第468回 落語研究会

18:30〜21:35@国立劇場小劇場
三遊亭きん歌 「幇間腹
古今亭菊之丞 「四段目」
柳亭市馬 「猫の災難」
仲入り
五街道雲助 「汲みたて」
立川志の輔 「死神」





お目当てだった志の輔さんの「死神」のことだけ書きます。




サッカーくじで6億円が2口出たそうですな…」と始まったマクラは“運のメカニズム”について。志の輔師の「死神」では、ローソクの灯は寿命で消えるのではなく、人は誰でも同じだけ「運」を持って生まれてきて、「運」を使い果たした時に死ぬ(ローソクの灯が消える)…という理屈でした。



死神にとってやっかいなのは、運を使い切らないまま死なれること。死神は、借金で首が回らなくなり自殺しようとしていた男に「お前はまだ運を使い切っていないから死ぬな。使い残した運を持ってこないでくれ」と頼む。運があろうとなかろうと、今カネがないから死ぬしかないのだと言う男に、それじゃカネが儲かるようにしてやるから…と死神は呪文を教える。ちなみに呪文は“ちちんブイブイ・だいじょーブイ!テケレッツのパッ!(ポン・ポンと手拍子)”でした(パンフレットの解説によると、今回の「死神」は’98年本多劇場の口演を録音したCDとそんなに変わってないとあった。シュワルツネッガーのアリナミンCMっていつだ?と考えたら、たぶん10年以上経ってるから、この「死神」はそれくらい前に作ったバージョンということでしょうか?)。



布団のまくらと足元をひっくり返す一件があり、男は死神に導かれローソクの海へ。死神に、死なせないでくれ、あの時アンタの“まだ死なないでくれ”という頼みをきいたのだから、今度は俺の頼みを聞いてくれと懇願する。死神は「それもおもしろい」と、男に新しいローソクを1本渡す。このローソクに男の消えかかったローソクの火がうつったら、お前は生き残れる、ローソクに火がうつることなんかまずないが、まぁダメでもともと、やってみろとすすめる。
ところが、うまい具合にローソクに火がうつるんですなー。死神と男の立場逆転!火のついたローソクを掲げて、意気揚々とひきあげようとする男。が、しかし…。



「消えるぞ、消えるぞ」とせせら笑う死神に、男が震えながら新しいローソクに火を点そうとするところ、すごい緊迫感で会場がシーンとした。で、ローソクに火が点いて、一転ホッとする。そういう緩急が見事。で、またサゲが気持ちよく笑えるのです。



いろんなエンタテイメントがあって、その評価のされ方もいろいろあるけど、私は、観終わった後、辛すぎるとかやり切れないという気持ちになるのはあんまり好きじゃない。お金払ってなんでこんな気持ちになんなきゃいけないんだようーと思うから。
志の輔さんは“お客をいい気持ちにして帰す”というところを決して外さない。しかも、それでいて独創的。それって凄いことではないでしょうか。クリント・イーストウッドあたりには、志の輔師のツメの垢を煎じて飲ませてやりたい…と思うことがあります。




※まだ聴いてないヒト・噺が一杯ある私には、この会は効率的かつ魅力的な会です。一定以上のレベルの噺家でいろんな噺を聴けるのがいいです。で、次回の楽しみは談春師の「鰻の幇間」、栄助さんの「尼寺の怪」、志ん輔師の「唐茄子屋政談」です。