志の輔らくご 21世紀は21日

19:00〜21:24@新宿明治安田生命ホール
ロビーゲスト ジンタラムータ(ジンタ演奏)
ちりとてちん
時そば
松元ヒロ(ニュースパントマイム)
「唐茄子屋政談」



今日は、前座なしでいきなり志の輔師が登場した。椎間板ヘルニアで腰痛が悪化、楽屋にいるよりも高座にいたほうが痛みを忘れられるから最初から自分でやることにした…とおっしゃっていた。


三枝師匠に「ええで」と勧められ観たかったお芝居「宝塚BOYS」(花緑師が出演している)、スケジュールが合わず諦めていたが、師の富山公演の前日、一晩だけ富山で公演があることがわかりチケットを入手して観にいった。当日、客の入りは半分くらい。「こんないい芝居をなぜ観に来ないんだ!」と、富山県民として花緑師に申し訳ないような、はがゆいような気持ちになり、なかなか芝居に集中できなかった。
が、その少ないお客さんたちの反応がとても良かった。もちろん舞台が良かったわけだが、あぁこれで花緑師に申し訳が立つと安心した。客の反応が良ければ役者のノリも良くなる…という相乗効果もあってか、客席と舞台が一体となった素晴らしいお芝居で、師は感動した。最後はスタンディングオベーション。終わった後花緑師の楽屋を訪れると、花緑師「今まで何箇所か廻ったんですが、富山のお客さんの反応が一番良かったです」。自分が誉められたよりも故郷富山を誉められたのが嬉しくて、嬉しさの余り「花緑を抱きました」(笑)。
的確で正しい批評よりも、時に、たとえお世辞であってもストレートな賞賛のほうが人の心を動かすことがある…というマクラから入ったちりとてちん。お世辞上手(ロクさん)と、なにごとにも一言多い小憎らしい知ったかぶり(タケさん)が登場する。自宅で催すはずだった句会が流れてしまったご隠居、お世辞上手なロクさんを呼んで客のために用意したご膳を振舞う。灘の生一本、鯛のお刺身、鰻を、何もそこまで…というくらい誉めそやすロクさん。「ちょっと大げさだけど、そんな風に食べてもらえると、気持ちがいいよ。それにひきかえ、隣町のタケさん…」というわけで、普段からタケさんを快く思っていなかったご隠居、婆やが見つけたカビの生えたお豆腐にイタズラ心を起こして、タケさんに食べさせてしまう…というお話。ロクさんとタケさんの対比が面白かった。「ちりとてちん」は一時期、花緑さんがよくやっていた。だからやったのかしら。




お芝居をよくご覧になる志の輔師は、三谷幸喜氏の「笑いの大学」の英語版舞台(ロンドンで芝居化され、その日本公演があった)も観たそうだ。その舞台の印象と、ご自身の大銀座落語祭の「英語落語会」の体験を通して“英語の笑い”と“日本の笑い”の違いを思った。英語の芝居はセリフが全てだが、落語は「腹芸」である。セリフ以外に、口ではそう言いいながら心の中では何を思っているのだろう?という推察や憶測があって、それらをひっくるめた空気を面白がるのが日本語の笑い(≒落語)…マクラはそんな内容だった。今日の時そばは「英語落語会」でやった英語版を日本語に直したもの。複雑ですね、こういうことだそうです。
①通訳をやった方が関西の噺家から「時そば(うどん)」を教わって英訳 → ②その英語版「時そば」を、志の輔師は通訳の方から教わって「英語落語会」にかけた → ③それを日本語に直した
関西の噺をベースにしているので、基本的に昇太さんの「時そば」と同じだった。昇太ファンの私としては、弟分の突き抜けたクレイジーっぷりで昇太さんに軍配を上げたいところ。とはいえ、志の輔さんのもとっても面白かった。




「唐茄子屋政談」は、落語に出てくる“おじさん”というのも、英語のアンクルとは違う、日本独特の存在かもしれない…というマクラから。50分くらいだったろうか?つい一昨日、志ん輔師で古今亭の「唐茄子屋政談」を聴いたばかりだったので、これも比較して興味深かった。徳三郎が勘当される最初の場面と吉原田圃の場面はカット。徳三郎に代わって唐茄子を売ってやる男が、子沢山のおかみさんに“5個”唐茄子を売りつけちゃうとか、唐茄子なんか男の買うもんじゃないというヤツに「それじゃあ、言わせてもらうが…」と“8年前”のことを持ち出したりとか、志ん輔師より数字が大きくて、大げさで可笑しかった。そして、おじさんに一番ウエイトが置かれていたように感じた。落語研究会で聴いた時は、志ん朝の(…というか、志ん朝風というのか…)「唐茄子屋政談」てこういうものか…と、ややおベンキョーのつもりで聴いていたのだったが、志ん輔師の「唐茄子屋政談」って完成度が高いものだったのだなぁと思った。




志の輔師は高座から降りる時がとても辛そうでハラハラした。腰痛はよほどひどいのかしら。今回は体にも精神的にも負担の少ない噺を選ばれたのかもしれない。来月、再来月とハードな公演が控えているのに大丈夫かな。快方に向かわれることをお祈りする。