それぞれの「お菊の皿」

18:30〜20:45@国立演芸場


今までにいろんな人(…そう多くはありませんが)の「お菊の皿」を聴いて、この噺は、“アイドルと化すお菊”でどんな風に笑わせるか?というあたりで個性を出すのかなと思いました。その意味では、今回も市馬さんがオーソドックスな「お菊の皿」で、喬太郎さんはアイドルっぷりで笑わせるという点はおさえつつ更にもうひとひねりがある「お菊の皿」、そして白鳥さんは、例によって噺の原型をほとんどとどめない「お菊の皿」でした。




オープニングトーク
お菊の皿」の由来や豆知識(現在、東京の多くの噺家がやっている江戸・番町が舞台の「お菊の皿」は五街道雲助の型に、播州が舞台となる「お菊の皿」別名「皿屋敷」は二代目・桂三木助にたどりつく…などなど)を紹介しながら3人のトーク。せっかくふった話題をスルーした白鳥さんに、喬太郎さんの一言「福助か!」に笑いと拍手。この間のかもめ亭に行ってたお客さんがいっぱい来ているのだね。しかし、もっと笑ったのは「(福助って)それは、あらいぐまラスカルみたいな人?」ってとんちんかんに返して、福助丈も歌舞伎も本当に全然知らない様子の白鳥師。
市馬師と白鳥師はネタおろしだそう。市馬師が今までやってないってのが意外。「この会でやらなければ、多分、一生やらなかったかも」と(なんで?そんなに面白い噺じゃないからかな)。白鳥師は雲助師匠に教えてくださいと頼んだら「ヤダ!」と断られたそうで、市馬・喬太郎両師は「あの雲助師匠に断られたって、よっぽどだよ」と感心して(あきれて)いた。


トップバッターは白鳥師。アニメおたくの権田原クンが高校のマンガ研究会の先輩と居酒屋で待ち合わせるシーンから始まる白鳥版「お菊の皿」。美人女子高生の幽霊サユリちゃんが、10枚のセーラー服を着こんで“1枚、2枚…”と脱いでいきます(!?)。“皿”から“セーラー服”とはねぇ。普通のヒトにはとうていできない、この飛躍。


本来は“本寸法”担当の市馬師はくすぐりいっぱいの「お菊の皿」。見物客が増え、次第にショーと化していく様に、ハナからの客は「(客が)つばなれしない頃がよかったよ」と嘆く。にぎわい座を放り出してきた玉置宏センセイが司会を務めるお菊ショーは二部構成、一部はもちろん歌謡ショー(今夜は「あぁそれなのに」「憧れのハワイ航路」「千の風になって」の替え歌を聴けた)。


最後の喬太郎の「お菊の皿」は、既にアイドルと化したお菊の皿数えショーから始まる。「みんな、いいー?」「だめだぞぉー」(分かりますね?喬太郎演ずるアイドルの仕草・表情を思い出してください)「うしろのみんな!忘れてないよー」と、武道館のアイドルよろしく、全方位のお客に愛想をふりまくお菊を、喬太郎さんは後ろを向いてエビぞりながら皿を数えるというアクロバティックな姿勢(あのお体ではキケン過ぎる…)で演じた。そんなお菊の“楽屋”に、ある晩お千代という少女がやってくる。九枚数える声を聴くと死んでしまうはずなのに、近頃、お菊の「くまーい」を聴いて帰っていく男がいる、それをあなたは知っているか?どういうつもりか?と詰め寄る。実は、毎夜「くまーい」の声を聴いて帰っていく男はお千代の元カレ鉄五郎。鉄五郎はお千代と別れて死にたいと思っているが、自殺する度胸はなく、お菊の「くまーい」の声で死ぬつもりで毎夜通っていたのだった…。
お菊の楽屋にお千代が乗り込んで「芸に気合が入ってない!」とお菊の芸批判をするあたりまでは爆笑が続いたが、その後、お千代と鉄五郎の関係が明らかになるあたりから、噺はややシリアスに、おどろおどろしい場面なども挿入され、会場はシーンと聞き入る雰囲気に変わっていく。こういうメリハリというか転調というか、意外な展開は喬太郎さんらしいと思った。ちょっと「鬼背まいり」を思わせる結末でした。
結局40分くらいだったろうか?SWAだったら、最後に昇太さんたちが「長いよ!」と口々に文句をいいながら登場してくるなぁ…などと思った。