかく…)痛快なワルたちが華やかに暴れまわるこの噺も談春師に合ってると思う。昨日は「善達の旅立ち」だけだったけど、このパートは登場人物の紹介みたいで、ここから面白くなるのに!っていうところで終わってしまうのでちょっと残念。はっきり覚えていないのだけど、善達の風貌を“がっしりといかつい顔ながら、笑うと愛嬌があって、軽率な女がコロッとまいってしまうような男”…とゆーよーなことを言ったのは、毎度、談春師らしいたとえだと思った。


談春師の後トリで登場した市馬師は、20年以上前、ふだん閑古鳥がなく池袋演芸場を満員にして「慶安太平記」でお客を湧かせていた頃の家元の思い出を。トリの家元は気分がのらないと来ない時もあって、前座だった市馬師は家元からの「今日は休む」宣言の電話をとることもあった(市馬師は電話の家元のマネ―第一声「俺だ!」ってかかってくるそうです―をしたのだけど、似てた)。家元が休演と決まると、膝代わりで延々とつないでいる先代正楽師匠の傍らに、左談治師匠がカネをチンチン鳴らしながら「今日は談志は来ませーん!」とあがっていった。客席は大喜び。「(談志師匠は)まさに“名人”、来ないといってお客様が喜ぶんですから」。こんなマクラから「竹の水仙に。
冒頭、甚五郎の道中場面で馬子唄をサービス。市馬師の宿屋の亭主はホントにいい人。おかみさんもあんまりくどくど文句を言わないのね。(何度も同じことを書いてる気がするが)市馬師の落語というのは、飄逸というか、おおどかというか、聴いてると自分も善きヒト(…まるで市馬師のような)になったかのような気持ちになれるので、好きです。


充実のメニュー。それに、両師匠ともご自分らしい噺を選ばれたと思った。その意味でも良い二人会で楽しかった。